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首長に聞く!自治体首長に、地域の特徴や環境保全について語っていただきます。

No.016

Issued: 2024.12.02

第16回 福島県郡山市長の品川萬里さんに聞く、ウェルビーイング都市、課題発見・解決先進都市

郡山市長 品川萬里(しながわ まさと)さん

ゲスト:郡山市長 品川萬里(しながわ まさと)さん

  • 1967(昭和42)年3月 東京大学法学部卒業
  • 1967(昭和42)年4月 郵政省入省
  • 1999(平成11)年7月 郵政審議官(国際担当)
  • 2000(平成12)年6月 大阪大学客員教授
  • 2003(平成15)年6月 株式会社NTTデータ代表取締役副社長
  • 2009(平成21)年9月 法政大学教授
  • 2013(平成25)年4月 NPO法人日本幼児教育振興會理事
  • 2013(平成25)年4月 郡山市長初当選(1期目)
  • 2017(平成29)年4月 郡山市長当選(2期目)
  • 2021(令和3) 年4月 郡山市長当選(3期目)

聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 専務理事 小林正明

目次
フィードフォワードで少子化と気候変動を考える
官民での経験を経て、広い視野で郡山を見つめる
SDGs未来都市のキーワードは「健康」
2050年までに温室効果ガスを削減 実質ゼロへ
猪苗代湖でラムサール条約の登録を目指す

フィードフォワードで少子化と気候変動を考える

小林専務(以下、小林)― EICネット「首長に聞く!」インタビューに登場いただきましてありがとうございます。まず初めに郡山市のお話を伺いたいと思います。
会津・中通り・浜通りと気候が異なり、地域の多様性がある福島県の中で、郡山市は、中通りの中心にあって、面積的にも第3位と大変大きい市でありますが、人口も現在は県内第1位を誇り、東北のリーダーシップを取られているかと思います。また、2024年は郡山市制施行100周年の記念の年に当たりますが、そんな郡山市及びこおりやま広域圏について、市長の目から地域全体を俯瞰してご紹介ください。

品川市長― 郡山市は、福島県の中央に位置し、「人」「モノ」「情報」がつながり、交流する「経済県都」「知の結節点」として成長を続けています。また、福島県には、東京都から延びる東北道、常磐道のほか、太平洋と日本海を結ぶ磐越道の3つの高規格幹線道路が整備されており、交通の利便性や経済的にも、首都圏と位置付けるのが相応しいと思っています。これに関越道を視野に入れると、首都圏第四環状線になります。中でも、東北道と磐越道がクロスする郡山市は、極めて大きな使命を持った都市と認識しています。
郡山市では、2019年3月にこおりやま広域連携中枢都市圏(こおりやま広域圏)を形成し、現在、17市町村(5市8町4村)が連携し、少子高齢化・人口減少などの課題解決に向け、広域で持続可能な地域形成を目指しています。「バックキャスト(未来から逆算して目標や計画を立てる戦略的思考の方法)」は当然として、私は「フィードフォワード(未来に向けた先手先手の解決策)」でなくてはならないと考えています。現在は、予測に必要な様々な情報が得られるようになりました。これら情報を基に将来を見据えたとき、最大の問題である少子化や気候変動など、予見可能性の高い将来課題に対し、今何をすべきか考え行動することは、我々にとって次の世代への責任です。

小林― 少子化問題は、国も正面から捉えて対策を講ずるのに苦慮し模索している分野だと思います。

品川市長― 対策が過去の延長で止まっているからだと思います。我々は将来から見て、今、何をすべきか、常にシナリオを考えています。ビスマルクの教え「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」に従い、小林様とのご縁に感謝しつつ、『環境省50年史』(2021年刊)を拝読いたします。
郡山市は明治時代、開拓者が移住してきた歴史がありますが、元々は宿場町でした。私は、原点である宿場町の機能を大切にしていかなければならないと考えています。
また、関連して3Hのホスピタル・ホスピタリティ・ホテル。郡山市には高度医療機関が複数立地しており、現在、病院が22施設、診療所は242施設と充実した環境にあります。


中通りに位置し、西には猪苗代湖

中通りに位置し、西には猪苗代湖

5市8町4村のこおりやま広域圏

5市8町4村のこおりやま広域圏


品川市長― 出生数の推移のグラフを作りましたので、そちらをご覧ください。
全国と福島県と郡山市の推移を調べ、出生数のピークはそれぞれ同じような動きをしています。郡山市は合併によって50年前に出生数がピークになっていますが、外的要因を除くと全国や県の人口推移と同じような傾向を示しています。


