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No.217

Issued: 2013.02.01

中国発:中国環境ビジネス−中国環境企業等からみた日本の課題

目次
課題1:中国環境市場の現状に対する理解不足
課題2:日本の技術の適応性とコストの問題
課題3:中国進出に必須の「ビジネス戦略」の弱さ
課題4:販売力の弱さ
中国環境専門家の提言
おわりに

 前回、日本企業が経験・直面している中国環境ビジネス展開上の障壁、課題等について紹介した。今回は中国の地方政府、環境企業、専門家および中国環境投資連盟関係者等が日本企業の中国環境ビジネスをどのようにみているのかについて、ヒアリング結果を踏まえた課題と今後の戦略について紹介する。

課題1:中国環境市場の現状に対する理解不足

 近年、中国環境関連市場の拡大に伴い、強い技術力を持つ日本企業の中国進出が活発になっている。一方、進出中または進出を計画中の日本企業は、中国の環境市場のニーズと中国での環境ビジネスの展開方法を十分に把握できていないのが実情である。中国環境市場に進出する際には、中国の環境市場の特徴、ビジネスの展開方法を事前に把握することが不可欠である。

 中国の環境市場は独自の特徴を持っており、進出に当たって外国企業は事前にしっかりとそれを理解しておく必要がある。特に環境産業は政府の政策主導型産業に属し、中央政府及び地方(省、市、県など)政府による環境対策への重視度や、国・地方の環境分野による政策、計画、標準策定の進展を理解しなければ、市場ニーズの変動を読み切ることができない。
 中国政府による省エネ・環境関連政策は基本的には発表されているが、関連実施細則、法解釈は依然整備されていない状況である。また公開情報から政策原文そのものを入手したとしても、外資企業にもそれが適用されるのかどうか、どういう手順で事業を展開すればよいのかといったことに対しては、外国企業にとって不明な点が残ることが多い。

 2002年以降、中国では民間資本の導入により水処理やごみ焼却処理などの環境インフラ分野における民間投資が年々増加している。この民間資本の導入では中国環境ビジネスの仕組みが日本とかなり違ってきているために、日本企業は中国の環境インフラ投資の仕組みにまだ慣れていない。
 また、日本などの先進国においては大規模な公害対策の時代がすでに終わっており、循環型・低炭素社会作りの目標の下、新たな分野に力を入れているが、中国は急速な経済発展を実現しているものの、社会インフラの整備においてまだ発展途中段階にある。現在の中国は都市化と工業化の過程にあるため、環境市場が成長市場でありながら不確定要素も多い。
 中国の省エネ・環境分野はここ数年急速に拡大しているが、その発展は工業汚染対策や環境インフラ整備によるものが中心である。このように日中で環境市場のニーズが異なるために、日本の進んだ環境技術の中には中国市場への投入が時期尚早となるものも多い。日本と状況の異なる中国市場において、「今何が求められているのか」や「どういう技術・商品なら売れるのか」ということをつかむことが現在多くの日本企業にとっての重要な課題となっている。

 政府の統計データは全体の大きな動向を反映したものが多く、各サブ分野の市場ニーズや競争状況に関する情報が少ないために、特定のサブ分野に関する詳細な市場状況を把握するためには市場調査プロジェクトを実施する必要がある。
 中国の環境関連プロジェクトには多様な形態が存在している。国有企業、民間企業、合弁企業などの多様な競争主体があり、それぞれのことをよく理解していないと中国での事業展開に支障が出る恐れがある。

 また、プロジェクトの公開入札に関する情報を収集することや入札参加資格を獲得するためのルートを確保することなども、日本企業にとっては難しいところである。ただし、省エネ・環境分野自体が新しく特殊な分野であるために、こういった情報収集や事業展開の方法については中国現地企業も同じく苦心している部分でもある。日本企業は自身での情報収集を努力して進めていくと同時に、中国企業との協力関係や中国の関連研究機関や専門家の活用などによって情報収集と進出戦略策定の精度を高めていくことが有効な方法である。

課題2:日本の技術の適応性とコストの問題

 中国市場において先進技術へのニーズは拡大しているものの、現状では日中両国の環境分野における発展段階に差があるために、日本企業が持つ高機能かつ高価格の省エネ・環境製品が現地のニーズに適合していない場合があるなど、現地ニーズと進出企業の先進技術との間にギャップが生じている。一方で中国側も日本企業が先進技術を持っているということはわかっているものの、日本企業の具体的な技術や商品の中身に対してはそれほど理解しているわけではない。中国側に導入の意欲はあっても、そのニーズに的確に応える製品を日本企業が打ち出さなければ、両者は平行線をたどってビジネスが実現しない。

