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アメリカ横断ボランティア紀行

No.015

Issued: 2008.03.06

国立公園局と州政府の協力

目次
石原都知事訪米?
バイタルサインモニタリング
外来生物対策
都知事来訪決定!
都知事視察の資料準備
国立公園の管理組織
レストラン巡り
国立州立公園の成立経緯
国立州立公園の共同管理
公園の独自財源
ビジターセンターなどでの収益
寄付の取り扱い
その他の収益(有料施設)
公園内での取締り
写真1:プレーリークリーク・レッドウッズ州立公園エルクプレーリーキャンプ場及びビジターセンターの入口標識

写真1:プレーリークリーク・レッドウッズ州立公園エルクプレーリーキャンプ場及びビジターセンターの入口標識

 「トウキョウのガバナー・イシハラって知ってる?」
 ワシントンDCの国立公園局国際課ルディーさんからメールが入った。石原慎太郎都知事のことだ。
 「まだ内々の話なんだけど、ガバナーが国立公園視察に興味をもっているらしいんだ。彼が日本の有力な政治家で首相候補のひとりというのは本当?」
 石原都知事といえば、日本では知らない人はいない大物政治家だ。かつて、第8代の環境庁長官を務め(1976年12月〜77年11月まで在任)、自然保護、国立公園、環境行政には大変造詣が深い。東京都には秩父多摩甲斐、小笠原、富士箱根伊豆の3つの国立公園もあり、それらの公園管理において先進的な取り組みを進めている。
 「石原都知事は日本でもっとも人気のある政治家の一人だと思います。有力な首相候補だったこともあり、都知事を務める現在も根強い待望論があります」


石原都知事訪米?

写真2:レッドウッド国立州立公園の入口標識。標識の右側に2本のレッドウッドをあしらった公園のマークがあり、その下に国立公園局とカリフォルニア州のマークが並んでいる

写真2:レッドウッド国立州立公園の入口標識。標識の右側に2本のレッドウッドをあしらった公園のマークがあり、その下に国立公園局とカリフォルニア州のマークが並んでいる

 ルディーさんは、いくつかの国立公園を推薦する用意を進めていた。その中にレッドウッドも入っていた。あの石原都知事が、こんな辺鄙なところに来るのだろうか。レッドウッドは日本ではほぼ無名の公園だ。
 「まだ東海岸か西海岸かもわからないから何とも言えないんだけど、先方の興味の一つは連邦政府と州政府との協力体制にあるらしいんだ」
 確かにこの公園は米国唯一の「国立州立公園」だ。その管理にはおもしろい工夫がいろいろある。もちろん、その分苦労も多い。
 「心配しなくてもいいよ。まだレッドウッドに決まったわけじゃない。候補地は他にもあるんだ」
 とりあえず、このやりとりを資源管理科学部門長のテリーさんに報告する。
 「それはすごい。もし実現することになったら全面的に協力するよ」
 かなり好意的な反応に、胸をなでおろす。
 考えてみれば、レッドウッドは訪問先としておもしろいところだ。レッドウッドの年間訪問者数は40万人程度と少ないが、原生林は「第一級品」だし、アメリカの国立公園史上も大きな意味あいを持っている(レッドウッド国立州立公園の歴史概観 第11話参照)。これまでの私自身の経験からも、利用者数の多過ぎない公園やシーズンオフに訪問する方が、担当者の話をじっくりと伺うことができる。


バイタルサインモニタリング

 レッドウッド国立州立公園にあるのは、レッドウッドの原生林だけでない。原生的な海岸線もあって、急峻な海食崖とその前に広がる砂浜は、多様ないきものの生息地になっている。
 2004年当時、この海域生態系のモニタリング計画はまだなく、その策定に向けたスコーピング会合(予備検討会議)が開催されたばかりだった。会合には、学識研究者、国立公園局の各担当部局、太平洋沿岸の国立公園ユニットの職員など50名以上が参加した【1】

 この会合には、国立公園局のアドバイザーであり、海域のモニタリングの第一人者でもあるGray Davis氏が出席していた。デービス氏は、チャネルアイランド国立公園などを例にとりながら、モニタリングの重要性と、管理計画へのフィードバックなどについて基調講演を行った。
 その中で強調されていたのが「バイタルサイン」だった。すべての環境要素をモニタリングするのではなく、とにかく真っ先に変化の兆候が現れる指標種に的を絞ってモニタリングを行う。これにより効果的に生態系変化の兆候を把握することができ、迅速に対応することができる。特に、海域は陸上の生態系よりも調査を行う上での制約が多い。そのため、自然環境の変化をとらえることが難しく、対策も遅れがちだ。「バイタルサインモニタリング」によって、限られた予算や人員で効果的なモニタリングを行おうというのだ。

写真3:ワークショップでのエクスカーション(現地視察)の様子

写真3:ワークショップでのエクスカーション(現地視察)の様子

写真4:原生林の伐採による大規模な土石流の発生や河川改修などにより、河口付近でのサケマス類の生息環境は大幅に悪化した

写真4:原生林の伐採による大規模な土石流の発生や河川改修などにより、河口付近でのサケマス類の生息環境は大幅に悪化した


 それまでの研修で、国立公園局は公園内の自然環境に関する科学的な調査が進んでいると感じていた。ところが、今回のワークショップに参加して、モニタリングの進め方など、まだ検討段階のものが多いこともわかった。日本が相当遅れをとっているのは確かだが、モニタリングに「正解」はない。まだまだ試行錯誤の段階だということを知り、正直ほっとした。
 しかしながら、日本でも、こういった検討を今始めなければならないのではないかというあせりも感じる。特に、今後は気候変動の影響が顕在化してくると言われている。こうした「バイタルサインモニタリング」が、20年、30年後の国立公園管理に大きく貢献するように思える。


外来生物対策

 スコッチブルームは、春から夏にかけて小さな黄色い花をつける潅木だ。園芸用植物としてヨーロッパから持ち込まれた植物だったが、現在は野生化してしまっている。繁殖力が旺盛なため完全除去が難しく、固有の植物の生育環境や景観に大きな支障が生じている。種子は数十年間発芽能力を失わないため、埋土種子が残されているうちは、毎年駆除作業を続けなければならない。
 ここレッドウッドでもスコッチブルームの駆除作業が行われているが、撲滅までの道はまだまだ遠い。さらに、公園区域を出ると道の両側に密生し、花が咲き乱れているようなところもある。少し油断すると、道路に沿いにまた新しい種子が持ち込まれ、広がっていく。

