No.014
Issued: 2004.03.04
第14講 BSE愚考、廃家電横流し雑考
牛丼挽歌―BSEと食の安全性を考える
Aさんセンセイ、牛丼が食べられなくなっちゃったよお(泣きべそ)。それに鶏も鳥インフルエンザだとかで、やばくなりだしました。ワタシたち何を食べたらいいんですか。
H教授食の安全性か、考えてみると結構この問題は根が深いんだ。
Aさんこれもやっぱり環境問題なんですか。
H教授環境省はほとんど関係してないけど、広い意味ではそうだろうね。安井至先生はそのホームページ(http://www.yasuienv.net/)で、環境問題を14の類型に分けておられるけど(「環境問題の変質」1−6)、そのひとつにBSE問題が挙がっているくらいだから。
Aさんどういう類型に分けておられるんですか。
H教授(1)水俣型公害問題、(2)交通公害型問題、(3)POPs型問題、(4)日の出町型最終処分地問題、(5)豊島型不法投棄問題、(6)ダイオキシン問題、(7)リサイクル問題、(8)温暖化問題、(9)持続可能先進国型問題、(10)持続可能途上国型問題、(11)RoHS型問題、(12)CSR・EPR問題、(13)BSE型問題、(14)その他の問題に分けて、原因、加害者、被害者、対処法を述べておられる。自然保護とか生物多様性の話は入ってないけど、必読だね。
Aさんで、センセイはBSEをどういう風に考えてるんですか。
H教授リスクをどう考えるかということだよね。われわれは絶えざるリスクに晒されている。例えば、今こうして話している5分後に隕石が落ちてくる可能性だって皆無とはいえない。
Aさんそんなこと考えてたら安心して生きていけないじゃないですか。隕石が落ちてくる可能性なんてほぼ皆無なんだから無視、無視。
H教授そう、絶無とはいえないけど、ほぼ皆無なリスクは無視というのが現実的には正しい選択だと思うよ。
でも交通事故の死者は年間1万人くらいいる。となるとそのリスクはものすごく大きい。だから社会的にも、個人的にもできるだけリスクを低減させるよう努めなければならない。
こういうおっきなものから無視できるものまで、さまざまなリスクにどう対応しようかという問題だ。
Aさん同じリスクっていったって、人間活動や事業活動からくるリスクか天災かどうか、それから個人の努力で避けられるリスクかどうかでもリスクの考え方は変わってくるんじゃないですか。
H教授お、キミも進歩したねえ。
Aさんバカにしないでください! ワタシだってたまにはリスク学の大家、中西準子先生のホームページ(http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/)くらいは目を通してますから。
H教授そうか、えらいえらい。
それから、ベネフィットの伴うリスクかどうか、そのベネフィットを受ける者とリスクを甘受しなければいけない者が同じかどうかでも大きく変わってくる。
過剰死亡率や平均余命で比較する健康へのリスクだけでなく、生態系へのリスクというのも考えなくちゃいけない。環境問題を論じるには、こういうリスク学をきちんとやらなきゃダメなんだ。
Aさんへえ、センセイ、リスク学をやったんですか。統計とか確率は大の苦手で、数式みるだけで、頭が痛くなるんじゃなかったですか。
H教授うるさいねえ、キミは。いまはBSEとか鳥インフルエンザの話だろう。
Aさんあ、そうだ、忘れてた。BSEをリスクという観点からみればどうなるんですか。
H教授そのまえにBSEの基本だけ抑えておこう。キミ、どこまで知ってる?
