一般財団法人環境イノベーション情報機構
アメリカ横断ボランティア紀行

No.022

Issued: 2009.08.25

アラスカへ(その4)

目次
チナ川州立レクリエーションエリア
自然公園のトイレ
ムースとの出会い ─その2─
ユーコン・フラット国立野生生物保護区
利用者の管理
保護区管理の課題
北極国立野生生物保護区事務所訪問
保護区における石油開発
アラスカの国立公園と野生生物保護区
アラスカ出発
デナリ国立公園のパークロード。森林火災の煙が流れ込んでいた

デナリ国立公園のパークロード。森林火災の煙が流れ込んでいた

 朝、荷物をまとめフェアバンクスに向けて出発する。出発前、少し早起きして、デナリ国立公園のパークロードを自動車で走ってみた。あいにく動物は1頭も姿を現さなかった。
 デナリ国立公園からフェアバンクスまでは車で3時間ほどの距離だ。来た時とは打って変わって空はどんより曇っている。よく見ると、太陽は出ているようなのだが、辺りが霞んでいる。森林火災の煙が流れ込んできているようだ。フェアバンクスの近郊で、かなり大規模な森林火災が発生していたのだ。

チナ川州立レクリエーションエリア

チナ川州立レクリエーションエリアの中を走る道路

チナ川州立レクリエーションエリアの中を走る道路

 フェアバンクス市街地を通り抜け、郊外のチナ川州立レクリエーション地域を訪れる。車道の両側にはタイガが続き、道と並行する形で小河川が蛇行している。川岸にはビーバーが積み上げたと思われる流木の小山があり、川沿いの湿原には一面水草が広がっている。何気ない風景だが、日本ではまず見ることのできない豊かな生態系が残されていることに気づく。

 「あれ、ムースじゃない?」
 助手席の妻が左手の湿原を指差す。道路からそう離れていないところで、1頭のムースが水草を食べていた。幸い前後に車は1台もない。静かに車を停め、しばらく観察することにした。こちらを見ることはないが、横目でこちらを気にしているようだ。
 しばらくすると、今度はもうひとまわり大きなムースが1頭現れた。角がないところを見ると、おそらく母親だろう。寄り添うようにして水草を食べはじめた。母親は時々こちらを見る。かなり車を気にしているようだったので、私たちは観察をやめて、また車を走らせることにした。デナリでは、バスの車窓から遠くにしか見ることのなかったムースが、ここではこんなに間近に見ることができた。それだけ、この水草の広がるウェットランドが豊かだということだ。


◇チナ川州立レクリエーションエリア(Chena River State Recreation Area)
 アラスカ州設立の州立レクリエーションエリア地域。1967年設立。フェアバンクスの東方にあり、面積は397平方マイル(約1,028平方キロメートル)。レクリエーション地域には車道(チナホットスプリング道路)が通り、湿地、森林、ツンドラなどが分布する。トレイル、キャンプ場やピクニックサイトが整備されており、年間利用者は約15万人。ムース、グリズリーベア、ビーバーをはじめ、多くの野生動物が生息している。

チナ川州立レクリエーションエリアおよび周辺図

チナ川州立レクリエーションエリアおよび周辺図


自然公園のトイレ

レクリエーションエリア内の情報ステーションとトイレ

レクリエーションエリア内の情報ステーションとトイレ

情報ステーションにはリーフレットホルダーと掲示板がついている

情報ステーションにはリーフレットホルダーと掲示板がついている


便槽式のトイレ。手前はクマよけのハッチのついたゴミ箱

便槽式のトイレ。手前はクマよけのハッチのついたゴミ箱

 州立公園にはビジターセンターはなく、道路沿いに駐車場と情報ステーション、トイレが数箇所あるだけだ。情報ステーションは簡単なパネルとパンフレットのポケットがついているだけの施設だったが、必要十分といえる。
 トイレのブースは2つ。男女の区別はない。それぞれ洋式トイレ1穴のみの便槽式(いわゆるポットン便所)で、躯体は木造だ。実はこのトイレ、アメリカの国立公園の至るところにある。それも、どの公園でも基本的な構造は同じだ。室内は広々としていて、車椅子で入っても窮屈な思いをしないだろう。ただ、水や電気はなく、手を洗うことはできない。トイレットペーパーはついていて、切れていることはほとんどない。ただ、国立公園内では鉄筋コンクリート製のものが多いようだ。


トイレの内部

トイレの内部

子供用の便座も備え付けられている

子供用の便座も備え付けられている


トイレの後ろに立つパイプ

トイレの後ろに立つパイプ

 このトイレの特徴は、便槽式なのに臭いがほとんどないことだ。その秘密は「煙突」と便槽の管理にある。トイレブースの後ろ側にニョキッと立っている煙突は、黒い塩ビ製のパイプだ。屋根くらいの高さだが、太さは30cmほどもある。このパイプが太陽光によってあたためられることにより、自然換気ができるのだそうだ。また、便槽は頻繁に汲み取りされ、汲み取り後に薬品を便層に入れる。利用者の多いトイレは別だが、これだけでほとんど匂わなくなる。

