一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.058

Issued: 2016.10.21

第58回 inQs株式会社代表取締役社長・伊藤朋子さんに聞く、光発電分野の技術開発と環境への貢献

伊藤 朋子さん(いとう ともこ)さん

実施日時:平成28年10月4日(火)13:30〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:伊藤 朋子さん(いとう ともこ)さん

  • inQs株式会社 代表取締役社長。
  • 慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業。
  • 商社退職後、2005年シーズ技術の事業化に注力する企業を設立。その際、本起業となった光発電素子の原型技術の開発に成功し、2011年IFTL-Solar株式会社(現inQs株式会社)を発起人として設立。その後、取締役を経て、現在の代表取締役に就任。
  • 座右の銘は、「私の行いは大河の一滴に過ぎない。でも何もしなければその一滴も生まれない」
目次
身の周りに溢れている光を利用してエネルギーを作り出す
inQsの発電素子は、可視光だけでなく、紫外光や赤外光を含む広範囲の波長を拾って電力に変えられることが大きな特徴
価格が高いもの、コストがかかるもの、それからCO2がたくさん出るものを作るようでは、ビジネスとして成功しない
inQs社が成長することによって、パリ協定に関わるようなCO2排出量の削減に大きく貢献できる
大企業の製品ばかりでなく、小さな企業の製品も心に留めて、応援していただければ非常にうれしい

身の周りに溢れている光を利用してエネルギーを作り出す

大塚理事長(以下、大塚)― エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。
伊藤さんは、2011年に光発電素子の開発・販売を主な目的としてinQs株式会社を立ち上げられました。その後も一貫して、光発電素子の技術開発を進め、クリーンエネルギー開発のレベルアップに貢献されておられます。
本日は、伊藤さんが取組まれている光発電分野の技術開発の状況や、この分野がもたらす環境への貢献などについてお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、伊藤さんが光発電分野の技術開発に取組まれるようになった経緯の紹介から始めていただけますか。

伊藤さん― 私がinQs株式会社を立ち上げた際のコンセプトは、見えない光を含め、身の周りに溢れている光を利用してエネルギーを作り出すことでした。その発端のところをお話させていただきます。
私は大学生の時に超電導【1】の研究をしており、送電線を通る際の電力のロス、送電ロスのことを知りました。電力が送電線を通る際に63%も失われることに対し、非常にもったいないと感じたのです。それ以来、電力を身近に使えるように、電力を身近に産み出せる仕組みを作れないかとずっと考えておりました。
私がinQsを立ち上げる前は、技術開発の中でも、技術をシーズからニーズにつなげることを目指している国際先端技術総合研究所株式会社という、私にとっての親会社に勤めておりました。この時に、inQsの光発電素子の起因になる特別な材料を見つけたのです。

大塚― 今お話になられた特別な材料を、伊藤さんご自身が見つけられたのですね。

伊藤さん― はい。会社の研究チームのメンバーとして、ある廃材を再利用できないかと、いろいろと検討しておりましたところ、その中から光で起電する物質を発見することができたのです。

大塚― 大発見ですね。

伊藤さん― 本当に、これは大発見だと思っております。

大規模発電所の一次エネルギー利用効率(出典:東京ガスwebページ:http://home.tokyo-gas.co.jp/living/solar/

大規模発電所の一次エネルギー利用効率
(出典:東京ガスwebページ:http://home.tokyo-gas.co.jp/living/solar/

inQsの発電素子は、可視光だけでなく、紫外光や赤外光を含む広範囲の波長を拾って電力に変えられることが大きな特徴

伊藤さん― この技術開発の研究を始めたのは2005年でした。それから現在に至るまで、非常に長い間苦労いたしました。光発電素子の素子化にあたっても、何十万ものセルを組み立てる試行錯誤を繰り返し、昨年やっとサンプル商品化にこぎつけたというところです。
整理してご説明しますと、私は2005年には親会社に所属しており、2011年に子会社として独立したinQs社で研究を続け、ようやく2016年にサンプル商品を世に出すところまできたことになります。

