No.028
Issued: 2011.02.09
国立公園『レンジャー養成所』訪問!(その1)
ウェストバージニア州ハーパースフェリーには、国立公園のレンジャーの養成機関として名高い「マザー研修所」と、同局のメディアセンターであるハーパースフェリーセンターがある。私たちはまずマザー研修所を訪問して、国立公園局の職員研修制度について話を伺うことにした。
ハーパースフェリーは、ポトマック川の上流に位置する歴史的な町で、南北戦争当時は戦略的な要衝として激戦地となった。ポトマック川の下流にはワシントンDCがある。車なら2〜3時間ほどの距離だ。いよいよ今回の横断も大詰めを迎えた。
マザー研修所訪問
ケンタッキー州からは高速道路で一路ワシントンDC方面に車を走らせる。徐々に走行車両が増加する。道路は山がちな地形を縫うように走っており、ゆるやかなカーブを描きながら登っていく。ワシントンDCには前年の5月に一度車で来ていたが、当時は初めての左ハンドルでの長距離運転で、どんなところを走っていたのかほとんど覚えていない。あらためて運転してみると、走行台数も多い山道で、なかなか大変な道だったことがわかった。
ウェストバージニア州と隣のバージニア州の州境の手前でインターステートを降り、ハーパースフェリーに向かう。インターステートとは打って変わってゆったりとしたカントリーロードだ。運転していても気持ちがいい。
ハーパーフェリーが近くなってくると、紅葉したなだらかな山なみが目の前にひろがってきた。アパラチア山脈だ。
マザー研修所(Stephen T. Mother Training Center)は、ハーパースフェリーの旧市街地に隣接している。国立公園局の中でも最も長い歴史をもつ研修施設で、新人研修の他、インタープリター(自然解説担当職員)の研修を担当している。研修所の名称は、国立公園局の初代局長であるステファン・マザー(Stephen T. Mother)氏に由来する。
建物は茶色いレンガ造りで、かなり古いものに見える。ちょうど建物は改修中のようだったが、建物に入ると、かなりしっかりとメンテナンスされていることがわかる。建物の入り口で用件を告げると、程なくワトソン所長がで出てきた。体格のいい、年配の気さくな方だ。
所長はまず建物の中を案内してくれた。
「この建物は、元々は軍の施設として建設されました」
その後施設は、ストローラーカレッジという名の教育施設に衣替えした。この施設は、奴隷制度の廃止に伴って解放された黒人青年のための高等教育機関だった。
「この建物からは、多くの公民権運動指導者が巣立っていきました。奴隷解放されたといっても差別は厳然としてあり、有能な黒人青年が教育を受けることのできる施設はありませんでした。卒業生はアメリカにおける差別撤廃に大きく貢献しました」
研修所には、当時の様子を伝える写真や資料が展示されている部屋がある。写真や説明資料からは活気ある自由な黒人青年の姿が伝わってくる。
「ところが、差別がなくなるにつれ、ストローラーカレッジの存在そのものが、『逆差別』とみなされるようになってきました」
差別が解消し、黒人が一般の高等教育機関に入学できるようになってくると、この施設の存在意義が問われるようになってしまった。こうして施設は廃止され、建物は国立公園局が買収することとなった。研修所として使用している現在も、歴史的な構造を極力保存しながら使用している【1】。
ワトソン所長は、私たちを所長室に招き入れた。
「この研修所は、主に国立公園のインタープリターの研修を担当しています。国立公園におけるインタープリテーション(自然解説)の基礎となったのが、フリーマン・ティルデン(Freeman Tilden)氏の著した『Interpreting Our Heritage』という本です。現在も、インタープリテーションの基本は変わっていません」
そう言って、ワトソン所長は一冊の本を書架から取り出し、私たちの前に差し出した。
「この本をぜひ読んでみてください。初めて『インタープリテーション』という言葉を自然解説の意で用いたのはジョン・ミューア氏でしたが、それを体系的にわかりやすく示したのがティルデン氏でした」