 実は、日本でも問題になるのがこうしたトイレの設置だ。もともと国立公園にあったトイレは汲み取り式で、「3Kトイレ(くさい、汚い、暗い)」と呼ばれた。そこで環境庁(当時)は平成3年に「トイレリフレッシュ事業」を導入して、国立公園のトイレの水洗化、バリアフリー化をすすめてきた。トイレは格段にきれいになったものの、当然ながら施設の規模は大きくなり、水道電気代金、浄化槽のメンテナンス費用の負担も比べ物にならないほど大きくなった。国も自治体も予算が減少する中で、こうした質の高いトイレの施設管理費用の問題は無視できないものとなっている。
 そのような日本のトイレ事情と比較して、アメリカのトイレ設置の考え方は単純明快だ。ビジターセンターなど多くの利用者が立ち寄り、トイレを使うところにはしっかりとした水洗トイレを作る。もちろん、下水施設もしくは大規模な浄化槽が併設されている。一方、展望台や路傍駐車場など比較的利用頻度が少ないところには、「緊急避難用」として、簡素な汲み取り式のトイレを配置する。設計や建設費用を節約するため、トイレの仕様は統一し、水も電気も必要のない構造としている。また、設置場所は車道のすぐ脇か駐車場だ。管理車両が横付けできるので、トイレットペーパー交換、掃除、汲み取り、修理などのメンテナンスが楽なのだ。メンテナンスさえしっかりしていれば、便槽式トイレでも結構快適だ。
 こうしたアメリカのトイレをみてみると、日本でも、利用者数の少ないところは、思い切って便槽式に立ち戻ってもいいのではないかという気にさせられる。


ムースとの出会い ─その2─

 車道沿いにムースを探していると、ほどなくまた1頭、川を渡っているところに遭遇した。路肩に車を停めて見ていると、トラックが1台停まった。
 「メスのムースだな。呼んでみようか?」
 トラックの男性は器用にムースの鳴き声を真似した。すると、ムースが不思議そうにこちらを見る。
 「ムースはオスだけが狩猟の対象になるんだ。猟期が終わるまでにあと1頭獲りたいんだけど、なかなか見つからないんだ。ムースの肉はおいしくて健康にもいい。肉の量も多いから、2頭も獲れば一冬中食べるのに困らないんだ」
 そう言うと、またトラックに乗り込み、ゆっくりと車道を走り始めた。道理でメスや子どものムースばかりが目につくわけだ。オスがすべて狩りつくされないか、少し心配になる。

 私たちは最初にムースを見かけた辺りに戻り、小さな沼の脇にある駐車場に車を停めた。車を降りると、ちょうど駐車場脇の歩道からムースが姿を現した。ウマほどもある大きさで、じっとこちらを見ている。角がないのでメスのようだった。しばらくこちらを見ていたが、ゆっくりと沼の方に向かって歩き始めた。私たちは静かにそれを見守った。その日も曇りで、内陸らしく冷え込み、手がかじかんでいた。
 ムースは、まだちらちらとこちらを気にしているようだったので、少し離れて観察することにした。するとムースは沼に入り、水草を食べ始めた。

 「うしろ、うしろ…」
 妻が緊張気味にささやく。後ろを振り返ると思わず「あっ!」と声が出そうになった。そこには別のムースがもう1頭いたのだが、ウマよりも2回りほども大きい。こうして間近で見ると、まるで「恐竜」のようだ。
 私たち2人と子どものムースとの間合いを測りながら、少しずつ近づいてくる。私たちはちょうど母子2頭を結ぶ線上に入り込んでしまっていたのだ。子連れの野生動物は危険だ。現に、この母ムースはかなりうろたえている様子が見てとれた。
 まず私が沼と反対側に移動した。その後、妻が走ってきた。その私たちの目の前を、母親のムースが子どもめがけて走っていった。あっという間のできごとだった。私たちは母親のムースが目の前を横切って行く姿を、固唾を呑んで見守った。
 2頭はようやく安心できたようで、子どもは母親のお腹の下にもぐって乳を飲んだ。私たちもようやく緊張が解けてきた。

 「先に逃げたでしょう、さっき」
 確かに、無我夢中で自分だけ先に逃げてしまった。口では何とでも言えるが、とっさの場面では自分の身を守るので精一杯だ。2人ともケガをしなかったのは、不幸中の幸いだった。

ムースの親子

ムースの親子

ようやく安心したのか、2頭で水草を食べながら沼の中を歩いていく

ようやく安心したのか、2頭で水草を食べながら沼の中を歩いていく


ユーコン・フラット国立野生生物保護区

フェアバンクス市街図

フェアバンクス市街図


連邦政府、裁判所などが入る建物

連邦政府、裁判所などが入る建物

 フェアバンクスには、周辺の野生生物保護区の管理事務所がいくつかある。それも、同じ建物に入っている。日本でいうと合同庁舎のような建物だろうか。その日は、ユーコン・フラット国立野生生物保護区の管理事務所を訪ずれた。

 建物に入ると、ロビー正面に、ブッシュ大統領とチェイニー副大統領(当時)の写真が飾ってある。もう一枚は内務長官のものだろうか。戦前の日本か、途上国の政府機関にでも来ているようだ。
 野生生物保護区の事務所に到着すると、さっそく会議室に通される。対応してくれたのは、所長のテッドさん、副所長のバリーさん、そして生物学者のダリアさんの3人だ。これまで何度かインタビューをしてきたが、これだけ厚遇されたのは初めてだった。

 所長のテッドさんは、いかにも現場経験者らしい温厚そうな方だ。
 「ユーコン・フラットは、アラスカの中ほどを流れるユーコン川の上流部に広がる野生生物保護区です。保護区は、渡り鳥の重要な繁殖地である低湿地とともに、山地などの多様な地域を含んでいます」
 保護区の面積は1,100万エーカー(約445万ヘクタール)だが、連邦政府の所有地は860万エーカー(約350万ヘクタール)しかない。
 「残りの土地は原住民の所有です。区域内には1,200人ほどの原住民が居住しています。区域内の居住地のうち、渡り鳥の生息地として重要なウェットランドについては、保護区内の山地との交換について土地所有者と交渉を行っています」

