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No.243

Issued: 2015.06.30

中国発:深刻な環境汚染に改善の兆し― 2014年中国環境白書を読む

目次
主要汚染物質の排出状況
水質汚染の状況
海域汚染の状況
都市大気汚染の状況
都市騒音の状況
自然生態環境
土地と農村環境
土壌汚染の状況
さいごに

全国の三分の一以上の農村ではこのような簡単な生活ゴミの収集場所すら整備されていない(2015年6月筆者撮影)

 2015年6月4日、中国環境白書(「2014年中国環境状況公報」)が発表された。今年2月末に陳吉寧環境保護部長(環境大臣)に交代してから初の白書となる。今年の白書の特徴とポイントについて昨年同様、これまでと比較しながらまとめてみた。

 まず総論では、2014年の環境保全施策の特徴を次の7点にとりまとめている。

一.大気、水、土壌汚染防止に新たな進展が見られたこと
二.2014年の主要汚染物質の総量削減任務が順調に達成されたこと
三.環境保護が引き続き経済発展をさらに推進する役割を果たしていること
四.環境法制の整備、法の執行監督及び環境リスク管理にさらに力を入れたこと
五.生態環境保護を着実に進めたこと
六.原子力及び放射線の安全性を管理できていること
七.生態環境分野での改革に積極的な進展が見られたこと

主要汚染物質の排出状況

 2014年の全国廃水中主要汚染物質排出量のうち化学的酸素要求量(COD)の排出量は2,294.6万トン(2013年は2,352.7万トン、以下同じ)で2.47%減少、アンモニア性窒素(NH3-N)の排出量は238.5万トン(245.7万トン)で2.90%減少、全国廃ガス中の二酸化硫黄(SO2)排出量は1,974.4万トン(2,043.9万トン)で3.40%減少、窒素酸化物(NOx)排出量は2,078.0万トン(2,227.3万トン)で6.70%減少した(表1,2参照)。また、工業固体廃棄物の発生量は32.6億トン(32.8億トン)で、前年と比べてほとんど変化なかった(経年変化は図1参照)。このうち総合利用(リサイクル)量は20.4億トン(62.1%)、処理量は8.0億トン(24.7%)であった。なお、未処理のまま貯蔵された量は約4.5億トンで前年と比べてほとんど変化がなかった。

【表1】2014年全国排水中主要汚染物質排出量
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【表2】2014年全国排ガス中主要汚染物質排出量
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【図1】工業固体廃棄物発生量の推移
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【表3】第12次5カ年計画(2011-2015)の主要汚染物質削減目標と削減実績
[拡大図]

(解説)

 2011年3月に策定した国民経済と社会発展第12次5カ年計画では、4つの汚染物質(SO2、NOx、COD、NH3-N)について排出総量削減に関する拘束性目標(強制目標)を策定した。5年間の累計で8〜10%排出総量を削減するというものである(表3)。
 2014年の実績は上述のとおりで、前年に引き続き昨年の単年度削減目標(表3参照)をすべて達成した。とくにSO2及びNOxは、前年に引き続き削減目標を大きく上回って達成した。この理由としては、1.3億KW(発電能力)の石炭燃焼設備で脱硫設備を増設改造したり、脱硫設備を正常に運転していない火力発電企業に対して脱硫電力価格優遇措置分5.1億元を減じるなどにより脱硫装置の正常運転を促したり、2.6億KW(発電能力)の石炭燃焼設備で脱硝設備を導入した結果などである。
 また、都市生活排水の処理に関しては、2014年末までに全国で1,797箇所の汚水処理場が設置され、その処理能力は1.31億m3/日に達している(前年比611万m3/日増加)。都市の汚水処理率は90.2%にまで達した。


水質汚染の状況

 長江、黄河、珠江、松花江、淮河、海河、遼河の七大流域及び浙闽片河流(注:浙江省、福建省を流れる河川流域)、西北諸河、西南諸河の三流域(合計十流域)の国がコントロールする観測点(国設測定局)中、I類の水質の割合は2.8%、II類は36.9%、III類は31.5%、IV類は15.0%、V類は4.8%、V類を超えるものは9.0%で、前年と比較して明らかな変化はなかった。主要な汚染指標はCOD、BOD(生物化学的酸素要求量)及び全リンであった(図2)。  2001年から2014年までのこれらの十流域の水質の経年変化を見ると図3のとおりで、14年間でI〜III類の水質の割合は32.7%上昇し、V類を超える悪い水質の割合は21.2%下がった。
 栄養状態についてモニタリングを行った61の重点湖沼(ダム)中、貧栄養状態の湖沼は10、中栄養状態は36、軽度富栄養状態は13、中度富栄養状態は2であった。
 モニタリングを行った4,896カ所の地下水モニタリングポイント中、優良・良好・比較的良好な水質のモニタリングポイントの割合はそれぞれ10.8%、25.9%、1.8%で、比較的悪い・極めて悪い水質状態のモニタリングポイントの割合はそれぞれ45.4%、16.1%であった(図4)。

