No.044
Issued: 2006.09.07
第44講 「夏の夜の四方山話―附:富栄養化断章」
イメージキャラクター人選考
Aさんセンセイ、豪雨、長雨に祟られたかと思ったら、今度はとんでもない猛暑ですね。もうなにもする気がなくなっちゃう!
H教授若いのに何を言ってるんだ。甲子園の球児をみろ。
Aさんいやあ、あれはすごかったですね。もうホント感激しました。F4もいいけど、斎藤クンや田中クン、ほんと素敵だった【1】。でも、センセイ、高校野球なんてあまり関心がなかったんじゃないですか。
H教授まあ、今だってほとんど関心がないし、決勝戦や再決勝戦だってテレビでサワリの部分をつまみ見しただけだ。でも、亀田兄弟のボクシングに較べるとホント爽やかだね。
Aさんああ、あれはひどかったですね。特に長兄のコーキくん、いくらホームタウンデシジョンったってひどすぎるともっぱらの評判ですもんね。
H教授ある程度のホームタウンデシジョンが当たり前というんだったら、もはやスポーツとは言えないね。
あの試合が八百長か片八百長か、許容範囲のホームタウンデシジョンか、それともごく真っ当な試合でWBAルールで公正な判定なのかは知らないが、もし万一公正な判定だったとしても、なぜネットであんなブーイングが起きたのか、関係者はよく考えてみる必要がある。
Aさん普段の言動や態度が悪すぎると言うんでしょう。でもあれはパフォーマンスで、本当はそうじゃないという話もちらっと聞いたことありますけど。
H教授そんなことは関係ないよ。一般人はブラウン管を通してしか見ないんだから、あれを地と思って当然だろう。そしてそれは極めて不愉快だと感じる人が少なくないことを知っておくべきだ。
Aさんそうですねえ。だからパレードも中止になったし、あまりのブーイングにスポンサーも一部では手を引き出したなんて話もありますねえ。
H教授うん、三権分立と言うけど、もう随分前からマスコミは第四の権力と言われている。アスベスト問題や例の随意契約問題なんかを見ていると、もはや第一の権力という感じさえする。
マスコミの横暴を叩くのは週刊誌やミニコミだけで、それも負け犬の遠吠えという感じがしないでもなかったけど、今度の亀田事件を見ていると、ネット大衆がそれに拮抗しうる時代になったんだと思った。
Aさんいいことじゃないですか。
H教授そうとばかりは言えない。ブーイングの中には露骨な民族差別の書き込みも散見される。テレビ局サイドの「工作員」が亀田バッシングを装って亀田批判派の信用失墜を図っているという見方もできるけど、それがすべてというわけでもないだろう。
コイズミさんの靖国参拝を無条件で賛美する庶民レベルでの愚かなナショナリズムの発露という面も持っているんじゃないかと思う。
匿名民主主義はそうした危険を伴うということも忘れてはならない。ヤフーの温暖化掲示板を見ていると結構露骨な本音が出ていて、ギクッとするよ。
Aさんところで、その亀田コーキくんが環境省の「ストップや、レジ袋!」キャンペーンのイメージキャラクターなんですってね【2】。驚いちゃった。
H教授意外性を狙ったのか、小池大臣が大ファンなのか知らないけど、あれほど国民的好感度の低い人物を起用したのは逆効果。ミスキャストというしかないんじゃないかなあ。ちょっとセンスを疑っちゃうねえ。
長野知事選
Aさんセンセイにしちゃ珍しくスポーツネタで引っ張りましたね。さ、他の話題に行きましょう。
長野知事選で田中サンが負けましたねえ【3】。
H教授うん、あまりにも個性的すぎて鼻についてきたというか、これ以上ついていけないと思ったんだろうなあ。でも、徹底的に旧社会を壊してしまったから、かつてのような官僚独裁と公共事業バンザイ路線にはもう戻れないと思うよ。
ところであの田中サン、昔結婚してたんだけどそのお相手は環境庁のアルバイトの女性だったという話だ。
Aさんウッソー、ホント? センセイその人、知ってるんですか。