 職員は常勤職員が13〜14名、臨時職員(seasonal)が6名程度。事務所には、航空機が2機(プロペラ4人乗り、6人乗り)あるそうだ。
 「パイロットの資格を持つ職員が2名勤務しています。1名が生物学者(biologist)、もう1名が取締官(law enforcement)を兼任しています。事務所はフェアバンクスにあるため、現地管理業務のためには飛行機が不可欠なのです。飛行機で移動し、現地でキャンプしながら管理業務を行っています」
 過酷そうだがなんともうらやましい話だ。

 「保護区の職員には、この他に火災管理官(fire management)、原住民狩猟採集活動コーディネーター(subsistence coordinator)、地理情報システムGIS技術者、環境教育担当官などが配置されています」
 ところが、教育や広報などの業務は緊急性が低いため、ポストの優先順位はどうしても低くなってしまうという。兼任ポストがどうしても多くなる。
 「中には、他の野生生物保護区事務所との兼任ポストもあるのです」
 同じ建物には、翌日インタビューを予定している北極国立野生生物保護区とカヌティ(Kanuti)国立野生生物保護区の事務所もある。
 「魚類野生生物局は予算が少ないので、予算の範囲内で重要なポストから職員を埋めていきます【1】

 国立公園局で、インタープリターが重要なポストとして厚遇されていることとは対照的だ。
 「よく、『カモは投票しない(Ducks don't vote)』と揶揄されますが、国立公園のように、直接ビジターなど有権者を相手にしている組織に比べると、魚類野生生物局の予算はかなり厳しいんです」


◇ユーコン・フラット国立野生生物保護区(Yukon Flats National Wildlife Refuge)
 ユーコン川の上流部に位置する国立野生生物保護区。面積は約790万ヘクタール。1978年に、当時のカーター大統領により国立記念物公園として設立され、1980年のANILCA法により国立野生生物保護区として設立された。
 保護区は広大なウェットランドで、北アメリカでも有数の水鳥の営巣地として知られる。また、ベーリング海のサケ類がユーコン川を遡上し、保護区内で繁殖している。
 保護区には道路はなく、利用者はボートか小型飛行機で保護区を訪れる。保護区では狩猟のほか、カヌー、ボート、釣りなどが楽しめる。

利用者の管理

 「ユーコン・フラット野生生物保護区の特徴は、利用がかなり自由なことです。キャンプ目的などの一般的な利用であれば、許可を得る必要がありません」
 これは意外だった。利用規制のようなことは考えていないのだろうか?
 「現在のところ、利用による影響があまりないので、特に一般利用を規制することは考えていません。このユーコン・フラットでは、一般の利用はあまり問題ではないのです」

 利用者管理については、包括的管理計画(Comprehensive management plan:国立野生生物保護区ごとに策定される管理の基本計画書)の中で大まかに定められている。現在は、利用状況に関する記録を作成しているだけで、将来利用者規制が必要となった際に、それを参考資料とする予定だそうだ。

 「今年も、主要な河川1本を、ボートで流下しながら、焚き火跡、キャンプ跡、流れを下っていく間に上空を横切った航空機の数などを記録しました」
 利用状況調査のため、空路上流まで運んでもらい、ゴムボートで川をくだって行く。キャンプをしながら利用状況を記録する。このような話だけを聞くと本当にうらやましくなる。

 「現地での調査で問題になるのはハイイログマの被害です。職員は銃の取り扱いについて訓練を受け、銃を常に携帯することが義務付けられています。銃を使う前に、まず豆袋(bean bags)やゴム弾を使用しますが、それでもダメなときには銃を使用することになります」
 原生的な保護区での調査には様々な危険がつきまとう。
 ところで、利用者数はどのようにしてカウントするのだろうか。
 「利用者の実数はわかりませんが、ほとんどがサークル市もしくはダルトンハイウェイなど限られたアクセスポイントから保護区に入ります。ですから、これらの地点で大まかな人数を推計することが可能です」
 一般の利用については、このようなモニタリングデータに大きな変化があった場合に、規制を導入する可能性もあるそうだ。その意味では、とても重要なデータであることがわかる。

 「この保護区には車道がありません。利用が困難なので、一般の利用者数はかなり限定的だといえます」
 原住民との用地交換交渉などの際にも、道路建設の要望はよく出てくるそうだ。
 「道路は両刃の剣です。原住民の中でも高齢者は道路を作ることに反対しているが、衛星テレビなどを見て育った世代は考え方が全く違います。世代交代が進むにつれ、この問題はさらに深刻になってくるでしょう」
 ここでも、デナリ国立公園同様、車道建設の問題があるようだ。

 「この保護区は、レクリエーション目的の狩猟で訪れる人がほとんどです。これらの人たちは職業ガイドを雇います」
 レクリエーション目的での狩猟には、アラスカ州の規制が適用される。また、保護区内で活動する商業的な狩猟ガイドやツアーガイドは許可が必要となる。このような狩猟を管理し、保護区への影響を防ぐためには、野生生物のモニタリングが必要となる。
 「野生生物等のモニタリングは、主に航空機による上空からの目視により行います。特に、ドールシープとムースについては、毎年調査を行います」
 それぞれ1週間、航空機を5〜6機使っての大掛かりな調査だ。航空機は、他の野生生物保護区、国立公園局、民間の借上機などで確保する。オオカミの生息数調査は主に州政府によって随時実施されているそうだ。
 「カモ類は、野生生物保護区内にある約20,000ヶ所もの湖沼に生息しています。そのため、調査はトランセクト(線状調査区)を設定して、航空機での目視調査と、補正のための現地踏査を実施します」

