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アメリカ横断ボランティア紀行

No.001

Issued: 2006.03.24

アメリカでの研修!?

目次
突然の内示
「資源管理」との出会い
国立公園局受入れの「三つの条件」
ボランティアプログラムへの応募
受け入れ先が決まらない! ──ボランティアの希望と、公園側のニーズ
ボランティア制度と無料の宿舎

 日本の“レンジャー”が体験したアメリカの国立公園での長期滞在ボランティア。それは、日本の“ボランティア”観を覆す衝撃的な体験だった──。
 アメリカ合衆国(以下「アメリカ」)におけるボランティアへの社会的な認知度は高く、またボランティア自身もプライドを持って、明るく楽しく活動している。豊かなアメリカとはいえ、ボランティアの貢献なしでは連邦政府の現地業務は回らない。ボランティアは無給のスタッフとして行政組織の重要な一翼を担っているのです。主体的で明るく楽しく、いわば、直接民主主義の発露として社会に関わっているボランティア。アメリカ国民の誇りともいえる国立公園で働くパーク・ボランティアは、その典型といえる。
 本シリーズでは、アメリカの国立公園で長期滞在のパーク・ボランティアとして公園管理の表裏を実際に体験してきた環境省職員の鈴木さんに、さまざまなエピソードをご紹介していただき、併せて、アメリカ各地の国立公園の魅力とそれぞれの公園の抱える問題などについても言及いただく予定。先日お送りした「導入編」を受け、いよいよ今回から、待望の「本編」をスタートします。

現在位置...(日本〜アメリカへ)

現在位置...(日本〜アメリカへ)


突然の内示

 2001年の8月初旬のある日、役所の内線電話が鳴った。
 「あ、鈴木君? Aですけど。ちょっと来てくれないか?」私たちレンジャーの人事を担当しているA調査官(当時)からだ。
 「何でしょう?」
 「先週いなかったな、夏休みか? それでちょっと連絡が遅くなったんだが、君、海外研修希望してたよな。」
 「はい。」
 「国際協力事業団(当時、以下「JICA」)の海外研修への推薦が決まったから。応募書類は後から渡すけど、締め切りは確か8月中旬だから急いだ方がいいよ。」
 「ありがとうございます! ...でも、他にも希望してた人がいたんじゃないんですか?」
 「君に決まったんだからいいんだよ。」
 「実はTOEFL受けてないんです。」
 「...(あきれて)とにかく、決まったことなんだから受けてみろよ。アメリカにでもどこにでも電話して、結果を早く送ってもらえばいいだろう。何か困ったら相談に来るように。」

 その前の週、私は夏休みを利用して、鹿児島県の口永良部島を訪れていた。隣の屋久島に比べると何の変哲もないようなところだが、2〜3日滞在しただけで、仕事のストレスも消し飛んでしまうような不思議な島だった。のんびり釣りをしたり、読書をしたり、宿のご主人たちと酒を飲んだりしているうちに、短い休暇はあっという間に終わってしまった。
 夏休みから戻ると、仕事が山積していた。その上、この降って湧いたような研修の内示。もちろん、嬉しくないはずはないが、応募締め切りまで3週間しかない。特に問題なのは、応募のためにTOEFL【1】で550点以上の成績証明書が必要なこと。申し込みから受験、その後証明書を受け取るまでの時間を考えるととても無理に思える。でも、こんな機会は二度とない【2】。夏休みをとっていたために一週間遅れたことが悔やまれた。
 幸い、TOEFLのコンピューターテストというものがその頃導入されていたことがわかった。東京なら随時受験可能だ。あとは、点数がとれるかどうか。思い切って大手語学学校に駆け込むことにした。
 当時JICAでは、度重なる研修制度への批判により、研修生受入れのためのいわゆる「省庁枠」を既に撤廃していた。役所の推薦状がもらえるとはいえ、一般の優秀な受験者と競い合わなければならない。受かるかどうかわかりもしない研修への応募のために、かろうじて残っていたボーナスをつぎ込むことになった。


