一般財団法人環境イノベーション情報機構
アメリカ横断ボランティア紀行

No.026

Issued: 2010.07.15

大陸横断(デンバー)

目次
魚類野生生物局第6地域事務所
繁殖環境のモニタリング
捕食動物駆除(Predator Control)
メリーランド州石油流出事故と保全イーズメント
国立公園局デンバーサービスセンター
VERPの背景
技術情報センター
魚類野生生物局の第6地域事務所

魚類野生生物局の第6地域事務所

 自然資源プログラムセンターでのインタビュー【1】を終え、フォートコリンズからコロラド州の州都デンバーへ移動する。デンバーは、学園都市フォートコリンズとは打って変わって大きな都市だった。
 デンバーでは、魚類野生生物局の第6地域事務所と、国立公園局のデンバーサービスセンターを訪問する予定だ。


魚類野生生物局第6地域事務所

 魚類野生生物局の第6地域(Region 6)事務所で対応してくれたのは、副事務所長のコールマン(Coleman)さんと、ノースダコタ州及びサウスダコタ州保護区スーパーバイザーのクレイ(Krey)さんだった。

 第6地域事務所【2】は、モンタナ州、ワイオミング州、ユタ州、コロラド州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ネブラスカ州、カンザス州の8州を所管する。この地域の特徴は、農地内に点在する大小の湖沼がガンカモ類(Water Fowl)の重要な繁殖地になっていることだ。こうした湿地帯は、ウェットランド管理地区(Wetland Management District)に指定され、繁殖環境の保全が図られている(図1)。

【図1】ウェットランド管理地区 区域図

【図1】ウェットランド管理地区 区域図


繁殖可能なガンカモ類のつがいの分布状況。赤色(1平方マイル当たり100つがい以上)の区域がノースダコタ州及びサウスダコタ州に集中していることがわかる。

繁殖可能なガンカモ類のつがいの分布状況。赤色(1平方マイル当たり100つがい以上)の区域がノースダコタ州及びサウスダコタ州に集中していることがわかる。

 中でも、ノースダコタ州及びサウスダコタ州を中心とする地域は重要で、その責任者がクレイさんだ。
 「魚類野生生物局では、このような水鳥の繁殖に重要な役割を果たしている農地を買い上げて保全するのではなく、『イーズメント』という手法で保全しています」

 「イーズメント」という言葉を聞いたことがなかったので、お話しを伺いながら電子辞書を引いてみる。日本語では「地役権」と呼ばれるらしい。自分の土地に水などを引くため隣接する土地に水道管を埋設する際に関係してくる権利などが例示として出ていた。この権利が水鳥の保護とどのような関係にあるのだろうか。
 「保全イーズメント(Conservation Easement)は、農地にかかる一部の権利を購入する手法です。一般的なものとしては、農地内の湖沼の埋め立てや、水を抜くなど水位の増減などに関する権利を購入するものです」
 「ノースダコタ州からサウスダコタ州にかけての一帯には、氷河により形成されたプレーリーポットホール湿地(Prairie Pothole Wetland)が広がっています。これらの湿地は、草丈の高い草地に囲まれていて、ガンカモ類の繁殖地として絶好の条件を備えています。かつては、アイオワ州、ミネソタ州にもこのような湿地が広がっていましたが、ほとんどすべてトウモロコシ畑やダイズ畑に転用されてしまいました」
 「そのような過ちを繰り返さないためにも、ノースダコタ州とサウスダコタ州でのイーズメントには力を入れています」
 ガンカモ類が、この地域で繁殖するのは毎年6月ごろだ。だから、その時期だけ繁殖に必要な生息環境が維持されればいいことになる。
 「家畜の放牧によって草地が維持され、結果として水鳥の生息環境の保全にもつながります。政府としては、牧草地が耕作地に転用されないこと、農地内の湖沼が埋め立てられないようにすることさえ確保できれば、土地を購入する必要はないわけです」
 生息地を国有化するためには、土地の購入費用ばかりではなく、国有地を管理していくための莫大な予算と人員が必要になる。
 一方、農家にとってもイーズメントにはメリットがある。転用や排水の権利を売却することにより土地利用が制約されることになるため、固定資産税が低減されるのだ。中には節税目的でイーズメントの寄付に積極的な土地所有者もいるそうだ。
 「牧草は、通常6月と9月の2回刈り取られますが、このうちガンカモ類の繁殖期に当るのは6月のみです。イーズメントの買い取り価格は、この刈り取り権1回分となるわけです」
 リージョン6事務所でのイーズメントの導入の歴史は長く、1958年頃から開始されている。
 「イーズメントを主たる保全手法として積極的に活用しているのは、現在のところ全米でもこの地域だけです。この地域では、ガンカモ類の繁殖地保全が、農業と共存できるのです」