 調査した結果、野生生物の生息状況に変化が生じた場合には、必要な対策をとることになる。ちなみに、このカモ類のモニタリングは1950年代から行われているそうだ。
 「こうした調査から、ムースが近年減少傾向にあることがわかってきました。ムースは原住民の重要な食料でもあります」
 このため、原住民からは『ムースが減ったのはオオカミが増えすぎたためだ。オオカミを殺してほしい』というような要請がしばしば寄せられる。
 「ところが、ムースの死骸付近に落ちているフンの中の毛をDNA鑑定してみると、ハイイログマが生後1週間以内のムースの幼獣を捕食していることがわかったのです」
 原住民はオオカミを殺したがるが、実際にはハイイログマの捕食による影響が大きいことになる。

 「さらに、ムースの個体数はもともとかなり低いはずなのです。ところが、オオカミの個体数が減少していったためにムースの個体数が増えていたこともわかってきています」
 ムースの2年間生存率は25%程度とかなり低い。また、ムースの重要なエサであるヤナギの低木調査を行ったところ、個体数が増えすぎてエサ不足が発生していることも確認されているそうだ。
 「こうしたモニタリングの結果は、連邦原住民狩猟採集評議会(Federal Subsistence board)に提供され、データに応じて、原住民の狩猟採集活動などに関する規制に変更が加えられます」

 この保護区では、野生生物調査が盛んに行われている一方で、植物のインベントリー作りやモニタリングが遅れているそうだ。植物自体の分布や種構成は、野生生物の生息環境のモニタリングを行う上でも重要である。
 「植物のインベントリー調査を行うため、今年、ヘリコプターを5日間飛ばすための予算を確保しました」
 ただ、動物を対象としたものを含め、モニタリングの予算は非常に厳しい。
 「ムースの定期モニタリングは1980年代後半に開始されましたが、当初は予算が足りず、保護区を半分ずつ2年間かけて調査していました。1990年代に入ってから、ようやく毎年全域を対象に調査することが可能となりました」

 保護区の自然環境に及ぼす影響についていえば、利用者による影響よりも気候変動による影響の方がずっと深刻だ。
 「冬期の気温が華氏-40度から-30度(摂氏に換算すると-40℃から-34.4℃)に上昇し、降雪量も減少している。自然火災発生による被害は全体で年間650万エーカー(約260万ヘクタール)にものぼり、史上最大の面積になりました。保護区内だけでも被害は100万エーカー(約40万ヘクタール)にものぼります」
 アラスカ大学の研究により、湖沼などの水面が縮小していることも明らかになっているそうだ。
 「このような大学の自然資源管理関係のプロジェクトに対しては、保護区も積極的に支援を行っています。調査に必要な移動手段を提供するとともに、研究を担当する学生を臨時職員として雇用し、給与を支給することもあります」
 野生生物局が行っているインベントリー調査やモニタリングなどの基礎的データは、一般的に科学的な論文にはなりにくい。
 「大学との連携により、保護区に関する論文が多数掲載されることで、学会などに情報が提供されるというメリットもあります」


保護区管理の課題

 「ここユーコン・フラットでは、野生生物保護とは逆行するような形態の利用要請がますます強くなってきています。これが将来的な課題になっていきそうです」
 森林の伐採、ATV(All terrain vehicle:レクリエーション用小型四輪駆動車)、トラクターの使用など、いずれも野生生物保護区の利用としては想定されていなかったことばかりだ。
 「今のところ、フェアバンクスから往復するためには、最低でも1人750ドル程度が必要です。このコストが利用頻度を低く抑えてくれているのです」
 ただ、今後、道路が建設されたり航空機などの技術が向上することにより、利用形態も大きく変化する可能性がある。

 「明日インタビューに行かれるという北極国立野生生物保護区は、この保護区よりもずっと利用圧が高いうえ、保護区内での石油開発問題も抱えています。その意味で大変興味深い話が聞けるのではないでしょうか。アラスカ州の人々の生活は、今も石油産業に大きく依存しているのです」


北極国立野生生物保護区事務所訪問

 翌日は、北極国立野生生物保護区の事務所を訪問した。事務所は、昨日訪問したユーコン・フラット保護区と同じ建物に入っていた。対応していただいたのは、所長のリックさん、副所長のゲイリーさん、そして取締官のジェニファーさんの3人だった。
 リック所長は魚類の専門家で、これまで、アラスカ州を含む5つの州で13の国立野生生物保護区に勤務してきた。絶滅危惧種法に関する業務や、国際協力業務に従事した経験もあるそうだ。
 「職員数は、常勤職員が18〜20名、臨時雇用職員が6名程度です。常勤職員のうち2名は、保護区内の住民をメンテナンス(維持管理)する担当職員として雇用しています。予算額は220万ドル程度です」

