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環境Q&A

スズの含有試験について 

登録日: 2008年05月29日 最終回答日:2008年06月05日 健康・化学物質 その他(健康・化学物質)

No.28151 2008-05-29 09:22:53 ZWla61d たそがれ

最近、私どもの食品分析部門からスズの前処理において、回収率が悪くて困っている、という相談を受けております。
有機物を多く含んだ試料ということで基本的には硝酸、過塩素酸分解後、1M塩酸になるように溶かし込んでメスアップ、ICP発光で分析させています。尚、濃い塩酸に溶かさないとスズは沈殿するということは存じております。

ジュースくらいでも分解後、過塩素酸を残したままメスアップしてもよくて回収率90%くらい、過塩素酸を揮散蒸発させると本当に回収率が悪くなるんです。
果物やゼリーになると回収率30%なんてこともあります。
通常、食品中のスズの基準は清涼飲料水にしかないようで150ppmと大きいため、定量下限を上げることで逃げているみたいですが、はっきり言って分析になっていないと思っています。(ゲルマニウムでも同様な問題を抱えていますが、それについては次の機会に投稿します。)

ちなみに、下水試験方法では有機物を多く含む試料には硝酸、過塩素酸分解が推奨されています。
一方、食品衛生検査指針には発色法ですが硝酸、硫酸分解、また、考えにくいのですが乾式灰化法なども載っています。

硝酸、過酸化水素等で気長に分解する必要があるのでしょうか。マイクロウェーブ以外はだめ、となると今のガラクタを更新する必要もあります。
いまさらスズなんて、と思っている方も多いと思います。環境ではあまり来ないので私もそう思っていました。
これから検討するつもりですが、皆さんの経験もお伺いしたく投稿させていただきました。
よろしくお願いします。

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No.28156 【A-1】

Re:スズの含有試験について

2008-05-30 01:50:24 なんちゃって計量士 (ZWl9549

 回答は二つあります。

 故在って詳細は記載しませんがICPで分析されているなら、測定波長を変えることにより前処理無しで分析する方法もあります。そのような分析方法を開発されるのも一つの手段です。

 スズの基準ですが確かに規格基準として明記されているのは清涼飲料水の150mg/kgですが、国際食品規格委員会で食品中の錫は250mg/kgとあります。
 この数値に関しては現在色々と検討されているようですが(特にEU関係は下げる方向と聞いています)錫に規制がかけられた元々の要因は、缶詰のメッキの不良や開缶後の放置により食品中に錫が溶け出して色々あった時代が戦後にありました。これは保健所などの指導により殆ど騒ぎが無くなりましたし、我が国においてはヨーロッパのように錫の食器を使う習慣がありませんのでほかには問題が出なかったからでしょう。
 蜜柑などの酸性溶液ですと多く溶けるようです。時たまですが、パイナップルの缶詰などが輸入時に引っかかることが今でもあるようです。
 くどくどと余計なことを書いてきましたが、所詮150の足切りができればよいと考えるのも一つと思います。

 付け足し
 回収率云々が出てくると言うことは、濃縮操作を行っていると思うのですが、今更ですが再溶解の時に硫酸白煙が出るまで加熱していますよね。
 硝酸、硫酸分解はそれほどおかしい分析方法ではありません。昔は主流だったと思います。
 乾式灰化法は小生も今ひとつ判りませんが、理屈では一番確実な方法と思います。

回答に対するお礼・補足

ありがとうございます。
私も金属分析は10年以上行っておりましたが、改めて検証してみると不完全なものも多いことに気付かされました。

さすがに果物やゼリーをホモジナイズだけで機器にかけるのは抵抗がありますのでしばらくは前処理の検討を続けるつもりです。
今のところ、過塩素酸での条件検討だけしかやっておりません。先入観を持たずに硝酸‐硫酸分解、硝酸‐過塩素酸‐硫酸分解等を順番に検証しようかと思っています。
融点が低そうでダメな気がするのですが乾式も一度は試そうかと思います。

