No.003
Issued: 2003.04.03
第3講 Hキョージュ、水フォーラムを論じ、ダイオキシンを語る
ネオコンの恐怖
Aさんセンセイ、浮かぬ顔ですね。
H教授ああ、これほど大義のない戦争もめずらしい、ネオコンはこれからの世界のガンだね。
Aさんネオコン? ゼネコンとかボデイコンなら知ってるけど...。
H教授冗談言ってる場合か! ネオコンはネオコンサバテイブの略、新保守主義などと訳されているけど、ウルトラ米帝国主義とでもいったほうがいいんじゃないかな。
Aさんこれからイラクはどうなるんでしょう?
H教授ぼくとしては反フセイン・反ネオコンのイラク市民革命が起きて戦争を終結してほしいんだけど、春の夜の夢なんだろうなあ...。
Aさんセンセイ、そう落ち込まないで。こういうときこそセンセイの専門の環境問題を話してください。
H教授ぼくは環境問題の専門家なんかじゃないよ。たまたま環境庁に勤めていたから、門前の小僧が習わぬお経を読んでるに過ぎないよ。
Aさんそういじけないでくださいよ。
そういえば、第3回世界水フォーラムが開かれてましたね【1】。結構盛会だったみたいじゃないですか。こういうところからかすかな希望が生まれないですか?
H教授(気を取り直す)うん、そうだな。おもしろいと思ったのは、この水フォーラムは国土交通省、つまり旧建設省が後押ししていたんだけど、こんな場合、他の省庁はお付き合い程度ってのがふつうなんだ。ところが、今回はどの省庁も結構熱心に関与しようとしていたみたいだし、地方自治体レベルでは環境部局が非常に熱心に取り組んでいた。
それから、関連行事がやまほどくっついてて、それは行政サイドが上から組織したものだけでなく、いろんなNGOが押しかけ参加していたってことだ。自分たちが水フォーラム関連行事だと宣言し、主催者の運営委員会に通告すれば、関連行事になってしまったらしい。運営委員会でも全貌を把握しきれてなかったんじゃないかと思えたほどだ。あの組織論はちょっと昔のベ平連を思い出すよ。
Aさんベヘーレン? なんです、それ?
H教授いや、いい、死語だから。
Aさんふーん、で、この水フォーラムのみどころはなんだったんですか?
H教授1、2月はイラクや北朝鮮に霞んで、ほとんどメデイアにも取り上げられなかったけど、3月に入ってからメデイアでもよく取り上げられるようになったから、それを見てくれ。
一言でいうと、水質だとか水量だとか、そういった個別の視点ではなく、もっとトータルで国際的な水循環、水環境の永続的な保全利用の必要性が語られるようになったことかな。閣僚会議宣言もそれが色濃く滲んでたね【2】。国連安保理とえらいちがいだ。
Aさんでも、具体的な政策としてなにかあるんですか?
H教授うん、それがまさに問題だ。一発花火のお祭りで終わるのか、この動きが地下水脈のようにどんどん政策領域まで浸透していくかが問われている。キミはどう思う?
Aさんそんなのわかんないですよ。
H教授どうして?
Aさん所詮、ミズものですもん(笑)。
H教授(溜息)そんなことを言ってる場合か...。
Aさんちょっと笑ってくださいよ、そのために言いたくもない駄洒落を言ったんですから。
H教授そうか、キミにもそんな気配りができたんだ。
PCBの教訓
Aさんそれでセンセイ、そのほかに先月はなにかありました?
H教授そうそう、PCB処理計画がようやくまとまったって記事があったね。カネミ油症が1968年、その原因物質とされたPCBの製造禁止が1972年のことだ。処理技術・方針が確定されるまでPCB製品の保管を義務付けたんだけど、未だに処理方針が確定しないまま30年以上経った【3】。
新規化学物質というのは事前に十分チェックするとともに、その安全な廃棄処理技術を同時に開発しておくことが大事だと思うよ。
Aさんちょ、ちょっと、そんないきなりPCBだなんて言われたって、ワタシ知りませんよ。ワタシの生まれる十数年まえのことですもん。
H教授こらこら、また年齢詐称だぞ。
ま、キミが知らないのもムリはないな。PCBというのはポリ塩化ビフェニールという有機塩素化合物で、さまざまな優れた特性を持っていたので、コンデンサーだとかトランスだとかノンカーボン紙だとか広い範囲に使われていたんだ。
それが、じつはある事故をきっかけに毒性が話題になり、ついに製造禁止になった。ところがPCB入り製品は、もう至るところにあり、回収するすべも、処理技術も確立しないまま、とりあえず製品の所有者に保管を義務付けた。
ま、実際にはカーボン紙なんて、かなりの部分が行方不明になってしまったらしいけど。
その後、処理技術自体は開発されたんだけど、その際、ごく微量ではあるもののPCDDやPCDF【4】ができることから、処理施設の建設に周辺住民が反発して、いまだに部分的にしか処理されていないんだ。
AさんPCDD、PCDF? なんですかそれ。
H教授いわゆるダイオキシンだよ。こういえばわかるだろう?