 問題はいくつかある。イーズメントは費用的な負担が比較的小さいといっても、拡大していこうとすると必要とされる予算は膨らんでいく。
 「国立野生生物保護区とイーズメントを合わせても、繁殖エリア全体の20%に過ぎません」
 また、制度的な課題もいくつかある。そのひとつが契約内容の履行の確保だ。権利料の支払いは、権利を購入する時に一度支払われるだけだ。そのため、将来に渡ってその土地所有者が契約内容を遵守するインセンティブが働きにくい。
 「特に、土地所有者が代わった際に、イーズメントの契約内容が正しく伝わっていない場合が多いのです」
 このような問題を解決するためには、土地利用のモニタリングが不可欠になる。実際に農地の状況をモニターして、契約違反がないか定期的に調査を行っているという。
 「モニタリングには、航空機を使います。上空から目視で確認し、沼の水が排水されていないか、埋め立てられていないか、ということを年に2回調べています」
 毎回の調査は、2機の航空機により、それぞれ6週間かけて行われる。違反が見つかった場合には、土地所有者に事実関係を確認した上で原状復旧を求める。調整がうまくいかないと、裁判に発展することもあるという。
 「この地域はもともとあまり政府を信用しないような風潮があり、違反に対する抵抗感が少なく、取り締りには苦労します」


繁殖環境のモニタリング

 事務所では、イーズメントの有無にかかわらず、鳥類の生息・繁殖状況に関するモニタリングを実施している。
 「繁殖状況のモニタリングは、これまで12年間実施しています」
 まず、生息地全体に1辺2マイルのグリッド(方形区)を設定し、調査対象をランダムに抽出する。抽出されたグリッドを5月及び6月に現地踏査する。調査では、生息している鳥類を雌雄別に全数カウントし、その結果をコンピューターモデルにより解析する。解析は、ノースダコタ州ビスマルクにあるフィールドオフィスで行われる。
 「調査には、政府職員のほか、ボランティアにも参加してもらっています。ただし、私有地は立ち入りを拒否されることがあるので、その場合には代替調査地を再度ランダムに抽出する必要があります」
 このモニタリングにより得られる自然資源データは、この地域の鳥類保護の鍵といえる。年ごとの気象状況の変化もあるため、長期間の継続的なモニタリングから得られるデータは大変貴重である。


捕食動物駆除(Predator Control)

 「ガンカモ類の繁殖率向上の一環として、捕食動物の駆除も行っています」
 捕食動物の駆除とは奇妙に響く。ガンカモ類の繁殖率を向上することは重要だが、それは健全な生態系の維持が前提だ。捕食は食物連鎖の一部といえる。ガンカモ類のために、なぜ他の動物を殺さなければならないのだろうか。
 「この対策費用は、NPOを通じてガンカモ類を狩猟するハンターにより負担されています。ハンターは主にミシシッピー川下流域で猟をするのですが、その地域のガンカモ類の80%はこの地域で繁殖しているといわれており、このような捕食動物駆除がほぼダイレクトに狩猟対象個体数の増減に影響するのです」
 つまり、狩猟対象であるガンカモが増えるように、受益者であるハンターが対策費用を負担しているのだ。
 「駆除は、3月〜7月に行われます。実際の駆除は個人が請け負い、3ヶ月間の給与と、繁殖率が平均に比べ40%以上改善された場合には、ボーナスを支払うという仕組みになっています」
 こうした賃金はNPOを通じて請負人に支払われる。事務所は、毎年繁殖率のモニタリングを行い、その結果に基づきNPO団体に助言を行うという。野生生物保護行政を担う魚類野生生物局として、こうした対策をどう捉えているのだろうか。


