一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.297

Issued: 2026.01.21

国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)に参加して〜サイドイベント会場からの現場レポート〜公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)石川智子


目次
1.「交渉」から「実施」へ
2.現場で感じた「実施のCOP」
3.おわりに

1.「交渉」から「実施」へ

 2025年11月10日から22日まで、ブラジル連邦共和国パラー州ベレンで、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が開催されました。
 今回のCOP30は、「交渉の場」から「実施の場」へと、国際的な気候対策が本格的に移行しつつあることを強く印象づける会議でした。
 昨年、アゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29では、パリ協定第6条(国際的な排出削減協力)の詳細ルールが合意されました。長年続いてきた制度設計をめぐる交渉が一段落し、各国は「どう実施するか」を問われる段階に入ったのです。COP30は、まさにその流れを受けた「実施のCOP」と位置づけられました。
 今回のCOPのカバー決定となった「グローバル・ムチラオ決定」(ムチラオはポルトガル語で「協働」を意味します)は、緩和(排出削減)、資金、適応といった分野を横断する内容となっています。特に排出削減については、地球の平均気温上昇を1.5度に抑える目標の達成に向け、各国に対して対策の加速と、より高い目標設定を求めました。また、各国が自ら定める温室効果ガス削減目標である「NDC(国が決定する貢献)」を、まだ提出していない国に対して、早期の提出を強く呼びかけています。
 パリ協定のもとでは、各国がNDCで目標を掲げ、その進捗を定期的に報告・検証し、次の目標を引き上げていく改善のサイクルを回していく仕組みが設けられています。しかし、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書は、現在各国が示している2030年目標では、1.5度目標どころか、2度目標の達成にも大きく足りないことを指摘しています【1】。目標と現実のギャップをどう埋め、実施につなげていくのか。その問いが、COP30全体を通じて突きつけられていました。


COP30会場夜景

COP30会場夜景

2.現場で感じた「実施のCOP」

 私は、アジア太平洋統合評価モデル(AIM)プロジェクトチームの一員として、アジア各国と協働し、AIMを用いたNDCや長期戦略の策定支援に携わっています。AIMプロジェクトチームはこれまで、インドネシアのボゴール農科大学およびバンドン工科大学、タイのタマサート大学など、各国の研究機関と連携し、それぞれの国における温室効果ガス排出削減を評価するモデルを共同で開発してきました。
 COP30に先立ち、インドネシア政府およびタイ政府は、2035年目標を含む新たなNDCを公表しましたが、そこには現地研究機関とともに実施したモデル分析の結果が明記されています【2】【3】。特にタイでは、これまで長期戦略で掲げていた「2065年ネットゼロ」という目標を、「2050年ネットゼロ」へと前倒ししていました。
 COP30期間中の11月20日には、ジャパン・パビリオンでセミナーを開催し、タイやインドネシアの研究者とオンラインでつなぎ、こうした取り組みの進展を共有しました【4】。インドネシアからは、セメントセクターの2050年ネットゼロロードマップの策定にもAIMが使われていることが報告されました。また、今年度はラオスにおいても、NDCのうち廃棄物セクターおよびAFOLU(農業、林業及びその他の土地利用)セクターの分析を支援しており、その進捗についても報告がありました。ラオスのNDC提出は、サイドイベントの場では、来年(2026年)初頭を目標としているとのことでした。

 会場で行われた数多くのサイドイベントも、「実施のCOP」を象徴していました。中でも印象的だったのは、あるサイドイベントでの、衛星データや現地センサー、AIを組み合わせて、温室効果ガス排出量を工場などの施設単位で推計し、その結果をウェブサイトで公開する取り組みについての発表【5】です。
 また、従来は、こうしたデータの組み合わせで「排出量を推計する」こと自体が目的でしたが、今回の発表によれば、同じ業種・同じ技術・類似した条件にある施設同士を比較し、「うまく脱炭素化している施設」が採用している技術や運用方法を解析した上で、他の施設にとっての具体的な削減オプション(何をすれば、どの程度削減できるのか)を推計・提示していこうとする点に特徴があります。データの確かさについてはまだ課題があり、今後の検証が待たれますが、まさに「データを行動につなげる」アプローチです。
 このサイドイベントでは、アフリカのウガンダが最初のパイロット国として参加し、次回グローバル・ストックテイクに向けた「データ駆動型気候アクション」の実証を行うことも発表されました。すべての国、とりわけ途上国が、データへのアクセス、能力、ツールに関する「オーナーシップ(所有と主体性)」を持てるようにする「データ・エクイティ(公平性)」が、重要な理念として掲げられていた点も印象的でした。
 さらに、ジャパン・パビリオンでは、複数の日本企業から、衛星データを含む監視データを活用したメタン漏洩対策や、メタン排出検知ソリューションの提供開始について発表がありました【6】。今後温室効果ガスが「見える化」されることで、企業や自治体を含む、様々なアクターの行動が大きく変わっていく可能性を感じました。


COP30ジャパン・パビリオン

COP30ジャパン・パビリオン

11月20日のサイドイベントでのラオスからの発表

11月20日のサイドイベントでのラオスからの発表

3.おわりに

 今回のCOP30は、開催前から「本当にベレンで実施できるのか」と心配される声も多く聞かれました。宿泊施設の確保や会場運営、通信環境など、課題も少なくありませんでした。それでも、多くの人々の工夫と努力によって、会議は最後までやり遂げられました。
 ベレンでお会いした現地の方々は非常に親切で、ポルトガル語が全く分からない中でも、翻訳アプリを通じて円滑にコミュニケーションを取ることができました。11月20日のサイドイベント終了後には、会場内で火災が発生するという出来事もありましたが、先ほどまで同じ会場にいた方々から、通信アプリを通じて次々と安否確認の連絡が届きました。こうしたツールが、人と人との距離を縮め、新たなつながりや機会を生み出していることを実感しました。
 「実施のCOP」を単なるスローガンで終わらせないためには、それぞれのアクターが現場で重ねる試行錯誤や、未来をより良くしようとする善意と努力の積み重ねこそが、本質であり不可欠だと思います。COP30に参加して、このことを改めて強く意識しました。


COP30での展示ブースの様子

COP30での展示ブースの様子

【1】IPCC(2023) IPCC AR6 SYR SPM; Figure SPM.5 & Table SPM.1
【2】インドネシアNDC
(2025年10月27日提出)
【3】タイNDC
(2025年11月4日提出)
【4】2025年11月20日、COP30ジャパン・パビリオンセミナー「ASEANの脱炭素化への日本の協力 -ASEAN-日本GSTレポートに向けて-」
【5】2025年11月14日、「COP30 Belém: Al Gore Unveils New Climate TRACE Tool to Cut Global Emissions」
【6】2025年11月17日、COP30ジャパン・パビリオンセミナー「気候科学広報及びビジネスへのGOSATデータ活用推進」

アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

〜著者プロフィール〜

石川智子(いしかわともこ)
IGES戦略マネージメントオフィス・パートナーシップ/発展支援ディレクター、低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)事務局長。能力構築や科学・政策対話会合を通じてアジア各国の脱炭素政策形成を支援。気候中立社会実現のための戦略研究ネットワーク(LCS-RNet)では欧州の研究者との知見共有を推進(最近のテーマは市民参画や需要側削減など)。実装として杉並区気候区民会議の設計・実施にも関与。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。
※本ページの写真は、すべて執筆者から提供いただいています。