Aさんキャー、ダイオキシンだって、こわいよお。
ダイオキシンの虚実
H教授じゃ、キミはポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン、つまりダイオキシンのことをどの程度知っている?
Aさんえーと、非意図的化学物質ですよね。つまり作るつもりじゃないのにできてしまう物質。
H教授お、むつかしいコトバ知ってるな。意図的に作られる新規化学物質だったら「化審法」って法律があって【5】、毒性、分解性、蓄積性などの観点からのチェックがなされるんだけど、非意図的にできてしまうってやつは対応がむつかしい。
で、そのほかには?
Aさんまかしといてください。史上最強の毒物で、発ガン性があって、環境ホルモン作用もある、とっても恐ろしい物質ですよね。たしかごみ焼却場の排煙が最大の発生源ですよね。
H教授うん、日本では可燃ごみのほとんどは燃やして減量している。世界一のごみ焼却大国といっていい。だから、大気中の濃度も欧米より相当高かった。いまじゃ厳しい規制をしているから欧米並みになったけど。
魚や底泥を含む水系での検出地点の数も年々増えていっている。20年前には検出されなかったような場所からも続々検出されるようになった。
Aさんえー、ほんとですか。それってたいへんじゃないですか。
H教授事実だから仕方がない。もっとも、検出限界が下がったからだということでもあるけどね。
ダイオキシン類は難分解性の物質だから大気から水に移行、食物連鎖で魚に濃縮される。その大半は食物経由で人体に入ってくる【6】んだけど、日本は世界一の魚食国民だ。人体の各部や母乳のダイオキシン濃度も欧米並かそれ以上みたいだよ。
Aさんえー、ヤダー。こわくてワタシ、もうこどもが産めないよ。そういえば産廃処理場やごみ焼却場周辺じゃガンになったり流産したりする人が多いって新聞にあったですよねえ。
センセイ、なんとかしてください。
H教授という風な記事が一時期、滅多やたら出たよね。いずれも事実だけど、それは事実のひとつの側面でしかない。
Aさんどういうことですか。
H教授史上最強の毒物というのはそのとおりだ。ただし、それはある種の実験動物に対してであって、種ごとに毒性が大きく異なる。ヒトに対しては人体実験するわけにいかないから、より安全サイドに立って史上最強の毒物としているだけで、ほんとうのところはわからない。イタリアのセベソというところで化学工場の爆発事故が起きて、大量のダイオキシンが撒き散らされた【7】。そして、人々は避難、妊娠している人は中絶したらしい。でも、急性毒性で死んだ人もいなかったし、その後30年間追跡調査が行われているけど、ガンの多発みたいなことは未だ報告されていない。
Aさん発ガン性はどうなんですか?