写真5:黄色いかわいらしい花をつけるスコッチブルームだが、地域の生態系には深刻な影響を与えている

写真5:黄色いかわいらしい花をつけるスコッチブルームだが、地域の生態系には深刻な影響を与えている

写真6:スコッチブルームの大群落。国立公園区域から一歩外に出れば、こんな光景もめずらしくない

写真6:スコッチブルームの大群落。国立公園区域から一歩外に出れば、こんな光景もめずらしくない


 「あ、またそこにあった気がするんだけど」
 調査に行く途中、助手席から道沿いにスコッチブルームを探していた妻がまた見つけたようだ。路肩に車を止めて確認すると、やはりスコッチブルームだ。写真を撮ってGPSで位置を記録してから引き抜く。種子が土の中に残っている可能性が高いので、この地点を来年の駆除計画に加えてもらう必要があるためだ。
 こうした外来生物の駆除作業は人海戦術で行われる。私たちのようなボランティアは当然として、その他にも様々な手段で作業員を確保している。カリフォルニア州立青少年更生施設(California Conservation Corp)の若者や受刑者の受け入れはその一例である。また、メンテナンス部門に「サポートグループ」と呼ばれる兼任の支援部隊があり、植生管理業務の実施を補助してくれている。メンテナンス職員は長年この公園に勤務しているベテラン職員が多く、公園内の歩道や施設に詳しい。現場での作業効率が大幅に向上する。

 イングリッシュアイビーは、日本でも見られる園芸用のツタの一種だ。スコッチブルーム同様、ヨーロッパから持ち込まれ、野生化した。林床に茎を這わせ、木に絡みつき、よじ登る。絡みつかれた木は枯れてしまうこともある。景観上の支障も大きい。

写真7:右手に持っているのが抜きとったスコッチブルーム。左手の道具で根を引き抜く。根が残らないようにゆっくり引き抜くのがコツ

写真7:右手に持っているのが抜きとったスコッチブルーム。左手の道具で根を引き抜く。根が残らないようにゆっくり引き抜くのがコツ

写真8:写真中央上に見える光沢のある葉がイングリッシュアイビー

写真8:写真中央上に見える光沢のある葉がイングリッシュアイビー


 私たちは、この植物の駆除計画を策定するための予備調査を任された。次年度に、大規模な駆除作業が予定されていたため、駆除計画や契約額見積もりのために分布状況を把握することが必要になったのだ。GPSと地図を使って、歩道沿いに分布位置と面積を記録していく。ボランティアの募集もこの計画に基づいて行われる。この「ボランティアを使って、ボランティアの受け入れ準備をする」のが、アメリカの国立公園のボランティアプログラムの特徴のひとつだ。計画的なボランティアの活用の工夫がいろいろなところに見られる。

写真15:ボランティアのエイミーさんと妻。3人でチームを組んで歩道沿いに調査を行う。

写真15:ボランティアのエイミーさんと妻。3人でチームを組んで歩道沿いに調査を行う。


都知事来訪決定!

 「スズキサーン、ガバナー・イシハラがレッドウッドに来ることになりましたよー」

 そのメールからは今にもルディーさんの声が聞こえてくるようだった。都知事の訪問先が、グランドキャニオンとレッドウッドに決定した。レッドウッド国立公園の所長にも地域事務所を経由して連絡が入る。
 今回の視察の目的は、国と地方の連携、研修施設、そしてボランティア制度だという。グランドキャニオンには国立公園局の研修施設のひとつ、オルブライト研修所がある。第2代国立公園局長の名を冠したこの施設は、主に資源管理職員向けの研修を担当している【2】。この研修施設とレッドウッドが主な訪問先になる。


都知事視察の資料準備

 東京都の職員で、今回の視察の担当であるMさんと相談して、都知事用に資料集を用意することにした。
 これまでの現場での経験やインタビューなどから、国立公園の管理手法や特徴がおぼろげながらわかってきていたが、具体的なデータや資料を調べるところまで手が回っていなかった。研修期間も残り一年を切り、そろそろ報告書を作り始めてもいい時期だった。
 この頃、妻が歯科治療のため約3週間帰国していた。気候もよく散歩にはいい季節だが、一人では出かける気にもならない。買い物以外は土日もボランティアハウスにこもりきりで作業を進めた。
 マンモスケイブ国立公園から持ってきたもの、レッドウッド国立州立公園で集めたもの、インターネットのプリントアウトなど、相当な量の資料がある。東京都のMさんのリストに従って、断片的なデータや資料をまとめていく。
 国立公園の種類や数、リストなど基礎的な資料は時間さえかければできる。難しいのは、
 「国立公園局の組織の特徴はどこにあるのでしょうか」「職員の養成方針は?」といったものだ。
 また、利用者数、職員数、そして予算額といった具体的な数字を押さえるのにも苦労した。ボランティアは職員向けイントラネットにもアクセスできる。そこから情報を得ることもできたが、今後の情報の利用を考えると、あまり内部資料に頼るわけにもいかない。
 結果として、公表版の予算書やPR資料を調べ、わからない点はどんどん公園職員に質問することにした。


国立公園の管理組織

 このような作業から浮かび上がってきたのは、国立公園システムの発達と職員の分業制が切っても切り離せないということだ。
 国立公園局には16の職種(carrier field)があり、それぞれ専門的な教育が行われる。自然解説、環境教育、資源管理、メンテナンス、それぞれの分野のエキスパートが養成される。組織の運営全般に通じているのはジェネラリストたる一部の幹部職員だけだ。分業と専門教育が、この職員数2万人を擁し、国土面積の約3.4%に相当する390もの公園を管理する巨大組織の基礎を形作っている。