◇北極国立野生生物保護区(Arctic National Wildlife Refuge)
 面積1億9,600万エーカー(約800万ヘクタール)。1960年に設立された米国で最大の国立野生生物保護区。1980年のANILCA法が制定される以前に指定された保護区で、初期委任事項(initial mandate)に、「(保護区の有する)価値を保存すること(preserve value)」という事項が含まれるため、より厳格な保護が求められる。その一方で、保護区内での石油開発をめぐっては、現在も連邦議会などにおいて活発な議論が続いている。
 なお、隣接するカナダ側のOld Crow Flats National Parkとの間では、協力して原住民の知識に関する科学と情報収集を行っている。Arctic Village(アラスカ側)とOld Crow(カナダ側)のそれぞれの集落では、毎年20名の決められた原住民から、近年の気候、木の実の収穫量など様々な事項について、統一的な質問事項について聞き取りを行い、その伝統的な生態学的知見をレポートにしている(Community Reports; Arctic Borderlands Ecological Knowledge Cooperation Report Series)。

 この事務所の業務(表1)は、許認可から、ホッキョクグマ・カリブー・ガンカモ類のモニタリング、その他調査業務(表2)まで、多岐に渡っていて、業務量も多い。事務所態勢が比較的充実しているとはいえ、保護区の規模も考えるとあまりにも人も予算も不足しているように思える。


【表1】北極国立野生生物保護区事務所における主な業務

  • A.生物学的インベントリー作成およびモニタリング
  • B.ウィルダネス関係許認可業務(調査のためのヘリコプター飛行など、石油会社への許可証発行)
  • C.一般のビジター利用管理(Public use management)
    • 商業的レクリエーションガイド管理(グループ人数制限、許可、その他規制)
    • 商業的レクリエーション目的の狩猟ガイド管理(グループ人数制限、許可、その他規制)
    • 地質学調査規制
    • 商業的写真撮影
  • D.原住民の狩猟小屋規制(基本的には設置可能)
  • E.取締り(Law enforcement:狩猟規制、野生生物保護、その他各種規制)
  • F.原住民による狩猟/漁撈管理(具体的にはモニタリングにより、野生生物の個体数に変化があった場合に勧告を行う)
  • G.管理火災(基本的に消火活動は行わないが、設置を許可した原住民の小屋や管理施設に被害が及ぶ恐れがある場合は消火活動を行う。それ以外の場合は、火災発生の状況把握のためのモニタリングのみを実施。)
  • H.環境教育、自然解説及び情報提供
  • I.IT、GIS管理
  • J.航空機使用管理
  • K.人事
  • L.コミュニティーとのパートナーシップ構築と維持
  • M.原住民とのパートナーシップ構築と維持
  • N.予算管理
  • O.安全確保のための職員管理、研修、サバイバル技術講習
  • P.国際委員会、国際協定の支援(国際ポーキュパインカリブー評議会等)

【表2】主なモニタリング、調査事業

モニタリング・調査名: モニタリング・調査の内容

  • ポーキュパインカリブー調査: 100頭のポーキュパインカリブーにGPS機能のついた首輪を取り付け、衛星により追跡する調査。調査主体はカナダ側であるが、アークティックNWR側も同種の首輪を購入し取り付け作業を行う。データはカナダ側がとりまとめ、グラフィックプログラム化して米側に提供する。
  • ジャコウウシ調査
  • ハイイログマ調査
  • ドールシープ(Dall Sheep)調査
  • 越冬ムース調査
  • 営巣水鳥調査: 現在石油採掘の行われているプルードーベイでは、キツネ、クマ、ワタリガラスなどが餌付けされ、それがシギチドリ類への捕食圧を不必要に高めていると考えられている。共同研究により、NWR内とプルードーベイでの水鳥の比較調査を実施し、ゴミによる餌付けの影響を明らかにする。
  • 猛禽類調査: ノーススロープ地区とポーキュパイン川の2ヶ所で調査し、結果を比較する
  • バリアー島でのケワタガモ(common eider)調査: 調査はボートと徒歩により実施
  • 長期生態系モニタリング調査(Long-term ecological monitoring) : 保護区内の5つの異なるエコリージョンを1年ごと(各エコリージョンは5年に1度)モニタリング調査し、長期間での生態系の変化を調査する。
  • ノーススロープ地区人工地震調査(seismic survey)影響調査
  • 北極コクチマス(arctic cisco)調査
  • チャー類インベントリー調査: チャー(char)は、イワナ、カワマスの類の淡水魚類
  • ブルックス山脈南部肉食動物及び小型哺乳類調査
  • ホッキョクグマ採餌生態及び行動調査: 特に、クジラの死骸摂食について調査を行う
  • Kongakut川ビジター利用実態調査: ボランティアが一週間にわたり、川をボートで下ってくる利用者数を計数する
  • アークティック村村落調査

 野生生物保護区の事務所がこうした都市にあるのには、いくつかメリットもあるという。
 「大都市なので民間会社の雇用も多く、配偶者が仕事を持てること、子どもの教育の機会が充実していることなどが魅力です」
 さらに、他の野生生物保護区と同じ建物に同居していることも大きな利点だという。
 「この建物には、隣接する他の2つの保護区事務所が同居しています。職員同士が結婚した場合などは、通常同じ事務所に勤務し続けることはできません。ここなら、異なる保護区に勤務していても、同じ建物に通勤できるわけです」

 また、3つの保護区事務所は、火災管理、原住民活動管理、ITを含む管理部門を共有しており、事務所管理体制の大幅な効率化を実現している。航空機などの機器や施設を融通しあうことで、大幅なコスト削減も可能となっているそうだ。
 「この事務所には、4人乗り及び6人乗りの航空機がそれぞれ1機あります。現地には、作業小屋、簡易事務所が3ヶ所、給油施設が3ヶ所、それにトラックが2台あります」
 もちろん、事務所には様々なタイプのボートやカヌー、調査用具がそろっている。