大塚― 新しい素材が技術開発の鍵を握っていることは理解できるのですが、その機能について、二酸化ケイ素【2】および人工水晶【3】とも関連づけ、分かり易く教えていただけますか。

伊藤さん― 素材として使っているのは人工水晶ですが、基本的には二酸化ケイ素という物質を使っていることになります。ポイントはナノ化【4】した素材を使ったところにあります。素材に特殊な加工を施すことにより、光で起電する物質に変更させるのに成功し、この物質によって、光で発電する「物」を作れるようになったことが発端なのです。
この材料の特徴を、太陽光電池として一般に知られているものと対比してご説明します。太陽光電池は、いわゆる可視光部分を吸収し発電します。私どもの発電素子は、基本的に可視光にあたる部分も吸収しますが、それ以外にも、紫外光や赤外光という広範囲の波長を拾って電力に変えられることが大きな特徴なのです。

大塚― スペクトルの端から端までということですか。

伊藤さん― そうです。

大塚― このような特性が、二酸化ケイ素に備わっているということなのですか。

伊藤さん― はい、そうです。その特性を引き出すために加工する、あるいは、加工によってその特性が産み出されたということです。
実はこの点でも苦労がございました。これほどまで広い光の波長域を調べる測定器がないのです。いろいろな装置を動員し組み合わせた結果、低波長域から高波長域まで測定することができました。これだけ広い範囲の光を測定することができたからこそ、あらためて二酸化ケイ素の特性に気づくことができたのです。

大塚― 大変な努力をされたわけですが、もう少しお話いただけますか。

伊藤さん― 人工水晶を使った時の話をさせていただくと、人工水晶はダイヤモンドに次いで硬い物質です。ある程度結晶化された人工水晶を、私どものように、「ナノ化」するまで砕いたのははじめてのチャレンジだったのです。どなたもやったことがなく、この「ナノ化」が困難をきわめました。

大塚― ナノのレベルまで砕くということがイメージしにくいのですが、ともかく、ある力で砕くということですね。

inQsの開発した「Solar-Quartz」。二酸化ケイ素をナノレベルに加工したことで発電する特性を引き出した

inQsの開発した「Solar-Quartz」。二酸化ケイ素をナノレベルに加工したことで発電する特性を引き出した

伊藤さん― そうですね。そのための装置自体もありませんでしたし、そもそも、人工水晶を砕くことを思いつかれることもなかったようです。人工水晶のメーカーさんにご相談したところ、「私どものメーカーの歴史の中で聞いたことはございません」と言われるなど、モノづくりに苦労したことをよく覚えています。

大塚― 伊藤さんのインスピレーションが素晴らしかったということですね。

伊藤さん― 最初にお話したように、もともと廃材の再利用を目指しており、廃材を利用するときに「ナノ化」は1つのポイントでした。この時に見つけた素材の1つに、人工水晶系の二酸化ケイ素に非常に似たものがございました。それが、現在の人工水晶にまでたどり着けた出発点だったことになります。

価格が高いもの、コストがかかるもの、それからCO2がたくさん出るものを作るようでは、ビジネスとして成功しない

無色透明型光発電素子は、窓ガラスなどへの実用化が期待される。熱を吸収して発電するため省電力化のエコビルに役立つ。

無色透明型光発電素子は、窓ガラスなどへの実用化が期待される。熱を吸収して発電するため省電力化のエコビルに役立つ。

大塚― 少し話は変わるかもしれませんが、inQs社の新しい技術開発が2016年のJapan Venture Awardsの技術イノベ―ト部門における特別賞を受賞されました。受賞され、伊藤さんご自身がどのように感じられたのかをご紹介いただけますか。

