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環境さんぽ道

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様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.051

Issued: 2016.03.08

平成26年度文化庁文化交流使の活動から−ヨーロッパ7か国における日本食の受容の状況

中澤 弥子(なかざわ ひろこ)さん

中澤 弥子(なかざわ ひろこ)さん
長野県短期大学生活科学科教授、熊本県生まれ。長野県を中心とした地域の郷土食や農山村の研究、学校給食の調査研究及び農家民泊や箱膳で食事をする体験を通して和食文化を伝承する食育活動に取り組む。平成26年度文化庁文化交流使として食文化を通した交流活動を欧州7か国で行う。
専門分野は、調理科学、食文化。
著書に、『日本の食文化 「和食」の継承と食育』分担執筆,アイ・ケイコーポレーション(2016)。
論文:「ヨーロッパ7か国の日本食文化への関心―平成26年度文化庁文化交流使活動の参加者へのアンケート調査―」『会誌 食文化研究』11号,11-24頁(2015)等。

 私事で恐縮ですが、現在、長野県短期大学に所属し主に栄養士養成課程で教育に携わり、地域の食文化や世界の学校給食及び食育について研究を行っております。
 本稿では、私が2014年度に文化庁より食文化の分野で初めて文化交流使として指名を頂戴し、ヨーロッパ7か国で約2か月間、活動を行った中で経験した日本食の受容の状況についてご紹介します。

 文化交流使とは、諸外国における日本文化への理解の深化や、日本と諸外国の芸術家・文化人等の連携協力を促進し、国際文化交流の振興を図るため、文化庁から指名され、一定期間諸外国へ派遣されるものです。活動国、期間、内容を文化交流使が自主的に計画・実行するもので、私はヨーロッパ7か国(ドイツ、ポーランド、ハンガリー、イタリア、フランス、スロバキア、イギリス)で、日本の食文化についての講演や、千葉県の郷土料理「太巻き祭り寿司」の実演(写真1)と調理実習及び味噌汁、ざるそばなどの日本食の試食会による交流活動を行いました。
 講演では、ユネスコ無形文化遺産で「和食」の登録に用いられた申請書を参考にし、日本の食文化の自然を尊重する精神性や家族や地域を結ぶ社会性、伝統的な食事形式(飯+汁+菜+香の物)、だしと発酵調味料、調理法、現在の食生活の課題などについて、長野県の事例などを示して伝えるよう努めました。

著者による太巻き祭り寿司の実演(出典 ハンガリー日本国大使館)

【著者による太巻き祭り寿司の実演(出典 ハンガリー日本国大使館)


 7か国で行った文化交流活動は大変盛況で、参加者を対象とした任意のアンケートの結果(図参照)、今日の交流活動を楽しんだかに96%、試食した日本食はおいしかったかには100%、日本食の作り方を習ってみたいかには96%、日本の食文化または日本食に関心があるかには94%から「はい」の回答が得られました。自由記述で尋ねた結果では、好きな日本食には寿司が最も多く回答され(43%)、次いで味噌汁と天プラ(19%)、刺身(15%)、ラーメン(9%)の順でした。寿司については、フランス、ドイツ、イギリスではスーパーマーケットやテイクアウトの店で巻き寿司や握り寿司が多種類販売されていました(写真2)。海苔や巻き簾も販売されていました。

ヨーロッパ7か国での文化交流活動参加者のアンケート結果(無回答を除く)

ヨーロッパ7か国での文化交流活動参加者のアンケート結果(無回答を除く)


スーパーマーケットでの寿司販売(イギリス・ロンドン)

スーパーマーケットでの寿司販売(イギリス・ロンドン)


 そこで、交流活動の協力者に、寿司を食べる理由やどう利用しているか尋ねたところ、「脂質やエネルギーが少なく健康的なので昼食に寿司類を購入している」ということでした。日本食の好きなところを参加者に尋ねた結果では、健康的、新鮮さ、多様性に富む、軽さ、おいしさ、見た目・盛り付けが美しい、伝統、繊細さ等の特徴が数多く自由記述されました。講演後の質疑応答においても、日本食と日本人の健康に関する質問が多く寄せられ、おいしく、見た目もよく、健康的である点で、日本食が高い評価を得ていることを実感しました。
 また、日本の食文化についての交流活動に参加するような外国人においては、日本食への関心が本物の日本食を食べたい、おいしく健康的な日本料理を作りたい、作り方を習ってみたいという要望にまで高まっていることが推察されました。そして、日本の食文化についての文化交流活動、とくに調理実習は話題も豊富にあり、国際交流の手段として大変優れていることを実感しました。

 文化交流使の活動を行うにあたり日本の食材が入手しにくい国・地域があり、あらためて日本食を作るのに、日本には高品質の食材が豊富に存在することを思い知りました。こんなに海外で人気のある日本の食文化ですが、次の世代に継承されているか、また、海外のように高く評価されているか、現状を考えると大変心もとなく思いました。
 今回得られた経験を今後の教育及び研究に活かし、国内外で日本の食文化についての文化交流活動を積極的に行っていきたいと思っています。


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(記事・図版:中澤 弥子)

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