No.137
Issued: 2008.01.31
中国発:前途多難な家電リサイクル
循環経済(循環型社会の形成)を進めている中国では、今、家電リサイクルの取り組みにチャレンジしている。しかし、現状では、まったく使い物にならない廃家電でも有価物として社会に出回っており、持続可能な家電リサイクルシステムを構築する上で多くの困難を抱えている。
家電リサイクルパイロット事業
2002年10月、江沢民国家主席(当時)は中国が循環経済の道を歩むことを内外に宣言し、この時から中国の循環型社会づくりへの本格的な取り組みが始まった。2003年12月、国家発展改革委員会(NDRC)は中国における家電リサイクルの実施可能性を模索するため、廃・中古家電及び電子製品リサイクルシステム構築のパイロット事業実施を決定し、浙江省及び青島市をそれぞれモデル省・市に指定した。
NDRCはこのパイロット事業で資源の循環利用及び環境保全を究極の目的として、廃家電のリサイクルシステム整備を目指している。具体的には、以下のことを行うこととした。
- 1)
- 廃家電及び電子製品のリサイクル、処理システムの構築。中国におけるこれらのリサイクル・処理モデルの模索
- 2)
- 中国の国情にあった処理技術の選定
- 3)
- 回収、分解のコストを分析・試算
- 4)
- 関連する基準の策定
- 5)
- 監督・管理制度の構築
当初は2005年6月頃までにパイロット事業の実施状況を総括し、国家基準、関連制度、リサイクル及び処理モデル案を提案することとしていた。さらにはこの経験に基づいて中国の廃家電及び電子製品のリサイクルシステムに関する政策提案等を行う予定であった。しかし、開始して4年を過ぎた現在に至るもなお試行中のままだ。
2007年11月、パイロット事業が行われている浙江省杭州市にあるモデル工場を訪ねてみた。
浙江省の家電リサイクルモデル工場
浙江省杭州市に国が指定したモデル工場の一つがある(もう一つのモデル工場は山東省青島市の郊外。Pick Up! No.111参照)。杭州大地環保有限公司という会社が経営するこの工場は、2005年に浙江省経済貿易委員会から委託された国家モデルプロジェクト「浙江省廃家電回収処理プロジェクト」を実施するために建設された。
この会社はもともと1998年に国家環境保護総局の固体廃棄物リサイクル及び無害化処理モデルプロジェクトを行うために設立された、危険廃棄物処理やリサイクルなどを行う専門会社だ。2006年からは地球環境ファシリティー(GEF)の資金協力を得て、浙江省のPCB管理と処置を行うモデルプロジェクトも開始した。
会社の責任者からの説明によれば二期に分けて事業を展開する計画になっている。第一期は廃家電の年間処理能力20万台、第二期は60万台だ。現在はまだ試験段階で6万台(3,000トン)の処理能力に留まっている。
持続可能な家電リサイクルシステムを構築する上でもっとも基本かつ重要な点は、安定した廃家電回収ルートの確保である。浙江省及びこの会社では8つの回収ルートを設定し、それぞれの効果を検証した。8つの方式の概要は表1のようであった。
【表1】 8つの回収ルートの概要
回収ルート | 概要 |
---|---|
回収ルート1 家電販売業者(量販店)との連携 |
新規の家電販売の際に旧家電を下取りして回収する方法。下取り品の値段は一つ一つ違うので、家電リサイクル事業者が購入者の家まで訪問して見積・買取を行う。 |
回収ルート2 社区(コミュニティ:町内会)ごとに回収ステーションを設置 |
環境保全の取り組みに熱心な「緑色社区」(グリーンコミュニティ)などと協力して廃家電回収ステーションを設けて、基本的に無料で回収する。 |
回収ルート3 政府機関、学校等公共機関からの回収 |
浙江省は家電リサイクル事業を円滑に進めるために「浙江省家電廃棄物及び電子廃棄物回収処理モデル事業暫定規則」を制定し、政府機関や学校などの公共団体から廃家電が発生した場合、処理能力を有する事業者に無料で提供し、処理することとした。 |
回収ルート4 家電メーカーで発生する廃家電の回収 |
家電メーカーから発生する不良品、試験品等を買取回収。 |
回収ルート5 既存の廃棄物回収ステーションの活用 |
廃棄物回収会社が所有する回収ステーションを通じて廃棄物とされた廃家電を回収。 |
回収ルート6 中古品市場からの回収 |
中古品市場に回収業務を委託して回収。 |
回収ルート7 個人回収事業者との提携 |
個人回収事業者に回収業務を委託して回収。 |
回収ルート8 自社による直接買取回収 |
家電リサイクル事業者の職員が直接出向いて廃家電を買取回収。 |
以上の8つの方式を試行した結果、次のことが明らかになった。
- 1)
- 既に個人回収事業者が廃家電回収のネットワークを形成しており、新たな回収ネットワークを構築しようとした場合、既存の個人回収事業者と競合してしまうこと。
- 2)
- 市場原理に従い個人回収事業者と同じ市場価格で買取を行わなければ廃家電が集まらないこと。
- 3)
- 社区に設けた回収ステーションに重い家電を自ら運んでくるケースはほとんどなく、玄関まで廃家電を引き取りに来る個人回収事業者のサービスには勝てないこと。市民からのボランティア的な協力は当てにできないこと。
- 4)
- 公共機関からの無料提供もほとんどなく、期待できなかったこと。
以上の結果から次のような結論に達している。
もっとも有効な回収ネットワークは、個人回収事業者が構築したネットワークを活用すること。杭州市には1万人以上の個人回収事業者がいて、それぞれが各コミュニティに縄張りを持って活動している。これらの事業者を活用することにより競合も避けられる。また、個人回収事業者は各家庭の玄関まで集めに行くサービスを行っており、回収がスムーズに行える。