国立公園局は、1920年代のヨーロッパで起こった自然研究ブーム(nature study movement)の考え方を導入しようとした。そのために、スイスからインタープリターを招聘したこともあったそうだ。
「国立公園局のインタープリターは教育者であり、利用者にとっては公園の水先案内人でもあります。組織としては、初代長官のマザーが国立公園内でのインタープリテーション実施の基礎を作ったといわれていますが、その後1930年代には、国立戦場跡地などが国立公園局に移管され、インタープリテーションの対象は自然環境の枠を越えて大きく広がりました」
続いて、ワトソン所長から、国立公園における教育プログラムについて意外なお話を伺った。
「一つひとつの国立公園の管理は、地元の世論や理解なしにはなりたちません。例えば、フロリダ州にあるエバーグレーズ国立公園などは、マイアミという大都市の大量取水が大きな問題になっています。マイアミの住民の理解なしには、水の問題を解決することはできません。ところが、地域の住民に理解してもらうことは容易ではないのです」
アメリカの国立公園は、地域の住民と対立していることが少なくない。国立公園を設立する過程で一部の住民が立ち退かざるをえなかったとか、土地所有、取締まりが独立していて、それが地域との間に壁をつくってしまっているということもある。また、区域内にはガソリンスタンドからホテルまでが整備されており、地域の民間事業者を圧迫していたり、車両の乗り入れや規制が厳しく、入場料も徴収されていたりするのも、住民の足を遠のかせる理由になっているのかもしれない。
こうした住民の理解を得るために、公園内の教育プログラムにはちょっとした工夫があるという。
「国立公園局の教育プログラムでは、親の世代ではなく、感受性が強く柔軟な思考を持つ子どもたちに向けてメッセージを発信することにしたのです」
親の世代は、社会の利害関係のまっただ中にある。「公園内の自然資源が深刻な危機に瀕している」と伝えようとしても、それを素直に受け入れてもらうことは非常に難しい。でも子どもたちになら、そうしたメッセージも素直に受け止めてもらえる。このため公園内で実施される教育プログラムは、主に地元の学校の生徒を対象にしている。
「国立公園での教育活動は、地元の小中学校のカリキュラムに組み込む形で実施されています」
学校教育の一部に組み込まれ、地元対策として実施される自然環境教育。相当割り切った考え方ではあるが、その効果は大きいことだろう。また、地域の学校にとっては、国立公園は絶好のフィールドといえる。子どもたちが成人する10年以上先を見越しての気の長い戦略といえる。
国立公園局の初任者研修プログラム
ワトソン所長についで、研修プログラムを担当している職員2名より話を伺うことになった。通された部屋は研修室で、机の上面はガラス張りになっており、その下には、1台ずつテレビモニターが設置されている。どのように使われるのかわからないが、いろいろなところに工夫が見られる。
インタビューは、むしろ講義のような形で話を聞くことになった。
「国立公園局の初任者研修プログラムである『Fundamentals』は5つのパートから構成され、採用後概ね2年以内に受講する必要があります。研修所に来てもらうのは、2と5だけです。このマザー研修所にくるのは最後の5番目のセクションで、2はグランドキャニオン国立公園にあるオルブライト研修所で行われます」
あとの3つのプログラムは職場でのOJTと上司によるカウンセリングだ。
「国立公園局には『TEL』【2】と呼ばれる双方向放送プログラムがあります。上司がコミュニケーションをとりながら、それぞれの職場で自習を中心に行われます」
【参考】「Fundamentals」初任者研修プログラム
国立公園局の初任者研修プログラム(Fundamentals)は、以下のI〜Vの5部から構成されている。
- Fundamental I(Who we are.)
採用1か月目に行われる研修で、ウェブサイトを通じたe-ラーニングと上司の指導により実施される。国立公園局の歴史、関係法令などの概略を学ぶとともに、所属するそれぞれの公園ユニットについて学ぶ。 - Fundamental II(Why we are here.)