お恥ずかしいのですが、いろいろ食品部門の実態を聞いてみると、環境ではそんなに苦労しない発色法のシアン程度でもチョコレートをやったら加えた標準も回収されなかったなど、問題が山積とのことでした。

今回の件では検証も不完全なまま質問してしまったのは私的には少し不謹慎だったかな、と思っております。

No.28158 【A-2】

Re:スズの含有試験について

2008-05-30 08:50:10 これからISO (ZWlb353

>ジュースくらいでも分解後、過塩素酸を残したままメスアップしてもよくて回収率90%くらい、過塩素酸を揮散蒸発させると本当に回収率が悪くなるんです。
>果物やゼリーになると回収率30%なんてこともあります。

弊所では安全性の観点から過塩素酸は極力使わないようにしているので、
明確なことは言えませんが、四塩化スズ(SnCl4)が生成している可能性も
あると思います。
この物質は沸点が114℃なので、過塩素酸を乾固する際に
蒸発揮散しているのではないかと思います。

上記原因であれば、解決策はで湿式分解(開放系又は密閉系)が
良いかと思います。

回答に対するお礼・補足

ありがとうございます。
今の考えはA-1のお礼欄に記した通りですが、四塩化スズの可能性も重く受け止めたいと思います。
もしかしたら、マイクロウェーブを多用しなければならない時代に入りつつあるのかも知れませんね。

No.28200 【A-3】

Re:スズの含有試験について

2008-06-02 22:42:20 筑波山麓 (ZWl7b25

「たそがれ」さんへ。

回答しようかなと思っているうちに時間がたち、「これからISO」さん、「なんちゃって計量士」さんが良い回答をされたので、私は乾式灰化、マイクロウェーブ分解について説明したいと思います。少しでもお役にたてば幸いです。

まず、乾式灰化については、「これからISO」さんが言われている塩化スズ(W)の生成に注意する必要があります。湿式分解以上にその影響が出てくるケースがありますので、ご注意ください。私も、将来、乾式灰化でISO/IEC17025取得を考え、いろいろ調査しているのですが、検証をどうクリアーするかという点がポイントのようです。

次に、マイクロウェーブ分解については、種々の装置(低圧、高圧、3メーカー)の使用経験からまだまだ分解能力という点からは信頼性が低いようです。240℃程度(短時間)以上に加熱できない、分解圧力が100気圧程度以下という容器・機器上の制約、試料量が0.2g程度以下、連続加熱時間上の制約(約1時間程度)等と分解能力に限界があるようです。

硝酸−過塩素酸湿式分解と、コスト、処理能力等から比較するとまったく問題になりません。消耗品等のランニングコストが結構大きい、一度に処理できる能力が8〜10本以下と限られ、かつ、時間がかかる。また、過塩素酸を使用しないと分解できないケース(分解を2回繰り返す)もあります。私の経験から、硝酸−過塩素酸湿式分解(ケルダール法ではない)の処理能力の1/3〜1/2程度以下という感じです。また、爆発の危険性もあります。実際に装置のドアーが吹き飛んだ、火災が発生したという事例も聞いております。使用者が正しく使用できていなかったケースだとは思いますが、まったく安全と言うことでもありません。

利点は、コンタミの可能性が低い、水銀も分解できる(回収率95%程度以上)、正しく・適切に使用すれば、実験室の環境がキレイ、事故が起こりにくいという点でしょうか。価格が数百万円であることを考えると、研究機関での使用、コンタミをなくしたい、水銀も同時に分解したい、ICP−MSとの組み合わせ、今ハヤリの装置を使用しているという宣伝効果等のケース以外では魅力を感じません。