【図2】2014年全国十流域水質類型別割合
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【図3】2001-2014年十流域全体の水質経年変化
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【図4】2014年全国地下水水質類型別割合
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(解説)

 水質分類のうちI〜III類は飲用水として利用可能な水質である。各流域別の汚染程度の状況は図5のとおりである。七大流域では長江及び珠江の水質が比較的良く、海河及び遼河の水質が悪い。国が直接コントロールする62の重点湖沼(ダム)の水質汚染状況は表4及び図6のとおりである。飲用に適するI〜III類(優、良好)の湖沼(ダム)は38で、IV類(軽度汚染)は15、V類(中度汚染)は4、V類を超えるもの(重度汚染)は5であった。主要な汚染指標は全リン、COD及び過マンガン酸塩指数であった。

【図5】2014年十流域水質類型別割合
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【表4】2014年重点湖沼・ダム水質状況
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【図6】2014年重点湖沼・ダム水質類別分布
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海域汚染の状況

【図7】2014年全国沿岸海域水質類型別割合
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 全国の沿岸海域の水質は、国がコントロールする観測点(国設測定局)のデータについて海水水質基準のクラス別にみると、I類に適合するものが28.6%(2013年は24.6%、以下同じ)、II類38.2%(41.8%)、III類7.0%(8.0%)、IV類7.6%(7.0%)、IV類を超えるもの18.6%(18.6%)であった(図7)。主要な汚染物質は無機窒素と活性リン酸塩で、それぞれの項目の基準超過率は31.2%、14.6%であった。
 9カ所の重要海湾中,黄河河口の水質は優良で、北部湾の水質は良好で、胶州湾の水質は普通(まあまあ)であったが、渤海湾、遼東湾及び闽片河口の水質は悪かった。長江河口、杭州湾及び珠江河口の水質は非常に悪かった。


【図8】2014年沿岸海域汚染の状況
[拡大図]

(解説)

 具体的な汚染状況は図8をみるとわかりやすい。白書本文では各海域に流入する汚染物質の量についても推計されている。

都市大気汚染の状況

【図9】2014年全国酸性雨地域分布
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 2014年、新環境基準(解説参照)に基づいてモニタリングが実施された161の都市のうち、国家2級基準を完全に達成できたのは16都市だけで、残りの145都市ではいずれかの項目が基準を超過した。基準の各項目別の達成状況をみると、SO2の基準を達成した都市の割合は88.2%、NO2は62.7%、総粒子状物質(PM10)は21.7%、微小粒子状物質(PM2.5)は11.2%、オゾン(O3)は78.2%、一酸化炭素(CO)は96.9%となっており、PM2.5の達成率が一番悪く、全体の基準達成率が悪い主要な原因になっている。
 2013年度と比較可能な74都市のモニタリング結果を見てみると、基準を達成できたのは8都市で前年の3都市と比べて5都市増加した。残りの66都市ではいずれかの項目が基準を超過した。基準の各項目別の達成状況をみると、SO2の基準を達成した都市の割合は89.2%、NO2は48.6%、PM10は21.6%、PM2.5は12.2%、O3は67.6%、COは95.9%となっており、161都市の集計結果同様PM2.5の達成率が一番悪くなっている。
 酸性雨については、470の都市でモニタリングが行われ、酸性雨が発生した都市の割合は44.3%を占めた。また、酸性雨の発生頻度が25%以上の都市の割合は26.6%、酸性雨の発生頻度が75%以上の都市の割合は9.1%であった。前年とほぼ同様で大きな変化はなかった。酸性雨の分布地域は長江以南から青蔵高原(青海省チベット高原)以東に集中している。浙江省、江西省、福建省、湖南省及び重慶市の大部分の地域、長江デルタ地域、珠江デルタ地域などである(図9)。

(解説)

 2012年2月に大気環境基準が改正強化され、当初の計画では2013年1月から段階的に実施され、2016年1月から全国で適用されることになっていた。しかし、実際には次のように実行された。まず第1段階として、2013年1月から大気汚染対策の重点地域や省都など74都市で先行して新基準が適用された。次に第2段階として2014年1月から新たに87の都市を加えて合計161の都市で新基準が適用された。そして第3段階として2015年1月から全国338の都市の1,436か所の観測点でのモニタリングが開始された。当初の計画より1年前倒しで全国モニタリングネットワークの整備が完成した。今年の白書では第2段階で整備した都市までの情報が紹介されている。
 なお、新基準ではSO2、NO2、PM10、PM2.5の年平均値、COの日平均値及びO3の日最大8時間平均値を用いて評価されている。
 各汚染物質の濃度範囲及び平均値等をまとめると表5及び表6のとおりである。

