一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.044

Issued: 2015.08.21

第44回 石坂産業社長の石坂典子さんに聞く、地域とともに進める産業廃棄物処理の取り組み

石坂典子(いしざか・のりこ)さん

実施日時:平成27年7月22日(水)10:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:石坂典子(いしざか・のりこ)さん

  • 石坂産業株式会社代表取締役社長。「所沢ダイオキシン騒動」最中に2代目社長に。「脱・産廃屋」を目指して、社員教育を断行。現在は、企業や市民など国内外から多くの見学者が訪れるようになっている。
  • 2015年、環境省「グッドライフアワード2015」の実行委員会特別賞(「環境と企業」特別賞)を授賞。
  • 著書に『絶体絶命でも世界一愛される会社に変える!――2代目女性社長の号泣戦記』(ダイヤモンド社)。
目次
リサイクル率を高め、地域に必要とされる事業に転換することを会社の方針として選択
「現場を見ろ」という父の教えで、四六時中現場でゴミを触って確認
教育をとおして、それぞれの社員が将来に向け技術を修得するなどモチベーションを高める
私たちは「腑に落ちる」という気づきを与える機会をつくることに取組んでいる
森あるいは里山をきれいに管理することは、不法投棄しやすい環境をなくすことでもあった
私たちの事業は何のために存在するのか、どのようにすることが大事なのかを常に考えていきたい

リサイクル率を高め、地域に必要とされる事業に転換することを会社の方針として選択

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。石坂さんは、石坂産業株式会社社長として、産業廃棄物処理のイノベーションともいうべき革新を進め、なかでも中間処理に力を注ぎ95パーセントの減量化・再資源化率を達成されました。また、会社が運営する「やまゆり倶楽部」が、環境省の「グッドライフアワード2015」【1】の「環境と企業」特別賞を受賞されるなど、環境と社会あるいは人びとの暮らしを良くすることにも積極的に貢献されておられます。
石坂産業が、持続可能な社会の前提である循環型社会の構築に向け、産業廃棄物の再資源化を大きく進められたことがなんといっても特筆されますが、その原点について最初にご紹介いただきたいと思います。

石坂さん― 石坂産業は私の父親が創業者で、今年で48年目を迎えた会社です。私が社長を引き継いだのは13年ほど前のことでした。創業当時は、高度経済成長に伴い廃棄物は縮減することが目的化されていたように思います。廃棄物の容積を小さくするのに簡便なのは焼却で、今でも国内で7割ほどの廃棄物が焼却処理されているのです。現在も海洋埋め立てがつづけられています。
一方、廃棄物を300〜400℃以下で燃焼するとダイオキシンが発生します。15年ほど前にダイオキシンの大気中への排出がマスコミで大きく報道され、私どもの会社の煙突がこの地域で一番大きかったこともあり、バッシングの対象になってしまったのです。

大塚― 多くの地域で、ダイオキシンが問題になりましたね。

石坂さん― その時、私は父親から事業をはじめたことなど廃棄物に対する思いを聞き、これからはリサイクル率を高めること、そして地域に必要とされる事業に転換することを会社の方針として選択しました。それまでの主な事業だった焼却から撤退することにしたのです。
父親は元々解体の手伝いをしてきたので、解体のときに出る混合廃棄物という不燃残渣【2】を扱うことがありました。実は、建設系廃棄物が国内で一番不法投棄されている廃棄物であり、同業者たちがあまり受けたがらない物だったのです。私共は困っている物を優先的に処理しようと、そのために多額の投資をして、新しいプラント【3】をつくったのです。それが7年前になります。

