2025.08.01
第6回 太陽活動と地球の気候とのかかわり
沖縄科学技術大学院大学准教授 宮原 ひろ子
太陽の表面は常に同じ状態にあるわけではなく、黒点やフレアなどさまざまな変化が見られます。これらの変化のことを「太陽活動」といいます。太陽活動は、短いもので1か月ほどの周期、長いものでは2千年ほどの周期で変動していることが知られています。様々な時間スケールでダイナミックに変動する太陽活動が、地球の気候に影響を及ぼしている可能性があることは、古くから指摘されてきました。そのメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、人間活動の気候への影響を定量的に理解する上でも、太陽活動の影響を含む自然変動の理解は重要です。ここでは、太陽活動の変動や地球の気候・気象への影響について、これまでの研究成果と今後の課題や可能性を中心にご紹介します。
宮原 ひろ子(みやはらひろこ)プロフィール
- 沖縄科学技術大学院大学准教授
- 名古屋大学理学研究科博士課程修了。東京大学宇宙線研究所、武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程研究室などを経て、2025年4月より沖縄科学技術大学院大学准教授。専門は、太陽物理学、宇宙線物理学、宇宙気候学。著書に『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか―太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来』(2014年、化学同人)など。
太陽活動の変動とは
太陽は主に水素から成る恒星で、核融合によって発生するエネルギーで地球を照らし、生命の活動に適した環境を生み出しています。一方で、太陽は活発な磁気活動を示す天体でもあります。太陽内部でのガスの運動によって磁場が生成され、それが表面に浮上して活動的な領域を形成します(図1左)。このような活動領域は可視光では暗く見え、「黒点」として観測されます(図1右)。
黒点の数は約11年の周期で増減しており、2025年の現在は太陽活動が活発になり黒点数もピークを迎えています。黒点付近の磁気活動により、太陽フレアと呼ばれる突発的な発光現象が起こることがあり、それに伴って磁場やプラズマも宇宙空間に放出されます。これらは、地球周辺を周回する人工衛星の誤作動や故障のほか、宇宙飛行士の被ばく【1】につながることもあります。太陽活動に関連して起こるこうした擾乱は、「宇宙天気」と呼ばれています。

図1 NASAの太陽観測衛星SDO(Solar Dynamics Observatory)による太陽の画像。左は極紫外線で捉えた磁力線のループ、右は黒点の様子。
太陽活動の長期的な変動
太陽の活動には、11年よりも長いスケールの変動も見られます。例えば、17世紀の初頭から観測が続けられてきている黒点の数の変動を見ると、11年のサイクルのピークが年々変化していることがわかります(図2上)。17世紀の後半には、数十年にわたって黒点の数が極端に減少していたこともわかります。このような長期にわたる太陽活動の低下は、「グランドミニマム」と呼ばれています。
これよりも古い時代の太陽活動は、樹木の年輪や堆積物などを用いることで、間接的に明らかにすることができます。そのメカニズムを以下に説明します。
太陽表面で起こる磁気活動は、太陽の重力に逆らって磁場とプラズマの風を宇宙空間へと放出します。こうして太陽から吹き流された風(太陽風)は、太陽系の天体の軌道をはるかに超えてひろがり、約100天文単位【2】にわたって「太陽圏」と呼ばれる領域を形成しています。太陽圏は、銀河系内から飛来する高エネルギーの放射線(銀河宇宙線)を遮蔽する役割を果たしており、太陽活動が低下して太陽風が弱まると、地球に到達する銀河宇宙線の量は増加します。
このようにして地球に届いた銀河宇宙線は、大気との相互作用により、炭素14やベリリウム10などの放射性同位元素を生成します。そして、その一部が樹木の年輪や堆積物などに取り込まれることで、太陽活動の変動が記録されます。図2下は、炭素14やベリリウム10などの分析から復元された過去1200年間の太陽活動の長期変動を示しています。
こうしたデータの傾向から、太陽活動に数百~数千年スケールの長期変動が存在することが明らかになりました。