AさんBSEとは牛のかかる牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病のことで、脳がスポンジみたいにスカスカになって死んでしまう病気ですよね。原因は病原体生物でなく、プリウスとかいうたんぱく質...。
H教授ばか、プリオンだろう、異常プリオン。
Aさんそうそう、そのプリオンで、まだまだ感染・発病のメカニズムには謎が多いんですよね。
H教授学者のなかには、ただのたんぱく質が感染させるはずがない、絶対に病原体生物がいるはずだと考えている人もいまだにいるみたいだしね。
はい、つづけて。
AさんBSEで死んだ牛の牛骨粉を牛の飼料にしたりすると、牛→牛の感染になることがあるし、BSEに感染した牛の脊髄や脳といった危険部位を食すると、人間もかかることがあります。もともとヒト社会でもごくまれに同じようなCJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)という病気があるんですけど、BSE感染牛から感染・発病したものをvCJD(変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)といい、どちらも致死性の病気です。感染してから発病までの潜伏期間が10年くらいあるそうです。
H教授つまり、一見健康そうな牛でもヒトでも感染していて潜伏期間中ということがあるわけだ。
Aさんそうです。センセイもそうかもしれませんよ。いや絶対そうだ。
H教授うるさい、はい次。
Aさんで、BSEは'80年代半ばからイギリスで知られ、欧州全体に拡大していきました。日本ではBSE発生国からの牛肉や肉製品、牛骨粉の輸入を禁止、国内での牛骨粉の飼料化も規制していたのですが、なんらかのルートで入ってきたらしく、国内では一昨年にBSE発病牛が発見され、大騒ぎになりました。
そして、米国でもBSE発病牛が発生、輸入禁止にしたから、安価な米国牛で成り立っていた牛丼がなくなっちゃった、とまあこういうことですね。
H教授ま、そんなところかな。大体、牛はもともと草食動物なんだから、牛骨粉なんて食べさせるべきじゃないんだ。家畜糞尿や死骸をただ燃やすのはもったいないから、有効利用は考えるべきだと思うけどね。
ところでヒツジにも同じような病気があって、スクレーピーというんだけど、これはヒトや他の動物へは感染することはないらしい。またBSEは、豚や鶏なんかには感染しないみたいだ。CJDはヒト社会では昔からごく稀にあるし、食人習慣のあった頃のニューギニアなんかでは伝染性があって、クールー病と呼ばれてたけれど、これもCJDの一種だね。また、CJDにかかった人の硬膜移植でかかる場合もあって、裁判沙汰になっている。
AさんそのBSEと、BSEからのvCJDのリスクの大きさはどうなんですか。
H教授そう、そこが一番の問題だ。なにも対策を講じなければ、牛がBSEに感染、発病する率は決して小さくない。安井先生の孫引きだけど、イギリスでは18万頭がBSEを発病、400万頭が感染・発病を疑われて焼却処分されているそうだ。
牛骨粉を餌にすることを禁止し、BSEを発病した牛を殺処分するだけでも、BSE感染牛は相当減るみたいで、イギリス以外のヨーロッパではBSE発病牛は2,200頭程度にとどまっている。
たとえ知らないうちに感染牛を食べたとしても、危険部位さえ食べてなければヒトがvCJDにかかる率はほとんど無視できるそうだ。もともと感染牛の危険部位を食べたとしても、ヒトへの感染・発病率は低いんだけどね。これまでも発病者は全世界で、20年間で200人足らず、その大半はイギリスだ。
肉骨粉を禁止したり、輸入制限をしても、BSEは潜伏期間が長いから、すでに感染していて、今後、発病する牛が日本でもまだ出現するかもしれないし、ひょっとして発病前のBSE感染牛の牛肉をすでに食べた人もいるかもしれない。とはいえ、いずれにせよヒトがそれで感染・発病する確率はきわめて小さい。ましてや、危険部位以外のところを食べているぶんには、数年にひとりも出ないんじゃないかなんて話を聞いた。
Aさんでもそのひとりになったらヤダ!
