No.061
Issued: 2004.09.16
「renewables2004」〜再生可能エネルギー時代の幕開け〜
中国では2010年までに総発電量の10%、フィリピンでは2013年までに倍増(そして地熱発電では世界一に)、イギリスでは2016年までに15.4%、ドイツでは2020年までに20%…。これらは、各国政府が掲げている再生可能エネルギーの普及に対する野心的な目標値の一部です。
今年6月、ドイツ連邦政府は世界各国の政府関係者や関係機関、個人などに呼びかけ、旧西ドイツの首都・ボン市において再生可能エネルギー国際会議「renewables2004」を開催しました。会議では、多くの国々や組織が具体的な目標値を表明し、初めて、地球規模で政治的に、経済的に、社会的に再生可能エネルギーについて議論を重ねた会議となりました。
世界が注目したrenewables2004
4日間に渡り開催された会議には、154ヵ国からの政府代表団(うち閣僚の参加は130名以上)、世界各国の自治体、市民団体、経済団体や研究所等から、合計3,000名以上の人々が参加しました。また、この会議を報道するために、世界中から700名以上の報道陣が集まりました。
本会議は、(1)業界、学界、自治体、市民団体等の代表者によるマルチステークスホルダー協議会、(2)様々な主体による優良事例の紹介、(3)閣僚会議 の3部門で構成されました。さらに、参加団体による多数のサイドイベントの他に、世界20カ国から若者が集まり再生可能エネルギーについて議論した「ユース・エネルギー・サミット」、「自治体首長会議」、「国際議員フォーラム」、「ファイナンスを主題とした会議」等も同時に開催されました。
* 再生可能エネルギーとは
renewables2004では、太陽エネルギー、風力、水力、バイオ燃料を含むバイオマス、地熱と定義されている。化石燃料や原子力エネルギーの利用は、大気汚染物質や温室効果ガスの排出、また廃棄物の処理等の点で環境への負荷が大きい。再生可能エネルギーは、こうした負荷を低減するエネルギーと見なされている。しかし、他のエネルギーと比較して、まだまだ利用の割合は低く、これを支援する政策の整備やさらなる技術開発などが必要となっている。
途上国で、産業国で再生可能エネルギーの拡大を!
「再生可能エネルギーの利点とその可能性を生かし、途上国や産業国において普及するには、どうすればよいか。」
これは、renewables2004の本会議や一連の関連行事の中で、軸となった課題です。さらに、次の3つの論点が、議論の中心となりました。
- 再生可能エネルギー市場の発展の可能性を促す政治的枠組みの形成について
- 民間、または公的な財政支援のあり方について
- 人材育成と組織の強化、研究開発体制の強化について
そして、本会議では、次の3つの文書が採択されました。
- 政治宣言:会議参加者による再生可能エネルギーの役割強化のための共通の政治的目標や公平なエネルギー供給、エネルギー効率の向上に関するビジョンが示されている。
- 国際行動計画:各国政府や国際組織、経済界や市民団体による再生可能エネルギー促進のための197の自主的取組、及びコミットメントをまとめたもの。先に述べた各国や組織の目標値等がまとめられている。これらの行動計画を全て実施すると、2015年には、年間12億トンのCO2を削減できる。
- 政策提言:これまで実施されてきた再生可能エネルギーに関する政策やプロジェクト、プログラムに基づく経験や知識がまとめられた実践的なガイド。
ドイツ最大の環境保護団体「BUND」は、成果の中心である「政治宣言」に関しては、政府や国際金融機関による再生可能エネルギーへの財政支援に関する記述が不十分であると批判しているものの、多くの国々や組織が具体的で野心的な目標値を示したことを高く評価し、「renewables2004の成果は、今後、地球規模でのエネルギーシフト(依存対象エネルギーを化石燃料・原子力から再生可能エネルギーへ転換)をもたらすであろう。」と、コメントを発表しています。さらに、エネルギー政策における次のステップとして、省エネルギー政策について、このような国際的な議論の場を設けることの必要性を指摘しました。
再生可能エネルギー大国ドイツ
renewables2004は、国連主導の会議ではなく、ドイツ政府が主催し、開催された国際会議です。2002年8月に南アフリカのヨハネスブルクで開催された世界サミットにおいて、再生可能エネルギーに関する世界的な数値目標を達成することができなかったことを受け、シュレーダー・ドイツ連邦首相が、ドイツ連邦政府が主導で、この再生可能エネルギー国際会議を開くことを表明しました。