メリーランド州石油流出事故と保全イーズメント

 2000年4月に石油14万ガロン(約53万リットル)が流出する事故がメリーランド州で発生した。500羽以上のアカオタテガモが犠牲になり、事故を起こしたPepco社は、補償としてカモの繁殖地域保護を行うことに合意した。
 「この補償は、事故が発生したメリーランド州ではなく、ノースダコタ州のイーズメント費用に充てられたのです」
 事故現場での対策と繁殖地での対策費用を比較し、より効率の高い方が選ばれたのだ。
 「これにより、犠牲になったカモよりもはるかに多くのアカオタテガモやその他のガンカモ類が保護されることになりました」
 この事例を見ると、イーズメントという制度は、生息地の代償ミティゲーションのツールとしても有効なことがわかる。具体的な対策費用が算出しやすく、被害総額との比較が容易である。
 「補償交渉の過程では、これまでのモニタリングデータが大きな威力を発揮しました」
 被害総額の算定根拠となる死亡個体数や、それを回復するための対策とその効果などの推定に、保護増殖対策のデータが大きな効果を発揮することは容易に想像できる。ただ、ここでも「数が増えればいいのか」という単純な疑問が残る。海岸の環境も渡りルートの重要な経由地として重要なはずである。他の生物に対する被害対策が考慮されていないことも気になる。
 ガンカモ類の繁殖促進を効果的に行うイーズメントと捕食者対策。政策目的を達成するための制度としてはすばらしいが、何かひっかかるものも残る。次のワシントンDCでの本部研修では、ぜひこうした野生生物行政の背景や組織としての方針を明らかにしたいと思った。


国立公園局デンバーサービスセンター

 デンバー滞在最終日に訪れたのが、デンバーサービスセンター(Denver Service Center:DSC)だ。このセンターは、国立公園局の事業計画や施設建設計画などを立案するナショナルセンターであり、大きく施設(facility)部門と計画(planning)部門から構成される。前者は、全国の国立公園ユニット内の施設設計などを行い、後者は各公園ユニット管理の基準となる総合管理計画(General Management Plan:GMP)【3】等の計画を担当している。このGMPについては、自然資源プログラムセンター同様、計画予算を一括して要求し、配分された予算を公園に配分する。これにより、各公園の予算事情に左右されない形で、より長期的な計画を立案することが可能となる。
 また、計画部門は、VERP(Visitor Experience and Resource Protection)【4】に基づく、公園ごとの実情に合った利用者管理の手法、及び施設部門での大規模建築物設計などにも取り組んでいる。

デンバーサービスセンター

デンバーサービスセンター

 インタビューで困ったのは、いつものような担当職員との1対1のインタビューではなく、テーマによって複数の担当が入れ替わりで対応する形式となったことだった。それも、アポイントを申し込む際に使用した英語の肩書き(Assistant Director)を誤解して、かなりの役職の人間が訪問すると勘違いしていた節がある。当然ながら先方の説明内容も多岐にわたり、また質疑の質も高い。これまでのカジュアルなインタビューに慣れていた私たちにはかなり厳しい内容となった。


VERPの背景

 VERPは、森林局のLAC(Limit of Acceptable Change)をもとに開発された、自然環境の収容力と利用環境を両立するための計画手法である。
 「LACは、自然資源の質や面積などから直接人数制限を算出するものなのですが、VERPは利用者の満足度など、社会科学的な要素も含めて利用容量を検討するものです」
 「言い換えれば、立ち入りを防止するだけではなく、どのようにビジターを誘導するのか、受入れのためにどのような施設を作るかということが重要な計画の要素になるということです」
 いくら利用者数を限定しても、利用者誘導や施設がうまく設置されていなければ、自然資源へのダメージは大きくなる。反対に、駐車場や展望台などの施設が適切に設置されれば、許容できる人数は増えることもある。
 VERPの基本的なコンセプトは、「国立公園などビジターの主要目的がレクリエーションである場合には、自然が本来もつ容量とともに人間の感覚を重視すべきである」との考え方に基づいている。
 LACが、基本的にウィルダネス地域への適用を念頭において構成されているのに対し、VERPはレクリエーション目的の利用者が訪問するような場所を対象としている。
 「VERPでは、まず、その地域の『あるべき姿』を明確にすることが求められます。目標を明確化することにより、管理のオプションが明らかになるのです」

