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No.296

Issued: 2025.05.19

生物多様性条約(CBD)の第16回締約国会議(COP16)再開会合の成果のポイント一般財団法人自然環境研究センター 主任研究員 川口敏典

 CBDのCOP16の再開会合が、2025年2月25日から27日にかけてイタリア・ローマの国連食糧農業機関(FAO)の本部で開催されました。再開会合では中断によって持ち越された議題の決議もいくつか採択され、COP16は正式に閉会しましたので、再開会合で得られた成果のポイント等を紹介します(COP16の記事はこちら)。

FAO本部から徒歩圏内のコロッセオ(2020年2月開催の別会合で撮影したものです)

FAO本部から徒歩圏内のコロッセオ(2020年2月開催の別会合で撮影したものです)

FAO本部の会場内(2020年2月開催の別会合で撮影したものです)

FAO本部の会場内(2020年2月開催の別会合で撮影したものです)


目次
1.COP16再開会合開催までの経緯
2.再開会合の主要議題の成果
3.日本の取組とCOP16決定との関係
4.おわりに

1.COP16再開会合開催までの経緯

■COP16の結果

 2024年10月から11月にかけて開催されたCOP16は、生物多様性国家戦略・行動計画(NBSAPs)の改訂状況等の点検を通じて締約国の行動に弾みをつけるとともに、先住民族及び地域社会(IPLCs)に関連する条項に関する補助機関の設置や、遺伝資源に関するデジタル配列情報(DSI)の利用による多数国間利益配分に対応する仕組みとしてのカリ基金の設置が決まるなどの成果を上げました。
 しかし、一部の締約国が最終日の深夜(翌日の未明)に帰国のために退出したことから定足数を満たせなくなり、中断されました。その結果、多くの時間をかけて最終日まで議論された議題や条約の運営予算の議題は未採択となりました。
 これらの議題には、昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)を通じた条約の実施のために回すPDCAサイクルに相当する「計画・モニタリング・報告・レビューの仕組み」や、この仕組みの核となるKMGBFの進捗評価のための指標等に関係する「KMGBFのモニタリング枠組み」、少なくとも毎年2,000億米ドルをあらゆる財源から調達すること等を掲げるKMGBFのターゲット19に関係する「資源動員」といった注目度の高い議題が含まれていました。

■COP16終了以降の動き

 2024年12月にサイレンス・プロシージャー(指定された期限までに修正案や異議申し立てが提出されない場合、すべての参加者によって合意されたものとみなされる手続き)によって、今後2年間の条約の運営予算と再開会合を対面で開催するための費用が承認されました。
 締約国同士の意見の隔たりが大きかった資源動員については、各国が同意できる妥協点を見いだすべく、何とかCOP16議長の下、非公式の地域協議が行われたほか、閣僚レベルでの二国間協議を通じた調整が再開会合の直前まで進められました。

2.再開会合の主要議題の成果

 そうした事前準備を経て開催された再開会合では、やはり資源動員の議題に議論が集中しましたが、議論の妥結とともに資源動員の決定と合わせて採択されることになっていた(パッケージとして扱われていた)計画・モニタリング・報告・レビューの仕組みやモニタリング枠組みの決議も採択されました。
 これら決定の主なポイントについて、以下のとおり紹介します。

■計画・モニタリング・報告・レビューの仕組み(COP16の決議32)

 KMGBFの採択を受けていち早く生物多様性国家戦略2023-2030を策定した日本等に続き、多くの国がKMGBFに沿ったNBSAPsあるいは国内目標を策定しています。今後、各国が国別報告書で報告する取組状況等を集約し、KMGBFの実施とその進捗状況の点検(グローバルレビュー)が行われることになっています(初回は2026年のCOP17(アルメニア)で実施)。
 再開会合では、このグローバルレビューが、国別報告書と新たに作成されるKMGBF実施の進捗状況を示す報告書(グローバルレポート。これまでは条約事務局により地球規模生物多様性概況(GBO)が作成されていました。)や補助機関からの関連勧告に基づいて行われることと、その結果がCOPの決定に反映されることが決まりました。また、グローバルレポートの情報源として、国別報告書や生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(IPBES)の評価報告書などに加えて、国以外の主体(事業者やNGO、地方自治体等)がKMGBFに貢献するためにどのような行動をとるか等(コミットメント)の情報も含まれることが明記されました。そして、これらの主体がどのターゲットに貢献するかや、行動の結果を評価する指標(KPI)、進捗状況等を報告するための様式も定められました。
 KMGBFの実施には、社会全体で取り組むこと(“whole-of-society approach”)の重要性が認識されており、多様な主体が各自の取組を報告することが大いに期待されています。