現在、ドイツは、風力エネルギーでは世界一、太陽光でも日本に次ぐ世界第2位、さらに、全体の再生可能エネルギー発電量で、世界のトップに君臨しています。この実績は、2000年以降、急速に伸びています。背景として、同年に制定された再生可能エネルギーの買取りを義務付ける「再生可能エネルギー法」による政策効果が評価されています。
さらに、ドイツ連邦政府は、再生可能エネルギーが総発電量に占める割合を、2020年までに20%、2050年までに50%という目標値を掲げています。
ドイツは、今や、政治的にも、実績面でも、名実ともに世界の再生エネルギー大国として、歩みだしました。
renewables2004の今後の進展
国際レベルで再生可能エネルギーの推進が確認され、多数の国や組織の目標値の発表と、普及に向けた議論が重ねられたrenewables2004は、「再生可能エネルギーの時代が幕を開けた」というトリッティン・ドイツ連邦環境大臣の言葉によって締め括られました。
会議の成果は、今後、国連組織である持続可能な開発委員会(CSD)の手に委ねられます。2006年と2007年に、CSDではrenewables2004で採択された国際行動計画を前進させるための新たな会議を途上国で開催する予定です。また、2004年中には、様々な主体の代表者の参加・協力を得て、「再生可能エネルギー・グローバル・ネットワーク」の構築を構想し、renewables2004で議論されたテーマについて、より深く追求していく予定です。
会場周辺情報
ここでは、renewables2004に合わせて開催された3つの関連行事をご紹介します。
●再生可能エネルギー就職相談会
本会議中、ボン市では、就職相談会「再生可能エネルギー ジョブ・メッセ」が開催されました。参加企業は、「Enercon」などの風力産業企業、「SolarWorld」といった太陽エネルギー産業企業、さらに再生可能エネルギー設備への投資に対するコンサルタント会社など40社。会場には求人ボードが設置されており、エンジニア、建築、マーケティング、広報、事務職などの様々な職種に対する求人が、所狭と、掲載されていました。参加者は、自動車開発のエンジニア、MBAコースに通う学生、大手電力会社の広報担当者等など、国内外から、2日間でのべ1,200人以上の人々が参加しました。
今、ドイツの雇用市場では、再生可能エネルギー業界が注目を集めています。2002年の時点で、この分野で働く人々は12万人。1998年以降に急速に伸び、当時からほぼ倍増しています。連邦環境省が「2020年には、40万人の雇用が再生可能エネルギー業界で創出される」との試算を発表するなど、低迷を続けるドイツ経済において明るい話題となっています。
●ソーラーカフェ
renewables2004の会場前に、会議期間中、ソーラーカフェがオープンし、打ち合わせや交流の場として大活躍していました。ここでは、冷蔵庫、食器洗い機、カフェマシン、電灯等、カフェで利用するすべての電力や熱が100%、太陽エネルギーで供給されました。
イニシアティブを取ったのは、ドイツソーラー産業連盟とソーラー産業企業連盟。床面積160平方メートルの鉄筋建築物の屋根や壁全面には、ドイツ国内に6社ある太陽エネルギー設備メーカー全てから提供を受けた太陽光発電装置(4キロワット)や太陽熱温水器(4平方メートル)が張り巡らされました。建設費に約100万ユーロ(約1,300万円)かかりましたが、これらは全て、個人や企業からの寄付で賄われたそうです。
会議終了後、ソーラーカフェは解体され、現在は、次の再生可能エネルギー関係のイベント会場や会議場での活躍を待っているところです。
●地球温暖化防止リレー
renewables2004に先駆け、ドイツ国内では、地球温暖化防止リレーが行われました。5月10日、北ドイツの街キール市をスタート、連邦16州全てを巡る合計4,000キロメートル距離を、約25,000人の人々が、駆け抜けました。
リレーの移動手段は、「地球温暖化を引き起こさない方法」に限定。人々は、ランニングやローラースケート、自転車、電気自動車、人力車、乗馬等、思い思いのスタイルで参加しました。
リレー開始から3週間経った6月1日、renewables2004開幕を直前に控えたトリッティン連邦環境大臣に、会議の積極的な成功の祈りを込めて、バトンが届けられました。
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(記事・写真:近江まどか)
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