【表1】 国立公園局職員の職種(Career Fields)一覧
番号 職種 業務内容、求められる能力
1 管理及び事務
(Administration and Office Management Support)
国立公園局内のすべての部署における管理や事務補助を担当する職種である。予算、経理、人事、物品購入、財産管理などの幅広い能力が求められる。
2 文化資源管理
(Cultural Resources Stewardship)
公園の文化的資源の保存、保護、維持及び解説を担当する職員である。歴史、考古学、文化的景観、歴史的建築物、博物館管理、人類学などに関連する業務を行うとともに、州政府、地域の団体、部族政府に対して、指導や技術的補助を行う共同プログラムなどに携わる専門的職種である。
3 火災及び航空管理
(Fire and Aviation Management)
火災防止や(森林内の)燃材蓄積防止、組織的森林火災及び野火管理、航空管理及び使用、ならびに事故指揮システム(災害及び緊急時)などの特別な状況に対応するための専門的な技術を持った職種である。
4 歴史的保存技術及び技法
(Historic Preservation Skills and Crafts)
保存技術、保存の考え方、ならびに長期的なプログラムである保存及び技術研修(Preservation and Skills Training(PAST))や伝統的技法及び素材の使用などを含む歴史的財産の維持管理等保存のための技術に特化した専門的職種である。
5 情報管理
(Information Management)
コンピューターと通信技術のプログラム分野に関連する業務に携わる。GIS(地理情報システム)のような資源管理に関係したコンピューターのシステム、図書館業務を含む技術情報の保存と検索など、様々な分野にまたがる業務に携わる職種である。
6 自然解説、教育及び協力団体
(Interpretation, Education and Cooperating Association)
従来より公園内で行われてきた自然解説を担当する職員に加え、地域の教育プログラム及び公園の自然解説の内容を統合するような教育カリキュラムの作成を行っている職員、ならびに公園の協力団体と密接に関係しながら仕事をしている職員など、幅広い業務を対象とする職種である。
7 法執行及び資源保護
(Law Enforcement and Resource Protection)
米国公園警察(U.S. Park Police)を含む、法執行に従事している職種である。連邦法規及び規制、人間関係論、巡視活動、資源保護、ならびに犯罪捜査などに関する特別の研修を受ける。
8 維持管理
(メンテナンス、Maintenance)
技術職及び職人(WB給与体系に所属する職員:Wage Board(WB)Positionとは、連邦政府職員のうち主にブルーカラー的な業務に従事する職員を対象とする給与体系。これに対し、ホワイトカラー系の職員のポストは、General Schedule(GS)Positionsと呼ばれ、給与体系が独立している。)により構成される80を越える職種の系統(Classification Series)と施設管理者のような専門者集団に関係する職員により構成される職種である。研修コースの例としては、通常の維持管理プログラム、職業訓練コース、技術職(職人)及び専門免許取得プログラム、特別維持管理能力開発プログラムなどがあげられる。
9 自然資源管理
(Natural Resource Stewardship)
自然資源を保護し維持するために必要なツールに焦点を当てた学際的な職種である。職員の業務内容は、資源の特定、評価、モニタリングのための技術、一般的生態系管理と、NEPA(国内環境政策法)や他の環境法や政策の遵守などである。
10 組織開発
(Organization Development)
組織及び職員の能力開発、研修及び指導、教育ならびに機会均等に責任を負っている職員により構成される、さまざまな分野にまたがる職種である。
11 計画、デザイン(設計)及び建設
(Planning, Design and Construction)
計画及び施設開発サポート(環境影響評価、公衆の参画)、設計及び建設(建設場所や構造物ごとの規制要件及び許可制度など)、計画、設計及び建設のための技術的な補助を含む、学際的で他分野にまたがる職種である。
12 レクリエーション及び保全プログラム
(Recreation and Conservation Programs)
主として、国立公園局の直接の業務ではないレクリエーションプランナーとして、各種の技術補助プログラムに携わっている職員により構成される職種である。具体的には、河川・トレイル及び保全補助・助言(Rivers, Trails and Conservation Assistance)、長距離トレイル研究(Long-Distance Trails Studies)、パートナーシップ原生景観河川研究(Partnership Wild and Scenic Rivers Studies)、水力発電補助(Hydropower Assistance)、土地及び水源保全基金(Land and Water Conservation Fund)、連邦政府の土地を公園に(Federal Lands to Parks)、都市公園及びレクリエーションの復活(Urban Park and Recreation Recovery)、経費分担の挑戦(Challenge Cost Share Program)などの各プログラムに参加する職員などが含まれる。
13 リスクマネージメント(職業上の保健及び安全)
(Risk Management(Occupational Health and Safety))
保健及び安全規制遵守の観点から、生命・安全問題、職業安全及び健康法(OSHA)規制、職員及び利用者用施設及び事故の監査・評価、労働者補償プログラム(OWCP)に基づく苦情にかかわっている専門的な職種である。
14 専門的な職種
(Specialty Field)
特定の職種に分類されにくい幅広い分野にまたがる職業系列により構成される職種である。例としては、コンセッション管理、国際業務、土地管理、議会関連業務、広報、執筆及び構成などがある。
15 指揮、管理及び指導
(Supervisions, Management and leadership)
この職種は、各公園ユニット及び組織的な指揮・管理を達成すること、各職員及びグループの潜在的能力を発掘すること、個人及び組織の能力を増進し、チームごとの業務効率を向上させるという責任を負っている職種である。
16 重要な共通コンピテンシー(職員の能力)
(Universal Essential Competencies)
(*)
すべての職種において、あらゆるレベルの職員1人1人に求められる職員としての能力(コンピテンシー)のことである。これは、同僚や上司、チームなどからも、また国立公園局の適応指導(オリエンテーション)とミッション再確認研修プログラム、個人的教育と経験などから得られるものである。共通コンピテンシーは、全職種の基礎であり、全職員に非常に重要であるため、それ自体では独立した職種ではないものの、独立した項目としてこのリストに掲載している。
17 利用者管理
(Visitor Use Management)
特別公園利用許可(Special Park Use)管理、緊急医療サービス(EMS)、捜索及び救助、バックカントリー及び原生地域管理、利用者制限管理、公園の状況に関する社会・経済学的な分析の適用などについて責任をもつ職種である。

(出典:国立公園局ホームページ)

*:16番目のCompetenciesは職員に求められる能力であり、個別の職種をさすものではない。

 このような分業制にはメリットもデメリットもある。メリットは当然ながら教育の効率が高いということだろう。反面、分業が進めば、情報の共有や組織としてのまとまり、ビジターに対するイメージの統一が難しくなる。そうした点を補うためには、研修制度が重要だ。国立公園局には、外部の研修施設も含め、11の研修施設がある。

【表2】 国立公園局関係の研修施設等(11箇所)
1.内部研修施設(6箇所)
首都研修センター
(Capital Training Center)
ワシントンDC
連邦政府法執行研修センター
(Federal Law Enforcement Training Center)
ジョージア州
オルブライト研修センター
(Horace M. Albright Training Center)
アリゾナ州
(グランドキャニオン国立公園)
歴史保存研修センター
(Historic Preservation Training Center)
メリーランド州
国立保存技術及び訓練センター
(National Center for Preservation Technology and Training)
ルイジアナ州
マザー研修センター
(Stephan T. Mother Training Center)
ウェストバージニア州
2.外部研修施設等(5箇所)
アーサー・カーハート国立原生地域研修センター
(Arthur Carhart National Wilderness Training Center)
モンタナ州
公有地管理局
(Bureau of Land Management)
アリゾナ州
保全研究所
(Conservation Study Institute)
バーモント州
国立保全研修センター
(National Conservation Training Center)
ウエストバージニア州
国立省際火災センター
(National Interagency Fire Center)
アイダホ州