H教授交通事故で死ぬひとは年間1万人だよ。去年は随分減ったそうだけど、やはり四捨五入すれば1万人だ。つまり確率的に言えば、われわれ2〜300人のうちひとりくらいは、交通事故で死ぬんだ。
いわゆる発ガン物質なんかは、絶対安全という濃度はないとされている。でも発ガン物質の環境基準【1】を決めるとき、『VSD(実質安全量)』という考え方があって、統計的に生涯リスクで10万人にひとり、あるいは100万人にひとりぐらいガン死者が増えるくらいのラインだったら、実質的に安全とみなしてVSDにしようというのが、世界の大勢になっていて、ベンゼン【2】なんかもこういう考え方で環境基準が決まった。
いずれにせよ、リスクの大きさだけからいうと、BSEに関しては段違いに神経質だねえ。
Aさんセンセイ、つまり米国の牛肉の輸入再開をせよというんですか。そりゃ、ワタシだって、牛丼は食べたいけど、そんな発言すればまた総スカンですよ。センセイは反ブッシュじゃなかったんですか。
H教授関係ないだろう!! 現時点では輸入再開は反対だよ。だって、米国の言い分はもっともらしいけど、一方じゃBSEを理由に日本の牛肉の輸入を禁止しているじゃないか。完全なダブルスタンダードだもん、こちらを直すのが先決だね。
でもねえ、海外に毎年160〜170万人渡航して、日本で輸入を禁止している牛肉を外国で日本人がぱくぱく食ってるのには、なんにも言わないし、今回の米国の牛肉だって、輸入済みのものは「最後の牛丼」になったんだけど、これだってリスクは同じはずだから、なんにも規制措置をとってないのは、おかしいといえばおかしいよね。
Aさんその部分は自己責任ってことですかねえ。でもそれで万一vCJDが発生したりしたら、また大騒動でしょう。
行政はこういう場合、どこまで対策をやればいいんですか。
H教授費用対効果っていうのがあって、ある程度のリスク削減までは投資効果が高い。でもそっから先は莫大な費用をかけてもなかなかリスクは削減しにくくなるんだ。
交通法規や信号や歩道がなければ、交通事故の死者は年間10万人にはなるだろう。それをこういう対策をとることで1万人ぐらいに納まっているけど、これから何百兆円かけても何百人というオーダーにはならないと思うよ。
BSEでいうと規制強化や検査体制の強化はもちろん必要だけど、全頭検査まで必要かなあ。
むしろ、牧場、農協からレストランまでの牛の履歴の完全表示義務を課すべきだと思うなあ。まあ、牛だけじゃないけど。
それに、現在の対策でのリスクをわかりやすくきちんと公表するべきだね。宝くじで1等が当たる確率と較べてどうとかね。個人ベースでのリスク削減の方法を知らせるとともに、われわれ自身がそういう知識をもつべきだよね。
Aさん完全表示義務を課しても、ウソの表示をするかもしれないじゃないですか、何年か何十年かにひとりvCJDで死ぬ人が出てもいいというんですか!
H教授法の網を潜り抜ける輩は何億円という罰金や重罰を課せばいい。不幸にしてvCJDにかかった人が出てきたときは―将来ともかかる人がいるかどうか疑問だけど― 症状からすぐわかるんだから、国家が損害賠償じゃなく、相当額の見舞金を出すシステムをつくるべきだと思うよ。
Aさんじゃ、鶏の鳥インフルエンザは?
H教授うーん、こっちはよく知らない。BSEと違って、こちらの方はリスクの程度もよくわからないんだから、とりあえず最大限の予防対策を講じつつ様子をみるしかないだろうな。
ただ、鳥インフルエンザに関しては、鶏肉や鶏卵を食べて感染したって例は知られていないから、われわれ消費者はそれほど神経質になる必要はないと思うよ。
Aさんでも、このことから何を学べばいいんですか。
H教授まず、食の安全性ということでいえば、100%の安全性なんてないということを知っておく必要がある。農薬とかだけじゃなくて、見た目からはわからない病原菌のいる動植物だっているかもしれない。行政はせいぜい99%か99.9%の安全性しか保証できないんだ。毎年少なくとも数十人は毒キノコを食べて死んでいる。自分の舌と鼻をもっと訓練させるんだな。そして市場に出る食物には生産地、生育地、肥飼料農薬等の完全表示義務を課せば、あとはある程度以上は自己責任。不測のときのために保険というものもある。
Aさん要はセンセイは牛肉が大好きなんだ。
H教授そう、とくにスキヤキのとき最初に入れる白い脂の塊。
あれが煮詰まってとろっとした奴なんてのは、最高だねえ。生きている価値があると思っちゃうよ。
Aさんきっもちわるーい。センセイて、食の変態なんだ。
H教授ほっといてくれ!
