No.009
Issued: 2012.09.10
幸せの青い鳥は足元にいた
- 市毛 良枝さん
- 俳優。
静岡県出身。
特定非営利活動法人日本トレッキング協会理事。
環境カウンセラー。
趣味の登山をきっかけに環境関係の執筆、講演など活動の場を広げる。
コウノトリの舞う町をご存じでしょうか。最近はニュースでも取り上げられるので注目している人も多いでしょう。でもまだ朱鷺程の知名度はないようですね。
佐渡の朱鷺の経緯にも似ていますが、一時は絶滅した日本産まれのコウノトリを、他国から種の提供を受け再生させ、それからまた長い時間をかけて自然に帰していったそうです。そんな気の長い取り組みをした兵庫県・豊岡市は、今や日本で唯一のコウノトリの里になりました。
朱鷺と同じように、絶滅を危惧されてからはあっという間だったようです。昔は普通に田畑の上を飛んでいたそうですが、人による乱獲や、経済成長に伴う開発や、田畑の農薬使用などによってすみかをなくして消えていきました。野生のコウノトリの絶滅から、人工飼育による再生まで20年以上もかかっているそうですから、失われるのはあっという間でも、取り戻すのにはものすごい労力と時間が必要になるということです。これはすべての自然に言えることでしょう。
コウノトリが絶えてしまったあと、もう一度わが町にコウノトリをと、長い間住民の中で試行錯誤が続けられました。エサがある田んぼや畑が必要と気づいた農業者たちが立ち上がり、減農薬の農業をやっていくうちに、土が変わったと実感し、農薬を使わない農業の良さは、農家の人々を変えていき、農業への誇りにつながっていきました。今では、有機栽培や減農薬栽培の野菜やコメがブランド化され、地域産業にも寄与しています。
コウノトリなど人が生きることと無関係に思えますけれど、野生動物が生きられない環境には、人も生きることは出来ないと、豊岡市長も自身のエッセイに書いています。経済は人が生きていく上で大切なことですが、生活する大地や、周囲の環境も同じようにとても大切です。そこに共存する多様な生き物がいなければ、生態系は成立しないし、人も住めません。
コウノトリのため電線が埋設された田んぼは、湿原や川原とともに、日本の原風景を取り戻しました。湿原は最近ラムサール条約にも登録されたそうで、のどかな里の景色として私たちを癒してくれます。
コウノトリの再生がもたらした一見なんでもない景色が、地域を愛する人の心と文化を育み、自分たちで考えるこどもたちを育て、地場産業を充実させ、人々がふるさとに誇りを持つ力になったように見えます。
自分の住む地域の良さは、あまりにも当たり前で、住む人には見えなかったりします。まるでメーテルリンクの「青い鳥」のようですが、幸せの青い鳥は足元にいたのです。豊岡市だけではなく、日本の各地に、少しずつではありますが足元の良さを見直しつつある地域が増えているような気がして、まだまだ人は信じられると嬉しくなります。
田んぼをコウノトリが舞う姿は、日本に生まれたことを誇りに思う美しさです。
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記事・写真:市毛 良枝
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