伊藤さん― 本当にありがたい受賞だと思っております。それとともに、受賞させていただいたからには、責任をもって開発した商品を社会に役立てるものにさらに磨き上げたいと思いました。私どもはベンチャー企業ですので、職員も技術者も少ないのですけれども、賞をいただいたことでモチベーションが非常に高まりました。それに、今までご支援いただいたメーカーさんなどからの期待もさらに大きくいただけるようになり、現在、サンプル商品を出荷し評価していただいている段階です。

大塚― 試作品が昨年でき、今はもう商品化に近づいているのですね。

伊藤さん― そうです。商品化に繋げられそうなところまで来ております。メーカーさんの期待も非常に大きいので、是非頑張りたいと思います。

大塚― 技術的に素晴らしいことは分かりました。コスト面や用途についてもご紹介いただけますでしょうか。

伊藤さん― 私どもの会社の根底にある考え方からお話しさせてください。価格が高いもの、コストがかかるもの、それからCO2がたくさん出るものを作るようでは、ビジネスとして成功しないだろうと、会社を設立した当初から確信しております。光発電素子そのものについて具体的に申し上げれば、通常の太陽光発電で使われているいわゆるシリコン系太陽電池【5】と比べ、まず製造設備費そのものが多分100分の1以下で済みます。それに加え、私どもが原料に使っております二酸化ケイ素は地球にものすごくたくさん存在しており、他国に供給をゆだねる必要もございません。日本で調達可能な原料で、身近に使えるエネルギーを供給できるわけです。

大塚― 素晴らしいですね。用途についてもお願いします。

伊藤さん― 用途については、大きく2つのタイプを考えております。1つは、無色透明の光発電素子で、これを窓のところに一面に這わせ電力を得るというものです。ビルに必要なエネルギーを供給できることが大きなポイントになると思っております。実は、発電だけでなく、先ほど申し上げましたように赤外光部分の光も吸収しますので、熱い光、熱射が入ってきたときにそれを吸収して光電力に変えるという排熱の効果もございます。そうすると、部屋のエアコンの温度を高く設定することができ、ビル全体として、省電力化のエコビルにすることができるのです。

大塚― これからの省エネ型の建物に期待されている、ゼロエネルギービルにとってまさに有効ですね。

室内などでも発電できる低照度型光発電素子は、IoTの自立電源への需要が期待されている。

室内などでも発電できる低照度型光発電素子は、IoTの自立電源への需要が期待されている。

伊藤さん― もう1つ、第2のタイプについてもご説明いたします。それは、ふつうの室内のような低照度の環境下で十分に発電できる光発電素子です。これは手のひらサイズのものです。どういうニーズがあるかと申しますと、IoT【6】の自立電源として用いることです。ご承知のように、IoTは無線センサーネットワークシステムとして、これから需要が急増する可能性が高く、その電源に使えそうだということで私どもへの引き合いが非常に多くなっております。実証試験に向け、サンプルの出荷を急いで進めている最中です。

大塚― 期待しております。ところで、これらの製品は途上国などでも使用できるのでしょうか。

伊藤さん― アフリカを例にとれば、大型ダムで水力発電がなされている国などがあると思います。そのような国では、その大動脈ともいえるところでは電力が十分に供給されるのでしょうが、本当に必要なところに必要な電力が届いているかというと、そうはなっていないと思うのです。そのようなところにも電力を届けるために、小さな地域単位ごとに、わずかな量でもいいので電力を供給できる仕組みを作っていければと思っています。私たち自身も発展途上にあるわけですが、途上国の夢が現実になるよう努力していきたいと考えております。

inQs社が成長することによって、パリ協定に関わるようなCO2排出量の削減に大きく貢献できる

大塚― 少し話題を変えさせていただきます。昨年末に開かれたCOP21でパリ協定が採決され近々発効する情勢です。日本は、2030年以降のCO2排出量を2013年度比で26パーセント削減、民生部門では40パーセント削減を約束しています。伊藤さんご自身は、どのように感じておられますか。