Aさんはいはい、他には?
H教授やっぱり食べ物はできるだけ自国産でまかなう方がいいんじゃないかな。食料自給率がカロリーベースで40%というのは異常だと思うよ。できれば地域内で産して、農薬や化学肥料をあまり使っていないものの方がいいよね。
Aさんやっぱり安全性ですか。
H教授いや安全性は関係ない。多分、心理的な安心感だね。
Aさんセンセイ、言うこととやることはまるでちがうじゃないですか。じゃ、いま飲んでるコーヒーなんてさっさとやめてください!
H教授キミ知らないか、人間は自己矛盾を犯す動物ならざる動物だってことを。
Aさんどうせ、また、誰かの受け売りでしょう!
H教授ほうらひっかかった。一見引用風だけどオリジナル(笑)。
廃家電横流しは悪か?
Aさんもう、センセイの意地悪! さっさと本題に行きましょうよ。
家電リサイクル法【3】で消費者が出した廃家電を横流しして北朝鮮に輸出したなんて記事がありました。ひどいですよねえ、消費者への裏切りだわ。環境省も経済産業省も再発防止に取り組みだしたようですけど、こういうヒドイ連中は厳罰に処して、2度とこういう事態を生じさせないようにしなければいけないですよねえ。
H教授(ニヤニヤして)キミ3つのR【4】って知ってるかい。
Aさんあったりまえじゃないですか。Reduce, Reuse, Recycleです!
H教授そう、で、その優先順位は?
Aさんワタシャ、こんど大学院に行くんですよ! ばかにしないでください。リサイクルよりリユース、リユースよりリデュースって循環基本計画【5】にもちゃんと書かれています(...ハッと気づく)
H教授そう、リサイクルに回されたものをリサイクルせずにリユースしたんじゃないか。法律違反かも知れないけど、いいことじゃないか。それにこの事件の被害者はだれなんだ。
Aさん当然、消費者じゃないですか、だってリサイクル費用払ってるんだもの。
H教授販売店が預かり金としていて、返すことになったじゃないか。
Aさんそれは発覚したからでしょう。
H教授販売店は知らなかったみたいだから、請け負った運送業者が運送費だけでなく、売れるものは売ろうと思ったんだろう。リサイクル費用の詐取まで考えていたかどうかわからないし、仮にそうだとしても消費者はリサイクルするつもりでリサイクル費用を払ったんだ。それが社会的にもっと有効なリユースに回ったんだから、いいじゃないか。
Aさんじゃ、今回の事件は不問に伏せというんですか!
H教授そうじゃなくて、法律の矛盾、欠陥がでてきたんだと思うよ。第1講で、リサイクルの推進がかえってリユースを妨げていることがあるって言ったけど、これが典型的な事例だと思うよ。
Aさん...。
H教授消費者がまだ使えるけど、機能がちょっと物足りなくなったとか、修理すれば使えるけど、この際だから買い替えて...と思ったわけだ。
Aさんええ
H教授まあ、安易にそう思うこと自体が問題だとは思うけど、それをリユースするにはどうすればいい?
Aさん人にあげれば?
H教授もらってくれる人がいればいいけど、いない場合は?
Aさん古物商に持ち込めばいいじゃないですか。
H教授売れればね。でも新しいものならいざしらず、使って何年もした電化製品なんてふつう買ってくれない。
市町村では粗大ごみで出されたものを再生して市民に販売したりしているところもあるけど、電化製品だけはPL法ってものがあって、やってなかったみたいだ。それでも、1,000円とか1,500円ぐらいで引き取ってくれたんだけど、家電リサイクル法制定以降は該当4品目は引き取りもしなくなった。
つまりフリーマーケットなんかを別にすれば、社会的にリユースする道がないんだ。そして家電販売店で処理料プラス運搬費で5,000円から10,000円くらい出して引き取ってもらうしかなくなった。だから不法投棄が増えた。
Aさんビジネスチャンスじゃないですか、リユースできそうなものを1,000円とか1,500円で引き取って、それを修理したりお化粧したりして、販売したら。
H教授その場合、不要な家電製品を引き取ってもらう人は1,000円とか1,500円払っているんだから、価値のあるものを売るわけではないよね。つまり、廃棄物として処理してもらっているということになる。
そうなると、受け取る側の業者は、一般廃棄物処理業の許可をとらなきゃいけないんだけど、通常はこういう場合に許可は出ないそうだ。そもそも法律がこういう場合を想定していないんだからね。
Aさんうーん、八方ふさがりですね。
H教授この事件はそういう閉塞状況を破ったんだから、再発防止云々より、リユースの道を開くべきだと思うよ。
Aさんどうやって?