H教授知らない。環境庁の分室みたいなところだったらしいから、ほとんどの人は知らなかったようだ。ただ当時の週刊誌にはそう書かれてた。
ウラガネ問題再考
Aさんその長野の隣県、岐阜県がウラガネ問題で揉めてますねえ。
H教授うん、94年度だけで各課が捻り出したウラガネの総額は4億6千万円以上で、半分以上を職員組合の口座に移したそうだ。その処理に当たった当時の副知事は知事に了解をもらったと言い、知事は知らなかったと責任の擦り合いだ。
Aさん岐阜県だけなんですか。
H教授正直言えば90年代の前半までは全都道府県でウラガネをつくっていたんじゃないかな。
うち半分の自治体ではすでに表沙汰になり、管理職が毎月の給料から一定額を出して補填しているところもある。
ボクの後輩がある県に管理職で出向したら、毎月2万円を負担させられ、「ボクはまったくなんの恩恵もこうむってないのに」とぼやいてた。
問題は半分の都道府県がそういう過去の不正執行を依然として否認し続けていて、岐阜県もそのひとつだったのが、十年後に露見したというわけだ。
Aさん自治体ってヒドイじゃないですか。
H教授自治体だけじゃないさ。環境庁だってやっていた。それが80年頃に発覚して、いちはやくウラガネづくりはやめた。他の中央省庁でもほとんどは90年前後にウラガネづくりをやめたはずだけど、出先機関ではその後も続けていたところが結構あったみたいだ。自浄能力の働きにくい警察や検察では、つい最近まで続けていたという話もある。
Aさん腐ってますねえ。
H教授第24講その2でも言ったけど【4】、もともと日本は贈答文化の国で、民間でも80年代までは接待費で相当無茶な使い方をしていたんだ。そうした世の中で官庁だけが例外ってわけにはいかない。
一方、公費の執行は建前通りで融通が利かないってことで、ウラガネという発想が出てきたんだろう。
自治体だったら上級官庁の接待、中央省庁だったらほとんど毎夜遅くまで残業しているのに残業手当は打ち切りだから、夜食くらいは出してやろうとかタクシー券を配ってやるとか、ある意味、やむをえない経費をウラガネなんかで出していたんだと思うよ。
ただウラガネはオープンにできないから、ついつい一部で行き過ぎも出てきてしまう。
バブル崩壊以降、社会は大きく変わり、民間でも接待費などを切り詰めていく中で、いつまでもそれまでのやり方を続けてきたから、指弾を浴びたんだ。
90年代に入ってから時代が変わったんだよ。そしてその中で悲劇も生まれた。ボクなんかその最たるものだ。
Aさんへ? センセイが? 一体なにがあったんですか。
H教授うん、ボクは95年度末に退職したんだ。役人世界ではそういうとき、退職記念品代という奉加帳を回すんだ。
もちろん自由意志でということになっているんだけど、顔なじみの退職者ひとりに対してぺいぺいのときは1,000円、管理職になると5,000円とか、一応の相場も決まっている。最後の5〜6年はボクもそういう奉加帳の発起人に名を連ねてたんだ。だから転勤シーズンはウン万円が消えて、結構大変だった。
29年間の役人生活で100万円以上は出したんじゃないかな。ま、でもそういうのは自分がやめるときに回収できると思ってたんだ。
ところが95年、突然レンジャー世界ではそういう古臭い慣習はやめようということになった。
おまけにその慣習をやめたのはレンジャー世界だけ。ぼくはレンジャー世界の人間だけど、後半はよその世界をずうっと回ってた人間だから、ぼくが退職するときもよその世界の人間には何万円か払った。
庶務がレンジャー以外の世界の人たちにだけでも奉加帳を回しましょうかと言ってくれたけど、武士は食わねど高楊枝。「やめてくれ」と言って、やめさせた。でも悲しかったなあ。
Aさん(にやにやして)ご愁傷さまだったですねえ。
(小さく)センセイが退職すると知って、急遽そういうふうにしたんだ。人望がないだけじゃなく、きっと恨みを買っていたんだ。情けは人のためならずか…。
H教授え? なんだって?
