No.045
Issued: 2015.09.10
三つの川に癒されて
- 青木 勝(あおき かつ)さん
- 埼玉県生まれ。新聞社勤務を経てフリーとなる。
日本航空の専属カメラマンとして、1970年から飛行機写真を撮りはじめ、独自の飛行機写真の世界を確立。飛行機写真の草分け的存在。日本写真家協会会員。自家用操縦士。
著書に「JET JET JET」、「AIRLINERS 青木勝の旅客機の世界」、「YS-11名機伝説」、「YS-11が飛んだ空 全182機それぞれの生涯」、「素晴らしき飛行機写真の世界」など。
我が家の近くには、三つもの川が流れている。多摩川、仙川、野川である。どの川も自然に恵まれていて、野鳥が集い、桜の季節には、川面を桜の花びらが覆い、季節ごとに違った草花が咲き、一年中眼と五感を楽しませてくれる。
ちょっとした気晴らしや散歩に、家の近くに三つもの川が流れているというのは、ありがたいことである。鴨の親子の様子や、カワセミが獲物を捕まえる瞬間を家の近くで楽しめるのである。自然に恵まれている環境の中でも、川が三つもあるというのは、すごいことだと思う。
ちょっと軽めの運動をしようというとき、ぼくは多摩川に出て、調布方向か、二子玉川方向のどちらかを選んで歩き出す。土手や河原の景色を楽しみながら、時にはコンパクトデジカメ持参でゆっくり歩く。河川敷では、ちびっ子野球や、サッカー、テニスをしている若者たち、釣りに興じる男たちがいて,一年中賑わっている。そんな賑わいを横目に見ながら、ぼくは川風に身を任せながらゆっくりと土手を歩く。何とはなしの充実感が充ちてくる。
こんな何気ない生活の一端を支えてくれているのが川だと思うと、川を大切にしなければいけないなあと、つくづく思う。ぼくらはさまざまな恩恵を川から受けてとっているのだけれど、カメラを持って土手を歩くと、それが一層強く感じられる。
川遊びをする親子連れ、川に勢いよくダイビングして餌の小魚を取るカワセミ、釣りをして満足そうな男たち、河原で様々なスポーツに興じる若者たち。毎日の平和な営みが河原でも展開されているのだ。
早朝の散歩は、比較的高齢の方々が多い。朝の河原は思ったよりすがすがしい。広々とした空間が朝の空気をより気持ちよく感じさせてくれるのだ。昼間は老若男女、さまざまな年齢層の人々に河原は憩いの場を提供してくれる。幼稚園児の集団がミニキャンプのようなことをやっているかと思えば、小学生の親子のグループがバーベキューに興じている。年寄りたちは、土手に腰かけてのんびりと世間話に花を咲かせている。ちびっ子たちは、はしゃぎながら走り回っている。お母さんたちは、クローバーの花を摘んで首飾りを編んでいる。昔懐かしい光景があちこちで見られる。愛犬を散歩に連れてきている人も多く、犬は広い場所がうれしくて飛び跳ねている。これだけ広い場所で思いっきり走りまわれるのだから、消えかかっていた野生の血が蘇るかもしれない。犬も飼い主もみんな、笑顔で元気だ。
野川や仙川には釣り人はいないが、多摩川には熱心な釣り人が大勢いる。ぼくは時々釣りをしている人のそばに行って、ビクに何が入っているか覗き込む。季節によって魚の種類はさまざまだが、アユや鯉、ナマズ、ヘラブナ、マブナ、ボラなどが釣れるようだ。また上流ならともかく、この付近では滅多に見られないヤマメが、ごくまれに釣れることがあると聞いて驚いたこともある。釣り人とは、ちょっとした世間話をかわすこともある。ゆったりと流れる時間を共有する感じだ。
なかでもぼくが一番好きな時間帯は夕方である。日差しが柔らかくなって、あたりがオレンジがかった黄色い光にやさしく包まれ、人々が三々五々家路に向かうころ。頭上を鳥たちが逆V字型に連なってねぐらへと帰っていく。低くなった陽光のせいで、土手の草の背がひとときぼうっとのびたようになる。土手を帰る人々の陰が長く伸びる。夕陽が沈むまでのドラマチックな空の変化を、土手に立って太陽が完全に沈むまで眺めていることも多い。都会にいて、これだけ雄大な景色を楽しめるのは奇跡のようなものだ。夕陽が沈むまでの空の変化は多様で美しく、いつ見ても感動的だ。
このように多様な場を提供してくれる川に感謝して、ぼくらは川をもっと大切にしなければいけないと思う。三つの川が家の近所になかったら、どれだけ味気ないことだろう。侘しいことだろうと思うと、三つもの川に恵まれている環境に感謝してもしきれない気持ちだ。
川はきちんと手入れがなされていて、土手の雑草も定期的に刈り取られ、河原は清潔に保たれている。汚い川や河原の写真を撮りたくない。ぼくが、三つの川で撮る写真は、桜が満開の季節の川と桜の写真、川面に映る満開の桜の木の見事さ。そしてカワセミの勇猛果敢な姿。雄大で変化に満ちた夕陽の光景。平和な親子が河原で遊ぶ姿などだ。
何気ない河原の光景も、一夜にしてできたものではない。営々と長年にわたって積み重ねられた営みが、現在の美しい光景をつくっているのだ。ぼくらは先人に感謝しながら、この美しい光景を後世に残す役割を担っているのだ。
それを思うと、ちょっと身が引き締まる。三つの川の存在を誇りに思いつつ、これらを大切に守っていかねばならないと、つくづく思う。
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(記事・写真:青木勝)
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