「資源管理」との出会い

 語学学校では土日、夜間を縫って、久々の「一夜漬け」となった。そのかいあってか、テストの手ごたえは上々だった。あとは結果を待つのみ。試験後に示される点数のレンジ(可能性のある点数の幅)からすると、ぎりぎり550点に届きそうだ。試験終了後に職場へ戻ったものの、さすがに頭に血が上ってすぐには仕事が手につかなかった。
 次は応募書類の作成だ。まず、行き先をアメリカ(合衆国)の大学院進学に絞った。国立公園の制度を検討する際、必ずといっていいほど「アメリカではどうなっているのか」ということを聞かれる。制度の性格からすれば、むしろ英国の方が参考になるはずだし【3】、他の欧州諸国の制度にも見るべきところは多い。しかし、役所の研修であるならやはり「国立公園発祥の地」アメリカに行かなければならないという義務感めいたものがあった【4】

 ところで、日本で国立公園や自然保護を学ぶには主に造園学科や林学科に進学するのが一般的だ。そこで、留学先の学部について、Park Management(公園管理)やLandscape Architect(造園)、Forestry(林学)、Nature Conservation/ Preservation(自然保全/保護)などで検索してみたが適当な学部が見つからない。Park management and recreation(公園管理及びレクリエーション)は、どちらかというとレクリエーションに重きが置かれている。
 たまたまNatural Resource Management(自然資源管理)という修士課程があることがわかった。自然を資源のひとつと考え、その「資源」について研究したり、管理の手法を研究するものだ。これが「資源管理(Resource Management)」との初めての出会いだった【5】


国立公園局受入れの「三つの条件」

 電話で問い合わせたところ、TOEFLの点数は何とか550点を超えていた。ようやく応募用紙を提出した直後、9月11日にアメリカで同時多発テロ事件が発生した。徹夜明けだったこともあって、すぐには現実のものと思えなかったが、何やら研修の先行きを暗示しているようで不安になった。もともとアメリカは危険なところという印象があったが、さらにその思いが強まった。
 一方、仕事の方も急な展開を見せていた。当時環境省は、遺伝子組換え生物による生態系影響を防止するための新法制定作業に着手していた【6】。私もその準備室(通称「タコ部屋」)に放り込まれることになった。ところが、その作業が難航し、予定していた1月の大学院入学を見送ることになった。研修の規定では、3月31日までに出国できなかった場合、研修生としての資格を失ってしまう。

 幸い、当時ワシントンDCの日本国大使館に、環境省からN書記官が出向していた。Nさんを通じて、内務省の国立公園局(国立公園システムを担当)及び魚類野生生物局(国立野生生物保護区システムを担当)に私の実務研修を打診していただいた。
 国立公園局からの回答は、ワシントンDCの本部には受入れのためのスペースがないので、ボランティアプログラムを利用して現場研修を勧めるというもの。ただし、(1)研修先を自分で探すこと、(2)1〜2箇所の公園で腰を据えて研修すること、(3)研修期間の上限は合計18ヶ月間とすること、という三つの条件が付いていた。魚類野生生物局からは、「受入れは可能だが、期間の後半、ワシントンDCの本部で」という回答を頂いた。
 こうして、前半の18ヶ月分の受け入れ先を自分で探すことができれば、実務研修が可能なことがわかった。

ボランティアプログラムへの応募

 各国立公園のボランティアプログラム募集情報は、国立公園局および連邦政府のホームページに掲載されている【7】。地域、期間、職種など様々な条件で検索ができ、募集案件ごとに、業務の内容、求められる能力、募集期間、応募方法、宿舎、交通費の有無、勤務期間など、条件が詳細に掲載されている。情報は随時更新され、人気のあるポストはすぐに埋まってしまう。とにかく毎日このホームページを眺めることから作業を始めた。