保護区における石油開発

パイプライン

パイプライン

 この野生生物保護区内のもっとも大きな問題は、石油開発問題だ。ノーススロープ地区(ブルックス山脈の北麓で、保護区最北端の北極海に面した地区)の1002区域及び1003区域では、以前から石油の存在が確認されており、石油開発のための調査が行われてきた。
 現在1003区域は開発区域から除外され、懸案は1002区域のみとなっている。
 「ANILCA法により北極野生生物保護区が拡張された際、多くの部分は『原動機、機械などを用いない原始的な(primitive)環境を維持する』こととされたのですが、1002区域は、この規定から除外されてしまいました」

 ANILCA法に基づき保護区が指定された際、魚類、野生生物及びその生息地のベースライン調査が行われ、1987年に取りまとめられ、発表されている。あわせて、1002区域での石油開発の是非を見極めるための環境影響評価書(Arctic National Wildlife Refuge, Alaska Coastal Plain Resource Survey)も1987年に取りまとめられた。
 「残念なことに、その後エクソン・バルティーズ号の原油流出事故(1989年)が発生し、環境影響評価書の審議自体が遅れてしまったのです。1002区域で石油開発を認めるか禁止するか、その結論はまだ得られていません」
 仮に1002区域で石油開発が行われれば、ジャコウウシ、カリブーなどの野生生物に大きな影響が出ることは必至だ。その理由のひとつが水資源だ。
 「1002区域は、既に石油開発が行われているプルードーベイに比べて、湖沼などの淡水面が極端に少ないんです」
 石油開発には道路建設がつきものだ。アラスカでは永久凍土に影響を与えないようにと、冬期間に水をまいて凍結させ、氷で「土台」をつくるため、大量の水が必要となる。プルードーベイには、1平方エーカーあたり6,800万ガロン(約2億5,700万リッター)もの淡水があるのに比べ、1002区域では700万ガロン(約2,650万リッター)に過ぎない。水が不足すれば砂利道が敷設される恐れもある。地形的にも起伏が激しく、凍結による道路建設が難しいからだ。

 「カリブーの個体数も減少してしまうでしょう。カリブーはパイプラインを嫌うのです。パイプラインが個体群を分割することで、行動域を極端に狭めてしまうことが懸念されます」
 「実際に、石油開発のための調査によって影響が出た例があります」
 石油掘削には、人工的な振動を発生させて、地中マイクで地中の石油だまりを調べる人工地震調査(Sieismic survey)が行われる。この調査を行うため、一定の幅でトランセクトを設置して調査車両を走らせることになる。
 「過去の石油探査の影響について、1984年、1994年、1999年にそれぞれ航空機による目視調査と写真撮影によるモニタリングを行いましたが、一番新しい調査でも、ツンドラ上に線状の轍がはっきりと認められました」
 植生の大部分は元の状態に戻りつつあるが、長期間にわたり悪影響が残されているのも事実である。このような調査の轍でさえ原状回復が困難なのだ。まして、石油開発が行われれば、この地域の生態系はめちゃくちゃになってしまうだろう。

 石油開発がウィルダネスや保護区の価値を損なうことは明白だ。
 「気候変動の影響に対してもそうですが、私たちは、こうした影響を裏付ける科学的データを蓄積していくしかないのです」
 ただ、ブッシュ政権(当時)の意向もあり、気候変動の影響に関する情報はウェブサイトには掲載されていなかった。一方で、事務所で提供される膨大な資料に驚かされる。政治的な思惑にかかわらず、現場では、科学的な観点からの客観的な調査とデータの集積が進んでいる。


アラスカの国立公園と野生生物保護区

 アラスカの国立公園と国立野生生物保護区について調べてみると、そのスケールの大きさに驚かされる。アラスカにある国立公園と国立野生生物保護区の面積を合計すると、アラスカの陸地面積の実に3割を占める(表3参照)。地図に分布状況を表してみると、アラスカ全域に分布していることがわかる。これら以外にも、森林局、公有地管理局、アラスカ州などが管理する国公有地があり、アラスカのかなりの部分が保護区ないしは公有されているわけだ。

【表3】アラスカにおける国立公園と野生生物保護区(2008年現在)
合計面積 アラスカの陸地面積に対する割合(*)
国立公園 2,211万ヘクタール 12.9%
国立野生生物保護区 3,108万ヘクタール 18.1%
合計 5,319万ヘクタール 31.0%

(*)保護区には海域が含まれるため、数値には若干の誤差がある)

アラスカの国立公園・国立野生生物保護区位置図

アラスカの国立公園・国立野生生物保護区位置図


 アラスカの国立公園ユニット【2】についてみてみると、アラスカ州内23ユニットの面積合計は約2,200万ヘクタール。アラスカの陸地面積の約13%を占め、全米の国立公園システム全体の約65%に相当する(表4・5参照)。

表4 アラスカの国立公園と国立野生生物保護区

表5 アラスカの国立公園ユニット一覧

 国立野生生物保護区16箇所では、最大の保護区が北極国立野生生物保護区の約790万ヘクタール、実に日本の国土面積の5分の1強に相当する面積だ。合計面積は約3,100万ヘクタールで、これはアラスカの陸地面積の約18%を占め、全米の国立野生生物保護区の総面積のうち、実に約8割を占めることになる(表6参照)。
 ちなみに、全米の国立公園システム【3】と国立野生生物保護区の総面積は、それぞれ3,380万ヘクタール、3,900万ヘクタールであり、ほぼ日本の面積(3,800万ヘクタール)と同程度だ(表4参照)。