グランドキャニオン国立公園のオルブライト研修所で行われる。国立公園局全体の組織や歴史について学ぶとともに、研修所で他の公園に勤務する若手職員と初めて出会い、共同生活を送りながら研修を行う。 - Fundamental III(Taking Charge of your future.)
それぞれの職員に合った退職計画(retirement planning)やキャリア計画(career planning)作成を行う。 - Fundamental IV(A workplace for everyone.)
倫理、人種の多様性(diversity)、バリアフリー(accessibility)、安全管理(safety)、健康及び運動などについてウェブページを中心に行われる。 - Fundamental V(Working together.)
マザー研修所での一週間の講義やワークショップにより実施される研修。ストラテジックプランニイング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決、将来を見通す力などの習得を目指すもので、勤務2年目が終了する前に受講しなければならない。
新入職員向けFundamentals研修には、前述の通りマザーとオルブライトの2つの研修所が関係している。前者は主にインタープリテーション、後者は文化および自然資源管理に関する専門研修を提供している。
この他、国立公園局関係の研修機関には、ワシントンDC本部の研修所(管理部門、管理職、組織)、歴史研修所(歴史的資源修復・保存、安全、メンテナンス)、国立保全研修所(省庁連携型)、連邦取締官研修所(90の政府機関の共通研修機関。9〜10週間の研修により銃器使用や取締官としての資格を付与する)、などがある。
「入門レベルのカリキュラムは、一人一人の職員にとって、それが生涯に渡る学習プロセスのスタートとなるよう構成されています。特に、研修Vでは職員が将来のために『やっておくべきこと』について研修するんです」
職員が将来のためにやっておかなければならないこと、それはどんな中身なんだろうか。
「例えば、退職までにどの程度の貯蓄が必要なのか、家をどこに購入しておくべきか、また自分のキャリアの到達点はどのようなポストで、そしてどの職場で退職したいのか、などについて自分なりの展望を持つことです。そして、何より大切なのはそのために今からどのようなことをすればいいか、ということを知ることです」
そのためには、本人が現に「持っている技術」と、「今後習得が必要な技術」を明確化することが必要だ。
「今はインタープリターだが、将来資源管理の専門家になりたいという職員は、そのためにどのような努力が必要かを示し、それをサポートしていきます。自分のキャリアを積極的に設計できるようになると、職員は自分のキャリア全体が見通せるようになり、安心して仕事に専念することができます。また、組織としては意欲ある前向きな職員を確保することができます。もちろん、職員と組織との間にはしっかりとした信頼関係が形成されます」
新入職員に対する研修は、単なるオリエンテーションではなく、信頼関係や職員の生活の充実、自己実現のきっかけ作りも含まれているということだろうか。職員にとっては、自分らしいキャリア設計、退職への準備が可能となるだろう。
この研修では、現在の貯蓄額、保険の加入状況、出身地などに関する情報をあらためてまとめ、自分のキャリアと向き合うことになる。どのようなキャリアパスをたどるのか、ということばかりでなく、どこで退官するのか、その近くにはどのような職場があるのか、住宅購入にはどのような補助制度があるのか、そういったライフプランニングを行う基盤を構築する。
「もちろん、この講座だけですべてのプランニングが完了するわけではありません。ただ、このプログラムを提供することにより少なくとも職員が安心して職務に専念でき、そして組織に対する信頼を確認することができるはずです」
「国立公園局」というブランドの広告塔ともいえる「レンジャー」の質を維持するための、組織としての絶え間ない努力を垣間見た思いがした。
「パークレンジャー」の育成とは
「この研修所のプログラムは、国立公園局職員の中でも常勤職員(permanent)のみを対象にしています」
国立公園には多くの臨時職員(シーズナル:seasonal)が勤務している。同じ制服を着ているので利用者からは見分けがつかないが、給与や待遇は全く異なる。夏休みなどにビジターセンターで対応してくれる若いスタッフのほとんどは臨時職員だ。