【表5】2014年全国161都市大気環境基準達成状況(年平均基準値を達成した都市の割合)
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【表6】2014年全国74都市大気環境基準達成状況(年平均基準値を達成した都市の割合)※下段()内は2013年データ
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都市騒音の状況

 日中にモニタリングを行った全国の327都市中、騒音レベルが一級の都市の割合は1.8%(2013年は2.8%、以下同じ)、二級の割合は71.6%(74.1%)、三級の割合は26.3%(22.8%)、四級の割合は0.3%(0%)、五級の割合は0%(0.3%)の割合になっている。前年と比べると若干悪化している。
 また、道路交通騒音についてみると、日中にモニタリングを行った全国の325都市中、道路交通騒音レベルが一級の都市の割合は68.9%(2013年は74.4%、以下同じ)、二級の割合は28.1%(23.4%)、三級の割合は1.8%(0.6%)、四級の割合は0.9%(1.0%)、五級の割合は0.3%(0.6%)の割合になっている。前年と比べると若干悪化している。

自然生態環境

【図10】2013年全国県域生態環境質の分布
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 昨年の白書から「生態環境質」という評価指標を導入している。具体的にはリモートセンシングで観測したものを解析して評価している。この解析作業には時間がかかるため、今年の白書では1年遅れの2013年の解析結果を紹介している。
 2013年のデータによると、2,461の県域中、「優」、「良」、「普通」、「少し悪い」及び「悪い」はそれぞれ558(2012年は346、以下同じ)県域、1,051(1,155)県域、641(846)県域、196(112)県域、15(2)県域であった。「優」と「良」の県域は国土面積の46.7%を占めている。全国の分布状況は図10のとおりである。
 2014年末までに全国で設立された各種類型、各級の自然保護区は2,729か所(2013年末は2,697か所、以下同じ)、総面積は約1億4,699万ha(1億4,631万ha)、そのうち陸域面積は1億4,243万ha(1億4,175万ha)で全国陸地面積の14.8%(14.8%)を占める。国家級自然保護区は428か所(407か所)で面積は約9,652万ha(約9,404万ha)であった。

土地と農村環境

【図11】2013年全国土地利用状況
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 2013年末現在、全国の農用地面積は6億4,616.84万ha(2012年末は6億4,646.56万ha、以下同じ)で、そのうち耕地は1億3,516.34万ha(1億3,515.85万ha)、林地は2億5,325.39万ha(2億5,339.69万ha)、牧草地は2億1,951.39万ha(2億1,956.53万ha)であった。また、建設用地は3,745.64万ha(3,690.70万ha)で、そのうち都市農村と鉱工業用地は3,060.73(3,019.92万ha)であった(図11)。
 第1回全国水利センサス、水土保持状況センサスの結果によると、土壌浸食総面積は294.91万km2で、センサスを実施した範囲の総面積の31.12%を占めた。そのうち、水による浸食は129.32万km2、風による浸食は165.59万km2であった。
 2014年、全国の生活ゴミ処理を行っている行政村は25.7万に達し、行政村全体の47.0%を占め、前年より10.4%増加した。また、生活ゴミ収集場所を設けている行政村は34.6万に達し、行政村全体の63.2%を占め、前年より8.4%増加した。農村に投入した環境衛生資金は169.9億元で、そのうちゴミ処理には63.1億元が充てられた。一方、生活排水処理を行っている行政村は5.5万で、行政村全体の10.0%を占め、前年より0.9%増加した。農村に投入した排水処理資金は63.8億元に達した。

土壌汚染の状況

 第1回全国土壌汚染状況調査(2005年4月―2013年12月)の結果によると、全国の土壌調査地点の中で評価基準を超えたのは16.1%で、そのうち軽微、軽度、中度及び重度汚染の割合はそれぞれ11.2%、2.3%、1.5%、1.1%であった。耕地の調査地点の中で評価基準を超えたのは19.4%で、そのうち軽微、軽度、中度及び重度汚染の割合はそれぞれ13.7%、2.8%、1.8%、1.1%であった。林地(森林)、草地及び未利用地の調査地点の中で評価基準を超えたのは、それぞれ10.0%、10.4%、11.4%であった。

さいごに

 以上紹介したほか、2014年白書では放射線環境、森林環境、草原環境、気候と自然災害、交通状況及びエネルギー状況についての記載があるが、本記事では割愛させていただいた。
 白書での記載内容は年々充実してきているものの、各種統計データの集計方法や基準となる考え方に変化がみられるので、経年変化が追いかけにくく、時には連続性がなくなっている。参考までに比較的過去の統計データが揃っているSO2とCODの排出量について、筆者がとりまとめたものを図12及び図13に示しておく。

【図12】二酸化硫黄排出量の推移
[拡大図]

【図13】化学的酸素要求量(COD)排出量の推移
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(記事・図版・写真:小柳秀明)

〜著者プロフィール〜

小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
1977年
環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
1997年
JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年
中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年
日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
2003年
JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年
JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年
3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
2006年
4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
2010年
3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。