Aさんいえいえ、なんでもありませんよ。
ウラガネなんかは、よく“組織の潤滑油”って言い方をしてましたよね。今はどうなってるんですか?
H教授みごとに潤滑油はゼロみたいだよ。仕事熱心な役人は自腹を切るしかない。本当は潤滑油的な、社会的にも許容できるような経費はきちんと予算化してオープンにすればいいと思うんだけどなあ。
環境省の残業規制
Aさん役所は他にもいっぱい変わったでしょう。環境省は残業規制をはじめたそうじゃないですか。おまけに温暖化対策で午後7時以降はエアコンを止めるとか。
H教授仕事を減らすか人員を増やすか、仕事のやりかたを抜本的に改めるかでもしないと、実のある残業規制なんてできるはずがないじゃないか。だから結局、元の木阿弥らしい。さもなけりゃ家に持ち帰って仕事をするだけだろう。
一方、午後7時にはエアコンが切られるってんで、職員はヒーヒー言ってるらしい。
なんか精神主義的なパフォーマンスに走ってる感じがするなあ。
Aさん他の話題に行きましょう。センセイが気になった話題は?
H教授直接環境とは関係ないが、科学ニュースがいろいろ面白かった。あとの記事は憂鬱になる記事ばっかりだもんね。
Aさんへえ、読者から苦情が来ない程度に、簡単にコメントしてください。
科学ニュース1 ─惑星
H教授今、国際天文学連合会(IAU)がプラハで開かれてるんだけど、「水金地火木土天海冥」と覚えさせられた惑星を再定義し、それに伴い、数が変わるという議論がされていた【5】。最初は3個増えて12惑星になるとか言ってたんだけど、最後は冥王星を惑星の定義から外して一個減らすようになったらしい。どうでもいいスコラ的な議論のような気がするし、現行通りでいいんじゃないかと思うんだけど、そうはいかないみたいだ。
Aさんせっかく覚えたのにまた覚え直しですか。
H教授しかたないよ。ぼくが小学校のころ世界で一番長い川はミシシッピ川だと覚えさせられたけど、今じゃ違う。エベレスト山の高さも変わった【6】。
科学ニュース2 ─ポアンカレ予想
H教授それから数学の難題中の難題と言われた「ポアンカレ予想」が解決したらしい【7】。
Aさんなんです、それ?
H教授ぼくだって中身は知らないよ。フェルマーの最終定理だとか四色定理だとかと並んで、数学界では有名な未解決問題らしい。フェルマーの最終定理も四色定理も今でこそ解決したそうだけど、つい最近まで未解決のままだった。
面白いのは、そのポアンカレ予想を証明した数学者が、学会誌に発表したんじゃなくて、いきなりインターネットで公表したこと。しかも、数学のノーベル賞と言われているフィールズ賞を辞退して雲隠れしてしまったらしいんだ。
世の中にはとんでもない変人がいるもんだと感心しちゃった。
Aさんふふ、センセイだったら名刺に大きく「フィールズ賞(数学のノーベル賞)受賞」って書きそうですよね。いやそれだけじゃない、襷掛けして、黒々と書いちゃうかな。
科学ニュース3 ─ホモ・フローレシエンシス
H教授うるさい。最後はホモ・フローレシエンスの話題かな。
2003年にインドネシアのフローレンス島で1万数千年前の化石人骨が発見されてホモ・フローレシエンシスと命名された。成人でも身長1メートル程度の小人なんだ。
われわれホモ・サピエンス【8】とは別系統の人類、つまりホモ・エレクトウス=ジャワ原人の子孫がつい近代―といっても日本の縄文時代の頃─まで生存していたって、大きな話題になったんだ。
Aさん日本でも小人の先住民がいたって伝説がありますよね。
H教授うん、アイヌに伝わるコロボックルだ。
日本だけじゃない、このフローレンス島にもエブ・ゴゴと呼ばれる小人伝説があり、スマトラ島ではオラン・ペンディクという小人伝承がある。
これらはコロボックルと違い、雪男(イエテイ)のように目撃したという人が今もあとを絶たないらしい。
ホモ・フローレシエンシスの人骨化石発見でそうした小人が最近まで生存していたことが証明されたし、ひょっとしたらエブ・ゴゴとかオラン・ペンデイクというのはその末裔で、今も存在しているのかもしれない。
