No.035
Issued: 2014.11.10
自然の恵みに感謝しながら
- 三村 伸絵(みむら のぶえ)さん
- 日本画家
平成12年度文化庁買上優秀美術作品に選出
各コンクール受賞、海外を含む個展、アートフェア、企画展多数
真っ白な紙に向かい合うとき、いつも期待と不安が押し寄せてきます。何も描かれていない和紙はそれだけで充分美しく、その上に手を加えることに躊躇し、筆を持つ勇気が出てくるまで待つことが良くあります。そのような時は、近くの多摩川に出かけてみます。
「四季礼賛・多摩川」というテーマの下、パネル6枚1組、縦2メートル横8メートル近くの大作を墨と金泥のみで描きました。多摩川周辺で取材、写生をした四季折々の植物とその佇まいがテーマです。瑞々しいスイバは、茎の皮をむいてかじってみると、酸っぱい味が口の中いっぱいに広がります。私の育った土地ではスカンポと呼び、口に含むと懐かしい味がします。ジュズダマは、固くなった実を糸でつなげてネックレスにして遊んでいました。背の高い植物たちは、風に揺れその触れ合う音は涼し気です。群生している中にどんどん入っていくと、いつの間にか洋服にはたくさんのトゲがついています。後から取るのが大変なセンダングサやオナモミの種。小さい頃はヒッツキ虫と呼んでいました。たくましく成長したクズの花には、その蜜を求めて沢山の虫たちが寄ってきます。そうして、クズの花が枝豆に似た実になる頃、次の生命の始まりとなります。その命の繰り返しを描いた作品の題を「四季礼賛・多摩川」として発表しますと、多摩川を愛し環境を守っている方たちが多くご来場くださいました。
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四季礼賛・多摩川(781×194cm)
植物に関係している会の方たちは、それぞれの葉の付き方、葉の形、葉脈なども丁寧に御覧になります。昆虫に関心のある皆様は、虫食いの形までも念入りにチェックなさいます。植物によって付く虫の種類も違い、当然、虫食い跡も様々な形があるのだそうです。絵画ですので写生を元に、本画では少々誇張したり省略も取り入れたりして構成します。でも御覧になる皆様は関心を持たれる所が様々で、お話を伺っていて驚くことばかりでした。お蔭様で、何とかそれぞれの会の皆様から合格点を頂くことができほっとしました。
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いろいろな表情を見せてくれる多摩川 下流〜中流
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中流
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上流には山百合が生息
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緑豊かな上流
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初秋の多摩川
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冬の多摩川
ある日、蓮池で写生をしていますと、遠足でやってきた幼稚園のお子さんたちに囲まれてしまいました。「おばちゃん、何かいてるの?」「今、どこかいてるの?」と質問攻めです。ひとつひとつ写生画を説明してあげると、どの子も目をキラキラとさせて蓮の花を見つめていました。別の日、公園で落ち葉の写生の最中、周りで遊んでいた子供たちが大勢寄ってきました。絵具で色を付け始めますと、それを見て次から次へと落ち葉を拾って持ってきてくれるのです。「この赤すごくきれい!」「この葉っぱ、変な形だね。」と一緒に観察すると、とても興味を示してくれました。やがて一枚の落ち葉を、その子たちは宝モノのように大事に持ち帰りました。
一度でも自然が作る不思議なモノに触れると、それがとても愛おしくなってきます。そしていつまでもそれを大切に守っていきたいという思いに繋がるのではないでしょうか。蓮の花をきれいだと言ってくれた小さいお子さんたち、葉っぱを沢山プレゼントしてくれたお子さんたちは、自然を大切に思う心を持つ子に育つことでしょう。
私も、毎年同じ風景、変わらぬ自然の中で写生が出来ることに感謝しながら、これからも自然を見つめ、描いていきたいと思っています。
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野花火 425×180cm
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(記事・写真:三村 伸絵)
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