 日本企業は中国の現地ニーズを十分に把握し、自社の技術や商品の適合性を再考する必要がある。場合によっては現地向けの改良も必要である。また、日本の技術や設備は中国市場では比較的高価格であるため、中国展開を行う際には現地生産などの低コスト化の取り組みを検討する必要がある。コストの問題は中国環境ビジネスへ進出する日本企業にとっての一番の障害になる。これを乗り越える有効な方法の一つとして合弁があるが、長期的に中国市場で事業を展開していく場合は中国側パートナーにも一定の利益を与えて相手との良好な関係を構築していくことが必須となる。

課題3:中国進出に必須の「ビジネス戦略」の弱さ

 中国市場に進出する際、日本の企業は現地の情報を十分に把握した上で、きちんとした戦略を立てないといけない。日本企業は市場調査を重視するが、ビジネス展開のための戦略を検討する部分に対してはあまり重視していない。ビジネス戦略を策定する際には、以下の3点に特に注目する必要がある。

(1)現地企業や専門機関との連携

 現地の企業や専門機関との連携が中国でのビジネスをスムーズに進める上で有利である。

情報収集、政策解説、戦略アドバイス:現地の研究機関、大学、有識者と連携

 中国現地の環境分野の研究機関、大学、有識者であれば、中国の政策や市場に対する深い理解や現地での情報収集方法のノウハウを持っているため、進出戦略に対しても価値あるアドバイスを提供することが可能である。進出を計画している段階や事業を展開する段階ではより詳細な現地状況や政策の理解が必要となるため、戦略を作るに当たっては中国の有力専門機関や大学、有識者などと連携することが有効な選択肢の一つとなる。

資本参加や合弁企業設立:現地企業や技術開発機関と連携

 中国企業は現地の状況に詳しく人脈や販売ルートなどを持っているため、日本企業がコスト削減や市場開拓を進める際には良質な現地企業との連携が効果的である。連携の方法として、中国企業の買収や資本参加、合弁企業設立などのやり方も考えられる。現在中国に進出している日本企業の中でも、中国現地企業との連携により高い成果を上げている事例が見られる。

(2)知的財産権の保護

 中国企業とのビジネスでは知的財産権侵害がたびたび問題となっており、そのために中国企業との合弁に対して消極的な姿勢の日本企業も多い。しかし、中国企業の人脈やノウハウ、販売ルートなどを活用できる合弁は有効な戦略の一つであり、その活用によって中国での事業を順調に展開している外国企業も実際に少なくない。そのため合弁のメリットを活かしながら知的財産権侵害のリスクを十分に分析して理解し、対応策を準備した上で事業を進めるべきである。

(3)スピード感を持つべき

 日本企業の中国進出において、現地での情報や人脈の不足、知的財産権侵害のリスクといった多くの懸念材料があることは事実である。しかし、懸念材料があるからといって慎重になり過ぎるのも問題だ。日本企業の中には目の前にチャンスがあるにも関わらず、事業実施を躊躇し、条件が完全に備わるまで動き出そうとしないために、発展の機会を逃がしてしまう企業もある。
 もちろん準備不足のまま闇雲に進出すれば失敗を招くことにもなりかねないが、現在の中国における環境ビジネスの拡大と、そこにおける日本の環境技術へのニーズがいつまでも続くとは限らない。そのため、しっかりと進出戦略を立てた上でスピード感を持って進むべきである。

課題4:販売力の弱さ

 環境ビジネスにおける顧客は政府と企業であり、プロジェクトを獲得できるかどうかということや、顧客に提供される製品、技術の品質または建設・運転管理などのサービスの質がどういう水準のものになるのかということは、単に市場競争によってのみ決められるものではなく、多くの要因によって影響される。
 このように中国環境ビジネスの流れと商業環境は日本のものとかなり異なっており、日本企業がなかなか理解しにくい部分も多いため、中国環境市場で事業を展開する際には中国人の販売ノウハウとパワーを借りることが欠かせない。

