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2026.07.21

第7回 GOSAT-GWによる温室効果ガス排出の「見える化」とカーボンニュートラル:Satellite for actions

国立環境研究所 地球システム領域 領域長 谷本 浩志

気候変動は年々深刻化していると感じられます。カーボンニュートラルを早く実現すべく、各国は脱炭素化に向けた野心的な排出削減目標を掲げていますが、目標を達成するには進捗管理が大事です。目標に対して順調に減っているかどうかを、誰もが理解できるわかりやすい方法で頻繁に確認できると安心です。こうした透明性の高い検証が、「パリ協定」に基づく国際的な脱炭素化において重要な要素になっています。GOSAT-GW搭載のTANSO-3センサーは、従来の衛星にはない超広域かつ高空間分解能の「面」観測を実現しました。温室効果ガスの排出量情報を得ることで透明性の高い検証を支援し、脱炭素社会に向けた取り組みを支えます。

目次
ますます深刻な気候変動
温室効果ガスの排出状況
パリ協定によるカーボンニュートラルの実現
現在の排出量を正確に知ることの大事さ
排出量推計の難しさ
透明性の高い検証の大事さと衛星観測の役割
GOSAT-GW/TANSO-3観測により得られる革新的なデータ
最新の科学を社会変容の行動に繋げること
革新的なデータによる脱炭素化の促進
日本のカーボンニュートラル実現への道筋

谷本 浩志(たにもとひろし)プロフィール

宮原 ひろ子(みやはらひろこ)

  • 国立環境研究所 地球システム領域 領域長
  • 1996年東京大学理学部卒業。2001年同大学院理学系研究科博士課程修了、博士(理学)の学位。2001年国立環境研究所研究員、その後主任研究員を経て、2010年より室長、2022年より副領域長、2025年より領域長を務める。名古屋大学大学院環境学研究科客員教授を兼務。専門は大気化学で、地球規模の大気質について地上観測・モデル・衛星観測を統合的に利用した研究を行うとともに、国際プロジェクトのリーダーとして国際連携を推進している。

ますます深刻な気候変動

 気候変動問題の解決に向けて最新の知見をまとめるために研究者が集うIPCCの最新報告書によると、
 ・人間活動による地球温暖化は疑う余地がない
 ・産業革命前に比べた気温の上昇は既に1.1度である
 ・今の温室効果ガス削減対策はまだ不十分で、もっと早いペースで減らさないといけない
 と、これまでよりもさらに強く警鐘が鳴らされています。
 日本でも、夏は年々暑くなっているように感じますし、ゲリラ豪雨、線状降水帯、森林火災といった異常気象や災害も増え、「これまでの気候と違う」と肌感覚としても感じている方も多いと思います。
 一方、IPCC報告書は、
 ・今私たちが動けばまだ間に合う、そして今の行動が今後数千年にわたる地球の状態に効く
とも言っています。
 地球温暖化、気候変動を止めるには、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスを減らさないといけません。

温室効果ガスの排出状況

 温室効果ガスの排出量とその排出源を示す世界地図(図1)を見ると、世界中の至る所で何らかの排出があることがわかります。まず、先進国の都市部での排出が多いことがわかります。道路状のものも見えるのは自動車から排出されている温室効果ガスです。大陸の間に線状に見えるのは航空機や船舶から排出されている温室効果ガスです。
 カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること、つまり「地球の正味で」ゼロにすることです。森林や海洋などが吸収できる分は出しても良いのですが、人間活動による排出を大幅に減らさないといけないことには変わりません。つまり、現在の温室効果ガスの排出の世界地図がほぼ真っ白になるか、非常に薄くなるか・・・いずれにせよ相当な変化です。何からどれだけ減らすか・減らせるかにより、将来の温室効果ガスの排出マップは、今とは様子が違うものになるでしょう。


図1:温室効果ガス排出量の世界地図(2022年)。EDGAR v8.0 (Crippa et al., ESSD, 2024)による。

図1:温室効果ガス排出量の世界地図(2022年)。EDGAR v8.0 (Crippa et al., ESSD, 2024)による。

パリ協定によるカーボンニュートラルの実現

 カーボンニュートラルの実現には、政策として温室効果ガスの排出を減らしていく必要があります。このためのドライビングフォースになっているのが2015年のCOP21で採択された「パリ協定」です。パリ協定が画期的だったのは、自分の国が温室効果ガスをいくら減らすかは自分で決める方法を採用したところで、それゆえ開発途上国を含めて全ての国が賛成しました。自分で決める削減量のことをNationally Determined Contributions (NDCs)と言い、「自国が決定する貢献」という訳になりますが、つまり「自分のことは自分で決める」ということです。
 日本もパリ協定を批准しています。2020年に「2050年には脱炭素化します」と約束し、2021年に「2030年には46%減」を約束しました。日本も早急な対策をしていきますと宣言したわけです。

