No.059
Issued: 2016.11.11
ニュージーランドから学ぶこと
- 中澤 弥子(なかざわ ひろこ)さん
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長野県短期大学生活科学科教授、熊本県生まれ。長野県を中心とした地域の郷土食や農山村の研究、学校給食の調査研究及び農家民泊や箱膳で食事をする体験を通して和食文化を伝承する食育活動に取り組む。平成26年度文化庁文化交流使として食文化を通した交流活動を欧州7か国で行う。
専門分野は、調理科学、食文化。
著書に、『日本の食文化 「和食」の継承と食育』分担執筆,アイ・ケイコーポレーション(2016)。
論文:「ヨーロッパ7か国の日本食文化への関心―平成26年度文化庁文化交流使活動の参加者へのアンケート調査―」『会誌 食文化研究』11号,11-24頁(2015)等。
今回は、学生用の海外研修プログラムを計画するための勤務先の出張で、今年6月に訪れたニュージーランド(以下、NZと記します)クライストチャーチ市で視察したことについてみなさんにご紹介したいと思います。NZでは、クライストチャーチ工科大学、小学校、プランケット、大震災(2011年)からの復興の状況などについて視察や関係者との意見交換を行いました。その中でNZのフレキシブルな子育て&幼児教育サポート、主体的教育を重視する初等教育、キャリア連動教育の中等・高等教育、家族最優先社会(多くの子育て家庭が、平日夕方に毎日家族揃って夕食を共にすることができる社会システム)など、日本において参考にできること、学ぶべきことがたくさんあると思いました。
まず、子育てサポートとしてNZには、民間企業などによる寄付で運営されている育児支援団体 Royal New Zealand Plunket Society(通称、プランケット)があります。プランケットのサービスは5歳以下(就学前)の子どもが対象で、プランケット・ナース(大学院レベルで母子保健について学んだ看護師)が定期的に自宅を訪問し、赤ちゃんの健診などを無料で行い、育児相談にものってくれます。全国各地にあるファミリーセンターで健診やケアを受けたり、24時間365日対応のフリーダイアルで電話相談したりすることもできます。その他、ペアレンティング・クラス(出産教室の育児版)やカーシートの貸し出しやトイ・ライブラリー(おもちゃの貸し出し)など無料・有料で様々なサービスやプログラムが提供されています。
視察したプランケットでも、プレイルームには、乳児用のおもちゃや保護者向けの各種案内パンフレットが置かれ、庭には遊具があり、保護者と乳幼児が気楽に立ち寄れる暖かい雰囲気にあふれたスペースでした。視察協力者の話では、プランケット・ナースに無料で気軽に相談でき、また、近所に住む同年代の子どもを持つ親ともプランケットで出会い、保護者同志の情報交換や付き合いもスムーズにできて、たいへん心強かったとのことでした。
専門家の助言と地域で仲間と一緒に子育てをスタートできる環境は、日本でも参考にすべきと思いました。
そして、NZの就学前教育は、幼児教育のナショナルカリキュラム(Te Whāriki)(テファリキ)に基づき、従来型の「子どもが何かできるようになる」ことを目指すカリキュラムではなく、4つの原則と5つの要素を柱にした、理念的なカリキュラムです(ここでは、詳細の説明を省きます)。
子どもは元来、学ぶ力を持っている、から始まり、初等教育以降では、自己肯定観を育む多様な教育の選択肢と、ゆっくり醸成する職業観とキャリアパス(ステップアップのための高等教育をいつでも受けられるサポート体制:学生自身が大学の学費を払い、政府による学生への生活費補助がある)が特徴です。
初等教育の役割は、人生における学びを楽しく、主体的に取り組むための準備期間と位置づけられており、主体的に学ぶこと(セルフ・ラーニング)が重視され、教科書や時間割がなく、先生は各自に合わせたカリキュラムを組み指導するということでした。
小学校で、1年生の算数の授業を視察しましたが、最初に二人の児童がみんなの前に出て数字を数えるよう指示し、数字をみんなで数えるところからスタートしました。その後、担任が今日の学びのテーマを説明すると、担任から指示されることなく児童はグループに分かれて、グループごとの教材を使って学び始めました。驚くことに、各児童が自分の能力を理解しており、習熟度別のグループで、自分にあった教材・グループで学んでいるということでした。また、担任は、児童のノートにたくさんの誉め言葉と、間違っているところはきちんと指摘していました。担任は、保護者に児童の状況をきちんと伝え、調べもの学習を保護者が協力して行うなど、子どもの学びについて保護者が学校任せにしないシステムとなっているようでした。
また、各教室の掲示がすばらしく、担任が工夫を凝らして、児童が興味を引くような形態で学習内容や学習の成果などを掲示していました。視察協力者の話では、一年に100枚以上の賞状を学校からもらうくらい担任が子どもを褒めるそうです。子どもは先生からたくさん褒められ、また、家庭でもなるべく褒めるように保護者は勧められているので、子どもには自然と自己肯定観が育まれ、子ども同士でも相手のよいところを評価する、相手を自然に認めるようになるということでした。
なお、会社は、既定の休暇を社員が取らないと罰金を科されるシステムになっているので、休暇を取るように上司が勧めるそうです。また、会社は午後5時頃には終わり(終われない人が無能とみなされる)、その後は家庭のための時間で、午後7時には家族そろって夕食を食べ、小学生の子どもは8時には就寝し、その後の時間は大人の時間として過ごすのが一般的だそうです。
このような初等教育と、16歳の義務教育終了後に一斉受験や一斉就職がない進学進路のNZには、自分の意見を持ちながら自己キャリアを切り開いていく環境が醸成されています。
NZでは、まず、やってみよう。失敗したら、自分が悪いのではなく、運が悪かったと考える…くらいの気持ちで物事を進めていく勢いと主体性のある生き方を感じました。
今後もNZについて学び、日本での教育やくらしの参考にしたいと思っています。個人的には、もっと褒めて子育てすればよかったと反省しました。
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(記事・図版:中澤 弥子)
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