H教授販売店で引き取るとき一律の料金じゃなくて、A・B・Cとランク分けするとか。
Aさんそんなメンドウなこと。
H教授そのメンドウなことをやって横流しして利益を得ていたんだもん、できないわけないじゃないか。あるいは今回のようなことを公然とやれるルートを認知するとか。
Aさんでも横流し先があの国でしょう。
H教授別に武器じゃないからいいじゃないか。
Aさんなあるほどねえ。
H教授それよりも、前にも言ったかと思うけど、廃棄物の定義を有価かどうかだけでなく、循環資源【6】かどうかの観点も含めて、抜本的な見直しをしなければいけないだろうな。
実際、現場では「産廃」と「事業系一廃【7】」、「事業系一廃」と「家庭系一廃【8】【8】」の区分も混乱してるし、「特別管理一般廃棄物【9】」なんてのは名前と概念があるだけで、現場ではほとんど無意味だって話も聞くしねえ。
Aさんじゃ、どうすればいいんですか。
H教授さあなあ。でも有価か否かよりも、循環資源か否かに着目して、それによって対応を根本から変えることについて、もっと議論を重ねていくべきだろうな。
他にも、廃棄物にはまだいろいろと問題が多い。キミ、なにかあげられるかい?
ダイオキシンの余波と、リサイクルの功罪?
Aさんそういえば、産廃(産業廃棄物)の焼却を一般廃棄物焼却施設で引き受けてもいいと環境省が方針変更したと新聞に出てました。
この問題はどう考えればいいんでしょうか?
H教授いいところに目をつけたな。これはダイオキシン【10】の余波といえるだろう。
Aさんはぁ、ダイオキシン?
H教授そう、ダイオキシンの規制強化で、産廃の焼却炉が新基準をクリアできず、廃炉が続出しているらしいんだ。だから、産廃を処理できる施設が不足して、余裕のある一般廃棄物処理施設で引き受けるようにということなんだろうな。
Aさんセンセイはどう思われるんですか。
H教授まあ、このことだけ取り上げればやむをえないと思うけど、ダイオキシンが過剰規制になってないか、よく調査することが必要だと思うよ。
ま、とはいっても、ダイオキシンの規制緩和は世論が許さないだろうな。
ともかく、先ほどの話に戻るけど、廃棄物問題については、『拡大生産者責任(EPR)』の原則【11】を基本にすること、事業者からの廃棄物は特殊な場合を除き、「裾切り」をした──つまり従業員のいない住居事業者一体型のものや公共施設からのものを除いた上で、それ以外はすべて事業者責任にし、一般廃棄物処理施設に持ち込む場合は処理費分は完全負担すること、また、家庭ごみも排出量に応じて有料にする、その際きちんと分別した再資源化可能ゴミは減免措置を行うこと などの基本原則は出せそうな気がするけどなあ。
つまり、企業にしても家庭にしてもごみを出さない方が得をするし、そうしたニーズを満たす長寿命製品や長期間保証期間をつくる企業が潤うような社会システムにしなくちゃいけないんだ。たとえばレンタル社会とかね。
Aさんやっぱり最終処分場【12】不足の問題からですか。
H教授それもあるけど、もっと大事なのは有限の資源を大事にするってことだ。「もったいない」という感覚を取り戻さなきゃいけない。
「もったいない」は、英語ではうまく訳せないそうだ、つまり欧米、とくに米国ではそういう感覚自体がないんだよね。「下取り」とか「量り売り」なんてのは、うまくできた日本独自の制度だと思うけどね。
Aさんふーん、なるほどね。
ところで、先日、本を読みました。リサイクルなんて、するだけ資源とエネルギーの無駄遣いだって。
H教授ああ、ペットボトルを燃やせば何円ですむけど、リサイクルすれば何十円もかかる。かかるオカネはエネルギーと資源の指標だって奴だよね。だからリサイクルなんてするな、燃えるものは燃やせ、燃えない金属などはゴミ鉱山として保管しておけばいいって。
Aさん間違ってるんですか。
H教授うん、部分部分では正しいところはあるけど、基本的に間違ってるね。
コストは資源、エネルギーの指標というより、この場合は基本的に人件費だと思っていい。過渡期だからおかしなリサイクルはいっぱいあるけど、だからリサイクルをやめろということにはならない。