H教授IARC【8】というところで発ガン物質の認定をしているんだ。一部のダイオキシンは「ヒトへの発ガン性あり」とされたけど、医学者の投票で辛うじての過半数だったそうだ。つまり発がん性はあるにしても、それほど強いものでもなさそうだ。
Aさんでも、20年まえには検出されていないところでどんどん検出されてるんでしょう。
H教授それは単に測定の検出限界が下がったからかもしれない。測定の技術進歩はすさまじいからねえ。昔の環境汚染物質というのはppm(百万分の一)からせいぜいppb(十億分の一)のオーダーだった。今日のいわゆる微量化学物質というのはppbからppt(一兆分の一)、ダイオキシンだとpptからppq(千兆分の一)なんて言われている。こんな超微量の測定も可能になったけど、いっぽう、その濃度でどういう影響があるかということはわからないことが多いんだ。だから不安感だけが一人歩きする。
でもねえ、ダイオキシンの日本全国での毎年の排出量って、もっとも毒性の強い2,3,7,8-TCDD【4】の毒性濃度に換算したら、わずか数kgなんだぜ。
Aさんじゃ、濃度が増えているかどうかも確かじゃないんですか。
H教授長年母乳の凍結保存をしているところで母乳中のダイオキシン濃度を分析したところ、1970年代がピークで以降は減ってきているという結果がでている【9】し、湖の湖底に溜まった泥の調査でも似たような結果がでている。
つまり1970年前後、大量に使われ、その後使用禁止になった有機塩素系農薬の不純物として含まれていたんではないかとのことだ。もちろん、PCBもその原因のひとつだろう。PCBの一種でコプラナーPCBというのも、いまではダイオキシン類ということになった【10】。
Aさんじゃ、ごみ焼却場や産廃処理場周辺でガンが多発しているとか、流産が多いとかいうのは?
H教授ぼくは未だに統計的な検証に耐えうる有意な差があるというデータを知らない。いずれにせよ大気から直接人体に移行するのはごくわずかだからねえ。
Aさんじゃ、問題はまったくない空騒ぎだと?
H教授そんなことは言ってないよ。リスクがあるのは確かだし、最近では環境ホルモン作用だのということも言われてきているし、できるだけ排出抑制をすることは必要だと思うよ。けど、それが、どの程度のリスクかということがわからない。
日本人は欧米人並か、あるいはそれより高いダイオキシン濃度だというのはそのとおりだけど、その割に日本は世界有数の長寿国という事実もあるもんな。正直言ってダイオキシンだけのリスクはそれほど大きくはないと思うよ。
テレビで能勢の焼却工場で高いダイオキシンに晒された従業員を診察した米国の専門家が「こんなひどいダイオキシン曝露はみたことがない、これは明らかに犯罪だ、あなたは毎日むりやり2箱のタバコを強制的に吸わされていたのに相当する」と発言しているのを聞いたことがある。犯罪だというのはそのとおりだと思うけど、すぐにでも死人が出るような騒ぎ方で煽るのはどうかと思うよ。だいいち、カラダに悪いと知っていながら、ついつい、毎日タバコ2箱を吸ってしまう人って世の中にいっぱいいるよね。
Aさん世の中にってセンセイがそうじゃないですか!
H教授いや、ぼくは3箱(笑)。
Aさんどうでもいいけど、ワタシのまえで吸うのはやめてください!
H教授わかった、わかった。
で、さっきのつづきだけど、ダイオキシンだけをスケープゴートにしてカネとヒトを注ぎ込むのはどうかと思うな。今ではpptオーダーだと何千何万という化学物質が検出される。そうした化学物質トータルのリスクは、ぼくはよくわからないけど、環境ホルモン作用のことも考えれば意外に大きいのかもしれない。
いわゆる環境ホルモンの話はまた今度するとして、結論だけ言えば、ダイオキシンだけじゃなくて、そうした化学物質全体の環境への放出を減らすような政策が必要だと思うよ。
Aさんじゃ、いまの政府のダイオキシン対策はどう思われます?
H教授まえにも言ったけど、ごみという都会のツケを押し付けられている人たちがダイオキシンをきっかけに反乱を起した。その結果、焼却場の新規建設がむつかしくなり、ごみの発生抑制から循環型社会ということが言われるようになった。これは結果的にはいいことだけど、冷静で客観的な正論が社会を変えたのでないというのは苦い真実として受け止めるしかないね。
ダイオキシン類対策特別措置法ができ、環境基準が定められ、産廃処分場や焼却場の規制強化がなされているのはいいことだと思うよ【11】。でも学校や家庭での小型焼却炉の使用自粛だとか、全国のごみ焼却場を集約統合し、数を3分の1に減らすというのは賛成できないな。
リスクがあろうがなかろうが、ごみはできるだけ出したひとの目に見えるところで処分するということが原則だ。そうしないとごみに関して無責任になってしまうし、そのことのリスクの方が大きいと思うよ。
いずれにしても微量化学物質の問題では、もっとリスクコミュニケーション【12】が必要だね。われわれの「豊かな」生活は化学物質とエネルギーで支えられている。そのことのネガテイブな面も自覚していく必要があると思うよ。さて、今回はこの程度にしておこうか。
Aさんダメですよ。センセイの体験談を話すって言う約束を果たしてください。カレとの待ち合わせの時間までだいぶあるから、時間つぶししなきゃいけないんだもん。
H教授約束はしたけど、あまり長くしすぎると編集部に怒られるからな。体験談はこの次の機会に としようか。
そもそもキミにヒマつぶししている時間なんてないはずだぞ。時間があるなら苦手な化学物質の勉強をすればいい。若いうちは、いくら勉強をしてもしすぎるってことはないんだからな。
Aさんセンセイからそんなこと言われたくないよー。
この間ある人から聞いたんだけど、センセイこそ若いときから遊んでばかりだったそうじゃないですか!
