No.038
Issued: 2015.02.10
アフリカの楽器たち
- 板垣 真理子(いたがき まりこ)さん
- 写真家、文筆家。
アフリカ、ブラジル、キューバ、バリなど灼熱の地を愛し旅する。著書、写真集、写真展など多数。「アフリカン・ビューティ」「キューバへ行きたい」「カーニバル・イン・ブラック」など多くの読者とファンを持つ。写真の審査員や、大学、専門学校で後輩の指導にもあたる。2014年、大同生命地域文化研究特別賞受賞。HP http://orange.zero.jp/afrimari/
2015年より、キューバ在住。現地からのリポートを届けます。
究極のリサイクル楽器を使う人々がいる。
世界中にそういう楽器は見つけられるけど、なんといっても一番すごいのがアフリカなのではないか、と思っている。
長らくアフリカに通ってきた。そんな勝手な身びいきか、とも考えてみるが、けっしてそうではなく、よくぞここまで素晴らしく仕上がるもの、と感慨深いものも多い。アフリカの人々のリサイクル力は、楽器に限らずあらゆるものに生きているが、今日は楽器に限ってみよう。
まず、形、音色共に素晴らしいものの代表が「親指ピアノ」。読んで字のごとく、両手で持って親指で弾いて音を出す。夢のような音が出る。リサイクルが生きている素晴らしい部分は特に、この金属の弾く部分。なんだと思われますか?
こういう形になれば、なんでもいい、とはいえるけどかなりな頻度で使われているのが、なんと自転車の部品。車輪の内側の金属などを叩いて伸ばし、美しい音階を奏でるように作られている。リズムに乗ってメロディーが鳴り始めると、うっとりするような世界に誘われる。それが自転車の部品だなんて、いよいよ素晴らしい。
親指ピアノはアフリカ全土で鳴らされているけれど、各地で呼び名も大きさも異なる。この写真でお見せしているのは、東アフリカのもので、リンバ、とか、イリンバ、チリンバ、マリンバと呼ばれている。大きさによる呼称の違いもある。もっと大きなもので一抱えもあるものが、ジンバブエにある。ムビラと呼ばれる。小さなものも共鳴音が美しいが、大きくなるとそれがいよいよ強まって、トランスの境地にまで誘われる。親指ピアノの発祥はいろいろに言われているが、その名手の一人は、タンザニアのフクウェ・ザウォセだろう。もう他界されているが、何度か来日もし、天国につながるような音世界を聞かせてくれた。今、日本にもこの楽器の愛好家が多いのは、彼の世界に魅せられた人たちでもある。ジンバブエの大きな親指ピアノで、日本の聴衆を魅了したのは、トーマス・マプフーモ。
木製の箱の部分が共鳴箱になっているが、そこには小さな穴があけられており薄皮が貼られている。これはアフリカでは「蜘蛛の卵の膜」。手に入らない時には、スーパーの袋がかなりいい感じで似ているらしい。独特のビリビリ音を出す効果がある。シンプルに見えるけど、かなり手がこんでいる。
親指ピアノは演奏の場でもよく使われるが、長い旅の一人歩きの時など、ぽろぽろ鳴らしながら歩き、長旅の憂を晴らす友にもなったりする。たった一人でも演奏できるものでもある。
リンバとともによく演奏されるのは、ゼゼと言われるバイオリンのような擦弦楽器。共鳴をつくるところに、缶詰の缶が使われていたりする。この写真の演奏家さんが弾いているのは腰の部分に小さな瓢箪が付いている。
そして歌。歌は、もちろんリサイクルではないが、自然の中からつかみあげてきた発声法で、人はこんな声もでるのか、というような驚きの響きでもある。「最初はなかなかこの声が出なかった」そうだ。
真ん中の男性は、親指ピアノも演奏するが、細い萱が組み合わされたもののなかに小石やビーズなどが入っていて、ザッザッというこ気味良い音のする楽器も演奏する。簡単に持ち運べるリズム楽器となる。カヤンバと呼ばれる。
さらにリサイクルの醍醐味は、背後で演奏しているパーカッショニストさん。塩の缶やら、いろいろな缶の中からいい音のするものを選びとっている。そして、ついには、ファンタの瓶も。ボディの横に付いているギザギザが、中南米でよく演奏されているギロに似ているね、と言ったら「そのためにつけてあるんだよ」と驚きの言葉。実際の演奏中にもこの「楽器」は活躍していた。つまりはなんでも楽器として使える世界。しかも、材料費ナシ。そして、なにより、夢心地にも誘ってくれるような素晴らしい音。いい耳といい腕がなければ、この世界は作れない。
私も長く、フクウェ・ザオゥセさんや、トーマス・マプフーモさんも撮影させていただいてきたが、今回は、その世界を愛する日本の演奏家さんたちに登場いただいた。撮影場所は、大阪で開かれた2014年11月の「アフリカ・ミーツ・カンサイ」の会場にて。グループ名はJT☆STARSの方々です。
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(記事・写真:板垣真理子)
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