Aさんネアンデルタール人もつい最近までいたんでしょう。
H教授最近と言っても3万年以上昔に絶滅した。ネアンデルタール人については謎も多いが、アフリカから出たホモ・サピエンスと分岐した系統であることには間違いない。つまり、滅んでしまったわれわれの“兄弟”、あるいはわれわれのご先祖が滅ぼしてしまった“兄弟”なんだけど、ホモ・エレクトウスの系統だとしたらわれわれの従兄弟くらいになる。
知能も高かったようで、火を使い、石器も使用していたらしい。インドネシアの小人の伝説伝承では、彼ら同士会話もできたとされている。
Aさんへえ、面白そう。でもそれほど興奮する話なんですか。
H教授うん、昔から「われわれはどこから来たか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか」というのがもっとも根源的・哲学的な問いだろう。それは「人間」とはなにかと問うことだ。
キリスト教では「神の前には人間はみな平等」という素晴らしい教義を持っている。
じゃ、そのキリスト教徒たちが新大陸を発見したとき、ネイティブアメリカンやインカの人々になぜあんな残虐なことができたか。
それは彼らを“人間”とみなさなかったからなんだ。後にはキリスト教に改宗すれば“人間”とみなすようにはなったけどね。
Aさん“人間”という概念がどんどん拡大していった、そして科学もそれを裏付けるよう進歩してきた──ということですね。
H教授そう、人類学の最新知見によれば、700万年くらい前にアフリカでチンパンジー、ボノボの系列と分岐したアウストラロピテクスを経てホモ・エレクトウスの系統が100万年前に、アフリカを出て(アウト・オブ・アフリカ)、全世界に散っていった。しかし、遅くとも5万年前までに絶滅したとされる。もしホモ・フローレシエンシスがこの末裔だとすれば、1万年ちょっと前までいたことになるんだ。
アフリカに残った系統から、20〜30万年前にネアンデルタール人の系統が分岐し、アフリカを出て中東・ヨーロッパに広がっていった。これも遅くとも3万年前までに絶滅。
10〜20万年くらい前には、ほぼ現在のホモ・サピエンスになり、5万年くらい前にアフリカを出て全世界に散っていった。そこで適応進化して現在のいろんな人種になったとされている。
ミトコンドリアDNAやY染色体の遺伝子解析がそれを裏付けているという話だ。黒人だとか白人だとかいう人種に関しては、遺伝子レベルでの差はないに等しい。つまり人種内の個人差があって、その方が人種間の差よりも大きいぐらいだということだ。遺伝子レベルでは人種差別をする根拠がないことが証明された。
Aさんチンパンジーやボノボ【9】との差はどうなんですか。
H教授遺伝子レベルでは1%ちょっとくらいしか違わないらしい。この差は種が違うというには随分小さいらしいんだけど、チンパンジーやボノボはわれわれのような言語コミュニケーションは取れないし、火も使用しないし、道具を利用できない。
Aさんえ? でも道具は使うってテレビで言ってましたよ。
H教授じゃ言い直そう。道具をつくる道具、メタ道具をつくれない。だからホモ・サピエンスと通婚して子孫が残せるかどうかは知らないが、生物学的にも社会学的にも「人間」じゃない別種だとしている。
Aさん絶滅した他の系統の人類とわれわれの差はどうなんですか。
H教授ネアンデルタール人の化石からDNAが取り出せて、分析しているらしいが、やはり差はあるみたいだ。だけど、どちらにしても絶滅していれば「人間」かどうかは生物学的な定義の問題であって、現実的な問題じゃない。
ところがホモ・フローレシエンシスはほんの1万数千年前、つまり新大陸にホモサピエンスが渡った頃までは生きていたし、ひょっとすれば現在でも生存しているかもしれない。もしそうだとすれば、彼らとどう対峙すればいいのか。彼らは「人間」かどうか、「人間」とは何かが根本から問い直されるじゃないか。
Aさんなあるほどねえ。ところで何でそんな話を出してきたんですか。8月に入って、なにか新しいことでもわかったんですか?
