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No.206

Issued: 2012.05.16

【エコポイント寄附特講】地球温暖化対策と都市・地域づくり(1)「自治体の小水力発電」

目次
事例1:農業用水の利用による小水力発電――山梨県都留市の家中川を利用した小水力市民発電所「元気くん」、2012年3月に3号が稼働開始
事例2:河川の利用による小水力発電――高知県梼原(ゆすはら)町
事例3:上水道施設を利用した小水力発電――神奈川県横浜市水道局
発展が期待される小水力発電

 2011年3月の東日本大震災とその後の原発事故を経て、日本のエネルギー需給の議論がこれまでになく高まるなか、地球温暖化防止対策や低炭素社会の構築を視野に入れた全国の自治体が、再生可能エネルギーによる発電に取り組んでいる。
 再生可能エネルギーといえば、まず太陽光や風力を思いつくが、2010年3月時点での再生可能エネルギーによる発電比率をみると、小水力が55.6%【1】で、再生可能エネルギーによる発電のトップを占めている。
 本稿では、自治体の小水力発電への取組を紹介する。なお、「小水力発電」の定義で国内的にも国際的にも合意されたものはないが、日本の場合、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」の対象となるのは出力1,000kW以下の水力発電設備である。

事例1:農業用水の利用による小水力発電――山梨県都留市の家中川を利用した小水力市民発電所「元気くん」、2012年3月に3号が稼働開始

元気くん1号

元気くん2号

元気くん3号


(写真:山梨県都留市役所ホームページより転載)

 「人・まち・自然にやさしいグリーンアクションつる」に取り組む都留市では、市政50周年の記念に設置を決めた「元気くん1号」が2005年10月に市庁舎敷地内の家中川に完成し、2010年1月には「元気くん2号」、2012年3月には「元気くん3号」が誕生した【2】。1号、2号、3号の事業費はそれぞれ約4,340万円、約6,240万円、約3,000万円で、3基とも各種補助金を活用したほか、1号と2号は3分の1以上を市民参加型ミニ公募債で調達した。この公募債への応募も含め、元気くんの設置には市民が大きく協力しており、3基合わせて家中川小水力市民発電所「元気くん」と呼ばれている。
 発電した電力は市庁舎等の電力として使われ、余った電力は売電されている。1号、2号、3号の最大出力はそれぞれ20kW、19kW、7.3kWである。2010年度をみると、1号と2号の合計年間発電量は104,435kWhであり、市庁舎の電気使用量の24.5%をまかなった計算になる(川の工事で発電できなかった4カ月を除くと約40%)。
 1号と2号が発電した電力の環境価値はグリーン電力証書として販売されているため、都留市のCO2削減としては算定されないが、2010年10月に「第1回全国小水力発電サミットin都留」を開催する等、町のシンボルとして作られた元気くんから様々な取組が広がり、地域の活性化につながっている。

事例2:河川の利用による小水力発電――高知県梼原(ゆすはら)町

 小水力発電で町中の街路灯に灯をともしている町もある。環境モデル都市の梼原町(2012年3月末現在、人口約3,800人)である。低炭素エネルギーの利活用により2050年のエネルギー地域内自給率100%をめざすこの町は、CO2排出量削減プロジェクトの一環として、梼原川で6mの落差を利用した小水力発電所(出力53kW)を設置している(2008年度完成)。2010年度においては、年間CO2削減量が78トン、発電量は218,089kWhである(平成22年度環境モデル都市フォローアップ)。
 設置はまちづくり交付金事業として実施し、工事費は2億160万円である。電力は、昼間はすぐ近くの中学校で使用し、夜間は町中の街路灯に利用している【3】

小水力発電所全景
[拡大図]

夜間は街路灯の電力に


(写真提供:梼原町)

事例3:上水道施設を利用した小水力発電――神奈川県横浜市水道局

【図1】水道管の未利用エネルギーを活用した小水力発電(横浜市水道局ウェブサイト「小水力発電事業」より転載)

 横浜市水道局は、小雀浄水場から配水池までの送水管の有効落差約40mを利用し、港北配水池で民設民営方式の小水力発電事業を行っている【4】。最大出力300kW、年間発電量140万kWh(一般家庭約400軒分)で、発電した電力は隣接する緑道の照明等に利用し、その他の電力は電力会社に売電している。この発電で削減されるCO2排出量は約580トンである。

 このような共同事業方式を導入しているところは、川崎市上下水道局鷺沼発電所【5】(年間発電量53万kWh、年間約200トンのCO2排出削減効果)等、関東だけでも10カ所以上ある。

発展が期待される小水力発電

 小水力発電所の設置には経済性や煩雑な法的手続等の問題があるが、水量を減らさず汚さず、CO2の排出もきわめて少ない小水力発電は、有望な再生可能エネルギーである。環境省は2009年度に小水力発電による市民共同発電実現可能性調査を18の地方公共団体に委託したほか、2012年現在、1,000kW以下の小水力発電を導入する小規模地方公共団体に補助金を用意する等、普及に取り組んでいる。
 2012年3月に発表された内閣府行政刷新会議(規制・制度に関する分科会・第2ワーキンググループ(エネルギー)合同会議)の報告書【6】には、手続の簡素化や規制見直し等の項目も盛り込まれる等、規制緩和のきざしが見え、小水力発電の発展が期待される。

【1】再生可能エネルギーによる発電比率
千葉大学倉阪研究室+NPO法人環境エネルギー政策研究所『永続地帯報告書』の表1より
【2】
家中川小水力市民発電所(都留市)
【3】
梼原町環境モデル都市行動計画
【4】
小水力発電事業(横浜市水道局)
【5】
共同事業方式による川崎市上下水道局鷺沼発電所
【6】
内閣府行政刷新会議「規制・制度改革に関する分科会報告書(エネルギー)」(平成24年3月26日)

 一般財団法人環境情報センターは、環境省・経済産業省・総務省が実施する「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業」(家電エコポイント)及び国土交通省・経済産業省・環境省が実施する「エコポイントの活用による環境対応住宅普及促進事業」(住宅エコポイント)における環境寄付団体として選定を受けております。
 皆様からお寄せいただいた寄附金は、地球温暖化防止に向けた事例収集および普及啓発に活用させていただいています。本記事はその一環として作成したものです。
 ご協力いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。

 ※詳しくはエコポイントにおける環境寄附のお礼をご覧ください

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(記事)環境問題翻訳チーム・ガイア

〜著者プロフィール〜

環境問題翻訳チーム・ガイア
1994年
フリーランスの翻訳者によって、環境問題の専門翻訳チームとして結成。
2012年
環境省の仕事をはじめ、各種NGOや企業、研究機関などから幅広く、英訳・和訳を受注するのに加え、全世界の主要環境機関、主要国の環境関連省庁の発表するニュースの抄訳を毎週提供するという仕事にも携わっている。環境に関連した最新の動向を常に把握することに努め、翻訳に活かしている。また、翻訳で実際に使用した環境用語を環境訳語辞典で公開している。

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