それにこういう問題が生じてきたのは都会のツケをなんで俺たちがっていう、つけまわしの構造に対する処理場周辺の住民の異議申し立てだよね。あの先生は、ゴミ処理場じゃありません、ごみ鉱山ですって説得できると思ってるのかなあ。
Aさんじゃ、いまのリサイクル施策は基本的に正しいんですか。
H教授たしかに輪が閉じていなかったり、エネルギーの無駄遣いのようなリサイクルがあることも事実だ。それは直すべきだけど、だけど、だからってリサイクルをやめろってことにはならない。それに、リサイクルよりリユースだって言ってるじゃないか。
ペットボトルだって、燃やすかリサイクルするかよりも、食品衛生法を改正してリユースできるようにすべきだ。ドイツじゃ、空き缶のデポジット制を敷いたら、缶そのものの利用が減って、リターナブル瓶に回帰しつつあるそうだ。
Aさんでもそうしたらペットボトル製造業者や缶製造業者が苦境に陥って失業者も増えるんじゃないですか。
H教授それこそが社会を循環型に変えていく、真のコーゾーカイカクじゃないか! ま、このあたりの話は環境省の問題というより、政府、産業界全体の問題だし、結局のところ国民が変わらなきゃどうしようもないと思うけどね。
Aさんふーん、そんなもんかなあ。
冬来たりなば、春遠からじ
Aさんところでセンセイの嫌いなあのブッシュさんの支持率が急落、50%まで落ちたそうですよ。大統領選で再選はならないかも。そうすれば京都議定書復帰もあるかもしれないですよ。
H教授まだ50%も支持する人がいる方が信じられないよ。それにウルトラCがあるかもしれない。
AさんウルトラCって?
H教授大統領選直前にビンラディンの捕捉なんてやればまた人気は盛り返すかもしれない。
Aさんそんなバカなあ。そんなタイミングよくやれるわけないじゃないですか。
H教授いまは泳がせているだけかもしれないじゃないか。
Aさんまっさかあ(絶句)。
H教授ビンラディンを捕らえても、第2・第3のビンラディンが現れてくるだけだけど、とりあえず再選だけはできるだろう。
Aさんセンセイはペシミストなんですねえ。
H教授そんなことはないよ。最悪のことを想定しておくと、それより少しだけマシな事態があらわれれば、それだけで幸せじゃないか。
Aさんよく、わかんないなあ。
H教授つまり、キミみたいな学生の相手をすることを不幸と思わずに、このあとどんな学生が来ても今よりも幸せになれるって希望が持てれば人生楽しいじゃないか。
Aさんへん、これからも、ぜえったい、センセイにとりついて放してやらないですようだ。
注釈
- 【1】環境基準
- 環境基本法(1993)の第16条に基づいて、政府が定める環境保全行政上の目標。人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準。政府は公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより、環境基準の確保に務めなければならないとされている。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音などについて定められている。また、これら基準は、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならないと規定されている
- 環境省>環境基準について
- 【2】ベンゼン
- 水に溶けにくく、各種溶剤と混合しよく溶ける。化学式はC6H6、分子量は78.11、融点は5.5℃、沸点は80.1℃。常温常圧のもとでは無色透明の液体で独特の臭いがあり、揮発性、引火性が高い。
かつては工業用の有機溶剤として用いられたが、現在は他の溶剤に替わられている。自動車用のガソリンに含まれ、自動車排出ガスからも検出される。その許容限度は大気汚染防止法(1968)により1体積パーセント以下と規定がなされている。日本では、労働安全衛生法(1972)において特定化学物質、大気汚染防止法において特定物質、水質汚濁防止法(1970)において有害物質に指定されている。白血病に対する疫学的な証拠があること、そのことについて閾値がないとされていることなどから、大気中の環境基準は年平均値が0.003mg/m3以下であることと定められている。 - 【3】家電リサイクル法