H教授うん、インドネシアの科学者がホモ・フローレシエンシスはヒト属の新種じゃなくて、小頭症などの病気で大きくなれなかった1万数千年前の現代人の化石にすぎないという論文を発表するという新聞記事が出ていた。だとすれば、ボクの期待は雲散霧消する。誤りであってほしいよねえ。
それにしてもDNAは採取できなかったのかなあ。そうすればもっとはっきりしたことがわかるのにねえ。
苦戦するコーベ空港
Aさんま、そういう話はその程度にして、最近の環境関連の話題に行きましょう。
まずは神戸空港ですが、当初は順調だったものの、搭乗率は急激にダウンしたそうですね【10】。
H教授開港時の2月に76%だった搭乗率が、7月は55%まで落ち込んでいる。年間利用者数が当初予測―というか願望―の319万人を大きく落ち込むことは確実だね。
多分予測数字にはそれなりにもっともらしいシミュレーションをしたんだろうけど、庶民的直感の方がどうやら正しそうだ。
でもねえ、悪いことばっかりじゃない。分譲予定の埋立地がほとんど売れなかったおかげで、今や野鳥の憩いの場になっているそうだ。絶滅危惧種の野鳥もいるそうだから、鳥にとってはいいことだ。随分高くついた憩いの場だけどね(乾いた笑い)。
Aさんもうセンセイったら、なんだか喜んでるみたいで嫌らしいですよ。
H教授別に喜んじゃいないけど、その教訓を一向に学ぼうとしない首長サンや議員サンが未だ多すぎるよね。巨大ハコモノをつくるのには熱心だけど、一方じゃ福祉だとか教育だとかは締め付けてわずかな予算をケチろうとするから情けない。
外来生物とペット
Aさん(無視して)セイヨウオオマルハナバチなどが特定外来生物に指定され、告示されましたね【11】。
H教授いいことだと思うけど、一方じゃ巨大なヘラクレスカブトムシだとかカメ類や爬虫類の外来種が輸入され、ペットとして販売されていても、特定外来生物以外なんの規制もされていない。石垣島ではペットとして飼われたオオトカゲ(イグアナ)が捨てられ、野生化して繁殖しているなんてテレビ番組もあった。
発想を逆転させる必要があるんじゃないかと思っちゃうね。特定の種を規制して他は原則フリーじゃなくて、原則禁止で特定の種だけの輸入を認めるようにする必要があるかもしれない。
動物愛護管理法と連携をとって、ある程度の大きさのペットや外来動物については誰が購入者か記録しておく義務とか個別・個体にマーキングをするなどの方法を検討すべきじゃないかな。
それに、ペットや外来動物の廃棄に対しては動物愛護管理法の規程はあるけど、これは動物愛護の観点からなんだ。在来の生態系を守るという観点からの規制や罰則も考えないといけないんじゃないかな。
Aさんペットを飼うんなら最後まで責任を持って飼うべきですよねえ。
ミオちゃんもきちんと最後まで面倒をみてあげなくちゃあダメですよ。
異常人格の作家
H教授当たり前じゃないか。キミの面倒を見る気はさらさらないが、ミオはボクの命だもの。
…それにしても、坂東真砂子ってのはひどいねえ。
Aさんえ? 直木賞をとったホラー作家ですね。彼女がどうかしたんですか。
H教授つい先日、とある人気ブログで知ったんだけど、彼女は日経新聞にエッセイを連載しているらしいんだ。そこにとんでもないことを書いていたらしく、人非人として徹底的に糾弾されていた。朝日新聞にもその話題が出ていた。
Aさんへえ、なにを書いたんですか。
H教授彼女は税金の高い日本を逃れて…かどうか知らないけど、タヒチ島に住んでいて、猫3匹と犬3匹を飼っているらしい。うち5匹がメスなんだそうだけど、避妊手術をしていないんだって。
Aさんじゃ、生まれた子猫や子犬は全部育てるんですか、それとも里親探し?