一方、これらの方式を進めるためには市場価格での買取を行わなければならない。
リサイクルするほど赤字を産む構造
会社の責任者は費用便益を分析した貴重な結果を示してくれた。
表2は2007年某月の廃家電の回収(買取)価格を示したものである。壊れて使い物にならないテレビでも有料で市場に出回っていることがわかる。そして次のように総括している。
「現状では回収やきちんと処理するためのコストが高いため、当社のような環境保護を前提に適切な廃家電処理を行う会社は赤字を出している。2007年には回収コストが安いテレビを主な対象とした。それでも、1台当たりの平均回収価格は71元で、年間処理量を1万台とした場合の平均処理費用が70.6元かかる。回収した有価物を売却して得た利益を差し引いても、テレビ1台処理するたびに113元(日本円で約1,800円)の赤字が発生することになる」
また、表3のような損益分析も見せてくれた。テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機のどれをとってもリサイクルすればするほど赤字になる構造がよくわかる。
【表2】2007年某月廃家電の回収価格(単位:元/台)
種類 | 規格 | 価格(元) |
---|---|---|
カラーテレビ(故障品) | 20寸及び20寸以下 | 50 |
カラーテレビ(故障品) | 20寸以上 | 80 |
カラーテレビ(故障品) | 29寸以上 | 95 |
白黒テレビ(故障品) | 14寸 | 35 |
白黒テレビ(故障品) | 17寸 | 40 |
洗濯機 | 半自動式、二層式 | 110 |
洗濯機 | 全自動式 | 130 |
冷蔵庫 | 150リットル以下 | 150 |
【表3】年間5万台を処理する場合の損益分析 (単位:元/台)
種類 | 回収費用 | 処理費用 | 収入 | 損益 |
---|---|---|---|---|
テレビ | 121 | 54.3 | 62.5 | -112.8 |
エアコン | 435 | 56.5 | 443.5 | -48 |
冷蔵庫 | 241 | 137.6 | 133.2 | -245.4 |
洗濯機 | 211 | 50.4 | 81.4 | -180 |
持続可能な家電リサイクルシステム構築の課題
日本でも2001年以降、家電リサイクル法が施行されている。日本の家電リサイクル法では、廃家電を排出する者が処理費(リサイクル費用)と運搬費を支払うシステムになっているのに対して、中国の場合は廃家電も有価物として売れる市場が形成されており、廃家電の排出者にお金が入る仕組みになっている。まったく逆の構造だ。このような中古市場が形成されている理由は多々論じられているが、一つには廃家電中の有価物だけを取り出し、それ以外の不要な物は適切に処理せず環境中に捨てられているという処理の実態もある。このような不適正処理を行う事業者を徹底して取締り、環境保全に配慮した処理を行う事業者に廃家電が回る構造を実現しない限り、持続可能な家電リサイクルシステムは永遠に構築されそうもない。
また、日本のように廃棄にあたって処理費負担の義務を課さないまでも、せめて廃家電の回収を無料で行えるようになれば、損益構造は表4のように大きく改善する。中国政府及び国民ひとりひとりが抱える課題は多い。
【表4】無料回収で年間5万台を処理する場合の損益分析(単位:元/台)
種類 | 回収費用 | 処理費用 | 収入 | 損益 |
---|---|---|---|---|
テレビ | 0 | 54.3 | 62.5 | 8.2 |
エアコン | 0 | 56.5 | 443.5 | 387 |
冷蔵庫 | 0 | 137.6 | 133.2 | -4.4 |
洗濯機 | 0 | 50.4 | 81.4 | 31 |
(備考)その他に運搬費用等もかかるため、損益額はもう少し小さくなる。
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記事・写真:小柳秀明
〜著者プロフィール〜
小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
- 1977年
- 環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
- 1997年
- JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
- 2000年
- 中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
- 2001年
- 日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
- 2003年
- JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
- 2004年
- JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
- 2006年
- 3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
- 2006年
- 4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
- 2010年
- 3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。
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