「現場を見ろ」という父の教えで、四六時中現場でゴミを触って確認

大塚― それまでのリサイクルシステムとの最大の違いは何だったのでしょう。

石坂さん― 焼却する、燃やすという発想から、すべての物を徹底的に分離・分級【4】するという発想に転換したことです。

大塚― 徹底的な分離・分級には、いろいろな技術革新が必要だったと思います。どのような課題にどのように取組まれたのでしょうか。

石坂さん― 最も基本的なことは物の重さです。混合廃棄物なので、比重差が大きい物が混ざっています。それらの物をすべて分離・分級したいのですが、既製の破砕機や選別機は特定の用途にあうようにつくられています。私たちは、特定のメーカーの製品を1つのユニット装置として組むような通常の使い方ではなく、広く混合廃棄物に適用できる装置を目指しました。ここに石坂産業の力を投入することにしたのです。
父親の経験も必要でした。私は父親と一緒に全国の鉄工所などを回り、選別機を見せてもらいました。廃棄物の選別機だけでなく、たとえば農作物の選別機、お米の脱穀に用いる唐箕【5】の原理で風を利用した選別機など、多くの物を見せてもらったのです。そして、それらを何度も何度もテストランし、改造してもらいました。とくに気にかけたのは強度を保つことでした。廃棄物は穀物とは違うからです。これらの作業を経て完成した機械装置が稼働するようになったのが、先ほど申し上げた7年前なのです。

大塚― 大変なご苦労をなさったのですね。
分離・分級の具体的なプロセスについてもご紹介ください。

石坂さん― 運ばれてくる解体後の混合廃棄物を何度も何度も調査します。分類調査です。手で1立方メートル(1000リットル)の箱に入れて、分級割合を見るのです。コンクリートの瓦礫やガラスを手で分けていきます。このような作業を幾度となく繰り返したところ、建物から排出されてくる廃棄物ですから、土砂が含まれている割合などはほぼ同じでした。これらの結果から、機械装置の設定を決めたのです。

大塚― 石坂産業のオリジナルですね。今のお話で、運ばれてくる廃棄物を最初にチェックするところがポイントのように感じました。

石坂さん― そのとおりです。これは、経験に基づく職人の技みたいなものです。「現場を見ろ」というのが私の父親の教えで、四六時中現場でゴミを触って確認するわけです。重さを量り、比重を調べ、風力をつかってどう飛ばすと物がどう分かれていくかというようなことを試行錯誤しながら確認するのです。その結果に基づき、メーカーさんに手伝ってもらい、装置の設計につなげたのです。設計は、私と父親とメーカーさん、それに現場の責任者を加えてもごくわずかのメンバーで行ってきました。我々が細かい設計にもかかわり、メーカーさんは自社以外の製品を使うことを嫌がりましたが、すべての責任を我が社でとることでお願いしたのです。

石坂産業のリサイクルシステムを理解してもらうため、工場見学を受け入れている。


教育をとおして、それぞれの社員が将来に向け技術を修得するなどモチベーションを高める

大塚― 技術的な話を伺ってきましたが、廃棄物処理のレベルアップに成功した原因として、ソフト面あるいは会社の組織力としてどのようなことに気を配られたのですか。

石坂さん― すべてのことを、最終的にコントロールするのは人間だと思います。個々人の知識や経験知を高めることによって、機械を含むハード面が活かされます。そのためにも、社員教育が大事だと考えています。

大塚― 経験知という言葉も使われましたが、社員教育はどのように進められているのですか。

石坂さん― 大事なのは、教育のために多くの時間を使い、たんに現場OJT【6】で終わらせないことです。具体的に何をするかといえば、現在は石坂技塾と呼んでいますが、学校での教育のように進めています。足りないスキルを高めるための講座もありますし、自由に参加して学ぼうとするための講座もあります。また、さまざまな資格を積極的にとらせようとしています。たとえば、重機のオペレーターにしても、重機の免許を元々持っている者を採用するのではなく、資格のない者を採用し採用後に資格を取ることを推奨しています。言い換えると、教育をとおして、それぞれの社員が将来に向け技術を修得するなどモチベーションを高めるようにするのです。このことが私の役割だと思っています。

大塚― 社員教育にかける熱意を話していただきましたが、石坂さんが社長になられてから進められたのでしょうか。

石坂さん― これまではOJTが基本の教育でしたが、私が父から社長を引き継いだ13年ほど前、プラントのリニューアルだけでなく、きれいな工場をつくりほかの方々にも見ていただきたいという大きな目標をもちました。そのための許認可を得るのが私の最初の課題でした。ところが、許認可をとり必要な投資をした後で、当時の社員がそれだけの設備を十分に活用できたかというと、ノーでした。このことが社員教育に積極的に取組むきっかけになり、ツールとして国際規格ISOを導入することから始めました。現在は、努力したことの実が結びつつあると感じています。