H教授...。
注釈
- 【1】第3回世界水フォーラム
- 第3回世界水フォーラム
去る3月16日〜23日を会期に、琵琶湖・淀川流域の2府1県、京都・滋賀・大阪を会場に開催された国際大会。水問題を通じて地球の将来について考え、行動につなげていくことを目的とした国際大会として、国際シンクタンクの「世界水会議」が呼びかけたもの。
1997年3月にモロッコのマラケッシュで開催された第1回世界水フォーラムで「世界水ビジョン」の作成が提案され、2000年3月にオランダのハーグの第2回でビジョンが発表された。第3回では、これを実行するための方法論や問題点などについて、各地の現場での経験を分かち合いながら議論された。
会期の最後、22・23日には世界の水担当閣僚による閣僚級国際会議も開催された。
フォーラムにはNGOや一般市民も参加登録でき、また水に関するフェアや子ども水フォーラムなどの関連行事も数多く催された。
170の国及び地域と43の国際機関等が出席し、閣僚級の出席も100名を上回るなど、当初の予測を上回る盛況をみせ、23日に閣僚宣言の採択を受けて閉幕した。
主な成果として、「閣僚宣言」および「水行動集」がとりまとめられた。 - 「閣僚宣言(Ministerial Declaration)」※英文・日本語文がPDFファイルで提供されている
- 「水行動集(Portfolio of Water Actions (PWA))」
- 第3回世界水フォーラム事務局(日本語版)
- 世界水会議(WWC/英語)
- 【2】閣僚宣言
- 第3回世界水フォーラムでとりまとめられた主要な成果のひとつ。
3月22日に閣僚級国際会議で合意された原案が、翌23日の最終日に「閣僚宣言」として採択され、第3回世界水フォーラムは閉幕した。
内容は、水が環境十全性をもった持続可能な開発や貧困、飢餓の撲滅の原動力として重要な役割を果たし、人の健康や福祉にとって不可欠であることを確認している。これに基づき、国際協力による資金や技術の移転・投入の促進や、汚染者負担原則の採用・徹底を図ることなどがうたわれ、上下水道整備のための民間の資金や技術の活用、またダム建設につながる水力発電の建設 などを盛り込んでいる。
一方、各国や国際機関が水問題解決のために取り組む422項目よりなる「水行動集」は、「安全な飲料水や衛生施設のない人の割合を15年までに半減」との国際目標をめざして36カ国と16の国際機関が進めている取り組みを、日本が中心になってまとめた。この中で日本は、人工衛星で世界の雨量データを集め各地の洪水を予測する「国際洪水ネットワークの設立」や、途上国への浄化槽 - 「閣僚宣言(Ministerial Declaration)」(英文・日本語文をPDF文書で提供)
- 閣僚宣言について(環境省報道資料より)
- 水行動集について(3rd WWFのHPより)
- 【3】PCB特措法とPCB処理計画、カネミ油症など
- 1968(昭和43)年、カネミ倉庫(北九州市)が製造した食用油「カネミライスオイル」を摂取した人に発症した中毒症。米糠から抽出するライスオイルの脱臭工程で使われたPCB(ポリ塩化ビフェニル)などが製品中に混入したことで起きた日本有数の食品公害事故のひとつとされる。被害の届けを出した人は、福岡県・長崎県を中心に15府県で1万4,000人を超え、認定患者は累計で1,871人(うち死者約300人)にのぼった。
この事件を契機に、PCBの毒性が社会問題化し、1972(昭和47)年の旧通産省の行政指導により、PCBの製造中止・回収が指示された。以来、旧通産省の指導の下、処理施設立地などが進められてきたが、一部を除いて処理は実現されず、約39万台のPCB使用高圧トランス・コンデンサ等のPCB製品のうち廃棄物となったものが、事業者により長期にわたって保管されてきた。
2002(平成14)年に制定したPCB特措法(PCB廃棄物処理特別措置法)では、国が処理基本計画を定め、それに即したPCB処理計画を都道府県および政令市等が定め、また事業者は法施行日から15年後に当る平成28年7月14日までに処分する責務が定められている。
この事件を契機に、PCBの毒性が社会問題化し、1972(昭和47)年の旧通産省の行政指導により、PCBの製造中止・回収が指示された。以来、旧通産省の指導の下、処理施設立地などが進められてきたが、一部を除いて処理は実現されず、約39万台のPCB使用高圧トランス・コンデンサ等のPCB製品のうち廃棄物となったものが、事業者により長期にわたって保管されてきた。