(出典:国立公園局ホームページ)

 こうした職員の養成システムにより、職員の能力、帰属意識、専門技術の向上が図られる。ユニフォーム、ロゴマークなどの体系だったイメージ戦略とあいまって、「パークレンジャー」という質の高い組織イメージを確立することに成功している。
 ただ、このように細分化された人事は、職員の母集団が大きいからこそ可能といえる。また、組織内部での縦割りが強まるなどの弊害もあるだろう。これに対し、国立公園局よりも若干広い管轄区域を持つ魚類野生生物局には、保護区関係の職員数は約3千人しかいない【3】。そのため、組織や管轄する保護区の運営方法などにも大きな違いがある。

 「より多くの利用者に高い満足を提供すること」、これが国立公園局の管理方針であり、それにより、国立公園は子どもから大人に至るまで、国民の圧倒的な支持を得ることに成功している。「国立公園は米国民の誇りだ」とさえ言われる。
 対照的に、国立野生生物保護区を管理する魚類野生生物局の管理方針は「野生生物優先」だ。野生生物の生息地の保護を優先するため、利用施設も少なく、受け入れている利用者数も相対的に見ると少ない。
 「野生生物は投票しないからね」とは、ある魚類野生生物局職員の言だ。
 日米の国立公園を比較するだけではなく、この魚類野生生物局の管理との3点比較を行うのが私の研修の特徴だった。研修を通じて感じたのは、両局の違いは、こうした利用者に対する姿勢に起因しているのではないか、ということだ。米国のような民主主義の国では、「票」がすべてを決めるといってもいいだろう。言い換えれば、有権者の人気がそのまま政治的支援に直結し、予算も職員数も増える。大きな予算と組織を得て、利用環境を整えるか、予算と組織は必要最低限に抑え、保全を優先するのか──。どのような戦略をとるかは、保護区の設立目的などにより異なる。

 こうして作業着手から三週間、あっという間に妻の到着日がやってきた。資料はようやく完成したが、部屋の中は散らかったまま。掃除もそこそこに、日本から帰ってくる妻を迎えに、アルカタ空港に向けて車を走らせた。


レストラン巡り

 次に着手したのは、公園近くのレストラン巡りだった。知事の訪問にあわせて、お薦めの店をいくつか準備しておく必要があると思ったからだ。私たちはいつも自炊していたので、地元のレストランをほとんど知らなかった。
 「このあたりで一番美味しいお店はどこですか?」
 いろいろな人に聞いて回ったが、それぞれ言うことが違う。結局、いろんな店を食べ歩いてみることになった。シーフード、中華、和食、イタリアン…。普段は行かないような高級なところにも、できるだけ小奇麗な服を選び出かけてみた。メニュー、量、チップ、営業時間、実に様々だ。
 何軒かまわって気が付いたのは、まず量が多いことだった。
 「量が多いんですね。おいしかったのですが食べ切れませんでした」
 ウェイターに、何気なく話しかけてみた。
 すると、「あまったものは詰めますよ」とか「メインディッシュの替わりに前菜を1品とって、それにスープとライスをつけてもいいと思います」「メインディッシュを2人分に分けることもできますよ」などアドバイスしてくれる。
 日本だと迷惑がられそうなやりとりも、むしろ歓迎されるようだった。徐々に、ウェイターやウェイトレスとの間合いもわかってきて、こうしたやりとりを楽しめるようになっていった。
 ウェイターやウェイトレスにいろいろ相談しながら食事を決め、自分が食べたいもの、飲みたいものをとり、満足して家路につく。単に注文をとって料理を持ってくるだけではない“サービス”が、そこにはある気がする。チップは単に食事代金の「10%」相当の経費ではなく、感謝の気持ちの現れなのだ。
 「そういえば、日本にも『心づけ』という習慣があるな」
 ふとそんなことが頭に浮かぶ。日本にも、忘れ去られようとする人と人との「間合い」のようなものがあるのかもしれない。

 一番近いアルカタの町でも車で片道40分はかかる。一ヶ所ずつレストランを回るのは大変だったが、この地域の食材の豊かさには正直驚かされた。そして、食事を通して学ぶことも多かった。大げさかもしれないが、こういう機会がなければ、この地域の料理や食文化に触れずにレッドウッドを去っていたかも知れない。
 こうして、思い出深い私製の「レストランガイド」が完成した。


国立州立公園の成立経緯

 レッドウッド国立公園は1968年に設立されたが、当時既に「Jedediah Smith Redwoods State Park」「Del Norte Coast Redwoods State Park」「Prairie Creek Redwoods State Park」という3つの州立公園が近接して設立されていた。国立公園は、将来それらの州立公園が連邦政府(国立公園局)に移管されることを想定して、それらを包み込むように公園区域が設定された。
 ところが、結局州立公園の移管は実現せず、国立公園局とカリフォルニア州公園レクリエーション局が、奇妙な同居関係をはじめることになった。外見はほぼひとつの公園だが、それぞれが自らの管轄地域のみを管理する。この状態は国立公園が設立されてから30年弱にわたって継続し、多くの業務重複と管理上の不都合を招き、両者の摩擦が顕在化していった。
 問題を解決するため、ハイレベルの話し合いの場(California Coordinating Committee on Operational Efficiencies)が設けられ、業務効率化のための勧告がなされた。
 勧告に基づき、カリフォルニア州公園レクリエーション局長と国立公園局地域事務所長間で、1994年に覚書が締結され、区域を接する国立公園(Redwood National Park)と3つのカリフォルニア州立公園を共同で管理するための枠組みが初めてつくられた【4】

 国立公園の設立が1968年、州立公園が1920年代から30年代にかけて設立されていることを考えると、この協力体制はごくごく新しいものであるといえる。


国立州立公園の共同管理

 「『国立州立公園』といっても、組織や予算は完全に独立しているんだ。覚書や、共同の管理計画に定めがないものは、それぞれ独自の規定に従う。制服も、イントラネットも違う。トランシーバーのチャンネルも独立しているんだ」
 州立公園との協力関係について職員に質問してみると、いろいろな苦労と工夫があることがわかる。
 予算については、覚書の一部を修正するための覚書を結べば、相互に融通することができるそうだ。カリフォルニア州政府が7月1日から新予算年度となるのに対し、連邦政府は10月1日から予算が切り替わる。予算年度のはざまで執行が難しい場合など、この予算融通の威力は大きい。
 また、両者の連携は、ゴミ収集を一元化するとか、外来生物対策などを一体的に行うなど、業務を公園の境界を越えて融通しあうものが多いこともわかった。
 さらに、覚書の内容からは、この協力体制が、体制、施設、知見ともに充実している国立公園が、州政府の業務を支援する色合いが強いことも読み取れる。象徴的なのは、州立公園の所長が、国立公園局の本部に連絡員として勤務していることだ【5】