 当初は、国の公務員という安定した身分で、担当の課長と大学教授の推薦状があればまず落ちることはないだろうという甘い考えがあった。おまけに、複数の公園に申し込んで採用された場合に、お断りするのが申し訳ないからと、本命を絞って申し込むという無駄な気の遣い様。ところが、公園からの返事は皆あいまいで、何の反応もない公園も1つや2つではなかった。国際ボランティアはビザの手続きなど何かと手間がかかるため、余程それまでの実績や強い推薦がない限り、公園側としてはむしろ避けたい人材といえる。また、こちらからの照会に対し、あまり興味がない、もしくは採用の見込みがない、募集の趣旨に合っていない、という場合には得てして反応はない。むしろ、それが婉曲的な「断り」を意味する。日本の感覚で、「メールが届いているか?」「結果はどうか?」などとしつこく聞くと、ようやくあいまいなメールが届く。それらのメールを何度も読み返していると、次第に「残念ながらあなたを採用する予定はない」ということが行間からにじみでてくる。
 こうして、応募用紙やメールの写しはどんどんたまっていった。それでもとにかく次の応募先の申請書類を作り、国際郵便で郵送してメールを待つ ──その繰り返しだった。次第に自分の置かれた厳しい状況がわかってきた。


受け入れ先が決まらない! ──ボランティアの希望と、公園側のニーズ

 まず、ヨセミテ、イエローストーン、グランドキャニオン【8】などの大物狙いをあきらめた。有名な公園はとにかくボランティアポストに対する競争が厳しい。また、アメリカの有名国立公園の多くは、ロッキー山脈及びその西側に位置し、一般的に気象条件や立地条件が厳しく、長期ボランティアのための宿舎の確保や買い物の世話などが大変だ。冬期間は公園区域の大部分が閉鎖されるところも多く、ボランティアを通年受け入れている公園もほとんどない。
 職種の方も手当たり次第応募することにした。歩道の補修、ボランティアの管理補助、野外でのモニタリング調査、資料整理など、長期ボランティアの口があれば何でも応募した【9】
【写真:有名国立公園(ヨセミテ、イエローストーン、グランドキャニオン)】

ヨセミテ国立公園 ハーフドームビスタより

ヨセミテ国立公園 ハーフドームビスタより

イエローストーンBeehive間欠泉

イエローストーンBeehive間欠泉

グランドキャニオン_展望台

グランドキャニオン_展望台


 次第に、「ビジターサービスへの応募をいただいたが、あなたのパブリックスピーキングの能力はどの程度か。」という照会や、「2週間程度ならゲストとして受け入れることができる。宿舎は公園のバンガローを確保する。」などといった具体的な反応が返ってくるようになった。
 ボランティアへの応募には、上司、担当教官など本人をよく知っている3名からの推薦状(家族、友人にはその資格はない)、履歴書、論文(エッセー)などを提出する必要がある。受入れ側のボランティア・コーディネーターは、書類の内容から判断して、有力な候補者について、推薦者一人ひとりに、直接メールや電話で問い合わせを行う。推薦者も、候補者のよい面だけでなく、短所なども含めて本人の適性を具体的に伝えるのが一般的だ【10】。ところが、日本から応募した際には、推薦者への照会は一度もなかった。

 このような応募と選考のプロセスの中で、自分のニーズに合い、かつ先方にもメリットのある研修とは何か、ボランティア・コーディネーターの重要性や役割、公園による対応の違いも学ぶことができた気がする。
 ボランティアも公園も、お互いのニーズが合致するようなポスト、人材を探すことに必死なのだ。公園から「現場経験はあるのか」「専門は何か」「日本からわざわざくるのか?」など、具体的な照会が来れば、少なくとも可能性はゼロではない。ただ、そこで日本風に「私にお手伝いできることなら何でも」、とか「私は英語はあまりできない」【11】と遠慮気味に回答すると、概ねやりとりは終わってしまう。こちらの研修の目的、興味のある業務、保険、手当て、住居、滞在期間、ビザの種類、などをここぞとばかりに具体的に回答するとその後の反応がよかった。