- 総務省法令データ提供システム
- 家電リサイクル法(経済産業省 商務情報政策局)
- 家電リサイクル関連情報(環境省廃棄物・リサイクル対策部)
- 家電リサイクル券センター
- 【4】3つのR
- 「ごみを出さない」「一度使って不要になった製品や部品を再び使う」「出たごみはリサイクルする」という廃棄物処理やリサイクルの優先順位のこと。
「リデュース(Reduce=ごみの発生抑制)」「リユース(Reuse=再使用)」「リサイクル(Recycle=再資源化)」の頭文字を取ってこう呼ばれる。
「循環型社会形成推進基本法」は、この考え方に基づき、廃棄物処理やリサイクルの優先順位を(1)リデュース、(2)リユース、(3)リサイクル、(4)熱回収(サーマルリサイクル)、(5)適正処分―と定めている。
3Rに「リフューズ(Refuse=ごみになるものを買わない)」を加えて「4R」、さらに「リペア(Repair=修理して使う)」を加えて「5R」という場合もある。 - 【5】循環基本計画(循環型社会形成推進基本計画)
- 環境省>廃棄物・リサイクル対策>循環型社会形成推進基本法関連
- 循環型社会形成推進基本計画(平成15年3月)
- 循環型社会形成推進基本法」について(環境省 廃棄物・リサイクル対策部)
- 【6】循環資源
- 2000年に、廃棄物処理やリサイクルを推進するための基本方針を定めた法律として「循環型社会形成基本法」が制定された(環境省所管)。
資源消費や環境負荷の少ない「循環型社会」の構築を促すことを目的とし、
(1) 循環型社会の定義を明らかにした
(2) 廃棄物や生産活動で排出される不要物などのうち、売れるか売れないかに関わらず、再び利用できるものを「循環資源」と定義(廃棄物処理法は廃棄物を「売れないもの」と定義している)し、循環資源の再使用やリサイクル推進を定めた
(3) 廃棄物処理やリサイクル推進における「排出者責任」と「拡大生産者責任」を明確にした
(4) 廃棄物処理やリサイクルの優先順位を、発生抑制(ごみを出さない)→再使用(リユース)→再生利用(リサイクル)→熱回収(サーマルリサイクル)→適正処分 と定めた。
同法は基本法であり、政策の基本的方向を示すものである。 - 【7】事業系一廃(事業系一般廃棄物)
- 廃棄物処理法(1970)の対象となる廃棄物のうち、産業廃棄物以外のものが「一般廃棄物(一廃)」として定義される。
これは、発生源別に、生活系と事業系の2つに区分され、一般家庭から排出されるいわゆる「家庭ごみ」(生活系廃棄物)に加えて、事業所などから排出される産業廃棄物以外の不要物である「事業系一般廃棄物」が含まれる。
現行の廃棄物処理法(1970)の下では、地方自治体が収集・処理・処分の責任を負う。 - 【8】家庭系一廃
- 廃棄物処理法(1970)の対象となる廃棄物のうち、産業廃棄物以外のものが「一般廃棄物(一廃)」として定義される。
これは、発生源別に、生活系と事業系の2つに区分され、一般家庭から排出されるものは、いわゆる「家庭ごみ」(生活系廃棄物)と呼ばれる。これに加えて、事業所などから排出される産業廃棄物以外の不要物である「事業系一般廃棄物」が含まれることになる。
現行の廃棄物処理法(1970)の下では、地方自治体が収集・処理・処分の責任を負う。 - 【9】特別管理一般廃棄物
- 事業系一般廃棄物のうち、爆発性、毒性、感染性その他人の健康または生活環境に係わる被害を生じるおそれのある性状を有するものとして政令で定められている廃棄物をいう。