2002(平成14)年に制定したPCB特措法(PCB廃棄物処理特別措置法)では、国が処理基本計画を定め、それに即したPCB処理計画を都道府県および政令市等が定め、また事業者は法施行日から15年後に当る平成28年7月14日までに処分する責務が定められている。 - 「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理に関する特別措置法について」
- 同法における規制の検討結果にかかわる整理
- 環境省パンフレット「ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に向けて」
- 【4】「PCDDとPCDF、コプラナーPCB」 (ダイオキシン類)
- 「ダイオキシン」は、有機塩素化合物の一種であるポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(Poly Chlorinated Dibenzo-para-Dioxin;PCDD)からきており、略して「ダイオキシン」と呼ばれている(「ジオキシン」の「ジ(Di-)」は、「ダイ(Di-)」とも発音される)。
ときに、「ダイオキシン類」という表記がされることがある。これは、塩素含有物質等を高温で焼却する際に発生する、狭義のダイオキシン(PCDDs)とよく似た毒性を有する物質をまとめて表現するもので、ポリ塩化ジベンゾフラン(Poly Chlorinated Dibenzo Furan;PCDF)やコプラナーポリ塩化ビフェニル(Coplaner Poly Chlorinated Biphenyl;Co-PCB)をあわせて呼ばれる。
いずれも平面構造を持つ芳香族有機塩素化合物で、置換した塩素の数や位置によって、多数の構造異性体が存在する。 -
- 特に、PCDDとPCDFでは、2・3・7・8位が塩素で置換した異性体の毒性が高いことが知られていて、中でも2,3,7,8-四塩化ジオキシン(2,3,7,8-Tetra Chloro Dibenzo-para-Dioxin:2,3,7,8-TCDD)はもっとも毒性が強く、史上最強の毒性を持つといわれる。
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- PCBは、PCDDやPCDFと構造が異なるが、PCBの基本骨格であるビフェニル基に置換する塩素の位置によって2つのベンゼン環が同一平面上になり扁平構造をとることがある。これをコプラナーPCBと呼び(コプラナーは共平面状構造を意味する)、構造的にダイオキシンやフランに類似し、その他のPCBよりも強い毒性を示すため、ダイオキシン類として分類される。
- 世界保健機関(WHO)や米国環境保護庁(EPA)では、以前からコプラナーPCBをダイオキシン類として位置づけていたが、日本でも1999(平成11)制定のダイオキシン類対策特別措置法において、PCDDおよびPCDFにコプラナーPCBを含めて“ダイオキシン類”と定義されている。
- ダイオキシン類対策(環境省資料)
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- 【5】「化審法(化学物質審査規制法)」
- 正式には「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)による環境汚染問題を契機として、1973(昭和48)年に制定され、新たに製造・輸入される化学物質について事前に人への有害性などについて審査するとともに、環境を経由して人の健康を損なうおそれがある化学物質の製造、輸入及び使用を規制する仕組みが設けられた。現在の所管は、厚生労働省・経済産業省・環境省。
2003(平成15)年2月現在、PCBなど13物質が第一種特定化学物質に指定され製造・輸入及び使用が原則禁止され、トリクロロエチレンなど23物質が第二種特定化学物質として、またクロロホルムなど676物質が指定化学物質としてそれぞれ指定され、所要の規制が行われているほか、年間約300件の新規化学物質に係る審査がなされるなど、人の健康に有害な化学物質について環境汚染の防止を図っている。 - 化学物質審査規制法HP(環境省)
- 化学物質審査規制法 条文
- 【6】ダイオキシン類摂取量
- 日本人が、食生活や呼吸等を通じて取り込んでいるダイオキシン類の摂取量は、平成13年度の厚生労働省調査によると、1日平均で約1.68pg-TEQ(体重当り)と推定されている。この値は、安全の目安となる指標である耐容一日摂取量(TDI)の4pg-TEQ/kg/日を下回る。 ...詳しくは、 →こちら