「シーズナルは、俗に『準レンジャー(almost rangers)』とも呼ばれます。質が高い人もいますが、体系的な研修を受ける機会が少ないためそうでない人もいます。以前は現役教師も多かったのですが、最近は勤務期間と学校の休暇が合わず減少しています。これも質が低下する一因になっています」
近年はボランティアやNPOなどのパートナー団体の職員の割合も増加している。シーズナルもボランティアも公園運営には欠かせない存在だから、その質の向上や教育の提供が課題になっているそうだ。
「国民は、90年間に渡って国立公園局のユニフォームを見てきていますし、ビジターは色々な公園を訪ねて回っています。一方、多くの若手職員は自分の勤めている公園しか知りません。イエローストーンのような大公園でも、あまり名の知られていない小さな公園でも、同じユニフォームを着用している限り、同じようなレベルのビジターサービスが求められるのです」
国立公園に対して国民が抱く「共通の期待」を満たすことが、研修の最大の目的だという。個別の公園ごとではなく、国立公園という「ブランド」を公園システム全体で維持する、その重要な構成員にふさわしい知識や立ち居振る舞いを身につける必要があるのだ。
「国立公園局では、職員の能力レベルを明確化するため、『コンピテンシー』という概念を導入しました」
職員を大きく3つのレベル分け、それぞれに必要なコンピテンシーを定めているという。そのうち、「基本コンピテンシー(universal competencies)」は、職種【3】にかかわらず、入門レベル職員がすべて身に付けなければならない基本的な能力とされている。初任者向けの研修プログラムは、この「基本コンピテンシー」を身につけることが目的となる。
「このような制度が導入される以前は、採用されたばかりの職員全員に、公園のマネージメントに関する講義をするようなことも行われていたのですが、実際にはあまり役に立たたず、むしろ研修生にとって負担にすらなっていました」
年間700名もの新入職員を受け入れている組織としては、このような無駄は看過できなかったに違いない。
コンピテンシーという考え方
当初、私にはこの「コンピテンシー」という概念がうまく理解できなかった。職員にとってコンピテンシーとは何なのか、また、なぜそれが必要だったのだろうか。もう少しお話しを伺ってみることにした。
「コンピテンシーというのは、わかりやすく言えば、知識(Knowledge)、技術(Skill)、能力(Ability)、態度(Behavior)の組み合わせです。あるレベルのコンピテンシーとは、国立公園局職員が、それぞれの属する号俸レベルに応じて身につけておくべきことものといえます」
コンピテンシーが導入されたのは、今から10年ほど前のことだそうだ。4年前までは『コンパス(compass:それぞれの職員の行き先を指し示すものの意)』と呼ばれるプログラムの一環として取り扱われていた。
「コンピテンシーという考え方を導入したきっかけは、それまでの研修では表面的な知識教育の範囲を出ず、育成に必要な職員一人ひとりに作用する力や、本質的な理解を促す深みが足りなかったこと。それとともに、国立公園局の職員として求められる能力というものが次第に明確になってきたことなどがあげられます」
つまり、コンピテンシーは単なる知識のレベルではなく、技術、知識や立ち居振舞いなども含めた総合的な業務遂行能力ということになる。
「職員自身が、自らが求められる『コンピテンシー』のレベルを完全に習得するには、4〜5年を必要とします。将来的には、認定制度の導入も目指しています。認定制度となるアセスメントプログラムは、受講者を選別する制度というより、達成が遅れている職員をサポートするような性格のものにしたいと考えています」
このような制度の導入により、国立公園局職員の全国的な質(National Standard)を確立し、維持することを目指しているそうだ。
「行動に問題がある場合や、すでに受講していても、公園の所長や上司の判断で研修の成果が十分でないとされた場合には、再度の受講を求めることもあります」
これまでの実績では、受講者の10人に4人が基準を満たしていないと判断されたそうだ。これはかなり厳しい評価結果といえる。