■モニタリング枠組み(COP16の決議31)

 モニタリング枠組みは、COP15でKMGBFと同時に採択したものの、多くの欠点が残されたままとなっていたため、COP16再開会合では欠点を補う指標を加えた上で、同枠組みを一旦完成させることになりました。また、COP16までに専門家グループが主要な指標の計測方法等の詳細などが記したガイダンスを作成しており、そのガイダンスを活用するように締約国に促す内容も盛り込まれました。KMGBFのゴールやターゲットの達成に向けた世界的な進捗状況を明らかにするために、各国共通で使用することが求められる指標(ヘッドライン指標)が設定されていますが、十分に開発できていないヘッドライン指標も残っているため、関係機関と協力してさらに開発するという内容も盛り込まれました。
 また、現状のモニタリング枠組みで対応できていない部分が残っています。例えば、ターゲット3(30by30)では、保護地域及び保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)によって保全されている面積の割合のみならず、保護地域等の管理の有効性や保護地域間の連結性といった要素も扱われていますが、連結性を評価するための指標がないといった指摘があります。現行のモニタリング枠組みで対応できない要素を測定するための指標を提案するように国のみならず国際機関や研究機関などに求める内容も書き込まれました。今後、実施や報告の負担を加味しながら、こうした提案を踏まえて、モニタリング枠組みが改善されることが見込まれます。

■資源動員(COP16の決議34)

 本議題では、KMGBFの実施に必要な資金を官民双方から集めるためのガイダンスとして資源動員戦略フェーズII(2025-2030)が採択されました。本戦略では、新規かつ追加的な資金を増加させる手段のほか、生物多様性に害をもたらす資金の流れの特定・段階的な廃止や今ある資源の効果的かつ効率的な利用等について触れられています。
 これまで、条約第21条で規定される資金メカニズム(途上国に資金を供与する仕組み)としては地球環境ファシリティー(GEF)が「暫定」メカニズムとしてその役割を担ってきましたが(同第39条)、途上国からは運用に関する不満の声も上がっていました。交渉の結果、(1)条約の資金メカニズムに関する恒久的な取り決めと、(2)官民を含むあらゆる財源からの資金動員の改善という2つの取組を通じて、COP19(2030年)までに世界的な生物多様性資金ギャップに対処するためのロードマップが決定されたほか、資金メカニズムの運用を担う組織が満たすべき基準も示されました。
 この(1)についてのロードマップでは、具体的には、COP17までに上述の基準をさらに見直し、COP18でGEF等の改革状況を基準に照らして評価し、メカニズムを担う新しい体制を確立するかどうか判断し、新しい体制を確立することになった場合にはCOP19までにその運用を開始するといった流れが記載されています。
 このほか、条約事務局には、債務の持続可能性と条約の実施との関係性や生物多様性分野と気候分野のファイナンスの関係性についての調査等が要請されており、途上国の増大する対外債務が途上国による条約の実施に影響しているかや生物多様性分野と気候分野の資金面での相乗効果などについて調査されると考えられます。今後こうした調査結果をもとに自然保護債務スワップや、生物多様性分野と気候変動分野への資金の二重計上/限られた資源の効果的・効率的な活用についての議論も展開されるかもしれません。
 ひとまず決議の採択に漕ぎつけましたが、議論すべき事項が多く残されているほか、ターゲット19では2025年までに生物多様性関連の国際資金を少なくとも年間200億ドルまで増加させることを掲げていることもあり、グローバルレビューの一環として資源動員の状況も点検される2026年のCOP17でも難しい議論が予想されます。


