No.065
Issued: 2017.05.09
ものづくりの根底にあるもの
- 堀木 エリ子(ほりき えりこ)さん
- 和紙作家。京都生まれ。
「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、オリジナル和紙を制作。
和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。
著書に「堀木エリ子の生きる力 ─ソリストの思考術」(六耀社)、「挑戦のススメ」(ディスカヴァー)がある。
私が和紙の仕事を始めたきっかけは、和紙が好きだという理由ではなく、美しい和紙に魅せられてという理由でもありません。
和紙の背景にある職人さんの精神性や営みの尊さを知って衝撃を受け、その営みを次世代に繋がなければという、強い想いからでした。
私は、24歳の時に、京都で和紙のブランドを立ち上げました。
手漉き和紙の業界を活性化するためには、機械漉き和紙に対して価値の差別化をしなくてはならないと思い、長く使えば使うほど質感が増すという特性や、長く使っても強度が衰えないという手漉き和紙の強みを活かして、建築やインテリアの世界で展開していこうと考えました。
もともと銀行員だった私が、専門の勉強をしたわけでもなく、職人さんのもとで修行をしたわけでもないのに、デザインやアートの世界に飛び込むことができたのは、博物館で土偶や埴輪の素晴らしい造形を見て、自分にも可能性があるかもしれないと感じることができたからでした。
時代を超えて、今もなお斬新でダイナミックな造形物を作った古代の人たちは、大学でアートやデザインを学んだわけではなく、生きるために狩りをし、畑を耕し、子供を育てていた一般の生活者であったはずです。
命に対する祈りの気持ちや自然に対する畏敬の念から、その想いが手を動かし、土をこねて出来上がった造形であったに違いないと気づきました。どんな時代も、モノの背景には人の強い想いがあり、文化やその土地独自の美学を育てていくのだと感じました。
日本の伝統文様にも、そのかたちにいろいろな祈りや想いが込められています。私が作品によく取り入れるモチーフは、「立涌柄」と「輪違い柄」です。
立涌柄は、宇宙の良い兆しがゆらゆらと涌き上るという意味があり、輪違い柄は、人と人や物事と物事の良い部分が少しずつ重なり、広がって、連綿として絶えないという意味を持つ吉祥の柄です。
企業や商業空間のエントランスには、そのような柄をデザインしながら、発展や継承を祈念して和紙作品を漉き上げます。
私は、ものの背景にある意味合いを大切にして、日本人の美学や誇り、精神性を次世代に繋いでいきたいと思っています。
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(記事・写真:堀木 エリ子)
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