H教授いや、生まれた子猫、多分子犬もそうだと思うけど、その都度裏のガケから投げ落とすんだと。
Aさんな、なんですって! どういう理屈なんですか。
H教授避妊手術する権利は人間にない。犬猫は自分の生をまっとうすべきで、そんなことをしちゃいけないそうだ。で、結果として産まれたものをそのままにして野良猫・野良犬になって社会に迷惑かけちゃいけないから、社会への責任として犬猫殺しを自分が引き受けているんだと。
Aさんそ、そんな馬鹿な! じゃ、飼わなければいいじゃない、そんな人はペットを飼っちゃいけないよ!!
H教授人間の場合を考えてみればいい。避妊も中絶もそりゃ生物としては不自然だよ。だけど嬰児殺しするくらいだったら中絶すべきだし、中絶よりはあらかじめ避妊すべきだと考えるのはフツーの人間だと思う。はっきりいって狂ってるね。
Aさんで、そんなことを平然と全国紙に書いているんですか。
H教授うん、確信犯としてね。で非難轟々らしいんだけど、そんな記事を載せる日経も日経だと思うよ。
タヒチって仏領なんだよね。フランスの動物愛護に関する法律は厳しいから実刑に相当するはずなんだけど、適用できないのかな。
環境省も日経と坂東真砂子に抗議か勧告かすべきじゃないかと思うよ。表現の自由との兼ね合いが難しいけど。
富栄養化断章
Aさんさ、ぼちぼち本論にいきましょうか。今日は何のテーマで行きますか。
H教授夏休みだから四方山話でいいじゃないか。
Aさんダメです。斎藤クンや田中クンがあれだけ頑張ったんですよ。センセイも少しは見習ってください。
H教授わかった、わかった。じゃ、今は夏だから夏にふさわしく富栄養化の話でもしようか。キミの方から簡単に富栄養化問題を説明してごらん。
Aさんなんか平凡なテーマだなあ。
(渋々)窒素(N)や燐(P)などの栄養塩が多くなると、それを栄養分として暖かい季節に植物プランクトンが異常発生することがあります。これが赤潮です。
内海、内湾や湖などの閉鎖性水域で起きやすく、プランクトンの種類によっては魚や貝にとって毒になることがあり、漁業被害をもたらすことがあります。湖のアオコも異常発生したプランクトンの一種で、異臭がしたりして飲料水源にならなくなることがあります。
赤潮プランクトンはやがて死んで沈降していき、下層でバクテリアが分解しますがそのとき水中の酸素を消費します。暖かい時期ですから、上層の暖水と下層の冷水に分離して水は混合せず、下層では酸素がほとんどない貧酸素水塊とか無酸素水塊とか言われるものができ、生態系に大きな悪影響を与えます。
また東京湾などではこの無酸素水塊が嫌気性環境の中で生じた硫化水素とともに湧昇することがあり、その独特の色から青潮と呼ばれます。
また栄養塩が多い水域ではプランクトンの発生も多く、プランクトンやその死骸は環境基準項目であるCODとしてカウントされます。これを内部生産CODといい、環境基準達成率が上昇しない原因にもなっています。
このように富栄養化に伴う悪影響を防止するためにチッソ、リンの負荷削減が必要で、必要な水域では環境基準が制定され排出規制もなされています。
H教授うん、まあそんなところかな。富栄養化対策と言えば、NP規制だね。NP規制が他の汚染物質規制と違うところは?
