No.037
Issued: 2002.11.21
進む産廃不法投棄対策国や自治体は規制を強化、問われる排出者責任
環境省の調査によれば、全国で不法投棄されるごみの量は年間40万3000トン、また不法投棄件数は1,027件(2000年度)。投棄件数は減少傾向にありますが、投棄量は横ばいです。不法投棄に歯止めをかけるため、全国の自治体が定期的な監視、産廃税の導入、条例による規制など対策を強化しています。環境省でも、法改正による対策強化に乗り出しました。
産廃Gメンが不法投棄を監視
山道を走る2人の男が乗った車。目的の場所に近づくと、林の間の地面を入念にチェックし、異常がないことを確認すると、次の場所へと向かう―。車を走らせているのは、「奈良県産業廃棄物監視センター」【1】の職員。
奈良県では昨年(2001年)4月に同センターを設立。産廃の不法投棄や不適正処理の監視体制を強化しました。県警察本部とも連携し、違法業者の摘発や逮捕、不法投棄された産廃物の撤去などに効果を上げています。
現在、奈良県をはじめとする全国の自治体が不法投棄監視を強化しています。東京都では、今年(2002年)4月から「産廃Gメン」が動き出しました。警視庁からの出向者と都庁職員の2人1組でチームを組み、産廃運搬車両の路上調査や不法投棄ルートの解明にあたっています。埼玉県でも、県庁職員や県警、市町村で構成する合同監視班を設置。廃材が発生する建設現場などのパトロールを強化しています。
不法投棄を少しでも減らそうと、全国の自治体は、あの手この手で不法投棄対策に取り組んでいます。環境省の調査によれば、全国35道県が産廃を搬入する業者に事前協議や届出などを求めており、北海道や徳島などは県外からの搬入を原則禁止としています。
産廃処分に課税する動きも
産廃に課税する動きも広がっています。企業に産廃の削減を促し、税収で環境対策を進めるのが目的です。今年4月には、三重県が全国で初めて「産業廃棄物税」【2】を導入しました。県内の処分場で産廃を年間1000トン以上処理した企業が対象で、1トンあたり1000円を徴収します。
これに続き、岡山県や広島県、鳥取県でも産廃税の導入を決定。国内で過去最大といわれる不法投棄が見つかった青森、秋田、岩手の北東北3県でも、産廃税を導入する方針を固めました。このほかにも、約20の自治体が同様の税導入を検討しています。市町村では、北九州市が、産廃の搬入に課税する「環境未来税」条例【3】を今年6月に成立させました。
千葉県は条例で一時保管も規制
条例で規制を強化する自治体もあります。千葉県は今年10月、県内での産廃の一時保管などを規制する独自の条例、「廃棄物の適正化条例」【4】を全国で初めて施行しました。
この条例は、自社で産廃を処理する場合も対象となります。自社で廃棄物を処理するための小型焼却炉や破砕施設、自社保有地での一時的な保管をすべて許可制にします。自社で処理する産廃にも排出元や処理場所が分かる証明書を作成し、携帯するよう義務付け。収集運搬業者の車には、許可内容を書いたステッカーを表示させます。
千葉県は、産廃の不法投棄が全国一多い自治体です。同県の調査によれば、不法投棄場所は県内に800カ所以上。投棄された産廃の量は、2000年度で約12万トンに上りました。これは全国総量の約3割を占めます【5】。同県は今年4月に、産廃不法投棄の取り締まりを強化するため、「環境犯罪課」を新設し、約30人体制で取り締まり強化を進めています【6】。
廃棄物処理法改正で不法投棄の規制強化
環境省でも、廃棄物処理法を改正して、不法投棄対策を強化する方針を打ち出しました。改正案には、リサイクルするという名目で集められ、実際には野積みされたまま放置されているタイヤや建材、電線などへの対策が盛り込まれる予定です。
現在は、リサイクル目的で集めたものは、廃棄物処理法の規制対象となりません。しかし、こうして集めたタイヤや建材などを屋外に山積みにしたまま放置する例が後を絶ちません。そこで、同法改正案では、野積みされた現場に都道府県などが立ち入り調査し、管理状態などによっては、廃棄物と認定できるとしました。
廃棄物と認定されれば、自治体は野積みにした業者や廃棄物の排出者に対して、廃棄物の撤去や汚染の除去などを命令できます。従わない場合には、懲役5年以下か罰金1億円以下の罰則を科すこともできます。
この対策案は、中央環境審議会(環境相の諮問機関)の専門委員会が今年10月にまとめた報告書【7】に盛り込まれました。環境省はこれを受けて、来年の通常国会に廃棄物処理法改正案を提出します。野積みされたタイヤなどを廃棄物に認定する基準は、政省令などで定める予定です。
排出者の責任いっそう重く
環境省の「不法投棄防止および原状回復に関する懇談会」は今年7月に、都道府県知事が不法投棄された産廃の撤去を命じる際、処理を依頼した排出事業者名も積極的に公表することなどを盛り込んだ報告書をまとめています【8】。すでに千葉県は、廃棄物の適正化条例で排出者の社名公表を規定。大阪府でも、同様の条例を制定する方針です。
2001年4月には、廃棄物処理法の改正で、自治体は排出事業者にも不法投棄の廃棄物を取り除いたり汚染土壌を浄化したりする費用を請求できるようになりました。不法投棄したのが委託先業者だった場合でも、業者に支払い能力がなかったり、不法投棄した業者が特定できなかったりした際には、自治体は、排出者に原状回復を求めることができます。
現在、不法投棄された産廃の処理方法を検討している青森、秋田、岩手の3県は、排出者に原状回復を求める可能性を追求しています。実現すれば、排出者に原状回復を求める初めての事例となります。今後、不法投棄問題の深刻化とともに、廃棄物処理業者だけでなく、排出者の責任がいっそう問われることになりそうです。
- 【1】奈良県産業廃棄物監視センター
- 夜間・早朝や休日のパトロールで切れ目のない監視体制を確保しているほか、各種計測機器の充実や、ヘリコプターを使った空からの監視なども行われている。
- 【2】三重県の産業廃棄物税
- 県税のページ
- 【3】北九州市の環境未来税
- 環境未来税
- 【4】千葉県の廃棄物の適正化条例
- 千葉県廃棄物の処理の適正化等に関する条例
- 【5】EICネットニュース
- 平成12年度の産業廃棄物不法投棄状況 投棄量は40.3万トン、うち60%が建設廃棄物
- 【6】千葉県警察「環境犯罪の撲滅」のページ
- 環境犯罪の撲滅
- 【7】中央環境審議会廃棄物・リサイクル制度専門委員会の報告書
- 議事次第資料・議事録一覧
- 【8】環境省 「不法投棄防止および原状回復に関する懇談会報告書」
- (環境省廃棄物・リサイクル対策部2002.7)
- 不法投棄防止及び原状回復に関する懇談会 報告書
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(記事:土屋晴子)
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