表6 アラスカの国立野生生物保護区一覧

 ところが、米国は国土が大きいため面積比ではそれぞれ3.6%と4.1%に過ぎない(表7参照)。国立公園発祥地の米国には、もっと多くの自然公園がある印象もあるが、アラスカ以外についていえば、その割合は1%前後(それぞれ0.9%、1.2%)にまで減少する。
 日本の国立公園が国土面積の約5.5%を占めていることを考えると、制度の違いはあるものの、米国国立公園の国土に占める割合は意外に小さいことがわかる。
 一方で、米国の国土面積の約2割を占めるアラスカには、米国の保護地域が集中している。ANILCA法による保護区の指定がいかに意義深いものだったかを改めて実感することができる。
 米国の国立公園や野生生物保護区の位置づけや規模を考える際には、この“例外的”なアラスカとその他の地域の保護区とを区別して考える必要がありそうだ。

表7 米国の主な国有地の面積

アラスカ出発

 アラスカを出発する日、私たちはフェアバンクスにあるパブリックインフォメーションセンターを訪れた。インフォメーションセンターには物販コーナーがあり、図書やおみやげものが並んでいる。
 そこで目に止まったのが、『Saga of the Bold Land』という1冊の本だった。書名は、日本語にすると『手付かずの土地の宿命』とでもいうものだろう。装丁は2色刷りの簡素なものだ。書架にずらっと並ぶ色とりどりの写真集の間にあると、この本だけが少し異質だ。カラーページがないどころか、図表もほとんどなく文字ばかり。しかしながら、今回のアラスカ滞在中、これだけアラスカの歴史を克明に記述した資料はなかった。
 ただ、全部で600ページもある分厚い本が読めるだろうか。ろくに読まずに積んでおくのが関の山かもしれない。
 「でも、その本しかないんでしょう? せっかくだから買っておいたら?」
 結局、この妻のひとことに背中を押される形で、購入した。
 幸い、レッドウッドまでの飛行機の中では十分時間があった。関係しそうな部分を読んでみると、予想通り、原住民以外の“侵入者”が繰り広げてきた開発と収奪、そして保全の歴史が克明に記されていた。

 振り返ってみると、この2週間程度の滞在の間にアラスカに対する認識が大きく変わった。「アメリカ最後のフロンティア アラスカ」は、確かに自然の宝庫であり、保護地域のスケールも桁違いに大きい。国立公園においても、そうした自然のすばらしさを紹介する展示は非常によくできている。ところが、そのような自然がどのようにして残されてきたか、そして、どのような危機に直面しているか、ということに関する解説はほとんど見当たらない。石油開発に関する権益、原住民の権利、保全運動の高まり、民主党政権、そしてその結果合意されたANILCA法などに関して、それを総合的にわかりやすく説明しているものはなかった。
 また、アラスカの住民の多くは、自然地域の保護より、石油開発やオオカミの個体数調整に興味を持っているようだ。その理由のひとつが、石油産業への依存度の高さだ。石油産業関連の経済活動の割合が36%であるのに対し、観光はたった2%に過ぎない。

【表8】アラスカの経済活動(博物館の展示から転載)
  1963
(大規模油田発見前)
1981
(ANILCA制定後)
1996
総額 56億ドル 233億ドル 259億ドル
連邦政府 25% 9% 7%
州・地方自治体 9% 8% 7%
石油・ガス 2% 47% 36%
漁業・林業 17% 5% 7%
観光業 1% 1% 2%
その他(金融業など) 48% 30% 38%

 一方でアラスカは、アメリカの持つ「フロンティアのイメージ」をほぼ一身に背負っているようだ。どの観光パンフレットを見ても、アラスカの美しい自然やすばらしい野生生物の存在が強調され、全米から釣り人やハンターがやってくる。アラスカにはまだ手付かずの自然が残されている、そんな一般のアメリカ人のある種の「期待」を一身に受けているようだ。
 アメリカの象徴ともいえる国立公園と国立野生生物についても、面積的な割合はアラスカが圧倒的に大きいことがわかった。さらに、こうしたアラスカの保護区は、現在温暖化という新しい問題に直面している。管理者は使命感を持ってデータを集めているが、予算や定員は厳しい上に、議会や地元政治家からの圧力も強い。また、意外にも地域の住民の関心はそれほど高くない。むしろスノーモービルや狩猟の権利を拡大しようという圧力が大きい。さらにいえば、水産物の水揚げは、おそらく持続可能な範囲を超えてしまっている。

 考えてみれば、アラスカの国立公園や野生生物保護区の設立は、アラスカではなく、首都ワシントンDCでの政治家やNGO、石油開発会社、原住民の利益を代表するグループの間で決められたことなのだ。そうしたことが、現代のアラスカであまり知られていないのは、むしろ当然のことかもしれない。