ボランティア制度と無料の宿舎

 ボランティアの応募のコツとして、はじめにわかっていればよかったと思うのは宿舎の状況だ。特に、私たちのような滞在型の長期ボランティアの採用は、ボランティア・ハウスの空き状況次第といっても過言ではない。
 私の場合は民間住宅かアパートを借りる予定だったので、「住居を借り上げることも可能なので相場を教えてください。」と応募書類に記して得意になっていた。アパート代を払ってでもボランティアに来るのだから、公園側としても断る理由もないだろう、喜んで受け入れてくれるのではないか、という思い込みだ。ところが実際は、国立公園の周りには大抵ごくごく小さな集落しかない。大都市部でもなければ賃貸アパートはなく、一戸建てを借りるのは通常1年間以上の契約が必要だ。家具も何もないし、通勤も大変である。そんな理由があるからこそ、家具つきのボランティア宿舎を準備しているのだ。公園側が民間家主との面倒な契約をわざわざ仲介する理由がない。わざわざ面倒な民間住宅の紹介を依頼してくる外国人を採用することはむしろ避けたいことだったろう。
 山岳地域にある有名国立公園では、宿舎事情が悪く、臨時職員の宿舎確保もままならない。相部屋やトイレや風呂のない古いバンガローを活用したとしても、ボランティアの需要に十分には対応できない。その結果、英語もろくに話せない私たちのようなボランティアが採用されることは難しい。
 また、大学生の夏休み期間中の競争率はさらに高い。学生は、夏休み期間中、学校の宿舎から追い出されてしまう。友人宅に転がり込むか、その期間だけ賃貸アパートや下宿を探すことになる。そんな学生たちにとって、無償の宿舎が提供される国立公園でのボランティアは魅力的だ。さらに、インターンシッププログラムを活用することができれば、大学の単位と奨学金まで手にすることができる。夏の間、国立公園が学生ボランティアや大学生アルバイトの臨時職員で膨れ上がるわけである【12】


マンモスケイブ国立公園のボランティア・ハウス

マンモスケイブ国立公園のボランティア・ハウス

 都市に近く、通勤が可能な公園ほど公園の宿舎に余裕があり、長期ボランティア受入れの可能性が高くなるということもわかってきた。また、私たちのような夫婦でのボランティアは公園からは人気があるということも、アメリカ到着後になってわかった。1部屋で2人分の労働力を確保できること、また、夏休み期間を除いてリタイア組が多くなる中で、若者(?)夫婦がオフシーズンを通じて長期間勤務するというのは、公園にとっても魅力だった。最初からこのことをアピールできていれば、私たちの研修先選びはもう少し楽になったはずだ。


<国立公園紹介>

ヨセミテ国立公園 グレーシャーポイントよりヨセミテバレーを望む

ヨセミテ国立公園 グレーシャーポイントよりヨセミテバレーを望む

○ヨセミテ国立公園(Yosemite National Park)

 カリフォルニア州東部のシエラネバダ山脈に位置し、特に、美しい氷河地形を見せるヨセミテバレー(ヨセミテ渓谷)の景観は有名。サンフランシスコからもツアーバスがでており、比較的容易に訪問できることも魅力のひとつ。国立公園設立は1890年とイエローストーンよりも新しいが、それに先立つ1864年に、連邦政府がカリフォルニア州に公有地を公園設立目的で割譲している(「Federal Grant」と呼ばれる)。この公有地割譲が後のイエローストーン国立公園設立の雛形となったともいわれており、アメリカの国立公園設立の胎動は、事実上このヨセミテから始まったといえる。
 なお、1984年には、公園面積の9割がウィルダネス(原生地域)に指定されるとともに、世界遺産にも指定された。