写真9:プレーリークリーク・レッドウッズ州立公園のビジターセンター。州立公園の管理事務所を兼ねているが、規模は小さい

写真9:プレーリークリーク・レッドウッズ州立公園のビジターセンター。州立公園の管理事務所を兼ねているが、規模は小さい

写真10:レッドウッドインフォメーションセンター。国立公園局所有のビジターセンターで規模も大きい。写真向かって左側に星条旗とカリフォルニア州の旗が見える

写真10:レッドウッドインフォメーションセンター。国立公園局所有のビジターセンターで規模も大きい。写真向かって左側に星条旗とカリフォルニア州の旗が見える


 原生林は州立公園の方がずっと多いために、自然資源の財産価値としては州立公園の方が優れている。また、施設の整った宿泊用のキャンプサイトは州立公園にしかない。
 対照的に、国立公園側には伐採跡地が含まれていて、自然生態系の修復やモニタリング調査のための体制や機器が充実している。そのため、環境影響評価や科学的な調査など、科学的な知見が求められる業務は国立公園側が全面的にバックアップしている。
 また、一般的に予算や人員も国立公園の方がずっと余裕がある。ビジターセンターや野外学校のように、建設費も維持費もかさむような施設の多くも国立公園内に立地している。公園管理のための人員も多く、所有する車両の種類や台数も多い。
 国と州政府の共同管理といっても、両者それぞれに事情が異なる。こうした利害得失をうまく調整した上で、国立公園と州立公園の両所長が、トップ同士で密に連絡を取り合いながら管理を行っていることが成功の秘訣のようだ。

写真11:国立公園局が管理する野外学校。私たちの住んでいたボランティアハウスと同じウルフクリークという場所にある

写真11:国立公園局が管理する野外学校。私たちの住んでいたボランティアハウスと同じウルフクリークという場所にある

写真12:屋根に太陽電池パネルが設置されている屋外教室

写真12:屋根に太陽電池パネルが設置されている屋外教室

写真13:野外学校の内部。折りたたみ式のテーブルやいすが備えられている。壁の向こうは本格的な厨房が用意されている。バンガローもあり、合宿形式の自然教室にも対応することができる

写真13:野外学校の内部。折りたたみ式のテーブルやいすが備えられている。壁の向こうは本格的な厨房が用意されている。バンガローもあり、合宿形式の自然教室にも対応することができる

写真14:野外学校には大きな暖炉もある

写真14:野外学校には大きな暖炉もある


公園の独自財源

 「アメリカの国立公園には入場料収入がありますよね。ああいった予算はどうなっているんでしょうか」
 東京都のMさんからの質問だ。こうした公園の「独自財源」は、いつも予算不足に悩んでいる日本の自然公園の現場にとって、とても興味があることだ。
 国立公園の入場料収入は、その8割程度がそれぞれの公園の自主財源として扱われる(フィープログラム(第6話参照))。ただし、レッドウッド国立公園は入場無料の公園で、料金収入がほとんどない【6】

 州立公園はどうなのだろう。州立公園の職員に聞いてみる。
 「収入はあるんですが、州の財政に納付されてしまいます。だから、私たちが入場料を直接自分の予算として使うことはできません。金額は管理費と同額か、少し下回るくらいです」
 州立公園も国立公園同様、区域に入るだけなら無料だ。一般に、カリフォルニア州立公園は、キャンプ場などの利用拠点でのみ料金を徴収する方式をとっている。レッドウッド国立州立公園においても、ピクニックエリアを利用する場合には、自動車1台あたり4ドルの入場料金がかかる【7】


ビジターセンターなどでの収益

 国立公園内での物販は、非営利の協力団体が行っている。レッドウッドではRNHAというNGOがその協力団体にあたる。ビジターセンターを間借りして営業できるかわりに、その収益の一部を国立公園に寄付する取り決めを結んでいる。寄付は環境教育や自然解説の資料作成などに向けられ、お金として寄付する他、教材を作成したり印刷したりすることもある。州立公園にも同様の協力団体があるが、レッドウッドでは物販をするビジターセンターは1箇所だけで、収入はそれほど多くない。
 ビジターセンターで公園の地図や様々な図書、教材を購入できることは、ビジターからすれば魅力的だ。販売品目は事前に所長の承認を得る必要があるので、単なるおみやげものとは違う。買い物も、立派な「自然体験」なのだ。その上、購入代金の一部が公園に寄付されるため、「どうせ地図を買うならビジターセンターで買おう」と考える人も少なくない。
 物販担当の職員も、公園について簡単な受け答えができることが取り決めの中で決められている。会計のときに「この近くに1時間ほどで歩けるトレイル(歩道)はありますか?」とか、「おすすめの展望台はどこですか?」などと質問することもできる。インフォメーションデスクはいつも混雑しているので、買い物をしながらちょっとした質問ができるのはありがたい。非営利協力団体の職員がビジターセンターにいることで、結果としてビジターサービスが充実することも、公園側としてのメリットといえる。

(参考)
 国立公園局本局の協力団体である国立公園基金は、過去7年間で1億3,700万ドル(約150億7千万円)相当、その他の協力団体(個別の公園ごとの協力団体など)が、年間合計5千万ドル(約55億円)相当の寄付を行っている。協力団体からの寄付金の割合は決まっていないが、過去の寄付金の割合を平均してみると、年間予算が200万ドルまでの団体では18〜19%程度、200万ドルより大きな団体では22%程度が収益より寄付されているということだ(いずれも2004年当時)。
 なお、協力団体については、国立公園局長通達とマニュアルが定められており、その中で寄付金の取り扱いが定められている。