今後、加熱温度、耐圧、連続加熱時間等の制約、ランニングコストが高い、処理能力が小さい等の問題点が解消されることを望んでいるところです。

回答に対するお礼・補足

いつも的確なご回答を頂き、感謝しております。

私どもの保有するマイクロウェーブは県の施設でも頓挫したという、いわくつきの機種なのですが、他のメーカーでもなかなかうたい文句のようにはいかないのですね。

この分野において私が危惧しているのは、これからはマイクロウェーブ限定というJISや公定法が増えてこないのかということです。
プラスチックの含有試験も近々JIS化されるようですが、Pbはマイクロウェーブ限定になる予定、というのは貴殿もご存じかと思います。
大手メーカーがそういった方法のみを指定してこないか心配ですし、そういった意味でも徐々に避けて通れなくなりつつあるように感じます。
機種の選定は慎重に行いたいと思います。

No.28231 【A-4】

Re:スズの含有試験について

2008-06-05 00:11:20 筑波山麓 (ZWl7b25

「たそがれ」さんへ。

早速の返事ありがとう。

>プラスチックの含有試験も近々JIS化されるようですが、Pbはマイクロウェーブ限定になる予定、というのは貴殿もご存じかと思います。

については、2年前に(社)日本分析化学会主催のプラスチック成分分析 技能試験の結果を持って、JIS化に向けて動いているという情報を得ていました。技能試験のデータも十分なN数があり、かつ結果も良好であり、JIS化されるのに大きな問題点はないと聞いておりました。時間がかかりましたが、まもなくJIS化されるであろうと考えております。

>この分野において私が危惧しているのは、これからはマイクロウェーブ限定というJISや公定法が増えてこないのかということです。

増えてくると思います。対策として、マイクロウェーブ分解を確実に、かつ、効率良く実施できる方法を確立する必要性があると考えます。上記の技能試験の方法として硝酸分解(1段目)+硝酸・過塩素酸分解(2段目)の2段分解の方法が紹介されており、この結果は良好です。今回JIS化される方法に入っていると考えられます。また、他にも有用な分解方法があります。

>大手メーカーがそういった方法のみを指定してこないか心配ですし、そういった意味でも徐々に避けて通れなくなりつつあるように感じます。

ビジネスチャンス及び新しい分解方法を確立するチャンスと前向きに捉え、積極的に向かっていく必要があります。分解手段のみのために数百万円する装置を2台以上購入し(1台ではルーチン業務を消化できない、原価償却費が増える)+高価な消耗品によるランニングコスト増+効率が悪くなるのですから、ここで他社とのコスト差を拡大し、かつ、精度増を達成することは、受注競争力を増大させる要因の一つとなりうると考えることも可能でしょう。

私の情報にも、次々と、分解能力のより高い(最高温度、加熱可能時間、最高耐圧能力、容器の大きさがより大きいものが高いと考えられる)MW分解装置が新規発売されております。適切な装置を選択し、能力を十分に引き出す工夫が求められると考えます。

回答に対するお礼・補足

たびたびのご回答、ありがとうございます。

私も、分析化学会主催の第2回プラスチック分析セミナーに出席しておりますが、前記のような危惧から講師の保母先生にかなり詰め寄り、ご迷惑をかけてしまった記憶があります。
あれから数年経過していますが、RoHSを代表とする材料分析は価格競争の激化で私ども田舎のラボは今後どうしようかと思うほどです。

最初のスズの件に戻ります。
桃缶のクレーム品で量も少なく絶体絶命という話だったのでスーパーで似たものを買ってきて2日間検討しました。久しぶりにICPまで自分でかけましたが皆さんに対するお礼と後進のため、というのは恥ずかしいのですが、今回は結果をご報告します。
結論から言うと硝酸、過酸化水素による湿式分解と乾式灰化(500℃8h)の二つは添加した標準も100%回収され、うまくゆきました。(両方法とも1+1塩酸で煮て、1Mになるよう希釈して仕上げました。)
食品衛生検査指針に載っている乾式灰化については、どうせ揮散してだめだろう、という先入観があったため今まで確認してきませんでした。
過塩素酸による分解は下水試験方法にあるにも関わらず、少なくとも私のやっている条件では回収率の低下がおきています。
以上、少しでも皆さんの参考になれば、と思います。

余談ですが、私の買った中国産桃缶中の果肉からはスズが100ppm検出されました。このレベルがどうなのか、私には判断できません。

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