No.069
Issued: 2017.09.11
伝統と革新の関係
- 堀木 エリ子(ほりき えりこ)さん
- 和紙作家。京都生まれ。
「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、オリジナル和紙を制作。
和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。
著書に「堀木エリ子の生きる力 ─ソリストの思考術」(六耀社)、「挑戦のススメ」(ディスカヴァー)がある。
「そんなものは和紙ではない」これは、30年程前、私が新しい手法で作品を作り始めたころに和紙職人さんから投げかけられた言葉です。
立体的に和紙を漉く手法や、15mもの巨大な一枚漉きの和紙を十人掛かりで漉く手法は、特許を取得しました。
しかし、当時、職人さんからは「昔からの手法の和紙とは違う。それは伝統ではない。俺たちの和紙と一緒にするな。」と指摘をされました。
私はその言葉をきっかけに、伝統とは何か、自分の行くべき方向はこれでよいのか、と思い悩みました。
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糊や骨組みを使用せずに漉き上げた立体和紙
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糊や骨組みを使用せずに漉き上げた立体和紙(撮影:淺川敏)
原点に戻って考えてみると、1500年前に和紙を漉く手法が編み出されたときには、その技術は革新だったはずです。その革新的な技術が、長い年月、人の役に立ち、変化しながらも、現代では伝統と呼ばれているのです。
そうであるならば、伝統と革新は対局にあるものではなく、革新的に生まれたものが、長い年月の間、人々に愛されて使われ、育まれた結果が伝統なのではないのか。今、新しい技術で作ったものが和紙と呼ばれるかどうかが問題なのではなく、新しく開発した技術を、50年後、100年後も人の役に立つように進化させていくことが大切なのではないかと気づきました。
そこで、越前和紙の工房において職人さんの技術に現代の用途や機能を与えて、伝統を未来へ繋ぐ方向性と、京都の自社工房で独自の新たな技術を使って革新を興し、その革新を未来の伝統産業に育てていくという、方向性に分けて仕事を進めていくことにしました。
伝統産業にとって、伝統を未来へ、革新を伝統へというどちらの方向性が欠けても、発展はないのではないかと思っています。
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15mの大きさで漉き上げた巨大な和紙(撮影:淺川敏)
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ハノーバー国際博覧会に出展された和紙の車 デザイン・発案:山本容子
時代の要望に対して、「出来る前提」で新たな技術開発に取り組むことで、不可能と思われることが可能となっていきます。
できるかできないかと悩んだ時には、ああだから出来ない、こうだから出来ないという考え方をまず捨てて、ああすれば出来るのではないか、こうすれば出来るのではないかと、出来る前提でのみ、思考を重ねていきます。
今、私は、美の探求には革新的な挑戦がいかに大切なことかと実感しています。
固定概念から抜け出した技術や表現方法を模索して、不可能に挑んでこそ、伝統は未来に拡がっていきます。
私は、時代を超えて人の心に響き、時代の要望を満たす和紙作りに挑戦したいと考えています。
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クリスタルを漉き込んだ立体和紙のシャンデリア「Sora 雫 シャンデリア」
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クリスタルを漉き込んだ立体和紙のシャンデリア「Sora 旋律 ランタン」
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(記事・写真:堀木 エリ子)
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