Aさんえ? なんだろう…。
H教授富栄養化というコトバはもともと湖沼用語なんだ。
栄養塩の少ない湖を貧栄養湖といい、水は澄んでいるけど、植物プランクトンが少ないから、それを餌とする動物プランクトンやその動物プランクトンを食べる魚も少ない。
富栄養湖では、水は濁っているけど、プランクトンや魚類も豊富な生産性の高い湖なんだ。そして自然の摂理で貧栄養湖もやがては枯葉などが流入分解し、NやPなどの栄養塩が増えて富栄養湖になっていく。
つまり富栄養化は自然現象であり、悪いことでもなんでもないし、一定程度の栄養塩は必要なんだ。
Aさんじゃ、なんで富栄養化、富栄養化って騒ぐんですか。
H教授今起きているのは人為で過度のNPが流入し、過栄養化現象みたいなことが起きることなんだ。
赤潮そのものだって自然現象として大昔から知られている。
それが人為でもって赤潮が多発し、また単純な夜光虫の赤潮だけじゃなく、昔は知られていなかったような各種のプランクトンが異常発生するようになったから問題なんだ。
つまり、NやPの規制は他の汚染物質とちがって最終ゴールはゼロじゃないんだ。
逆に栄養塩不足で海苔の色が落ちるんじゃないかという話もある。
Aさんはあ。
H教授なんかキョトンとしてるな。次の質問。プランクトンの身体の主成分はNやPなのか?
Aさんそりゃそうでしょう。…えっ、いや違うか。だったらなんなんだろう。
H教授Pはエネルギー源として必要なんだ。体はいろんな元素を必須元素としているが、量的にはCとHとOが中心。だけどそれ以外にNやK(カリ)も相当量必要になる。植物の三大栄養素って聞いたことないか。
Aさんあ、そうか。チッソ(N)、リン(P)、カリ(K)ですね。
H教授水中にはHやOは大量にある。水はH2Oだもんな。Cは二酸化炭素として一定量溶けている。日光が当たると炭酸同化作用で二酸化炭素が使われ、植物の体は成長していく。水中にはKは結構あるようだから、結局のところNとPがプランクトンの増殖の決め手になる。だからNP、NPって騒がれるんだ。
Aさんへえ、そうなんですか。でもそんなこと普通の環境の本には書いてなかったですよ。
H教授うん、だからぼくの勝手な憶測だ。間違っていれば誰かが教えてくれるだろう。
Aさん(呆れて)またいい加減な…。
H教授いいんだよ。
ところでNPが騒がれるけど、それだけでなく、必須元素である鉄やマンガンなどの微量元素が利いてくることもある。
制限因子論って知っているか。
Aさん確かNとPを主食とおかずと考え、主食とおかずをいつも一定の比でプランクトンが摂取すると仮定すれば、少ない方を抑えれば、それでプランクトンの増殖を抑制できるという考え方ですね。
H教授うん、だからプランクトンの増殖を抑制するにはPだけを規制すればよく、Nを規制する必要がないと産業界は長らく主張してきた。だけどそんなことをすればNP比がおかしい変な水域になって生態系に悪影響を与えかねないというのが環境省サイドの言い分だった。
Aさん結局、環境省サイドの言い分が通ったわけですね。科学がそれだけ進歩したんですか。
H教授さあ、科学というより時代が変わったんだろう。科学的に不確実であっても未然予防の原則がこの領域では産業界を押し切ったし、産業界の方だって環境対策をやってますという方が世間の受けがよくなったからだと思うよ。
Aさんなるほどねえ。
富栄養化と光化学スモッグの構造的親和性
H教授ところでボクは富栄養化に関して革命的な発見をしたぜ。
Aさんえ? 研究者でもない三流役人上がりのセンセイが?
H教授放っておいてくれ。「水質における富栄養化問題と大気質における光化学スモッグ問題との間における構造的親和性」なるものを発見をしたんだ。
Aさんは? なんですか、それ?