郡山市・福島県・全国の出生数の推移(1924~2023年)

図1 郡山市・福島県・全国の出生数の推移(1924~2023年)


小林― 東日本大震災からの復興も一定の成果を上げてきましたが、近年は自治体の復興競争のようにも感じられるとの指摘もあり、連携や共生のような道があってよいと感じています。国全体の人口減少に歯止めをかけるのは難しく、国土交通省はコンパクトシティを地域の持続可能性や少子高齢化の対策として打ち出しているようです。

品川市長― 無定年や、学習過程の前倒しが必要ではないでしょうか。フランスでは3歳から義務教育が開始しています。日本は6歳からなので、5歳からにして、飛び級の制度を設けたりするのもよいと思います。

小林― 日本は大学院まで進学する方も増えて、どちらかというと就職年齢が遅くなっていますね。品川市長としては、むしろやる気がある方は早くから働いてもらっていいというお考えですね。柔軟性、選択肢があったらいいかもしれません。高齢者の方も元気なうちは働くのがよいということですね。

品川市長― 今の制度は昭和30年代の名残があります。私は昭和42年に就職しました。電卓は発売されましたが、電話は交換手を通さなければならず、高速道路や新幹線は開通したばかりの頃でした。物の移動などが変わったのに、建築基準法なども含めて、法律は基本的なことが変わっていません。

小林― 基準は厳しくなっても、基本構造はあまり変わらないわけですね。

官民での経験を経て、広い視野で郡山を見つめる

小林― 品川市長は東京大学をご卒業後、郵政省でお勤めになられた国家公務員の大先輩ですが、大学で教鞭をとられ、NTTデータでも副社長を務められた後に、市政に取り組んでおられます。ご自身の来し方や、郡山市をどのように引っ張っておられるか、お話いただければと思います。

品川市長― 2000年に郵政省【1】を退官しまして、官民両方に携わってきました。どうして市長選に出たのかと聞かれることもありますが、一度は落選しまして、4年間、日本国とは何かを改めて考える時間をいただきました。その間、郡山市は少なくとも福島県全体に貢献できる使命を帯びたまちであると感じるようになりました。また、近隣競争関係から、逆にこおりやま広域圏内市町村で連携した協奏関係で、様々な事業を行っており、一例としては、若い方ともインターネットで勉強会を開いています。具体的には、こおりやま広域圏自治体相互の情報共有と公共建築物の質の向上を目的として、公共工事におけるDX技術の活用事例や最新の大規模木造建築物の事例を紹介する「建築技術向上推進研修会」などをオンライン併用により実施しています。

小林― 郡山市を原点とされつつ、ご経歴も生かされてもっと広い地域の在り方を見ていらっしゃるということですね。

品川市長― 生まれは郡山市から南にある白河市で、その後小学5年から中学3年までを郡山市で過ごしました。中学当時の先生にはいい意味で感化され、感謝しています。
先ほどの勉強会もそうですが、17市町村で構成するこおりやま広域圏は、健康や就労支援、気候変動対策など、広範なテーマを取り上げ、「広め合う、高め合う、助け合う」を合言葉に“安心して元気に”暮らし続けられるまちづくりに取り組んでいます。


東京大学在学時の品川市長(右側手前から4人目)

東京大学在学時の品川市長(右側手前から4人目)

こおりやま広域圏の活動例での勉強会

こおりやま広域圏連携による勉強会


SDGs未来都市のキーワードは「健康」

小林― 「SDGs未来都市」【2】について、全国でもお手本となる取り組みを進められていると思います。東北地方では初めて「自治体SDGsモデル事業」に選定され、市民の皆さまにもモニター調査などをされていると伺いました。SDGsが求めるように、環境だけでなく、経済、社会など統合的に高めていく時代かと思います。2019年にSDGs未来都市に選定されて、これまでの手ごたえや今後の狙いを改めてお聞かせ願えますでしょうか。