 国立公園における管理オプションは、(1)人数制限、(2)行動様式の管理(behavior management)、(3)誘導(distribution management)などがある。これらをうまく組み合わせて、利用者にも満足できる範囲で規制を行い、自然を守る。そのためには、明確な目標像が共有されている必要がある。
 「国民からは、それぞれの公園について明確な利用者数上限を求めるべきとの声が強いのです」
 VERPは、もともと公園全体というよりは、主要な利用拠点について利用者数の上限を明らかにするものだ。例えば、ヨセミテ公園で実際にVERPの手法により策定されたマーセド川原生河川管理計画【5】は、河川の利用区域のみに関する計画である。ところが、こうした区域限定の計画でもいろいろ問題が生じている。

ヨセミテ国立公園を流れるマーセド川とハーフドーム

ヨセミテ国立公園を流れるマーセド川とハーフドーム

 「いったん数値目標を定めてしまうと、とかくその数字にこだわり過ぎる傾向があるのです。数値を計算することはそれほど難しいことではないのですが、それだけで管理が適切に行われるわけではありません」
 「また、明確な数値を打ち出すことによって意見の対立が明らかになってしまうことも多いのです」
 「そのため、公園の総合管理計画書(GMP)に、利用者数上限などの数値目標や基準を含めたがらない傾向があります」
 法律では、GMPに利用容量に関する具体的な数値を盛り込むことが求められているのだが、実際にはVERPの計画手法を用いて数値を計画に盛り込んでいる公園はまだ少ないという。
 VERPにより利用上限が定められた公園もしくは利用拠点は、利用者数や利用状況をモニタリングし、ある一定の基準を超えた場合に適切な措置(利用者を分離させる、入場を制限するなど)を講じる。
 「利用人数に応じて利用を制限するだけではなく、掲示板、注意標識によりビジターの行動を変化させることも効果的です」
 つまり、比較的空いている施設に利用者を誘導することで、利用者を平準化する。
 「単に、人数が多いから立ち入りを制限するのではなく、利用状況全体を総合的に管理することが重要なのです」
 場合によっては、利用者が過度に集中する既存の施設を撤去して利用圧を低減することもあるそうだ。

 「GMPに限らず、近年政府は、計測可能な指標を計画の中に定めるよう要求しています」
 その代表的な取り組みが、政策目標を数値化する「ストラテジックプランニング(戦略計画)」だ。これは行政機関の政策目標を、5カ年間の政策目標を含む計画として数値化するというものである。目標を数値化するという点ではVERPに似ているが、VERPが実施段階の計画(implementation plan)に数値的な目安を提供するのに対し、戦略計画は計画立案段階における目標設定といえる。

 「ただ、利用者満足度などについては双方に共通化する指標といえます。それにより管理水準の目標水準とモニタリングが可能になります」
 ここで問題になるのは、個別の公園について数値化された目標が設定されていないのにもかかわらず、国立公園局の所属する内務省の全体のストラテジックプランでは、各政策目標がすべて数値化されてしまっているということだ。
 「積み重ねではなく、政策目標だけがトップダウンで数値化されてしまっているのです」
 言い換えれば、政策に関するストラテジックプランニングのプロセスだけが宙に浮いていることになる。