現在の排出量を正確に知ることの大事さ

 日本の温室効果ガスの排出量は毎年数%ずつ減っている傾向にありますが、こうした数字はどのように算出しているのでしょうか?また、どの程度正しいのでしょうか?現時点での排出量推計が正しくないと、間違った対策、効果的ではない対策をしてしまう可能性があります。温室効果ガスや大気汚染物質の排出量の推計(排出インベントリと言います)をしている研究グループは世界で多くありますが、複数の排出インベントリを比較してみるとかなり違います。CO2は10%程度ですが、メタン(CH4)は2倍も違っています(図2)。開発途上国では統計データが不十分だからそうかもしれないが、統計がしっかりしている日本は正確なのではないか、と思うかもしれませんが、日本に対する推計も同様です。


図2:日本のCO2とCH4の排出量推計値に関する複数の排出インベントリ比較

図2:日本のCO2とCH4の排出量推計値に関する複数の排出インベントリ比較


排出量推計の難しさ

 各国の優秀な研究者や技術者が、最新の統計データを使って最先端の知識で算出しても、排出インベントリは完璧ではありません。それくらい複雑で難しいものなのです。例えば、報告義務がまだないような新しい産業ができると、統計データに入ってこないので、排出インベントリにはカウントされず、実際の排出量を低く見積もることになります。一方、大気汚染の対策技術は、気候変動対策というよりは健康対策のために導入されていくので、導入が計画より早いペースだと、排出インベントリは、実際の排出量を高く見積もってしまいます。また、水田や家畜など農業活動は排出をコントロールしにくく、推計がより困難です。つまり、
 ・全ての排出インベントリには不確実性が伴う
 ・発生源・排出源が多様なもの、制御しにくいものは、推計がより難しい
 ・削減対策技術が導入できるもの(例:大気汚染物質)は、推計がより難しい
といった特徴があります。こうした、インベントリ作成における技術的な困難さに加えて、
 ・人間活動による排出は随時変化する
ことは、リーマンショックなどの不況やコロナ禍を思い出すと、経済活動や社会活動はあっという間に変わることがわかります。また、
 ・排出量の推計には数年もの時間がかかる
ことは大きな課題です。なぜなら、迅速なアクションに繋げにくいためです。対策が効果的だったのかどうかを速く知り、もし効果的でなかったのなら、速く軌道修正する必要があります。
 なお、日本では、温室効果ガスインベントリオフィスを中心に、環境省と国立環境研究所が共同で毎年度の排出量を公表しています。2024年4月から2025年3月までのデータを、その後公表される統計データを用いて急ピッチで推計し、約1年後の2026年4月に公表しています。

透明性の高い検証の大事さと衛星観測の役割

 私たちは「排出インベントリがどのくらい正しいのかを、別の方法で速く確かめること」がカーボンニュートラルを実現する上で大事だと考えています。この点で、衛星観測は非常にパワフルなツールです。人工衛星による地球観測の長所は、
 ・グローバルな分布や変化を可視化できる
 ・データを準リアルタイムの速さで入手できる
ことであり、排出量の確認に関しては、
 ・統計に漏れてしまっている排出を見つける
 ・排出量の変化を速く確認する
ことに適していると考えられています。グローバルな排出量、各国の排出量はもちろんですが、工場や発電所一つ一つの排出源からのCO2排出量を導出する研究開発が急ピッチで進められるなど、宇宙からの衛星観測データを用いた排出量の導出や精緻化には世界的に大きな期待が寄せられています。日本以外にもアメリカ、イタリアやフランス、ドイツ、イギリスといったヨーロッパ諸国や欧州連合も温室効果ガスの衛星観測に取り組んでいますが、それは衛星観測を気候変動対策に活かしたい、活かせると考えているからです。国立環境研究所は、NASA、ESA、EUMETSATといった機関と連携を進めています(図3)。


図3:現在から今後にかけて運用されるCO2観測衛星の一覧。

図3:現在から今後にかけて運用されるCO2観測衛星の一覧。CEOSウェブサイトより。


GOSAT-GW/TANSO-3観測により得られる革新的なデータ

 2009年に日本が打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)は、CO2やCH4のグローバルな動態把握に大きな貢献をしてきました。しかし、その観測は不連続な「点」であったため、空間分布の把握は得意ではなく、より広域な面的観測と空間分解能が今後の課題でした。
 2025年から観測を開始しているGOSATシリーズの3号機となる温室効果ガス・水循環観測技術衛星(Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle: GOSAT-GW)には、温室効果ガス観測センサ3型(Total Anthropogenic and Natural emissions mapping SpectrOmeter-3: TANSO-3)が搭載されて、グローバルから個別排出源までのCO2、CH4、二酸化窒素(NO2)の濃度が観測されます。
 TANSO-3センサは、通常の「ワイドモード」では911kmの観測幅を10kmの空間分解能で面的に観測し、3日間で地球を1周します。加えて、「フォーカスモード」では90kmの観測幅を3kmより高い空間分解能で観測します(図4)。「ワイドモード」は統計に漏れている排出源を見つけるため、「フォーカスモード」は排出源単位で排出量を特定するために有効です(図5)。なお、GOSAT-GWによる温室効果ガス観測ミッションの詳細はTanimoto et al. (2025)論文でご覧頂けます。