寄付の取り扱い

 寄付は、アメリカの自然公園と切っても切り離せない。2004年当時、国立公園局全体で年間5千万ドル(約55億円)相当が寄付されていたそうだ。
 レッドウッドの3つの州立公園は、いずれも寄付により設立された経緯がある。レッドウッド保護連盟(Save-the Redwood-League)が寄付を募って土地を確保し、それを州政府に寄付する形で州立公園が設立された(第11話参照)。また、グレートスモーキーマウンテンズ国立公園など、米国東部に所在する国立公園の公園買収にも、ロックフェラーのような富豪から一般市民に至るまで、多くの寄付が寄せられた(第6話参照)。
 協力団体に類似した団体として、国立公園の「フレンズグループ」という団体がある。これは、公園管理を支援するために広く募金を呼びかけることを目的に活動している非営利団体である。
 「こういったフレンズグループに寄付すると、税金控除の対象になります。税金として納める代わりに、自分の支持するNGOに寄付することを選ぶことができるのです」
 ある国立公園局の職員に聞いた話だ。アメリカでは個人の寄付金に対する税制控除の範囲などが日本に比べ広く、優遇されている。どうせ税金でとられてしまうお金なら、自分が重要と思うことに直接寄付しようと考えるのもわかる気がする。
 一方、国立公園局が直接寄付を受ける場合には、いろいろな制限がある。例えば、寄付金から職員の給与を支払うことは原則としてできない【8】。公園区域内の土地、建物などを寄付してもらうことが一般的なようだ。


その他の収益(有料施設)

 国立公園内にはユースホステルが1軒ある。この施設は、文化財でもある古い公園内の建物を、コンセッショナーと呼ばれる公園内営業権所有業者が借用し運営している。前述の協力団体と類似した契約が公園と締結され、収益の一部を公園に寄付している。ただ、現在は赤字経営のため、寄付も行われていない。それでも、国立公園からすれば十分にメリットがあるそうだ。
 「古い木造の施設の補修費用はばかにならないんだ。この契約の中には施設の補修が含まれているから、公園側は補修費用を負担しなくてもいい。また、お金のない学生など若者にとって、安価な宿泊場所があるのはとてもありがたいことだと思うよ」
 寄付収入がなくとも、国立公園側はさまざまな利益を得ていることがわかる。

(参考)
 国立公園局全体の営業権所有業者からの収入は、2002年度に3,900万ドル(約43億円)であった。


公園内での取締り

 「国立公園と州立公園の協力関係ができて、一番効果があがったのは何だと思う?」
 一体的な資源管理? 予算の弾力的執行? …なんだろう?
 「実は、取締りなんだ」
 国立公園局職員の権限が及ぶのは、法的には国立公園区域内だけである。しかしながら、スピード違反や植物の持ち出しなど違法行為の取締りを行う上で、『ここからは州立公園』だとか『州立公園から採ってき植物は管轄外だ』などと言っていたら規制を徹底することはできない。そこで、国立公園と州立公園との覚書には、「利用者の保護は協力して実施する」と規定され、国立公園局の職員も州政府職員も、お互いの公園境界を越えて取締り行為を行っている【9】


【1】レッドウッドにおける海域生態系のモニタリング計画策定のためのスコーピング会合
会合では、潮間帯、潮間帯上部の植生、潮間帯下部海中のそれぞれ3つのワーキンググループに分かれ、以下の点に関する議論が行われた。
  • 現在と将来の海洋生態系の健全性に関する検討
  • 海洋生態系の健全性に異常な変化を引き起こすストレス源の抽出
  • それらの異常な変化を早期に発見することのできる指標(バイタルサイン)の抽出
  • 異常な変化と認めることのできる変化について
  • インベントリー及びモニタリング計画のための調査のプロジェクト要綱を作成するために必要な情報の収集方法
【2】アメリカ国立公園の研修施設
資源管理職員向けの研修を担当するオルブライト研修所に対して、初代局長の名にちなんで名づけられた「マザー研修所」(ウェストバージニア州ハーパースフェリー)は、主に自然解説を担当するインタープリターを対象とした研修を行っている。
マザー研修所(Stephen T. Mather Training Center)
【3】アメリカの国立公園局と魚類野生生物局
2004年現在、国立公園システムの総面積は約3,400万ヘクタール、職員数は約20,600名であるのに対し、国立野生生物保護区はそれぞれ約3,850万ヘクタール、約3,000名(ただし、維持管理職員を含まない)。職員1人当たりの保護区面積は、前者が約1,650ヘクタール、後者が約8,200ヘクタールと約5倍の開きがある。なお、日本の陸地面積が約3,780万ヘクタールであることを考えると、この2つの組織が管理する面積がいかに広大なものであるかがわかる。
【4】レッドウッド国立州立公園における覚書
この覚書は1999年に見直された。その後、米国の各国立公園における管理の基本となる計画である「管理総合計画(General Management Plan:GMP)」が2000年に共同で策定され、実質的にも同一の公園としての管理体制が整った。
【5】覚書の内容
覚書で定められているのは、
  • 州政府は、州が所有する土地管理について国と協力体制を構築することができること
  • 国立公園局は、州政府の土地の管理について契約関係に入ることができること
  • 州政府のリエゾン(連絡員)を国立公園管理事務所に常駐させること、国立公園局はその人員のための事務所スペースを提供すること
  • 予算はそれぞれ独自に執行すること
  • 次の分野において協力して管理を行うこと:利用者保護と公衆の安全、広報、自然解説及び出版、資源管理、施設維持、設計及び建設、計画、マーク及び標識、ならびに政策の立案
  • 財産管理はそれぞれの機関が行うこと
 など。
【6】レッドウッド国立公園内の料金収入
国立公園内の有料施設としては自然学校がある。
国立公園のプログラムの一環として自然学校に滞在する場合には、1団体300ドル前後(プログラム料金含む)、施設のみの借用の場合には150ドル前後がそれぞれ徴収される。料金は後述の非営利協力団体(レッドウッドナチュラルヒストリーアソシエーション:RNHA)が徴収し、後に国立公園に寄付金として還元される仕組みをとっている。
【7】カリフォルニア州立公園の料金システム
いずれかの州立公園で入場料を納入すれば、同日中に他の州立公園を訪問しても入場料金を再度支払う必要はない。ただし、宿泊用キャンプサイトの利用料金などの会計は公園ごとに独立しており、その都度支払う必要がある。
【8】国立公園局における寄付金の使途
職員の給与支払いに充てることは原則としてできないが、臨時雇用職員の給与は例外とされている。
【9】レッドウッド国立州立公園における取締り
国立州立公園内を通過しているハイウェイ101号線は、公園管理者とは管轄が異なるが、公園は州の道路部局とも協力のための覚書を結んでおり、違法行為の現場等でその車両等に停車を求める権限を持っている。ただし、違法行為を行った者の逮捕は行わず、地元の警察が現場に到着するまで身柄を確保し、担当警察官等に引き渡す。なお、州立公園の法執行担当職員(パークレンジャー)は、州政府の警察官としての身分も有しており、必要な場合には公園区域外であっても、そこがカリフォルニア州内であれば州政府の職員として法執行権限を行使することができる。