H教授富栄養化の原因はNPだと言われているけど、NPと言ったって、存在形態はさまざまだ。Pは概ねリン酸PO4-だし、NだったらアンモニアNH4、硝酸NO3-、亜硝酸NO2-、各種の有機態チッソといっぱいある。またNPのどちらを抑えたらいいという制限因子論争があり、健全な海のNP比はどうあるべきかという議論がある。
Aさんそれがどうかしたんですか。
H教授光化学スモッグとまったく同じ構造じゃないか。
光化学スモッグの原因物質もNOxと炭化水素HCのふたつだ。HCの方は存在形態が何万とある。そしてNOxと炭化水素の存在比がやはり問題とされる。
Aさんはあ、それが構造的親和性? だって光化学スモッグは光化学反応が必要だし、光化学スモッグの実体は、オゾンやパーオキシアシルナイトレート(PAN)など、オキシダントと称される多くの物質でしょう。まったく違うじゃないですか。
H教授光化学反応に当たるのが、硝化反応や自浄作用や食物連鎖などで、一種の自然循環だ。
で、オキシダントにあたるのが赤潮じゃないか。そしてその実体は、夜光虫からシャトネラやギムノディウムなどさまざまな種類のプランクトンだ。つまり多くの物質だからオキシダントと同じ。
そしてどちらもいくらシミュレーションしても予測は難しいし、季節性だとか温度や天候の影響も大きい。
対策も難しいし、産業界が富栄養化ではチッソ、光化学スモッグでは炭化水素の規制に最後まで抵抗したというのも同じだ。
これを構造的親和性と呼ばずに、何と言うんだ!
今後はこういう構造を踏まえて、政策を展開しなきゃいけないんだ。
Aさん(呆れて)へえ、で、センセイはその<革命的発見>とやらを論文にされるんですか。
H教授アタマの固いレフェリーが認めるわけないじゃないか。だからここでこうして発表しているんだ。
ペレルマンがポアンカレ予想の証明を学会誌でなくネットでしたのと同じだ!
Aさん(哀れみの眼で)センセイ…。
注釈
- 【1】甲子園2006 第88回全国高校野球選手権大会[NHK]
-
- 斎藤クン…2006年大会で夏の甲子園初優勝を果たした早稲田実業高校のエース。駒大苫小牧高校との決勝戦では、延長15回を完投し1-1の引き分けで37年ぶり2回目の決勝再試合となる。4連投となった翌日の再試合でも118球を投げ抜き完投、4-3の勝利に貢献した。熱投と、マウンド上で青いタオルハンカチで汗をぬぐう行為が注目を集め、「ハンカチ王子」と呼ばれ人気者に。
- 田中クン…同大会で準優勝した駒大苫小牧高校のエース。同校は、夏の甲子園大会で2004年〜2005年に大会史上6校目となる2連覇を57年ぶりに達成した。3連覇をねらった2006年夏の大会決勝では、早実との熱戦が延長15回1-1の引き分けで37年ぶり2回目の決勝再試合となる。翌日の再試合では、3-4で敗れ、涙をのんだ。
- 甲子園2006 第88回全国高校野球選手権大会[NHK]
- 【2】ストップや、レジ袋!」キャンペーン
- 【3】長野県県知事選挙
- 【4】日本の贈答文化について
- 【5】IAU総会と惑星の再定義
- 8月14日から2週間の日程で、国際天文学連合総会がチェコの首都プラハで開催された。3年に一度の開催で、今回が第26回。「惑星」の定義が決議され、旧来の太陽系の9惑星(水金地火木土天海冥)から、冥王星が矮惑星(仮称)へと降格することになった。
- 【6】世界一の川と、エベレストの標高
- ・世界一の川
かつて「世界で一番長い川」と言われたミシシッピ川は、ナイル川などで新しい水源が発見されたことで、世界一の座を譲り渡した。現在はナイル川、アマゾン川につぐ第3位とされる。
・エベレストの標高
かつては8840mと8882mが混在したが、1954年にインド測量局による周辺12ヶ所の測定値の平均で得た8848mが長年定着してきた。
最近になって、全米地理学協会がGPSによる測定値として8850mと発表(1999年)。2005年には中国国家測量局が8844.43mと発表している。 - 【7】ポアンカレ予想の完全証明
- 【8】人類の起源
- 【9】ボノボ
- 【10】 神戸空港利用状況
- 【11】セイヨウオオマルハナバチなどの特定外来生物指定について
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
(平成18年8月25日執筆 9月4日編集了)
★本講の見解は環境省およびEICの公的見解とはまったく関係ありません。
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。