決定が採択される瞬間。ムハンマド・スサナ議長は再開会合までの期間もその会合中も採択に漕ぎつけるべく活発に動かれていた印象です。

決定が採択される瞬間。ムハンマド・スサナ議長は再開会合までの期間もその会合中も採択に漕ぎつけるべく活発に動かれていた印象です。出典:UN Web TV(https://webtv.un.org/en/asset/k1t/k1t543oaie

採択直後の会場の様子。会場は大きな拍手に包まれました。

採択直後の会場の様子。会場は大きな拍手に包まれました。出典:UN Web TV(https://webtv.un.org/en/asset/k1t/k1t543oaie

3.日本の取組とCOP16決定との関係

 日本では、KMGBFという世界目標の達成に向けて、生物多様性国家戦略2023-2030に続いてネイチャーポジティブを実現する経済に移行するための戦略が策定されたほか、2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)という産官学民からなる連携プラットフォームが設置されるなど、社会全体での取組が進んでいます。
 今後、そうした取組を踏まえつつ、生物多様性及び生態系サービスの総合評価2028(JBO4)の中間提言(2025年)やモニタリング枠組みにある指標を活用して、グローバルレビューとタイミングを合わせる形で国家戦略の中間評価が行われる予定です【1】
 一方、国だけでなく民間による取組も進められています。ターゲット3(30by30)に関連して、民間事業者や団体による生物多様性の保全等が行われている場所の一部が自然共生サイトの認定を受けており、国立公園等の保護地域の保全に加え、自然共生サイトでの活動をはじめとする民間等による生物多様性の維持、回復又は創出に繋がる活動が促進されています。また、ターゲット15(事業者による生物多様性への影響の評価・開示等)に関連して、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の枠組みに合わせて早期に情報開示を行うと宣言した事業者数は、日本が国別で最多とされています(320社中、日本は80社。2024年2月7日時点【2】)。COP16で定められた様式等を用いて、企業や団体等が取組とその成果について発信が積極的に行われれば、国際的なアピールになるだけでなく、COP17でのグローバルレビューの結果がより実態に沿ったものになるといえます。

4.おわりに

 KMGBFのターゲットの期限である2030年まで残り5年となり、本会合でKMGBF実施や点検の詳細について何とか決定されました。

■COP16再開会合の決定事項まとめ

  • KMGBFの実施やその状況報告等に関する実務的な内容が多く決まった。
  • モニタリング枠組みが一旦完成したほか、グローバルレビューの詳細(グローバルレポートの作成、COP17までの作業スケジュール、多様な主体の取り組みを取り込む方法)も決定した。
  • CBDの資金メカニズムに関係する2029年までのロードマップを決定し、引き続き議論を進めることが決まった。

 他方で、今後の宿題はまだまだ多い状況であるほか、実施を進めるとまた新たな問題が浮上するかもしれません。グローバルレビューまでのプロセスには多様な主体が意見を提出する機会や各自の取組を紹介する機会などがありますので、多様な主体が自らの取組を発信し、そうした問題や課題の議論に貢献することが、グローバルレビューをより意義のあるものとし、その先にある2050年ビジョン「自然と共生する世界」の実現の鍵となるでしょう。


国際生物多様性の日(5月22日)に向けて条約事務局が作成したロゴ。

国際生物多様性の日(5月22日)に向けて条約事務局が作成したロゴ。
今年(2025年)のテーマは「"Harmony with nature and sustainable development"(自然との共生、持続可能な未来へ!)」です。


【1】環境省(2025)令和6年度第2回生物多様性及び生態系サービスの総合評価に関する検討会
【2】日経ESG

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〜著者プロフィール〜

川口敏典
2016年に(一財)自然環境研究センターに入所。入所以前はカナダの大学にて哺乳類を対象として生息地利用の研究に取り組む。入所以降、COP13、14、15、16に参加し生物多様性、特に科学技術的なテーマを中心に国際的な動向の調査に携わる。また、日本国内の生物多様性の実地調査に関わるほか、国際的な動向を踏まえた政策立案の支援にも携わる。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。
※本ページの写真は、すべて執筆者から提供いただいています。