初任者のコンピテンシーについては、10のベンチマークが設定されている。将来的には、同僚同士による評価(peer review)によるテストも導入したいという。ただ、客観的な評価体系の確立には依然課題が多い。
「例えばインタープリテーション能力の芸術的な側面などですね。一律的な評価基準を設定するのは困難です」
とはいえ、自分が身につけなければならない「コンピテンシー」を理解し、現在の自分のレベルを把握することは、研修プログラムの最も基本と言える。
「自らのレベルを知ることは、組織における役割、同僚・組織との関係性をより正しく理解することにもつながります」
最後に、国立公園局の研修はどのような方向を目指すのか伺ってみた。
「今後は、職員を教育するトレーナーの訓練に力を入れていきます。それによって、国立公園ごとに、常勤・非常勤の区別なく、現地の職員に対して現地の事情に即した研修を行う機会を提供できるようになります」
説明者の一人のデイビッド・ラーセン氏は、1年ほど前に自習可能なインタープリター向けのマニュアルを作成した。題名は「意義のあるインタープリテーション/いかに『心と気持ち』と場所、事物などをつなげるか(Meaningful Interpretation/How to connect hearts and minds to places, objects, and other resources)」という加除式の分厚い図書だ。
この教材には、日本の田中正造の環境保全活動とその思想が取り上げられている。
「田中正造氏の河川に対する考え方は、私たちが自然資源に対して持つべきと考えている思想とぴったり当てはまります。ところが、米国では田中氏に関する図書は1冊しか出版されていません。とても残念なことです」
国立公園局の研修システムは、今後2年間、フォーカスグループによる検討が行われ、将来的には、さらに分散型(decentralized)のカリキュラム構成にしていく予定とのことである。
「現在もTELシステムによる研修を積極的にとりいれていますが、そうした方法や自習のための教材を充実していく予定です」
研修プログラムの実際
「ちょうど今、初任者研修の最後のパート(Fundamentals V)をやっているんですが、覗いてみませんか? この課題についてはいろいろな工夫があるんです」
講義を指導しているのは、アドバイザーでもあるクリス先生だ。教育プログラムの専門家で、マザー研修所の客員教官を務めている。
「国立公園の現場では、職員どうしのパートナーシップがとても重要です。他の職員と協力することで仕事が効率的に進み、より大きな効果を発揮するということを一人ひとりに理解してもらうのがこのコースの目的です。『協力』と一言で言っても、そこに職員一人ひとりの自発的な行動がなければ大きな成果は期待できません」
そのような「パートナーシップ」を身に着けるための研修とは具体的にどんなことをするのだろうか。
ワークショップ形式で進められる講義は、カーテンで2つに仕切られた講義室で行われる。2つのグループがカーテンをはさんで、それぞれ板を持ってきたりメジャーで長さを測ったりと、忙しそうに動いている。
「これは、木製の橋を半分ずつ作って仕上げるというものです。間にカーテンがあるので、お互いの進捗状況はわかりません。また、作業中は他のグループのメンバーとは会話できません。それぞれ連絡員を1名ずつ選出して、廊下でコミュニケーションをとります。この連絡員2名を軸にグループ同士、そしてグループの構成員同士がいかに上手くコミュニケーションを取って意思決定を行うことができるかが、このワークショップ成功の鍵です」
ワークショップの成果は、カーテンを開ければ明らかになる。2つの橋がつながっているか、デザインや構造が一体的になっているか、コミュニケーションの結果が実際に橋という形になって現れる。
「研修Vの参加者は、原則として研修IIのメンバーと同じです。1年間の勤務を経て再び顔をあわせることによりお互いの結びつきが深まるだけではなく、それぞれの経験を通じさらに多くのことを学ぶことができるのです」
初任者研修のグループはさまざまな職種の職員から構成されている。
「1970年代までは、取締官だけを対象とした研修を12週間かけて行っていました。この研修は期間が長いにもかかわらず、十分な成果が得られませんでした。そこで自習部分を取り込んで期間を短縮し、メンテナンスやインタープリターなどの職種も含めた混成メンバーで初任者研修を行うようになりました」