伊藤さん― 私どもは、もともとエネルギーを産み出そうと考えて会社を立ち上げたのであり、この話題には非常に大きな関心をもっております。一言で表現すると、私どものinQs社が成長することによって、パリ協定に関わるようなCO2排出量の削減に大きく貢献できると確信しています。そういう意味では、逆に使命感をもって、この情報を受けとったと考えております。さらに、私どもが提供する商品を使っていただく皆さまが、パリ協定の遵守に貢献したと実感していただければと思っています。

大塚― 私たちが目指す持続可能な社会の実現とも関連させ、伊藤さんご自身が、人間と自然との関係をどのように捉え仕事を進めておられるのかについてもお伺いできればと思います。

伊藤さん― 私は、会社の中でもよく言っているのですが、一滴の水が大河を生み出す、という信念というか気持ちをもっております。小さな技術が社会を大きく動かすことができるだろうという信念もございますし、少人数の小さな集団への配慮が優しい社会を産み出すのに大きな役割を果たすという信念もあります。とにかく諦めないで続けること、このことが一番のポイントなのだろうなと常々考えております。

大塚― よく分かります。
地球温暖化に限りませんが、日本は世界レベルで環境問題に対する技術的な貢献が期待されているよくといわれます。伊藤さんは、どのような技術革新あるいは技術開発が重要とお考えですか。

伊藤さん― 私が個人的に大事だと思っているのは、循環型社会をつくること、エネルギーもそうですが、循環性が保たれるようにすることです。小さな地球という存在を理解し、その中でモノやエネルギーが循環できる仕組みを産み出す技術が必要だろうと考えています。CO2についても、排出された後に再利用するなど、とにかく繰り返し使える仕組みを技術者として創り出していきたいと考えています。単に消費するだけでなく、生産するだけでもなく、循環していく世の中にすることが一番重要で、そのための技術が最も必要ではないかと思っております。

大企業の製品ばかりでなく、小さな企業の製品も心に留めて、応援していただければ非常にうれしい

大塚― EICネットは、企業や自治体などにお勤めの方をはじめ、多くの方々にご覧いただいています。本日はずいぶんいろいろなお話を伺ったのですが、最後に、読者の皆さまに向けた伊藤さんからのメッセージをお願いいたします。

伊藤さん― 「技術立国日本」とよく言われております。もしかすると、その時代は何年か前のお話だったのかもしれないのですが、私どもはベンチャー企業の一員として、このキャッチフレーズに見合う成果を達成し続けていきたいと思っております。そのためにも、皆さまがベンチャー企業に対し広く関心をもっていただければと願っており、大企業の製品ばかりでなく、私どものような小さな企業の製品も心に留めていただき、応援していただければ非常にうれしいと思います。

大塚― まさにエコチャレンジャーといえる研究開発と、その根底にある伊藤さんのお考えを伺うことができました。ますますご活躍されることを期待しております。本日は、どうもありがとうございました。

inQs株式会社代表取締役社長の伊藤朋子さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。

inQs株式会社代表取締役社長の伊藤朋子さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。


注釈

【1】超電導
 電気抵抗がゼロであり、外的磁場の侵入を排除する完全半磁場状態を示すという、2つの現象が観測されること。
【2】二酸化ケイ素
 化学式はSiO2で、シリカあるいは無水ケイ酸とも呼ばれる。常温では無色で、圧力および温度条件により、多様な結晶相持つことが特徴。代表的なものが石英(水晶)。
【3】人工水晶
 天然の水晶を原料とし、不純物の少ない高純度な水晶に再結晶化させたものを指す。
【4】ナノ化
 ナノサイズに小さくすること。ナノとはナノメートル(nm)の略称で、1メートルの10億分の1の長さを表す。
【5】シリコン系太陽電池
 現在の太陽光発電で多数を占めており、単結晶シリコンや多結晶シリコンなどのいくつかのタイプがある。
【6】IoT(Internet of Things)
 さまざまな「モノ(物)」がインターネットに接続され、情報交換をすることにより相互に制御する仕組み。

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