図4:GOSAT-GW/TANSO-3センサーによる観測のイメージ図。左がワイドモード、右がフォーカスモード。

図4:GOSAT-GW/TANSO-3センサーによる観測のイメージ図。左がワイドモード、右がフォーカスモード。



最新の科学を社会変容の行動に繋げること

 カーボンニュートラルは、私たち人間社会の仕組みや行動が変わらない限り実現できません。そのために大事なのは、温室効果ガスの排出量に関心を持つことです。人は、見えないものには関心を持てません。そこで「排出量の見える化」が重要です。GOSAT-GWによる観測は「排出量の見える化」に大きく貢献します。
 「排出量の見える化」ができるとどうなるでしょうか。国際的な気候変動対策というと、国や政府レベルでの話が多くなります。政府や自治体が政策立案し、法整備し、人々がそれらを守るようにすることで脱炭素化を進めます。こうした政策も大事ですが、それだけでは不足かもしれません。不足ではなくても、間に合わないかもしれません。そこで、民間企業の力を活かして、どんどん脱炭素化を進めるため、民間企業の行動原理である利潤追求とwin-winになる仕組み作りも大事になってきます。

革新的なデータによる脱炭素化の促進

 GOSAT-GWのデータは、銀行や保険会社からも大きな関心を寄せられています。特に、油田やガス田、パイプラインから大気中に漏れて温暖化に影響を与えているCH4は相当あると言われています。しかし、CH4は会社にとっては「売れる商品」なので、利益を逃していることになります。そこで、GOSAT-GW衛星からCH4の漏れを観測して、国連環境計画(UNEP)が立ち上げた国際メタン排出観測所(International Methane Emissions Observatory, IMEO)のメタン警報・対応システム(Methane Alert and Response System, MARS)を通じて、油田やガス田、パイプラインからのCH4の漏洩防止に貢献する予定です。
 GOSAT-GWは「Satellite for actions」をキャッチフレーズに、カーボンニュートラルのための行動に繋げる研究開発を進めます。

日本のカーボンニュートラル実現への道筋

 日本の温室効果ガスの排出量を見ると、2013年以降、排出が減っています(図6-1,6-2)。特にCO2はエネルギー起源が多いので、再生エネルギーの拡大が増えたおかげです。省エネ技術が進み、排出が減ってきているので、日本としては順調に進んでいる、と捉えることができます。一方、2050年にカーボンニュートラルを達成できるかは楽観的にはなれません。再生(可能)エネルギーに加えて、電気自動車の推進や原子力発電の利用、二酸化炭素回収・貯留(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)という排出されたCO2をすぐ地中に埋める技術の開発の進展などがカギを握りそうです。水素エネルギーの利用、住宅の断熱性能を良くする技術も出てきています。一方、同じ日本国内でも一律ではなく、地域ごとに削減量は違って然るべき、という考えもあります。日本国内でも、都市部と地方では、CO2を減らす難しさが違います。例えば、公共交通機関が充実している東京では減らしやすいですが、地方では車を使わないと生活が不便です。




略語一覧

  • IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change(世界各国の研究者が集う気候変動に関する政府間パネル)
  • GOSAT: Greenhouse gases Observing SATellite (温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」)
  • GOSAT-GW: Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle(温室効果ガス・水循環観測技術衛星)
  • CEOS: Committee on Earth Observation Satellites(地球観測衛星委員会)
  • NASA: National Aeronautics and Space Administration(アメリカ航空宇宙局)
  • ESA: European Space Agency(欧州宇宙機関)
  • EUMETSAT: European Organisation for the Exploitation of Meteorological Satellites(欧州気象衛星開発機構)
  • UNEP: United Nations Environment Programme(国連環境計画)
  • IMWO: International Methane Emissions Observatory(国際メタン排出観測所)
  • MARS: Methane Alert and Response System(メタン警報・対応システム)

参考文献

Tanimoto, H., Matsunaga, T., Someya, Y. et al. The greenhouse gas observation mission with Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle (GOSAT-GW): objectives, conceptual framework and scientific contributions. Prog Earth Planet Sci 12, 8 (2025). https://doi.org/10.1186/s40645-025-00684-9



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