イエローストーン国立公園 アーティストポイントよりイエローストーン川

イエローストーン国立公園 アーティストポイントよりイエローストーン川

○イエローストーン国立公園(Yellowstone National Park)

 イエローストーン国立公園は世界初の国立公園として1872年に設立された。公園区域は、ワイオミング州、モンタナ州及びアイダホ州の3州にまたがり、隣接するジョンロックフェラージュニア記念パークウェイ、グランドティートン国立公園、並びに周辺の国有林が一体となって、アラスカを除くアメリカ合衆国大陸部では最大規模の自然地域を形成している。
 オールドフェイスフルなどの間欠泉が多数存在していることで有名だが、バイソン、オオカミ、エルク、ムース、ハイイログマ、ペリカン、ハクトウワシなどの野生生物が豊富なことでも知られる。また、それを目当てに詰めかける利用者による渋滞も有名で、自分で野生生物を探すよりも、路上駐車された自家用車の列を探す方が確実なほど。雄大なカルデラ地形の中をゆったりと流れるイエローストーン川や、様々な火山地形やビジターセンターなど見所は多く、ぜひじっくり腰を据えて滞在したい公園だ。
 なお、この国立公園は、1976年に国際生物圏保護区、1978年には世界遺産に指定されている。


グランドキャニオン国立公園の看板前

グランドキャニオン国立公園の看板前

○グランドキャニオン国立公園(Grand Canyon National Park)

 グランドキャニオンは、アリゾナ州北部に位置する文字通りの巨大な渓谷。コロラド川により浸食された大渓谷は、深さ1マイル(約1.6キロメートル)、幅18マイル(約29キロメートル)、延長277マイル(約440キロメートル)にも及ぶとされ、国立公園の雄大な展望もその一部を眺めているにすぎない。
 コロラド川の南側に位置するサウスリムには、この公園内最大の利用拠点であるグランドキャニオン・ビレッジがあり、インフォメーションセンター、ホテル、さらには大きなスーパーマーケットまでそろっている。
 ほとんどの主要な展望台には自動車で到達することができるが、陰影の深い素晴らしい風景が広がる日の出、日没時になると、展望台周辺の道路、駐車スペースはかなりの混雑となる。
 この公園は、1908年に国立記念物公園(National Monument)に指定された後、1919年に国立公園に昇格し、1979年には世界遺産に指定されている。