品川市長― 2019年7月、国連による国際目標「SDGs」に関し、県内で初めてSDGs未来都市に選定されました。日本経済新聞社が隔年で実施している「SDGs先進度調査」では、郡山市は2021年1月に815市区中58位でありましたが、2023年1月は815市区(回答は709市区)中32位と順位を上げました。これは、福島県内で第1位、東北地方では仙台に続く第2位、中核市では62市中第4位です。
SDGsのゴール達成に向けては、特に「健康」を軸に各種取組みを進めています。郡山市では2018年に、県内初となるセーフコミュニティ国際認証【3】を取得(2023年再認証)し、客観的データに基づく安全・安心なまちづくりに取り組んでいます。日本は介護の分野でも他国の模範となっており、多くの国が日本をモデルとして見ています。今後100年、誰一人取り残されず、それぞれが幸せや生きがいを感じられる「ウェルビーイング都市・郡山」【4】の実現を目指しています。

また、次世代に引き継ぐことができるサーキュラーエコノミー【5】シティの実現に向けた取組みも推進しています。令和6年4月の組織改編で環境部に5R推進課を設置して、サーキュラーエコノミーや5R(リデュ―ス、リユース、リサイクル、リフューズ、リペア)をキーワードに、あらゆる政策を環境起点に考えようということで予算を組んでいます。
62ある中核市の中でワースト1が一つあります。それが、1人1日当たりのごみ排出量です。解決の手段としては、制限をかけてごみの排出量を減らすことに重きを置くより、ごみを再資源化していくのが近道ではないかと思っています。高齢化社会が進んでごみを減らすのも限界がありますから、出たごみの再資源化を目指すわけです。ただ、ごみ問題は行政だけでなく、環境産業やビジネスとして意識されていく必要もありますね。

小林― 産業廃棄物処理は韓国ではいち早く国の機関が取り組んだと聞きますが、日本では優良事業者の育成や公民連携で取り組んできました。国連持続可能な開発サミットでの、SDGs受諾に際して、当時の安倍晋三総理は、3Rと母子手帳を日本の取組としてアピールされましたが、5Rへの進化は心強いことです。将来的な課題としては、再生可能エネルギーに関しても太陽光パネルの廃棄物問題が注目されています。

品川市長― 気候変動とサーキュラーエコノミーを基幹に危機感を持って対策に取り組んでいます。海産物も気候変動の影響で、獲れる魚や場所が変わってきているといいます。果物や野菜の生産地も変わっています。植生や漁獲高がどうなっているのか、平均気温がどうなっているのか、各省庁には具体例ではなくて、体系的に全国のデータをEBPM(エビデンスに基づく政策立案)で示していただきたいと感じています。

小林― 地球温暖化の適応策として、農林水産省は以前から品種改良を熱心にやっていますが、気候変動適応法に基づく省庁連携体制の基盤はできているものの、広範なデータの体系的な発信や国民との共有は、まだ途上にあると言えるかもしれません。

品川市長― 美味しいお米の産地が北海道に移り変わってきているといいますが、お茶の産地も北限が上がってきています。定量データがないと説得力がないので、全国で定点観測地点を設定して、情報を集約してほしいですね。


SDGs未来都市の選定証授与式に出席した品川市長(左から5人目)

SDGs未来都市の選定証授与式に出席した品川市長(左から5人目)

郡山市制施行100周年記念 第5回こおりやまSDGsアワード表彰式

郡山市制施行100周年記念 第5回こおりやまSDGsアワード表彰式


2050年までに温室効果ガスを削減 実質ゼロへ

小林― 市制施行100周年となった2024年の年頭には、「郡山ルネサンス」のスタートの年と語られていますが、主に環境面の取り組みを中心に、現状と将来構想についてご紹介ください。

品川市長― 環境面の取り組みについては、本市における気候変動対策の総合計画である「郡山市気候変動対策総合戦略」を2021年3月に策定し、温室効果ガス削減目標として2013年度比で2050年カーボンニュートラルを定めました。更に2023年3月に一部改定し、近い将来の目標である2030年度の目標として2013年度比で50%削減と、国を上回る目標値を設定しました。環境問題については、部分最適ではなく、全体最適のためにどう貢献するかを考えていかなくてはならないと思います。

小林― 本日は、郡山駅から公用車の水素燃料電池自動車(FCEV)「MIRAI(ミライ)」に乗せていただきましたが、市長がかつていち早く公用車FCEVを1台導入、市役所敷地内への水素ステーション導入を実施されていて驚きました。