 日本でもそうだが、私たちは自分たちの暮らしから遠く離れた自然に思いを馳せ、憧れる。アラスカは、文句なしに究極の自然地のひとつと言えるだろう。時には、そうした自然地を訪れたり、自然を守るための活動に寄付をしたりするかもしれない。
 ところが、私たちの暮らしや行動は、確実にアラスカの自然を蝕んでいるのもまた動かしがたい事実なのだ。安く脂の乗った白身魚のフライやサケの切り身を消費したり、大量の二酸化炭素を放出する私たちの「豊かな」生活が、取り返しのつかない影響をアラスカに与えようとしている。
 プルードーベイの石油が枯渇する時、またはアラスカ湾の巨大ハリバットが釣れなくなる日は、意外と近いかもしれない。アラスカの自然保護をめぐる闘いは過去のものではなく、その将来は、まだまだ予断を許さない。また、その一端を私たち日本人が握っている可能性が、かなり高いように思われるのだ。

【1】重要なポストから
この事務所を例に取れば、その順序は、所長(Superintendent)、副所長(Deputy superintendent)、許認可担当官(Permission management)、火災管理官(Fire management)、生物学者(Biologist)、教育(Education)という順番とのこと。
【2】国立公園ユニット
国立公園局が管理する、国立公園、国立記念物公園等の公園地
【3】国立公園システム
国立公園局が管理する公園地の総称。前出の国立公園ユニットにより構成される。

<妻の一言>

アラスカ縦断パイプライン

アラスカ縦断パイプライン


 アラスカの石油パイプラインは、フェアバンクスの近くで実物を見ることができます。大きな駐車場があって、大型バスが並ぶ観光地です。パイプラインは、近くで見るととても大きなものです。直径1m弱のパイプが、延々と続いています。アラスカの大自然の風景とかなりミスマッチで、初めて見たときはかなりの違和感を感じました。
 パイプラインの全長は800マイルあって、途中何箇所かのポンプ場が設置されています。このパイプラインがアラスカの北の端のプルードーベイから南のアラスカ湾にあるバルディーズまで縦断しているのです。1973年に建設が許可され、1977年に完成しています。総事業費は80億ドル(建設当時)。採掘された石油は最低30年間は生産が可能だそうです。ただ、もう30年間経ってしまっていますので、石油がなくなったときに、このパイプラインはどうなるのか少し心配になります。
 このパイプラインには、いろいろおもしろい仕掛けや工夫があります。まず、パイプラインは土の中に埋められるのではなく、地上に出ています。これは、パイプラインの中を流れる原油が高温なので、地中に埋めてしまうと永久凍土が融けてしまうためだそうです。どうしても地中に埋めなければならない部分は、冷却水で周りを冷やします。
 2本の支柱の上には、アンテナのようなものがついています。これは、放熱のための冷却フィンで、支柱から熱が土中に逃げるのを防いでいるものです。このパイプラインを支える支柱はかなり丈夫で、地上3m程度のところまでパイプを押し上げています。これは、カリブーなどの群れがパイプラインの下を自由に行き来できるように配慮されたものだそうです。また、パイプは横木の上に載っていますが、固定されてはいません。アラスカは地震が多いので、固定しない方がパイプが傷まないそうです。パイプにはいろいろ工夫があって驚きましたが、カリブーなどの野生生物にとっては、やはり大きなストレスになっているのではないでしょうか。

パイプラインは地上かなり高いところまで持ち上げられています。柱の上にある銀色のものが冷却フィンです

パイプラインは地上かなり高いところまで持ち上げられています。柱の上にある銀色のものが冷却フィンです


 また、「pig(豚)」と呼ばれる機械が、パイプラインの中を定期的に通っているそうです。見かけは巨大などんぐりのような形をしていますが、パイプの中を掃除しながら、破損も見つけてしまう優れものです。
 ところで、このパイプラインには、日本製の鋼管が使われているそうです。意外なところで日本の技術が役に立っていましたが、少し複雑な気持ちにさせられました。

pig(豚)と呼ばれる装置

pig(豚)と呼ばれる装置

パイプの中を清掃していく際、「ブーブー」と音を立てることから豚(pig)と呼ばれるようになったそうです

パイプの中を清掃していく際、「ブーブー」と音を立てることから豚(pig)と呼ばれるようになったそうです


(記事・写真:鈴木 渉)

〜著者プロフィール〜

鈴木 渉
  • 1994年環境庁(当時)に採用され、中部山岳国立公園管理事務所(当時)に配属される。
  • 許認可申請書の山と格闘する毎日に、自分勝手に描いていた「野山を駆け回り、国立公園の自然を守る」レンジャー生活とのギャップを実感。
  • 事務所での勤務態度に問題があったためか以降なかなか現場に出してもらえない「おちこぼれレンジャー」。
  • 2年後地球環境関係部署へ異動し、森林保全、砂漠化対策を担当。
  • 1997年に京都で開催された国連気候変動枠組み条約COP3(地球温暖化防止京都会議)に参加(ただし雑用係)。
  • 国際会議のダイナミックな雰囲気に圧倒され、これをきっかけに海外研修を志望。
  • 公園緑地業務(出向)、自然公園での公共事業、遺伝子組換え生物関係の業務などに従事した後、2003年3月より2年間、JICAの海外長期研修員制度によりアメリカ合衆国の国立公園局及び魚類野生生物局で実務研修
  • 帰国後は外来生物法の施行や、第3次生物多様性国家戦略の策定、生物多様性条約COP10の開催と生物多様性の広報、民間参画などに携わる。
  • その間、仙台にある東北地方環境事務所に異動し、久しぶりに国立公園の保全整備に従事するも1年間で本省に出戻り。
  • その後11か月間の生物多様性センター勤務を経て国連大学高等研究所に出向。
  • 現在は同研究所内にあるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ事務局に勤務。週末、埼玉県内の里山で畑作ボランティアに参加することが楽しみ。