中国環境専門家の提言

 以上のほか、中国環境専門家から日中環境ビジネスに関してなされた重要な提言を紹介しておく。いずれも貴重な指摘である。

  1. 第12次5カ年計画期間中、中国の環境市場と環境産業が大きく変化して新たなニーズが生まれる。その際多くの関連技術やノウハウが必要とされるが、中国に蓄積が少ない技術に対しては日本からの導入ニーズが高まると考えられる。
  2. 中国においてコストだけを追求した入札体制が問題となっており、今後はサービスの品質を認識してコストと品質のバランスを取っていくことが求められる。また日本企業は中国において求められる性能とコストのバランスをよく理解した上で、価格競争に陥らないためのマーケティングを行っていく必要がある。
  3. 日本の特殊な環境技術を中国に適用可能かどうかを調べて、中国内の専門家と業界からの認可を得るために、実証実験やモデルプロジェクトを実施する必要がある。
  4. 日本の技術を中国市場へ投入する際には、モデル事業による技術の現地化や販路の開拓など比較的長い時間が必要となる。そのため、いち早く市場開拓を望む日本企業にとっても、また日本の高い技術を中国ニーズに合うものに最適化して取り込みたいと考える中国企業にとっても、提携は魅力的な手段の一つである。
  5. 中国における知的財産権保護の問題は改善されつつある。そのため日本企業は自社の技術レベルに適した有力な中国側パートナーと提携していくことの有効性も高まってきている。提携の際には、両国の技術水準や管理レベル、エンジニアの技術水準、汚染物の物理的条件などが異なっているため、日本の技術を中国に応用していく中で長期的なモニタリングと改善を行っていくことが求められる。
  6. 日中間では文化、考え方、仕事のやり方、経営哲学などの面で多くの違いが存在する。その中で日本は中国特有の市場環境と商業文化を理解し、中国側は日本側のやり方も尊重する必要がある。そのためには日中両方の習慣を理解できる管理人材を活用することも大事である。
  7. 日本企業は中国で短期間に儲けようとするのではなく、長期間中国に根を下ろして事業を展開していく必要がある。特に土壌修復や水質改善(化学的酸素要求量(COD)やアンモニア性窒素の削減など)への対策分野ではより深く市場を開拓していくことが必要である。
  8. 土壌処理の分野では、「どのような技術を持っているか」ということよりも、「案件に合わせてどのような技術を選択するか」ということがより重要となっている。ただ高性能というだけではなく現場のニーズに適しているかどうかが重要であるため、土壌処理プロジェクトを実施する際には事前に現場の状況をよく把握しておくことが肝心である。日本の環境修復技術や設備、薬剤は中国マーケットで受け入れられる可能性が大きいとみられ、代理販売や提携の形態を通じて優れた製品と技術を販売していくことが勧められる。
  9. 水処理施設の運営管理においては、たとえ個々の技術が高かったとしても、技術をうまくまとめてプロセスを総合的に制御できなければ多くの問題が生じる。そのため、個別の技術に対する知識だけでなく、中国の水処理施設の設計条件や関連基準などのより大きな視点で自社の技術を捉え、その適用性を改善していくことが必要となる。
  10. 日本の中小企業も優れた環境技術を持っているが、資金力が弱いため中国での発展のチャンスをつかめない場合が多い。そのため資金調達面での提携も必要とされる。

おわりに

 3回にわたって中国省エネ・環境投資需要の展望、中国環境ビジネスにおける日本の環境企業が抱える課題及び中国企業等から見た日本の環境企業への意見などについて紹介してきた。筆者自身もこれまで日中環境協力プロジェクトの実施などを通じて多少中国環境ビジネス体験もしているが、中国社会の変化は予想以上に早く、昨日までの常識が今日の非常識に変わったり、あるいはその逆もある。
 環境産業の栄枯盛衰のスピード変化も激しい。つい5年ほど前までは日の出の勢いだった太陽光発電関連産業も今や多くの負債を抱えた不良産業へと転落している。今後、各種5カ年計画で政府等が特定の産業分野に大量の資金を投入しても、業界が過当競争に陥れば第2・第3の太陽光発電関連産業になることも想像に難くない。
 また、2005年4月や2012年9月に見られたような大規模な反日デモや暴動など中国特有のリスクも考慮する必要がある。昨年9月の中国国内における大規模な反日行動以降、取引の停止や商談の破棄・中止、入札の延期といった影響も発生し、その後も様々な形で影響は続いている。
 中国環境ビジネスにはこのような特有のリスクもあるのは事実であるが、それは別としても、このレポートで紹介したような課題等があることをよく考慮して、今後中国進出を考える企業の参考になれば幸いである。

2012年9月16日、北京の日本大使館前で反日デモの警備に当たる警察官

2012年9月16日、北京の日本大使館前で反日デモの警備に当たる警察官

 なお、この3回のレポートの内容の一部は2011年度に公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)が環境省から請け負った事業実施結果の一部を紹介したものであると同時に、2012年10月1日にIGESが横浜で開催した2012年度第1回地球環境セミナーで、筆者が講演した内容にその後の新しい情報を加えてまとめたものであることをお断りしておく。

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記事・写真:小柳秀明

〜著者プロフィール〜

小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
1977年
環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
1997年
JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年
中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年
日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
2003年
JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年
JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年
3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
2006年
4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
2010年
3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。