具体的には、医療機関等(病院、診療所、衛生検査所、介護老人保健施設、助産所、動物診療施設および試験研究所をさす。)から排出される血液等の付着した包帯、脱脂綿、ガーゼなどの感染性病原体を含むかそのおそれのある廃棄物(感染性一般廃棄物)、日常生活に伴って生じた廃エアコンや廃電子レンジなどに含まれるPCB使用部品、ばいじん・燃え殻汚泥で定められた条件に合うもの がある。
処理については、廃棄物処理法施行令で定められている。 - 【10】ダイオキシン(類)
- 有機塩素化合物の一種であるポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)を略して、「ダイオキシン」と呼ぶ。
ときに、「ダイオキシン類」という表記がされる。これは、塩素含有物質等が燃焼する際に発生する、狭義のダイオキシンとよく似た毒性を有する物質をまとめて表現するもの。ダイオキシン類対策特別措置法(1999)では、PCDD、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、コプラナーポリ塩化ビフェニル(Co-PCB)をあわせて「ダイオキシン類」と定義。いずれも平面構造を持つ芳香族有機塩素化合物で、置換した塩素の数や位置により多数の構造異性体が存在。
塩素と有機物(ベンゼン環)存在下で、銅を触媒にして生成する。特に250〜400℃の比較的低温で、有機塩素を含むプラスチックを不完全燃焼すると発生しやすい。
廃棄物処理に係る環境省の基準によれば、ダイオキシンの発生防止には、焼却炉の構造と特定の運転条件が必要で、
(1)廃棄物の連続定量投入、
(2)燃焼温度800℃以上の高温処理、
(3)十分なガス滞留時間(1〜2秒以上継続)、
(4)200℃以下への排ガスの高速冷却とバグフィルターの設置、
(5)排ガス中のCO濃度の連続的測定記録、
などを義務付けている。ダイオキシン類の除去方法は、他に活性炭等に吸着させる方法、触媒により分解する方法があり、無酸素状態で400〜450℃に加熱すれば分解することも確認され、実行されている。 - ダイオキシン類対策(環境省資料)
- 【11】拡大生産者責任
- 生産者が製品の生産・使用段階だけでなく、廃棄・リサイクル段階まで責任を負うという考え方。具体的には、生産者が使用済み製品を回収、リサイクルまたは廃棄し、その費用も負担すること。OECD(経済協力開発機構)が提唱した。循環型社会形成推進基本法にもこの考え方が取り入れられている。 拡大生産者責任を採用すると、リサイクルしやすい製品や廃棄処理しやすい製品の開発が進み、リサイクルや廃棄処理にかかる費用が少なくなると考えられている。費用が少なくなるのは、回収費用やリサイクル費用を生産者が負担するため。生産者は費用を製品価格に上乗せすることもできるが、製品価格が上がると販売量が減る可能性がある。そこで、製品価格を上げないよう回収やリサイクル費用の削減努力が生まれる。
- OECD「拡大生産者責任ガイダンス・マニュアル」について(経済産業省)
- 拡大生産者責任関係の法制度について(中環審資料より)
- 【12】最終処分場
- 廃棄物の最終処分(埋め立て処分)を行う場所。廃棄物は、リサイクル・リユース(再使用)される場合を除き、最終的には埋め立てか海洋投棄される。最終処分は埋め立てが原則とされており、処分の大部分は埋め立て。最終処分場については、構造基準と維持管理基準が定められている。最終処分場は、埋め立て処分される廃棄物の環境に与える影響の度合いによって、有害物質が基準を超えて含まれる燃えがら、ばいじん、汚泥、鉱さいなどの有害な産業廃棄物を埋め立てる「しゃ断型処分場」、廃棄物の性質が安定している廃プラスチック類などを埋め立てる「安定型処分場」、しゃ断型、安定型の処分場の対象外の産業廃棄物と一般廃棄物を埋め立てる「管理型処分場」の3種類に分けられる。
- 一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令の一部改正について
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