品川市長― FCEVを1台導入した当時(2017年)は、こんなに高価な車を役所が所有して先憂後楽と言われないかと心配していました。しかし、そんなことは全くなく、市民も市議会も見守ってくださいました。むしろ日本企業における電気自動車(BEV)の標準化の問題の方が大きかったです。BEVもFCEVも日本スタンダードを打ち出して国際標準化を急いでほしいですね。
2023(令和5)年度には、リース方式で公用車としてBEVを30台一括導入し、FCEVやプラグインハイブリッド自動車(PHV)等も含め、公用車の電動化率60%を達成しています。

小林― 再生可能エネルギーの導入促進についてはいかがでしょうか。

品川市長― 住宅・事業者向けに再エネ設備等導入補助を行い、脱炭素化を推進しています。公共施設では太陽光に加え、クリーンセンターでのバイオマス発電や上下水道局施設での小水力発電など、再エネを設置した数は、2025年度までには40施設となる見込みです。


公用車のFCEV「MIRAI」と外部給電器

公用車のFCEV「MIRAI」と外部給電器

国内最大規模の33基が並ぶ郡山布引高原風力発電所

国内最大規模の33基が並ぶ郡山布引高原風力発電所


猪苗代湖でラムサール条約の登録を目指す

小林― EICネットのホームページは、民間の方、事業者の方も閲覧してくださっています。幅広い閲覧者の皆さまにメッセージをお願いいたします。

品川市長― 私は、お互いにお互いの環境ですよ、あなたのことを考えて、あなたが私のことを考えるということが環境問題ですと言っています。自分を除いて考えていては環境問題は解決しませんから、お互いに環境の一部ですということを認識する必要があります。あなたが住みよくなるためには、私が住みよくならないといけないのです。

小林― 最近、人を非難したり、悪く言うようなことは多いのですが、互いに思い合うことが減っているところに危機感を感じますね。そういう意味でも、郡山市だけでなく、他の自治体との連携や幅広い自然環境の保全を大事にされているのでしょうか。

品川市長― 現在、猪苗代湖のラムサール条約【6】への登録を目指しています。猪苗代湖は、会津若松市と猪苗代町と当市の3つの自治体にまたがっており、福島県を加えた4者で認証に向けて動いています。多様な生物の営みがあり、コハクチョウなどの水鳥の貴重な生息地(磐梯朝日国立公園)ですので、登録となれば、環境保全や湿地保全に寄与すると期待しています。以前にも登録を検討していたのですが、3.11(東日本大震災)によって滞ってしまった経緯があり、来年の春に向けて必要なデータや資料などを準備しているところです。
最後に、郡山市は安積(あさか)開拓、安積疏水の開削により発展してきた「マチ」であり、豊かな自然環境があります。再エネのポテンシャルを活かし、地域経済を牽引しながら、脱炭素社会の実現とSDGsの達成に向け、カーボンニュートラルシティこおりやまを目指していきます。

小林― 本日はお忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました。
将来に向かって示唆に富むお話を伺うことができました。


猪苗代湖のハクチョウ

猪苗代湖のハクチョウ


郡山市の品川市長とインタビュアーの小林専務理事(左から)

郡山市の品川市長とインタビュアーの小林専務理事(左から)


注釈

【1】郵政省
2001年に中央省庁再編の実施に伴い、郵政事業庁と新たに発足した総務省に事業を分割し、廃止された。
【2】SDGs未来都市
SDGs(持続的な開発目標)の理念に沿った取り組みを推進しようとする都市・地域の中から特に、経済・社会・環境の3側面において新しい価値の創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高いとして選定された都市・地域。
【3】セーフコミュニティ国際認証
WHO(世界保健機関)の傘の下、1970年代にスウェーデンの地方都市で始まった「安全なまちづくり」の取り組みで、1989年に認証制度が始まる。日本では、2006年に京都府亀岡市が初めて取組を開始して以来、少しずつ取組む自治体が増えている。
【4】ウェルビーイング
WHO発の概念で、広い意味での健康を示す用語で、心身の「健康」(狭義の健康)のみならず、精神的な「幸福」と社会的に良好な状態を作る「福祉」の3要素が良好な状況にあることを示す。第6次環境基本計画では、ウェルビーイング/質の高い生活を最上位の目標としている。
【5】サーキュラーエコノミー
水、土地、バイオマスなどあらゆる資源の効率的利用を進め、資源の循環利用の高度化を図ろうとするもの。
国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)においては、日本が「環境と成長の好循環」を実現する世界のモデルとなることを発信した。
【6】ラムサール条約
水鳥の生息地として国際的に重要な湿地を保全するための環境条約。湿地の保全や賢明な利用を進めることが目的。

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