【1】TOEFL(Test of English as a Foreign Language)
英語を母国語としない人たちのための英語能力判定テスト。日本では2000年10月より、コンピューターでの受験(CBT(Computer Based Test)形式)も可能となっている。
TOEFL
【2】機会
役所では、毎年1回「職員カード」というものを提出することになっている。カードには、自分の健康状態や仕事の状況とともに、勤務先や研修の受講などに関する要望を記入することができる。特に若い職員は、期待に胸を膨らませながらこのカードに勝手な希望を書き綴る。しかしながら、職員の逼迫している環境省では、勝手な希望などそう聞き入れてはもらえない。それでなくとも、毎年毎年、心身に不調を来たす職員が跡を絶たない。私も、海外研修については一貫して毎年要望してきたが、どちらかというと七夕の短冊や合格祈願の絵馬を書くような気持ちだった。
【3】国立公園制度
日本の国立公園は、「地域制公園」として設置・管理されている。土地の所有にかかわらず、規制の網掛けをするもので、英国などの国立公園制度も、同様の制度をとる。
一方、アメリカの国立公園はほとんどが国有地であり、いわゆる営造物公園と呼ばれる。日本では、むしろ都市公園の制度に近い。
【4】「国立公園発祥の地」アメリカ
実際にアメリカの国立公園を訪れてみると、例えば、イエローストーンのオールド・フェイスフル地区のビジターセンターが日本国内の自然体験施設のデザインとよく似ていたり、アメリカの国立公園の子供向け教育プログラムが日本のプログラムの下敷きになっていたりと、アメリカの国立公園は依然として日本の国立公園の「お手本」だということをあらためて実感した。
【5】資源管理(resource management)
考えてみると、私と妻がアメリカで勤務することになった公園の部署も、資源管理や科学的な調査を担当するところが主だった。目立たないものの、アメリカの国立公園管理の根幹を成すもののひとつといえる。
【6】遺伝子組換え生物による生態系影響を防止するための新法制定
遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称「カルタヘナ法」)。2003年6月制定。
【7】国立公園のボランティアプログラム募集情報
ボランティアプログラム募集情報(国立公園局ホームページ)
連邦政府ホームページ
【8】ヨセミテ、イエローストーン、グランドキャニオン
ヨセミテ、イエローストーン、グランドキャニオン。アメリカの国立公園に行ってみようと思ったことのある方なら、どれも耳にしたことのある超有名公園ではないでしょうか。詳しくは、文末の公園紹介の欄参照。
【9】長期ボランティアの募集
中には、何週間もテントに泊り込んでのウミガメの調査や、水上飛行機でしか行けないアラスカの公園で水道もない小屋に泊まり込んでの調査補助というものもあった。個人的にはこのような調査も魅力的だったが、行政的な研修になりそうにもないし、そもそも、妻の了解も得られそうにない。残念ながら断念することとなった。
【10】ボランティアへの応募
実際、私たちがアメリカの国立公園でボランティア研修を始めて、次の任地を探すことになったときには、研修地の公園の上司などに、応募先のボランティア・コーディネーターなどから照会の電話やメールが相次いだそうだ。
【11】英語力
「英語はあまりできない」などと謙遜することはない。自分の英語力は、心配しなくともメールのやり取りと電話での会話から相当正確に先方に伝わってしまうものだ。
【12】夏期の学生ボランティア・臨時職員
夏の間、ビジターセンターでカウンターに立っている若い職員のほとんどは、このような大学生であることが多い。少し込み入った公園管理の話や、正確な事実関係が知りたければ、後ろの方に控えているベテラン職員に話を聞くのが無難だろう。

<妻の一言>

引越し準備

憧れのカントリーライフ!

憧れのカントリーライフ!

 渡米のための荷造り作業は、行き先も決まらぬまま進めることになりました。主人は毎日仕事や送別会で深夜の帰宅。土日出勤なども続きほとんど準備をしてくれません。引越しのための荷物の発送は、確実に送り届けるために大手宅配業者にお願いすることにしました。一番安いものでも1箱あたり25,000円の送料がかかってしまいました。
 アメリカで生活したことのある人、留学したことのある人、その他いろいろな方からアドバイスを頂きましたが、当然ながらボランティア宿舎に住んだことがある人はいません。何をどのくらい、どのように準備したらよいのか見当もつきませんでした。
 最終的には、機内預入れ手荷物が6つ、海外引越し便として巨大なダンボールが7箱という量になりました。引越し便の段ボール箱の中には、パソコン、炊飯器、テント、コッヘルセット、果ては習字セットや寿司桶などまで詰め込みました。ニューヨークやシアトルとは違い、ケンタッキー州の田舎では到底日本食材は手に入らないだろうということで、みそ、わさび、かつおぶし、だしの素などを荷物の隙間に押し込みました。そのようないい加減な荷造りでしたが、結果としてボランティアとしての生活で役に立ったものがいくつかありました。