- ダイオキシン類2003(関係各省庁共通パンフ)
- 【7】セベソ事件
- 1976年にイタリア北部の都市・セベソの農薬工場で起きた爆発事故。広範囲な居住地区にダイオキシン類が飛散し、家畜などの大量死や、2,3,7,8-TCDDの高濃度暴露によると考えられる皮膚炎の発症を招く。高濃度の汚染を受けた地域の700名以上が強制退去させられた。
事故により生じた汚染土壌(猛毒のダイオキシンなどを含む)はドラム缶に封入・保管されていたが、1982年に行方不明になり、8ヶ月後に北フランスで発見された。フランス政府はイタリア政府に対して回収を要請したが拒否され、最終的には事故を起こした農薬工場の親会社がスイスにあったことから、スイス政府が道義的責任に基づき回収している。
これらを受けて、1982年に当時のECが、有害物質による汚染を減らし、人々の安全を守るための規制を求めた指令(セベソ指令)を発行、1985年までに実施するよう加盟各国に求めた。 - 【8】「IARC(国際がん研究機関)」
- 世界保健機関(WHO)の付属組織である「国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer;IARC)」。
1969年、人への化学物質の発ガンリスクの評価と、個々の化学物質に関するモノグラフ(専門書)を作成することを目的に発足した。その後、化学物質の混合物や放射線、ウィルスなど化学物質でないものの評価も実施するようになっている。
評価プロセスは、まず、人に対する証拠と動物に対する証拠を別々に評価し、その結果をもとに発がん性分類への総合評価を行っている。化学物質の発がん性について5つのランク付けをしている。
Group1 :ヒトに対する発がん性があるもの
Group2A:ヒトに対する発がん性があると見込まれるもの
Group2B:ヒトに対する発がん性の可能性があるもの
Group3 :ヒトに対する発がん性物質とは分類できないもの
Group4 :ヒトに対する発ガン性はないと概ね見なせるもの
ダイオキシン類の中でも最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDについては、過去の事故などにおける高濃度暴露の際の知見から人に対する発がん性があるとしている。なお、ダイオキシン類によるがん化のメカニズムは、ダイオキシン類が遺伝子に直接作用してがん化(発がん作用)を引き起こすのではなく、他の発がん物質による発がん作用を促進する作用(プロモーション作用)であるとされている。 - 「IARC Monographs」(IARCが運用する発がん物質のデータベース/英語)
- 【9】「母乳中のダイオキシン類濃度」
- 厚生科学研究費補助金生活化学安全総合研究事業「母乳のダイオキシン類濃度に関する調査研究」(主任研究員:多田裕東邦大学教授)では、日本における母乳中のダイオキシン類濃度と生活環境要因との関連を明らかにするとともに、母乳中のダイオキシン類が乳児に及ぼす健康影響の評価を行うことを目的とした調査研究を1997〜1999(平成9〜11)年度にかけて実施した。
調査検体には、大阪府立公衆衛生研究所で凍結保存している母乳(昭和48年〜平成11年)および、今回新規に採取した母乳群から抽出した母乳脂肪を用いている(ただし、凍結母乳の昭和48年〜平成8年分についての調査研究結果についてはすでに発表している)。
凍結母乳については、各年ごとに25〜29歳の初産婦の出産後1〜2ヶ月以内に採取した母乳から等量を混合した均一混合物を1年分として分析。
また、新規採取に際しては、全国の妊産婦の母乳や、その子どもが満1歳になった時点での乳児の状況調査などを実施している。
母乳中のダイオキシン類濃度は1973(昭和48)年から1999(平成11)年にかけてほぼ半分近くに減少していることが判明している。 - 「母乳中のダイオキシン類濃度等に関する調査研究」の総括について(厚生労働省資料)
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- 【10】「PCDDとPCDF、コプラナーPCB」 (ダイオキシン類)
- 「ダイオキシン」は、有機塩素化合物の一種であるポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(Poly Chlorinated Dibenzo-para-Dioxin;PCDD)からきており、略して「ダイオキシン」と呼ばれている(「ジオキシン」の「ジ(Di-)」は、「ダイ(Di-)」とも発音される)。