<妻の一言>

〜豆腐作りと「トウフバーガー」〜

 今回ご紹介したイングリッシュアイビーの調査で、大学生ボランティアのエイミーさんと知り合いになりました。エイミーは私と同年代の女性で、ベジタリアンでした。作業をしながらエイミーといろいろ話をしていて、たまたま豆腐の話題になりました。
 「モモコは豆腐が作れるの? 作り方を教えてくれない?」
 「じゃあ、一緒につくってみる?」
 早速、週末に他のボランティアも誘って「豆腐パーティー」をすることになりました。

イングリッシュアイビーの調査でエイミーさんと

イングリッシュアイビーの調査でエイミーさんと

調査したトレイルの入口で。原生林には大木が立ち並んでいました

調査したトレイルの入口で。原生林には大木が立ち並んでいました


 このカリフォルニア州北部には、いわゆる「ヒッピー」のような人たちが多く、ベジタリアンといっても特別な人たちという印象はありません。エイミーは肉が嫌いなのではなく、家畜の扱いへの抗議からベジタリアンになったそうです。エイミーによれば、アメリカでは家畜を早く成熟させたり肉質をよくするために、大量のホルモン剤が使われているそうです。
 主人は、アメリカの豚肉で作るとんかつが大好物でした。ヒレ肉が1ポンドあたり2〜3ドルですので、衣に使う日本製のパン粉の方がずっと高いくらいです。分厚いのにジューシーで柔らかく、揚げたてのとんかつは確かにとてもおいしいものでした。ホルモン剤を使えば成長が早まるため、出荷までの期間が短縮できます。そのため飼料代などのコストを抑えることができ、かつ家畜も若いために肉質もやわらかいというわけです。
 主人は、「アメリカに肥満が多いのも、食肉などへの残留ホルモンが影響しているに違いない」などと言っていました。その真偽のほどはわかりませんが、確かに肥満が蔓延し、日本ではあまり考えられないような太り方をしている人も大勢います。

 ところで、私たちの豆腐作りは試行錯誤の連続でした。「豆乳」と「にがり」から作る豆腐ですが、にがりはネット販売で入手することができました。問題は意外にも豆乳の方でした。
 はじめに試したのは、飲料として販売されている豆乳でした。にがりを混ぜてもほとんど固形物ができない上に、その豆乳は「バニラ味」でした(チョコレート味などもあります)。
 そこで、今度は自然食品の店で香料無添加の豆乳を買ってきました。ところが、これもほとんど固まりません。薄めてあるのか、凝固しないような薬品が入っていたのかもしれません。
 仕方ないので、豆乳を大豆から作ることにしました。幸い、インターネット上で豆乳の作り方を見つけることができました。ミキサーですりつぶしてから煮て漉すというもので、一見簡単そうでした。

ミキサーですりつぶします(このあとミキサーが壊れました)

ミキサーですりつぶします(このあとミキサーが壊れました)


 大豆は納豆を作るため、アジアンマーケット(アジア系の食材を扱う小さな食料品店)で大目に買ってきていました。ただ、「ミキサー」がありません。購入しようとネットで調べましたが、見つかりません。スーパーマーケットで探したところ、アメリカでは「ブレンダー」と呼ばれていることがわかりました。それも安いのは30ドル(約3,300円)くらいです。早速購入してみましたが、何と2〜3回使っただけでモーターが焼き切れてしまったのです。
 「これは不良品だよ」
 主人は早速スーパーに返品しました。買ったばかりということもあり、すぐにお金を返してもらえました。そのお金でもう1台購入しましたが、結果は同じでした。
 「ブレンダーはいいものを買わないと駄目よ」
 マンモスケイブのボランティアコーディネーターのメアリーアンさんに言われました。
 確かにミキサーはピンキリで、高いものはお値段も一桁違います。私たちが買ったものでは、せいぜいシェイクかフルーツジュースくらいしか作れないそうです。
 今度はカスタマーサービスに電話をして、修理をお願いすることにしました。
 主人が電話したところ、「あんまり固いものをすりつぶしてはだめなのよ」と諭された(?)そうです。

 それからしばらくして、マンモスケイブのルームメイトが、小さいフードプロセッサーを買ってきました。みじん切りしかできない簡単なものですが、私たちの落胆振りを見かねて、「これを試してみたら?」と貸してくれました。
 フードプロセッサーで大豆を刻んでから、ミキサーにかけてはどうか、というわけです。水に浸した大豆をフードプロセッサーにかけると、ちょうど引き割り納豆のようになります。それをミキサーに入れて、恐る恐るスイッチを入れます。水も多めに加えることにしました。今度はモーターがよく回り、焼き付く臭いもしません。

 こうして、ようやく初めての豆腐ができました。まだまだできは悪くすぐ崩れてしまいます。できた豆腐の量も思ったよりずっと少ないものでした。それでも、食べてみると日本で売られている豆腐よりずっと大豆の味がしました。それに、豆乳を煮るときの匂いが何とも言えません。豆腐がうまくできるまでに、何度も何度も、つぶし損ねた大豆を食べましたが、これもいい思い出になりました。カリフォルニア州に来てからは、非遺伝子組換えのオーガニックダイズも手に入るようになりました。

 ところが、うまく豆腐が作れるようになってから、ちょっとした問題が浮上しました。当然のことではあるのですが、豆腐を作ると大量のおからが出ます。それも、すりつぶしがうまくいかないと、豆粒がかなり残ります。このおからを使った卯の花をどんぶり一杯食べるのは相当大変でした。ネットでも、豆乳愛好者が豆乳メーカーから出るおからの処理で困っているような投稿が寄せられていました。
 「おからでソーセージが作れるらしいよ」
 主人がなにやらあやしいレシピを見つけてきました。
 大豆もタンパク質だから、ベジタリアン向けの「肉製品」の材料として使われているそうです。つなぎは? 割合は? いろいろ試してみることにしました。
 結論から言うと、おからから作るハンバーグが一番おいしいように思えました。それも、「オカラバーガー」がいいようでした。トマトケチャップ、マスタードをたっぷりつけて、レタスとチーズと一緒にパンに挟みます。適度に豆粒が残っているので、歯ごたえがあります。鶏肉を練りこむ方法もあるようですが、そのままの方が大豆の風味が生きるようでした。
 エイミーたちとのパーティーでは、あらかじめ作っておいたオカラバーグで、各々「ベジ(タリアン)バーガー」をつくり、それを食べながら豆腐作りをしました。バーガーも豆腐もなかなか好評でした。
 ご参考まで、以下に私たちの豆腐の作り方をご紹介させていただきます。これは、以前「北海道有機農業協同組合」のホームページに掲載されていた、手作り豆腐の作り方を参考にしたものです。自己流の部分も多く、レシピの書き方にもいい加減なところもあると思いますが、あらかじめご容赦ください。