  • 登山靴:足場の悪い山の中を歩き回るには、よほどしっかりとしたハイカットの登山靴が必要です。日本の山用品の店で購入した際には相当の出費で多少後悔しましたが、到着後1年半、毎日のように履くことになってはじめてそのありがたみを実感しました。なお、アメリカの靴屋さんにはあまりしっかりしたものがありません。また足の形も違うようです。
  • スパッツ:タイツのようなものではなく、いわゆるゲーターと呼ばれるもの。マダニやヘビ対策、とげのあるヤブを歩き回る際に絶大な効果がありました。
  • 薬:特に虫刺され、虫除け。森の中での作業に虫さされはつきもの。アメリカの虫刺され薬はなぜかあまりききません。虫除けは逆に強力で、肌に合わないこともありました。
  • 日本のハブラシ:とにかくハブラシは日本のものが一番。アメリカのハブラシはとにかくブラシの部分が大きく、つくりも相当おおざっぱです。
  • 日本食のレシピ:インターネットでも調べられますが、田舎の通信状態のわるいところでは、とにかくレシピ本が大切。ポットラック(持ち寄り)パーティーなどでは、寿司など日本食を期待されることが多く、いろいろ作っては持っていきました。
  • 巻き寿司セット:レシピとも関係しますが、寿司桶、しゃもじ、巻き簾は本当に活躍してくれました。特に、ごはんがくっつかないしゃもじは大変人気で、おみやげとしてあげると、とても喜んでもらえました。
  • 100円ショップの和風小物:日本からのおみやげとして、100円ショップの和風の小物を大量に持参しました。中でも布製品やうちわ、ちょうちん、おりがみなどは人気でした。公園の職員の方にインタビューしたり、食事に招待された際などのちょっとしたお礼として大活躍してくれました(ただ、日本風のお土産なのにほとんどが中国製というのはご愛嬌でした。)。

 ところで、お土産として持参したもののうち、マンモスケイブ国立公園の方に差し上げたところ「これは、南部の車の鍵に相当するものだな(equivalent to Southern car keys)」と言われたものがありました。何だかわかりますか? 実は耳かきのことです。
 女性の方に差し上げたのですが、こけしが付いたかわいいものだったので、しばらく髪留めとして使っていたそうです。あわてて使い方を説明したのですが、その際に前述のようなセリフが飛び出しました。確かに、トラックを乗り回す南部の男性は、よくその車の鍵で耳を掃除しています。
 なお、帰国時にはこの7箱の荷物は減るどころか、15箱にまで増えてしまいました。


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(記事・写真:鈴木 渉)

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〜著者プロフィール〜

鈴木 渉
  • 1994年環境庁(当時)に採用され、中部山岳国立公園管理事務所(当時)に配属される。
  • 許認可申請書の山と格闘する毎日に、自分勝手に描いていた「野山を駆け回り、国立公園の自然を守る」レンジャー生活とのギャップを実感。
  • 事務所での勤務態度に問題があったためか以降なかなか現場に出してもらえない「おちこぼれレンジャー」。
  • 2年後地球環境関係部署へ異動し、森林保全、砂漠化対策を担当。
  • 1997年に京都で開催された国連気候変動枠組み条約COP3(地球温暖化防止京都会議)に参加(ただし雑用係)。
  • 国際会議のダイナミックな雰囲気に圧倒され、これをきっかけに海外研修を志望。
  • 公園緑地業務(出向)、自然公園での公共事業、遺伝子組換え生物関係の業務などに従事した後、2003年3月より2年間、JICAの海外長期研修員制度によりアメリカ合衆国の国立公園局及び魚類野生生物局で実務研修
  • 帰国後は外来生物法の施行や、第3次生物多様性国家戦略の策定、生物多様性条約COP10の開催と生物多様性の広報、民間参画などに携わる。
  • その間、仙台にある東北地方環境事務所に異動し、久しぶりに国立公園の保全整備に従事するも1年間で本省に出戻り。
  • その後11か月間の生物多様性センター勤務を経て国連大学高等研究所に出向。
  • 現在は同研究所内にあるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ事務局に勤務。週末、埼玉県内の里山で畑作ボランティアに参加することが楽しみ。