ときに、「ダイオキシン類」という表記がされることがある。これは、塩素含有物質等を高温で焼却する際に発生する、狭義のダイオキシン(PCDDs)とよく似た毒性を有する物質をまとめて表現するもので、ポリ塩化ジベンゾフラン(Poly Chlorinated Dibenzo Furan;PCDF)やコプラナーポリ塩化ビフェニル(Coplaner Poly Chlorinated Biphenyl;Co-PCB)をあわせて呼ばれる。
いずれも平面構造を持つ芳香族有機塩素化合物で、置換した塩素の数や位置によって、多数の構造異性体が存在する。 -
- 特に、PCDDとPCDFでは、2・3・7・8位が塩素で置換した異性体の毒性が高いことが知られていて、中でも2,3,7,8-四塩化ジオキシン(2,3,7,8-Tetra Chloro Dibenzo-para-Dioxin:2,3,7,8-TCDD)はもっとも毒性が強く、史上最強の毒性を持つといわれる。
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- PCBは、PCDDやPCDFと構造が異なるが、PCBの基本骨格であるビフェニル基に置換する塩素の位置によって2つのベンゼン環が同一平面上になり扁平構造をとることがある。これをコプラナーPCBと呼び(コプラナーは共平面状構造を意味する)、構造的にダイオキシンやフランに類似し、その他のPCBよりも強い毒性を示すため、ダイオキシン類として分類される。
世界保健機関(WHO)や米国環境保護庁(EPA)では、以前からコプラナーPCBをダイオキシン類として位置づけていたが、日本でも1999(平成11)制定のダイオキシン類対策特別措置法において、PCDDおよびPCDFにコプラナーPCBを含めて“ダイオキシン類”と定義されている。 -
- 【11】「ダイオキシン類対策法令等」
- 平成11年制定のダイオキシン類対策特別措置法は、ダイオキシン類による環境の汚染の防止及びその除去等を図るため、ダイオキシン類に関する施策の基本となる耐容一日摂取量(TDI)及び環境基準の設定とともに、大気及び水への排出規制、汚染土壌に係る措置等を定めている。ここで定められるダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)およびコプラナーPCBの3種類。
環境基準は、環境基本法に基づいて「大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定める」ことととされている。基準は、行政上の政策目標として設定されるものであり、最低ラインではなく、より積極的に維持を図るための目標として掲げられる。
ダイオキシン類による汚染等に係る環境基準は、ダイオキシン類対策特別措置法に基づき、平成12年より適用されている。基準値は、2,3,7,8-TCDDの毒性に換算した値(TEQ)で示される。 - ダイオキシン類対策法令等(環境省)
- ダイオキシン類による汚染等に係る環境基準(環境省)
- 【12】「リスクコミュニケーション」
- 「人間の生命や経済活動にとって望ましくない事態が発生する可能性」とも説明される『リスク』に対して、科学的かつ戦略的に対応・管理していくための「リスクマネジメント」をより適切に実施していくには、個別のリスクに応じて利害関係者等の間で、リスクに対する情報や体験、知識などを交換しあいながら相互理解を図ることが求められる。
リスクコミュニケーションという手法は、行政・事業者・NGO・国民等すべての主体が情報や体験、知識などを共有しながら合意形成を図るための対話手法として、近年盛んになってきている。
ことに、ダイオキシンや環境ホルモンなど、化学物質のリスクが社会的な問題として大きくクローズアップされたことを契機に、リスクコミュニケーションという概念も一般に知られるようになってきている。
化学物質にかかわるリスクに対しては、リスクとベネフィット(利便性)を総合的に判断して、そのバランスの調整を図りつつ、対応や管理の方策を見いだし、合意形成を図っていくことが重要と指摘される。 - 環境省環境保健部「リスクコミュニケーション」のページ
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
(2003年3月6日、文:久野武)
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。