専門的な教育は初任者研修から切り離し、専門分野に応じて別途研修プログラムを提供することにしたという。つまり、初任者研修は、組織としての一体感と、国立公園に携わる者に求められる基本的な能力の習得に特化したということになる。
「明日、現場研修があるんですが、参加しますか?」
研修は、アンティータム国立戦場という公園で行われる。集合場所などを伺って、研修所をあとにした。
(なお、文中に登場するラーセン氏が、本年1月に心臓発作のため50歳の若さで逝去されました。この場をお借りして哀悼の意を表します。)
- 【1】アダプティブユース(adoptive use)
- このような利用形態は「アダプティブユース(adoptive use)」と呼ばれている。
- 【2】TEL:Technology Enhanced Learning
- マザー研修所のスタジオと各公園ユニットの研修室を通信システムでつなぎ、それぞれの勤務地で研修プログラムを受講し、双方向で質疑応答できるシステムのこと。
- 【3】国立公園局の職種
- 国立公園局には17種類の職種(Career Fields)がある。それぞれの職種ごとに専門的な研修プログラムが用意されている。
<妻の一言>
季節がいいということもあったのですが、ハーパースフェリーは、静かできれいなところでした。ワシントンDCからもそれほど遠くないのですが、のんびりとした雰囲気はまるでケンタッキー州のマンモスケイブを思い出します。
翌年3月の帰国直前、ボランティアハウスに空きがなく、2ヶ月間ほど自分たちで住むところを探すことになりました。ハーパースフェリーも候補の一つ。鉄道の駅もあって、車を処分してもワシントンDCまで通うのに不便はありません。
ところが、不動産屋さんを覗いてみるとなかなかいい物件がありません。普通の貸家は最低3ヶ月以上の契約が必要ですし、家具もついていません。短期契約で家具つきの物件もありますが、どちらかというと貸し別荘のようなもので相当高額になります。なかなか条件に合う物件はありませんでした。
私たちが滞在したホテルは、2人で一泊50ドル程度。部屋もとても広く、簡単な朝食バイキングもついています。もしこの周辺に滞在するとなると、こういったホテルに滞在するのがもっとも合理的だということがわかりました。
結局、私たちは最後までワシントンDCに滞在することになりましたが、帰国直前にもう一度ハーパースフェリーを訪れる機会がありました。滞在は1泊2日のあわただしいものでしたが、再度マザー研修所でもお話を伺うことができました。
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
(記事・写真:鈴木 渉)
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。
〜著者プロフィール〜
鈴木 渉
- 1994年環境庁(当時)に採用され、中部山岳国立公園管理事務所(当時)に配属される。
- 許認可申請書の山と格闘する毎日に、自分勝手に描いていた「野山を駆け回り、国立公園の自然を守る」レンジャー生活とのギャップを実感。
- 事務所での勤務態度に問題があったためか以降なかなか現場に出してもらえない「おちこぼれレンジャー」。
- 2年後地球環境関係部署へ異動し、森林保全、砂漠化対策を担当。
- 1997年に京都で開催された国連気候変動枠組み条約COP3(地球温暖化防止京都会議)に参加(ただし雑用係)。
- 国際会議のダイナミックな雰囲気に圧倒され、これをきっかけに海外研修を志望。
- 公園緑地業務(出向)、自然公園での公共事業、遺伝子組換え生物関係の業務などに従事した後、2003年3月より2年間、JICAの海外長期研修員制度によりアメリカ合衆国の国立公園局及び魚類野生生物局で実務研修
- 帰国後は外来生物法の施行や、第3次生物多様性国家戦略の策定、生物多様性条約COP10の開催と生物多様性の広報、民間参画などに携わる。
- その間、仙台にある東北地方環境事務所に異動し、久しぶりに国立公園の保全整備に従事するも1年間で本省に出戻り。
- その後11か月間の生物多様性センター勤務を経て国連大学高等研究所に出向。
- 現在は同研究所内にあるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ事務局に勤務。週末、埼玉県内の里山で畑作ボランティアに参加することが楽しみ。