 もう一点は、予算の確保に関する点だ。各公園ユニットの最上位計画であるGMPの予算は、自然資源プログラムセンター同様、このDSCを通じて配分されるため、予算は必ず確保される。これに対して、その下位計画となる個別利用拠点の利用計画については、独自予算から捻出する必要がある。そのため、下位計画は比較的予算のかからない従来の方法で立案されることが多い。そうすると、どうしても、トップダウンで立案されたGMPの理想が利用計画に反映されにくく、大きなギャップが生まれてしまう。また、肝心のGMPの実施が進まないだけではなく、それをモニターするための数値指標の設定も困難になる。
 さらに、数値化された指標や基準は、計画策定当時の実情に合わせたものになっているため、時間が経つにつれて誤差も大きくなる。個別の利用計画の実施状況に関する正確なモニタリング結果に基づく見直しが行われない限り、長期計画には不向きである。

 計画や目標の数値化は、私の研修テーマの中でも重要な柱の一つでもあるのだが、意外なところでおもしろいお話を聞くことができた。


技術情報センター

 今回訪問したサービスセンターでもっとも印象深かったのは、附属施設の「技術情報センター(Technical Information Center:TIC)だった。図書館と図面庫、そしてちょっとした印刷工場が同居したような大きな施設だ。
 「ここには、全米の国立公園に関する計画や図面が一元的に保管されています」
 案内してくれた図書館司書のような女性が説明してくれる。書棚には、各公園の歴代のGMP(総合管理計画)の印刷物をはじめ、公園内の資源や施設に関する計画書が整然と並んでいる。ほぼフロアを埋め尽くしている書架の列はかなりの迫力がある。
 「新しい書類は電子化されていて、データも保存されています」
 古い書類のスキャンも行っているそうだ。

資料の目録。現在もカードによる管理が行われている

資料の目録。現在もカードによる管理が行われている

様々な書類が整然と並んでいる

様々な書類が整然と並んでいる


 書類よりもすごかったのは保管されている図面の量だ。TICには国立公園内に設置されているある程度の規模以上の施設に関する図面がほとんど網羅されている。施設の図面は大判で量も多いために、保管場所の確保が難しい。整備後数年間は使用しないが、10年後、20年後に大規模修繕や改築を行う際にはこうした図面が必要になる。
 図面がそのまま入る大きな引き出し型のキャビネットがずらっと並んでいる。でも、すべての図面を保管しているにしては台数が少ないように見える。

 「図面のほとんどはマイクロフィルム化して保存しているのです」
 階段を下り、マイクロフィルム化している部署に案内してもらう。部屋に入ると、そこはまるで印刷工場だった。
 「ここで書類のスキャンや印刷を行います。どこかの公園の計画書や図面に関するリクエストがあると、ここで印刷して発送します」
 大きな印刷機や製本機などが備え付けられている。マイクロフィルムから図面を印刷する機械もあった。

大判図面の保管キャビネット

大判図面の保管キャビネット

印刷や製本のための様々な機器が備えられている

印刷や製本のための様々な機器が備えられている

マイクロフィルムのビューアー

マイクロフィルムのビューアー

文書の電子化なども行われている

文書の電子化なども行われている


 「ここです」
 薄暗い部屋に案内される。そこには1人の男性職員がいて、照明機器のついた大きな図面台の前で作業をしている。
 まず、図面を作業台の上に広げてカバーをかけ、吸引して台に圧着させる。台の両側から斜めに照明をあて、天井の方に設置されているカメラで撮影を行う。
 撮影後のフィルムを現像装置に入れ、現像されたフィルムを台紙にマウントしていく。
 「それぞれの図面ごとに決められた枚数のマイクロフィルムを複製して、国会図書館や国立公園などに送付するんです」
 未だにデジタルではない。アナログカメラを使っている理由を伺ってみると、
 「このカメラは日本製でなかなか壊れない。それに、マイクロフィルムを使うシステムが完成しているから、それを切り替える必要性があまりなかったんです。ようやくデジタル機器に切り替えることになりましたが、それまでまだしばらくは頑張ってもらわないといけません」
 この職員は1年中ここでマイクロフィルムを作っているそうだ。気の遠くなることだ。

