No.083
Issued: 2018.11.09
ヒマラヤの氷河湖
- 岡内 完治(おかうち かんじ)さん
- (株)共立理化学研究所 会長
「誰でもどこでも使える、水質の簡易分析器」の研究・開発、製造・販売に従事。開発した簡易器材を使用して、現地で水質調査、指導…日本各地、中国、タイ、台湾、ベトナム、タイなど。
日本化学会会員、日本水環境学会会員、日本分析化学会会員…2011年技術功績賞受賞、大田区異業種交流グループ連絡会「産学連携広場」事務局長
著書:「だれでもできるパックテストで環境測定」…合同出版(株)
趣味:写真撮影…SSP会員、農作業、旅行、その他
世界で地球温暖化が進み、その例の一つが世界にある名だたる氷河が融けて短くなっていると言います。その内のひとつにヒマラヤ地区も挙げられます。氷河が融ける、現象的には単純ですが氷河では思わぬ脅威をもたらすのです。氷が融ければ水になるのですが、氷河では単純に融けた水が徐々に下流に流れるだけではありません。夏の昼間に融けた水は氷河の低い所に溜まります。しかし、溜まっている間に冬を迎えるとそこで再度、凍ってしまい、また夏になると水になる。これを繰り返していると下流に流れ落ちる前に氷河の凹み水が溜まって、池から湖になってしまいます。これを氷河湖と言っています。
氷河湖は土手である堤が氷で出来ているため、非常に不安定…毎年徐々に融けている可能性が高いのです。もし、その堤が決壊したら、溜まっていた水が一気に下流に流れ出し、下流にある村落が全滅してしまう危険性があります。可能であれば決壊の危険性のある氷河湖は脇に穴をあけて少しずつ流せばいいのですが、これは危険を伴う工事になるため、慎重にせねばなりません。なにか対策を講じるためにも現状を把握し、以前との差異を確認する必要があるのです。
この調査を日本山岳会が行うことになり、『日本山岳会 110周年記念科学調査』隊が結成、隊長の大森弘一郎氏に誘われて同行しましたので報告させて頂きます。
ヒマラヤの氷河湖は衛星から、位置と表面積は計測出来ています。今回の目的からすると場所も大事なのですが、一番知りたいのはそこの貯水量です。これは現地に行って水深を測らねばなりません。そこで水深を測ることを目的とする本隊と、詳細外形記録のための空撮隊とに分け、私は空撮隊に入り撮影をしてきました。その詳細は日本山岳会発行の「山岳 2017年 Vol112」号に大森弘一郎氏の報告書が掲載されておりますのでご覧ください。
実施は2016年10月12日に日本を出発。カトマンズからルクラに向かうはずでしたが、この年はモンスーン明けが遅く、悪天候のため飛行機が飛ばず、カトマンズで2日、先のルクラでもルクラで2日間待っても曇り。少し焦りもあって雲が切れたのを見て、ヘリコプターで谷沿いに飛んだのですが20分で引き返すことになり、やきもきしました。翌朝も雲が低く、暗い気持ちになったのですが上空は晴れているとの情報で飛び立つことにしました。
これが結果として素晴らしい情景の中に飛び込むことが出来たのです。谷沿いに上昇して行ったのですがゴジュンバ氷河に末端に差しかかろうとした頃から雲の切れ目が大きくなり、期待しながら進みました。
出発時には雲が低く、それでも峡谷の対岸ははっきり見えていたので行ける所までと進んで行った結果、その先は晴れていたのです。これはヘリコプターならではの動きです。雲のない所を目指して垂直に上昇できるからです。ゴジュンバ氷河の最下流に達し、その奥には見事なほど氷河湖が散在しておりました。それぞれに水の色がちがう! 上空の空の色、深さ、陽のあたり具合、そして水中の固有の微粒子の影響で色が違うのです。
その間にも雲はどんどん上に登り、周囲の山頂も見えてくる。見事には晴れ上がった中の山頂も美しいが一部に雲が流れている姿も美しい。しかし、美しさだけを鑑賞している暇はありません。記録に残す、写真を残すことがわれわれのミッションです。夢中になってシャッターを切りました。
目的は単純に写真を撮ることだけではありません。記録として残すために小型自動撮影機(GoPro)をヘリコプターの操縦席の下に取り付けてあり、これを元に立体画像として残すことも目的の一つとして考え、ゴジュンバ氷河の全周を2回廻っています。その間に雲はさらに上に。
周回を終えて高度をさらに上げました。雲の合間を抜けた時になんと、エベレスト山頂まで見えたのです。雲海を突き抜けた時、眼前に雲海の中に孤立する6083m越えの山々だけが顔を出している。京都の龍雲寺の庭に敷き詰めてある石の間から顔を出したような感じだったのです。この情景は、これはとても写真に写せるものではない、頭の中にしっかりと写し込むしかないと感じ、カメラを膝の上に下ろし、僅かな時間だったと思いますが呆然と眼前に現れた情景に心を奪われていました。しばし、おいてから今度はシャッターを押し続けました。雲の上の写真はその時のものです。
待たされて、待たされて、やっと本懐を遂げることができた、ホッとする気持ちと、最高の情景に巡り合えたとの思いとが交差する中、帰途に着きました。
三度のヒマラヤ空撮は場所を変え、飛行機を変え、季節を変えて多くの写真を撮ることができました。企画、指導を頂けました大森弘一郎氏に心から感謝、御礼申し上げます。
(写真の無断転写・転載はご遠慮ください)
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(記事・写真:岡内 完治)
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