No.063
Issued: 2017.03.10
アフリカの昆虫食から人間の健康的な食事を考える
- 村山 伸子(むらやま のぶこ)さん
- 新潟県立大学人間生活学部健康栄養学科教授。
新潟市生まれ。
東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻修了。
専門は公衆栄養学、国際栄養学。
世界には、昆虫を食べる習慣をもつ人々が多くいます。昆虫を食べることでよく知られている地域は、アジア、アフリカ、南アメリカです。近年、世界食糧農業機関(FAO)等により、世界の食料不足への対応方法の1つとして、人間が昆虫を食べること(昆虫食)が注目されています。
今回は、南アフリカの昆虫食から人間の健康的な食事について考えたいと思います。私を含め、研究チームは、地理学、生態学、農学、栄養学、保健学等の研究者から構成され、昆虫食を通して、環境と人間とのうまい関係の在り方について、研究しています。最近2017年1月に南アフリカでフィールド調査をおこないました。対象の地域は、南アフリカ共和国の北東部にあるリンポポ州です。モザンビーク、ボツワナ、ジンバブウェと国境で接し、クルガー国立公園、マラケレ国立公園、マプングブエ国立公園があり自然豊かな地域です。ベンダ語を話すベンダの人々が多く住んでいます。多くの家の敷地に、丸い家屋があるのが印象的でした(写真1)。ベンダの人は、丸い家屋(空間?)が好きなのだそうです。なんとなく共感してしまいました。
生業は、ほとんどの人が自給のための農業をしています。南アフリカの季節は日本と逆で1月は真夏で、リンポポ州では雨季でしたが、雨はほとんど降っていませんでした。今回、村の人が食べていた昆虫は、ほとんどシロアリ、イモムシでした。
FAOによれば、昆虫は飼料変換効率が高く、1キロの肉を作るために必要な餌が豚等に比べて少なくてすみます。また、多様で工夫された栄養吸収方法をもっています。例えば、シロアリは、枯木や落葉等の植物を餌とし、腸内細菌で分解して栄養源として利用しています。また、一部のタイプのシロアリは、枯死植物を分解してくれるキノコ(担子菌)を栽培して、そのキノコを栄養源として利用しています。こうして、環境中の植物から動物性のたんぱく質や脂肪を体内に作ります。また、生物として必要な微量栄養素(鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等)も保有しています。環境と昆虫の関係に、感動です。
さらに、人間が彼らの栄養の循環の輪の中に入っていきます。シロアリの例で続けます。シロアリは、驚くほど大きなアリ塚を作って集団生活しています(写真2)。ベンダの人々は、アリ塚からシロアリを丁寧に採集します。しかも、生殖アリと、働きアリに分けて調理します。生殖アリは、比較的大きく、脂肪が豊富でしっとりしている一方、働きアリは、小型で軽く、食べた感じもカラッとしています。町の市場では、シロアリを含め、多くの昆虫が売られています(写真3)。
調理方法は、シロアリは、少しの塩を入れた水で、水がなくなるまで煮ます(写真4)。イモムシは少し水分が残っている状態まで煮ます(写真5)。
食事パタンは、トウモロコシの粉をお湯で練った主食に、野菜料理が添えられ、1日に1〜2食は、これに昆虫料理がつくことが多いようです。野菜料理は、オクラやかぼちゃの葉を少しの塩で煮た料理です。野菜は何の葉っぱかはほとんどわからなくなってしまうまでよく煮ます。この地域では、魚はほとんど食べず、たまに、鶏肉や卵を食べることがある程度です。したがって、動物性のたんぱく質は、ほとんど昆虫に依存しているといってよいでしょう。1食に食べる量は、たっぷりの主食に、次に多いのが野菜料理、昆虫の料理の順です(写真6)。
土や水、植物、昆虫、人間が1つの環でつながっていることを実感できる食事です。だからベンダの人々は、環境との関係を保ち、こうした食生活を長い間続け、生命や健康を維持してきたのでしょう。今回のフィールド調査で、自然環境の維持と、人間の健康の維持を両立できる食事こそ人間の健康的な食事なのだろうと、感じました。
ただ、不思議に思ったことがあります。ベンダの人々の多くは、背も高く、筋肉質のがっしりした体型です。昆虫食といっても、この写真のようにそんなに大量の昆虫を食べているわけではないようです。では、筋肉の素となるたんぱく質はどこからくるのか?もしかすると、彼らの環境か身体に何か別の秘密があるのかもしれません。
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(記事・写真:著者本人)
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