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環境さんぽ道

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様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.077

Issued: 2018.05.10

ラオスのお米とおかずとカエル

夏原和美(なつはらかずみ)さん

夏原 和美(なつはらかずみ)さん
東邦大学看護学部教授(2018年4月に異動しました)。東京生まれ東京育ち。
アジア・オセアニアの食と環境と健康のつながりについて研究をしている。
東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻修了。専門は人類生態学。
【写真1】蒸したてのカオニャオ。写真の三角錐のような竹籠を湯をはった壺の上に乗せて蒸し、蒸しあがりの蒸気をムシロなどの上にいったん広げて抜いてからティップカオに移します。都市部でカオチャオが人気の理由の一つには炊飯器で炊けてそのまま皿に盛れるという便利さがあるようです。

【写真1】蒸したてのカオニャオ。写真の三角錐のような竹籠を湯をはった壺の上に乗せて蒸し、蒸しあがりの蒸気をムシロなどの上にいったん広げて抜いてからティップカオに移します。都市部でカオチャオが人気の理由の一つには炊飯器で炊けてそのまま皿に盛れるという便利さがあるようです。

 ラオスの主食はカオニャオと呼ばれるもち米です。炭火で蒸して、竹で編んだティップカオに入れて食卓に出されます。食べる時にはカオニャオを一口大の団子状に手で何回か握ってまとめ、おかずと一緒に口に運びます。蒸したては何ともいえない良い香りがして、噛むと甘味が広がりとても美味しいものです。最近、首都のビエンチャンや大きな街に住む人たちの間ではカオチャオ(いわゆるタイ米)を食べる人も増えてきましたが、地方ではまだまだカオニャオが主流です(写真1)。

 カオニャオに合わせる毎日のおかずの代表はチェオ(ペースト状の調味料)で、ラオスの代表的な調味料であるプラデックと、唐辛子と、塩でつくります。プラデックは市場でも売っていますが、私が訪問したラオス中部の村では各家庭で淡水魚と塩と米ぬかを壺に入れ、何年か発酵させて作っていました。焼いたトマトを入れたりネギを入れたりしたチェオは、唐辛子の刺激と塩辛さと魚が発酵した旨味でカオニャオのお伴としてほかにおかずは要らないほどです(写真2、写真3)。水田の周りには川や池などがあり魚がいますから、お米を作っているところでおかずのもともできる、なんとうまくできている環境だろうかと思います(写真4)。


【写真2】焼いたトマト入りのチェオ。トマトの酸味がプラデックの旨味を引き立てます。

【写真2】焼いたトマト入りのチェオ。トマトの酸味がプラデックの旨味を引き立てます。

【写真3】焼きネギ入りのチェオ。トマトもそうですが、炭火で丁寧に焼き色をつけることで香ばしさが加わり、味わいが増します。

【写真3】焼きネギ入りのチェオ。トマトもそうですが、炭火で丁寧に焼き色をつけることで香ばしさが加わり、味わいが増します。

【写真4】ラオス中部の村で。田んぼの雑草を取りながら、おかずも捕っているのでしょうか。

【写真4】ラオス中部の村で。田んぼの雑草を取りながら、おかずも捕っているのでしょうか。


 水田には魚のほかにもおかずのもとがいます。カエルです。雨季にはカエルの大合唱で眠れないほどで、田んぼに出かければ捕り放題です。捕ってきたカエルは丁寧に下処理してスープにして食べました(写真5、写真6)。この経験から、ラオスでは米作りの副産物としてカエルを食べるのだと思い込んでいたのですが、実は米を作っていてもカエルは食べない地域もあります。


【写真5】タライいっぱいのカエル。こんなに捕るのに大変だったでしょう?と聞いたら「一瞬よ!」と得意そうに答えてくれました。

【写真5】タライいっぱいのカエル。こんなに捕るのに大変だったでしょう?と聞いたら「一瞬よ!」と得意そうに答えてくれました。

【写真6】カエルの下処理をする筆者(右)。背中に切れ目を入れてひっくり返すように引っ張ると水かきまですべての皮がきれいに剥けます。

【写真6】カエルの下処理をする筆者(右)。背中に切れ目を入れてひっくり返すように引っ張ると水かきまですべての皮がきれいに剥けます。


 それに気が付いたのはラオス北部の村で食事に関する調査をした時でした。カエルは週に何回くらい食べますか?と尋ねると、「カエル?カエルは食べません」という答えが返ってきます。この村には水田もありますが、山間部の斜面を利用して陸稲を育てている家が多く、カエルが取り放題だった前出の村とは違い、カエルはおかずとは見なされていないようでした(写真7)。

 北部の村で水田に関係するおかずのもととして多くの人に食べられていたのはパックノックという野菜です(写真8)。あぜ道に雑草のようにたくさん生えていて、毎日のように食卓に上っている人気ぶりでした。ただ、農薬を使っている家で「あそこの田んぼは殺虫剤をかけたから、あの周りのパックノックはしばらく食べられない」という話も聞きました。

 ラオス中部の村でも殺虫剤を広範囲で使うようになれば、餌がなくなってカエルも減ってしまうかもしれません。お米を効率的に作るためにおかずが採れなくなってしまうこともあるのだな、と思ったことでした。

【写真7】ラオス北部の村の斜面地にある畑

【写真7】ラオス北部の村の斜面地にある畑

【写真8】あぜ道から採ってきたパックノック

【写真8】あぜ道から採ってきたパックノック


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(記事・図版:夏原和美)

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