年に数度催している「お客様大感謝祭」。顧客満足度調査も兼ねて実施している。


私たちは「腑に落ちる」という気づきを与える機会をつくることに取組んでいる

大塚― 少し話題を変えさせていただきます。石坂産業が達成されたような状況とは異なり、残念ながら、日本全体での廃棄物処理には問題が多いと感じています。石坂さんのお考えをお聞かせください。

石坂さん― 環境について考えなくてはならないと、これだけ日本でも世界で言っていながら、廃棄物処理に関する意識レベルが低いのは、教育の不足により私たちの業界についての理解が深まっていないためと感じます。
豊かな自然や生物多様性を好む方が多い一方で、廃棄物処理が先進国でも大きな問題になっているではないですか。一般の方たちは、廃棄物とくに産業廃棄物のことをあまりにも知らなすぎます。たとえば、日本で出されている廃棄物のほぼ9割は産業廃棄物です。多くの方が直接関心をもつのは日常生活から出る一般廃棄物で、自分たちが払う税金で市町村が処理をしているという感覚かもしれませんが、それは廃棄物の1割にすぎないのです。廃棄物処理への理解不足は、新たな処理場の建設計画が出るたびに反対運動が起きることにもみられます。また、廃棄物を出す事業者さんはコスト低減を図るので、なるべく安い業者で処理したいと考えます。しかし、そのような業者は社会的に叩かれることも多いのです。このような中で、産業廃棄物処理に真剣に取組む会社があっても、一般の市民の方と敵対することが多いのです。繰り返しになりますが、このような環境の側面があることを、子どもたちだけでなく大人たちもよく知らないのではないでしょうか。

大塚― 廃棄物処理にかかわる問題の本質をお話しいただきました。学校教育だけでなく、政府や自治体などによる社会教育も足りないのですね。

石坂さん― 将来のことを考え、とくに子どもたちに環境のこと、廃棄物のことをもっともっと理解してほしいと感じています。環境省のホームページにも、子ども向けの動画などが見られますが、私は机上だけの教育はナンセンスで、子どもが楽しみながら体験をとおして気づくことが大切だと思っています。私たちは、「腑に落ちる」という気づきを与える機会をつくることに取組んでいるつもりです。



石坂産業の環境学習の取り組み。

森あるいは里山をきれいに管理することは、不法投棄しやすい環境をなくすことでもあった

大塚― そのことに関係すると思いますが、環境省の「グッドライフアワード2015」を受賞された、「やまゆり倶楽部」の活動についてご紹介ください。

石坂さん― 里山崩壊と言われているキーポイントと、生物多様性の保全というキーポイントを念頭に、この地域で私たちに何ができるかを考えました。会社の周囲に、崩壊しつつある雑木林があったのです。地主さんたちはその管理をすることが、高齢化などにより出来ずにいました。私たちがボランティアで管理をサポートさせてもらうと、地権者の方や地主さんたちが喜んでくれたのです。
実は、このようにして明るく開けた森ができると不法投棄が減ります。私たちの廃棄物処理会社は、以前から不法投棄されたゴミを拾い片づけていたのです。森あるいは里山をきれいに管理することは、不法投棄しやすい環境をなくすことでもあったのです。
きれいになった森を見ていると、「森が喜ぶ」ことをしたいと思うようになります。私たちは人が来て楽しんでもらえる環境を創ろうと、テーマパーク化していろいろな活動ができるフィールドをつくりました。地元の方々が喜んでくれました。そのつぎに、水、森、昆虫などなど、里山の中で見られる自然をもっと理解できないかと思ったとき、多くの有識者の方々がおられることに気づきました。そのような方々にボランティアで教育活動に参加してくれませんかと声掛けしたことが、「やまゆり倶楽部」の発端ともいえます。とくに、年配の方々がしてくださる歴史的な話は大変興味深いものです。

大塚― それぞれの方が得意な話をするのは楽しいでしょうね。

石坂さん― そうですね。聞いている方々に、時間のある時にボランティアとして一緒に活動しませんかと声をかけ、「やまゆり倶楽部」に加入してもらっています。

大塚― 今、どのくらいの会員がおられるのですか。

石坂さん― 法人会員も含め、3000名ぐらいです。「やまゆり会報誌」という冊子を年に2回発刊しています。この冊子は地域に根差したものですが、最近は外から来られる方も多くおられます。東京はもちろんですが、先日は滋賀県から日曜日にわざわざボランティア活動に来てくださった方もいました。地理的な距離というより、価値を理解し価値を共有することが大事だなと強く感じました。最近、私は世界に繋がってみたいと考えています。現在、会社の敷地内に交流プラザを建築していますが、これを世界が交流するスポットになるよう勉強したいと思っているところです。


