No.061
Issued: 2017.01.10
白い和紙の精神性
- 堀木 エリ子(ほりき えりこ)さん
- 和紙作家。京都生まれ。
「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、オリジナル和紙を制作。
和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。
著書に「堀木エリ子の生きる力 ─ソリストの思考術」(六耀社)、「挑戦のススメ」(ディスカヴァー)がある。
日本では、祈りの対象を「カミさま(神様)」、人の身体の最も上にある毛を「カミのけ(髪の毛)」、奥様のことを「うちのカミさん(女将さん)」、上席を「カミざ」(上座)」というように、敬うべきものや大切なものを「カミ」と発音してきました。
そのような中で、白い「カミ(紙)」は、神事や祭事にも使われ、日本人の生活には欠かせない、大切なものでした。
しかし、現代では、手漉き和紙の業界は衰退してしまい、安価で大量に製造ができる機械漉きや洋紙が主流となって、樹脂や硝子繊維を原料とする新素材も開発されています。
手漉きの和紙は、数年前、ユネスコの無形文化遺産に認定されて、その技術が世界に誇るものであることが認められましたが、一方で、絶滅危惧種のような危機的状況にあるものだと認められたことにもなりました。
手漉き和紙に新たな用途や機能を与えて、現代の役にたつものにしていかなければ、伝統産業の未来はありません。
私は職人さん達の尊い技術や文化を、世界や次世代に繋いでいきたいと考えて、「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、日々活動をしています。
「白い紙は神に通ずる」これは、紙漉き和紙の職人さん達が、昔から持っている精神性です。
言いかえると「白い紙は不浄なものを浄化する」ということで、私たちはその考え方を慣習として受け継いでいます。
お金を白い和紙で作られた祝儀袋に入れたり、お中元やお歳暮の品物に熨斗と呼ばれる白い和紙の掛け紙をするのは、お金や品物を浄化してから人に差し上げるという行為であり日本人の持つ美学のひとつです。
年末には障子を新しい白い和紙に貼り替えて、部屋の空気を浄化し、新しい歳神様をお迎えするのです。
冷たい清らかな水を潜らせて丁寧に作られる手漉きの白い和紙の背景には、日本人の「おもてなしの心」の基本となる精神性が息づいています。
長い歴史の中で、祝儀袋や熨斗で丁寧に包むという行為は、日本人の美学として、人が人を想う気持ちを育んできました。
伝統の継承は、ものづくりの技術を受け継ぐことだけに留まらず、どのように時代が変わっても、このような日本の素晴らしい慣習とともに、その背景にある尊い想いを伝えていかなくてはいけないと思っています。
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(記事:堀木エリ子)
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