マイクロフィルムの作成風景

マイクロフィルムの作成風景

マイクロフィルムのマウントを行う機材。すべて手作業だ

マイクロフィルムのマウントを行う機材。すべて手作業だ


 日本では、古い図面は倉庫の奥に保管されるか、さらに古くなれば国立公文書館に移管されたりする。以前、瀬戸内海にある小さなコンクリートの橋が波にさらわれたことがあり、茨城県にある公文書館の倉庫まで図面を探しに行ったことがあった。このようなシステムがあれば、いちいちホコリにまみれながら、まる一日かけて図面を探し回る必要もなくなるだろう。
 こんなところにも、巨大な国立公園システムを管理する組織の底力が感じられた。

【1】自然資源プログラムセンターでのインタビュー
第25話「国立公園局自然資源プログラムセンター」
【2】魚類野生生物局の地域事務所
魚類野生生物局第6地域事務所ウェブサイト
各地域事務所の担当区域については、第17話「オレゴン州、ワシントン州遠征」参照。
【3】総合管理計画(GMP)
第14話「ヨセミテ国立公園の総合管理計画」
【4】VERP
第14話「VERP(利用者経験および資源保護プログラム)」
【5】マーセド川原生河川管理計画
マーセド川原生河川管理計画(国立公園局ウェブサイト)

<妻の一言>

デンバー訪問

 デンバーは、高層ビルの立ち並ぶ大都会でした。サンフランシスコで見て以来、久しぶりの感覚です。
 少し時間があったので、「コロラド歴史博物館(Colorado History Museum)」を訪問することにしました。
 この博物館には、コロラド州を中心としたアメリカの西部開拓時代の歴史について、いろいろな展示がありました。
 開拓民が集まりデンバーの町ができた頃のデンバーのジオラマがありました。町はまだできたてで、赤い土がむき出しの空き地が目立ちます。表通りに立派な家があったかと思えば、少し路地を入れば三角テントが立っています。西部開拓時代の家の模型を見てみると、家の壁が土でできていることがわかります。木材が貴重だったため、普通の庶民の家は分厚い土の壁でできていたのです。
 開拓民が使っていた幌馬車も展示されていました。馬車には鍋釜はもちろん、ストーブやいす、テーブルも積まれています。大荷物を積んで大陸横断をしてきた私たちの車にも、何となく雰囲気が似ています。
 ネイティブアメリカンと白人入植者との関係について、時代ごとにジオラマが作られていました。忠実に再現された模型に、アメリカの西部開拓というものがどのようなものだったのか、ということが少し理解できたように思えます。


(記事・写真:鈴木 渉)

〜著者プロフィール〜

鈴木 渉
  • 1994年環境庁(当時)に採用され、中部山岳国立公園管理事務所(当時)に配属される。
  • 許認可申請書の山と格闘する毎日に、自分勝手に描いていた「野山を駆け回り、国立公園の自然を守る」レンジャー生活とのギャップを実感。
  • 事務所での勤務態度に問題があったためか以降なかなか現場に出してもらえない「おちこぼれレンジャー」。
  • 2年後地球環境関係部署へ異動し、森林保全、砂漠化対策を担当。
  • 1997年に京都で開催された国連気候変動枠組み条約COP3(地球温暖化防止京都会議)に参加(ただし雑用係)。
  • 国際会議のダイナミックな雰囲気に圧倒され、これをきっかけに海外研修を志望。
  • 公園緑地業務(出向)、自然公園での公共事業、遺伝子組換え生物関係の業務などに従事した後、2003年3月より2年間、JICAの海外長期研修員制度によりアメリカ合衆国の国立公園局及び魚類野生生物局で実務研修
  • 帰国後は外来生物法の施行や、第3次生物多様性国家戦略の策定、生物多様性条約COP10の開催と生物多様性の広報、民間参画などに携わる。
  • その間、仙台にある東北地方環境事務所に異動し、久しぶりに国立公園の保全整備に従事するも1年間で本省に出戻り。
  • その後11か月間の生物多様性センター勤務を経て国連大学高等研究所に出向。
  • 現在は同研究所内にあるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ事務局に勤務。週末、埼玉県内の里山で畑作ボランティアに参加することが楽しみ。