1,000人規模で開催している「夏の夜祭」。近隣住民の方、顧客をはじめとした、ステークホルダーとの懇親会。

里山保全活動を目的とした交流会「やまゆり倶楽部」。「里山の落ち葉掃き」「伐採した木でつくる椎菌」体験などを社員と一体で行っている。



私たちの事業は何のために存在するのか、どのようにすることが大事なのかを常に考えていきたい

大塚― すばらしいプランを是非成功させてください。ところで、石坂さんはこのような社会的な活動にどのくらい時間を使っているのですか。

石坂さん― これらの活動については、それぞれ担当する社員がいます。私が使っているのは、時間というより頭だと思います。たとえば、来月にボランティア活動の先進地であるヨーロッパへ行き、井の中の蛙にならない様に、活動を行うときの考え方や価値観などについて学んできたいと考えています。

大塚― 大きなスケールの計画を紹介していただきましたが、石坂さんは産業廃棄物処理という事業と社会的な活動を、今後どのように展開していこうとお考えですか。

石坂さん― これからも、とくに変わらないと思います。私たちの事業は何のために存在するのか、どのようにすることが大事なのかを常に考えていきたいと思っています。企業経営として判断する考え方もありますが、私は世のためになることに優先して取組んでいきたいと思っています。たとえば、世の中に埋まっている廃棄物をどう処理するか、廃棄物をリサイクルしてもリサイクル品に価値がつかないのだったら、価値のつくリサイクルに変えるというように、本来すべきことを追及していきたいのです。このような発想をもつことで、多くの企業経営者からいろいろな声が上がってくると思うのです。その内容は、日本の本来のあるべき姿だったり、地域の慣行だったり、環境保全だったりするかもしれません。どうすることが一番いいのかを皆で考えていくと、本質は1つのことに収れんするのではないかとも思います。私としては、いろいろなアプローチがあっても、最終的に目指すところが自然との共生だったり、人間らしく生きることだったり、皆で共有できるのではないかと思っているのです。

大塚― 石坂さんのお考えをいろいろと伺ってきましたが、最後に、さまざまな企業にお勤めの方など、EICネットをご覧の皆さまへのメッセージをお願いいたします。

石坂さん― まったく無関係なものから、新しいものが生まれるという考え方が大事ではないかと思っています。産廃処理会社を訪ねて来られ、自分たちのメリットになるものは何もないと思われる方がいらっしゃるかとも思います。ところが、そうではなくて、空間の隅と隅に位置する一見無関係のようなものに共通点が見つかると、中の色が変わるのです。オセロゲームのようにです。隅と隅に位置する無関係のような異業種が共通する視点をもてば、大きなウェイブを起こす可能性があると思うのです。異業種の人たちに私たちの業種の施設を見てもらい、価値観、経営目標などについて一緒に考えませんかという声掛けをさせてもらっています。この声掛けを、「大人の遠足」と呼んでいますが、年間に8000人近くの方が訪ねてくださっており、最近は海外から来られる方もおられます。是非一度訪れてください。

大塚― 石坂さんが広い視野に立って、世の中をよくするために行動をつづけておられることが強く伝わってきました。ますますご活躍いただきたいと思います。本日は、ありがとうございました。

石坂産業社長の石坂典子さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


注釈

【1】グッドライフアワード2015
環境省が進める、環境に優しい社会の実現を目指し、日本各地で実践されている「環境と社会によい暮らし」にかかわる活動や取組みを表彰するプロジェクト。
【2】不燃残渣
廃棄物を燃焼処理した後に残る、細かなリサイクルが困難なもの。
【3】プラント
工場設備一式。
【4】分級
同一種で粒径の異なる粒子群を粒径別に分ける、あるいは同一の粒径で異質の粒子群を種類別に分ける操作。
【5】唐箕(とうみ)
収穫した穀物を脱穀した後、籾殻や藁屑を風で飛ばして選別する農具。
【6】OJT(On-the-Job Training)
オン・ザ・ジョブ・トレーニング。従業員に対する職場での実務をとおしたトレーニング。