<自己流豆腐の作り方>

(材料)

  • 乾燥大豆 300グラム
  • にがり 約9グラム
  • 大豆300グラムをきれいに洗い、夏は12時間、寒い季節は24時間程度水につけます。大豆は驚くほどふやけて大きくなるので、少し大きめのボウルなどに入れて水をたっぷり入れます。途中で水を2〜3回交換します。
  • 1の大豆に水を少量加えすりつぶしてクリーム状にします。まずフードプロセッサーで荒く刻んでからミキサーにかける方が確実かと思います。最初は豆を少なめに入れ、徐々に量を増やし、水を少しずつ加えながらすりつぶします。
    【ポイント】
     水を大目に使った方が、ミキサーには負担が少ないようです。ただ、水が多すぎると、次にこの液体(生呉(なまご)と言うそうです)を加熱するときに苦労するので、次の3で加える水の量で調整します。水が多すぎると鍋に入りきらないので注意が必要です。うまくクリーム状になると豆腐の量が増え、おからの舌ざわりも良くなります。
  • 2の生呉を大き目の鍋に入れ、水1.5リットルを加え、強火にかけます。2で水が増えてしまっている場合には、鍋の大きさに合わせて水の量を調節します。沸騰してから8〜10分ほど煮ます(豆乳のいいにおいがしてきたらそろそろ沸騰する頃です。沸騰するときは急に泡が出てふきこぼれますので、沸騰しそうになったところで弱火にするといいと思います)。
    【ポイント】
     焦げやすいので厚手のなべを使い、鍋底をこそぐように木べらでかき混ぜます。加熱すると泡が出てかなり量が増えますから、鍋はなるべく大きなものがいいと思います。
  • 3を熱いうちに漉し袋に入れて絞ります。絞り汁は冷めないように手早く次の鍋に移します。この絞り汁が豆乳、絞りかすがおからです。
    【ポイント】
     とにかく熱くなりますから注意してください。漉し袋は、手ぬぐいを袋状に縫い合せてつくりました。絞りづらいですので、2段重ねの蒸し器があれば、その上段に漉し袋を置いて、木べらで押しながら絞ると、作業が楽だと思います。
  • 豆乳を弱火にかけ、70℃から75℃くらいに温めます。適温になったところで、にがり9グラムをカップ半分くらいのぬるま湯に溶いて、豆乳に少しずつ加えながら、静かに十文字にかき混ぜます。しばらくすると澄んだ部分が出てくるので、そのまま15分くらい置いておきます。
    【ポイント】
     4の作業が手早く終わると、大体80度くらいになります。その場合には、加熱しなくて大丈夫です。9グラムのにがりの量は、小さじ2杯弱です。加えたにがりは、後で豆腐を水につけて抜いてしまいますので、足りなくさえなければ量はそれほど気にしなくてもいいようです。私たちは通信販売で500グラム入りのにがりを購入しました。湿気ると溶けてしまいますので、なるべく小さい袋の方が扱いやすいようです。液体のにがりもあるようですので、その方が便利かもしれません。
  • ざるに布を敷き、そこに固まった豆乳をおたまですくい入れます。すべて入れ終えたら、布を豆乳の上に畳み込むようにかぶせ、その上から重しを乗せます。重しは鍋やボウルに水を入れたものを代用しました。大体15分くらいで固まります。
  • 固まったら取り出して、水に入れてさらします。約1時間でにがりが抜けます。作りたてを食べた方がおいしいと思いますが、保存する場合には、豆腐を水につけて冷蔵庫に入れておきます。

<オカラバーグの作り方>

 これも完全な自己流です。オカラバーガー用に作っていますので、ハンバーグのようにして食べるには少し物足りないのではないかと思います。その際は、お肉を加えたり、ソースを工夫したりしてみてください。

(材料)

  • おから
  • つなぎ(小麦粉、パン粉、卵など)
  • おからの「でき」を見ながらつなぎを入れます。大豆の粒が多く残っているときはつなぎを多めにするといいと思います。小麦粉はつなぎとして強力ですが、入れすぎると粘りが出てきてしまいます。パン粉またはちぎったパンを入れるとまとまりやすくなります。私は卵を必ず入れましたが、あまり入れすぎると硬くなってしまうようです。
  • 整形したものをオーブンに入れます。鉄板にクッキングシートを敷いてハンバーグを並べるときれいに焼きあがります。180度から200度で10分から15分程度焼きます。焼きすぎるとぱさぱさしてしまいます。あまり焼き目はつかないようです。
  • 焼きあがったオカラバーグをパンに挟みますが、その際レタス、チーズ、マスタード、トマトケチャップを好みで加えます。ピクルスなんかをはさんでもいいと思います。

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(記事・写真:鈴木 渉)

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。

〜著者プロフィール〜

鈴木 渉
  • 1994年環境庁(当時)に採用され、中部山岳国立公園管理事務所(当時)に配属される。
  • 許認可申請書の山と格闘する毎日に、自分勝手に描いていた「野山を駆け回り、国立公園の自然を守る」レンジャー生活とのギャップを実感。
  • 事務所での勤務態度に問題があったためか以降なかなか現場に出してもらえない「おちこぼれレンジャー」。
  • 2年後地球環境関係部署へ異動し、森林保全、砂漠化対策を担当。
  • 1997年に京都で開催された国連気候変動枠組み条約COP3(地球温暖化防止京都会議)に参加(ただし雑用係)。
  • 国際会議のダイナミックな雰囲気に圧倒され、これをきっかけに海外研修を志望。
  • 公園緑地業務(出向)、自然公園での公共事業、遺伝子組換え生物関係の業務などに従事した後、2003年3月より2年間、JICAの海外長期研修員制度によりアメリカ合衆国の国立公園局及び魚類野生生物局で実務研修
  • 帰国後は外来生物法の施行や、第3次生物多様性国家戦略の策定、生物多様性条約COP10の開催と生物多様性の広報、民間参画などに携わる。
  • その間、仙台にある東北地方環境事務所に異動し、久しぶりに国立公園の保全整備に従事するも1年間で本省に出戻り。
  • その後11か月間の生物多様性センター勤務を経て国連大学高等研究所に出向。
  • 現在は同研究所内にあるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ事務局に勤務。週末、埼玉県内の里山で畑作ボランティアに参加することが楽しみ。