図2 太陽活動の変動。上:過去400年間の黒点群数の変動(Svalgaard et al., 2016)、
下:太陽活動の指標となる放射性同位元素の分析により復元された過去1200年間の太陽活動の長期変動(Steinhilber et al., 2012)
太陽活動が気候に作用するメカニズムはいまだ謎に包まれている
太陽活動が地球の気候に影響している可能性については、古くから多くの研究者によって指摘されてきましたが、そのメカニズムはいまだ十分に解明できていません。
図2下を見ると、13世紀以降にグランドミニマムが相次いで発生したことがわかります。その頃、地球では小氷期と呼ばれる寒冷期に見舞われていました。日本の気候と太陽活動との間に強い相関があることも、既に100年以上前に報告されています(Sekiguchi et al., 1918)。
しかしながら、1970年代終盤から始まった太陽の総放射量の観測により、太陽活動の変動に伴う太陽の明るさの変化がごく僅かであることがわかりました。太陽活動が活発になり黒点が増えると、その周辺に「白斑」と呼ばれる明るい領域が増加するため、全体としては明るくなりますが、その変動幅はおよそ0.1%と非常に小さく、小氷期に発生した氷河の拡大などの現象を説明するには不十分です。
そのため、太陽放射の変動による影響だけでなく、様々な可能性について検証が進められています。そのひとつは、太陽光の中でも波長の短い紫外線が作用しているというものです。太陽活動の影響による太陽放射の変動は、波長によって差があることがわかっています。紫外線は変動幅が総放射量よりも大きいため、地球の気候への影響もより大きく作用します。紫外線は成層圏のオゾン層を加熱することで、その下層の対流圏の大気循環に影響を及ぼします。
もうひとつの可能性は、太陽放射の直接的な影響ではなく、銀河宇宙線量が雲の形成等に与える間接的な影響です。太陽活動が弱まると、銀河宇宙線の地球への到達量が増えますが、これによって大気のイオン化が進み、雲を形成する際の核となる「凝結核」ができやすくなったり、雲粒や凝結核の帯電によって雲の発達が影響を受けたりする可能性などが議論されています。
ただし、銀河宇宙線と雲の関係性も未だ多くが謎に包まれています。1997年に初めて、人工衛星により観測された雲の被覆率と銀河宇宙線量との相関を報告した論文では、海上の雲が銀河宇宙線の11年スケールの変動に応答している可能性が示唆されました(Svensmark & Friis-Christensen, 1997)。また、その後、海上の特に対流圏下層の雲が応答している可能性が高いという報告もなされました(Marsh & Svensmark, 2003)。しかし、その後、2005年頃からはその相関は完全に崩れてしまっています。
積乱雲がつなぐ太陽活動と地球の気候
太陽圏外から飛来してくる銀河宇宙線は、まずは太陽の磁場による遮蔽を受けますが、さらに地球近傍で地磁気の影響も受けます。地磁気による遮蔽は赤道付近で特に強く発揮され、跳ね返された銀河宇宙線の一部は磁力線に沿って地球の極域に降り込みます。そのため、銀河宇宙線による大気のイオン化は、特に極域の対流圏上層で多くなります。一方で、凝結核の材料となるガスは生物活動に由来するものが多いため、主に低緯度域の対流圏下層に豊富に存在しています。つまり、凝結核の材料とイオンの分布とは、空間的に相反する関係になっているのです。
この問題はどうすれば解決できるのか、私自身も雲の観測データの解析に取り組みました。その結果、ひとつの可能性として、低緯度域で生じる背の高い積乱雲が、イオンと凝結核の材料のミキシングにおいて重要な役割を果たしている可能性があることがわかりました。赤道では、大気の対流が上空16kmほどの高度にまで届きます。深い対流によって、地球表層から生物活動に由来する凝結核の材料が対流圏上層にまで運ばれることで、銀河宇宙線が作るイオンとのミキシングが実現します。人工衛星による観測データは、銀河宇宙線量が増加する時期に、低緯度域の積乱雲がより発達傾向を示すことを示唆しました(Miyahara et al., 2023)。この積乱雲の応答は特に沿岸域において顕著にみられ、存在する生物活動に由来するガスの組成に応じて銀河宇宙線の影響の度合いが変わり得ることを示唆しています。このことは、CERN(欧州原子核研究機構)によって行われているCLOUD実験と呼ばれるチャンバー実験の結果とも整合します。
気象への影響の可能性
太陽活動や銀河宇宙線量の変動のうち、最も短いスケールのものは約1か月の周期です。これは、太陽の自転によって、太陽表面の活動的な領域が定期的に地球の方向を向くことによるものです。それに伴い、地球に届く太陽風の強度に約1か月周期の変動が生じ、銀河宇宙線の地球への到来量も約1か月の周期で変動します。
こうした1か月の周期が、雲の形成・発達や雷活動に影響している可能性については、30年ほど前から示唆され始めました。日本の雷活動にも似たような周期が確認できており(図3)、特に中部日本や九州で、そうした周期が現れやすくなっています(Miyahara et al., 2018)。この周期は、太陽表面に黒点が多く現れている年だけに見られるもので、黒点が消失すると雷の1か月周期も弱まることから、月の潮汐の影響などではなく太陽活動の影響であることが示唆されます。
ただ日本における雷の1か月周期は、九州と中部日本でタイミングに若干のずれが観測されていることからすると、太陽活動あるいは銀河宇宙線量の影響が直接日本の雲活動に影響しているわけではなく、低緯度域などで生じた擾乱の影響が伝播したことによる二次的なものである可能性が考えられます。
地球システムがどのように太陽活動の影響を受け取っているのか、そしてその影響がどのように伝播しているのか。今後さらに研究を進めていく必要があります。

図3 日本の夏季の広域雷活動の周期性。1989~2015年の気象庁のデータを使用。赤線は太陽黒点が多い年の周期性。
青線は、太陽黒点が少ない年の周期性。(Miyahara et al., 2017を基に作成)
今後の展開
現在のところ、太陽活動の変動は気象予測や気候モデルにほとんど組み込まれていませんが、太陽活動と気候をつなぐメカニズムが明らかになれば、予測の精度が向上することが期待されます。雲は気候システムの中で最も理解が遅れている要素のひとつでもあります。その発達の物理を深く理解することが、複雑な気候システムを読み解く鍵となる可能性を秘めています。
注釈
- 【1】宇宙飛行士の被ばく
宇宙飛行士は、宇宙放射線に対するシールドとなる地球の磁場や大気の外側で活動に従事します。そのため、太陽フレアに起因する陽子などの宇宙放射線に直接さらされます。国際宇宙ステーション(ISS)が周回する地球低軌道では、宇宙放射線の一部は地球の磁場によって低減されますが、それでも平均して1日に0.5~1.0mSvの被ばくを受けます。これは地上の被ばく量の約100倍に相当します。 - 【2】天文単位
1天文単位は、地球と太陽の間の平均距離で、およそ約1億5000万km。
引用文献等
- Marsh, N., and Svensmark, H., J. Geophys. Res. Atmos. 108, 2001JD001264, 2003.
- Miyahara, H., Ann. Geophys., 35, 583-588, 2017.
- Miyahara, H., Ann. Geophys., 36, 633-640, 2018.
- Miyahara, H., Frontiers in Earth Science, 11, 1157753, 2023.
- Svensmark, H., and Friis-Christensen, E., J. Atmos. Solar-Terrestrial Phys. 59, 1225–1232, 1997.
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