No.293
Issued: 2024.11.22
第六次環境基本計画の概要と策定の背景 〜「ウェルビーイング/高い生活の質」をもたらす「新たな成長」に向けて〜
環境基本計画は、環境基本法(平成5年法律第91号)第15条に基づき、環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱等を定めるものです。第六次環境基本計画は2024年5月21日に閣議決定されました。1994年に第一次計画が策定されてちょうど30年の節目の計画となりました。
1.第六次環境基本計画策定の背景とミッション
G7広島首脳コミュニケ(2023年5月20日)では、我々の地球が「気候変動」「生物多様性の損失」「汚染」という3つの危機に直面していることが明確に述べられました。経済・社会面では、日本は人口減少と少子高齢化、東京一極集中と地方の疲弊、経済の長期停滞といった課題を抱えています。
こうした現状を踏まえ、持続可能な社会に向けた新たな文明の創造、経済社会システムの大変革が急務となっています。第六次環境基本計画のターゲットである2030年頃までの約10年間に行われる選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ可能性が高いとも指摘されており、まさに環境・経済・社会全てにおいて「勝負の2030年」と言えます。本計画では、全ての環境分野を統合する最上位の計画として、目指すべき文明・経済社会の在り方を提示し、環境政策を起点として、様々な経済・社会的課題をカップリングして同時に解決していく方向を示しました。
2.本計画の思想・哲学
(1)「ウェルビーイング/高い生活の質」を最上位の目的に
本計画では、環境政策の最上位の目的を、環境基本法第1条の趣旨を踏まえ、環境保全を通じた「現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」(略して「ウェルビーイング/高い生活の質」)と「人類の福祉への貢献」としました。「ウェルビーイング/高い生活の質」は、市場的価値と非市場的価値によって構成され、自己肯定感などの主観的幸福感も含まれるものであり、現代における真の「豊かさ」を示したものです。
本質的な問いとして、なぜ「ウェルビーイング/高い生活の質」を最上位に掲げたのかが極めて重要です。現下の環境危機を克服するためには、文明の転換、経済社会システムの変革が必要であり、環境政策を起点として、環境・経済・社会の全てを視野に入れ、「ウェルビーイング/高い生活の質」を共通の目的として統合的・同時解決的に対応することで、より的確かつ効果的な環境政策となることが期待されるからです。
(2) 循環共生型社会
本計画では、この「ウェルビーイング/高い生活の質」が実現された社会像・ビジョンとして「循環共生型社会(環境・生命文明社会)」を設定し、環境収容力を守り環境の質を上げることによって経済社会が成長・発展ができる文明の構築を目指すこととしています。
「循環」については、再生可能な資源・エネルギーである地上資源を基調とし、資源循環を進め、相乗効果やトレードオフといった分野間の関係性を踏まえた環境負荷の総量削減や、良好な環境の創出により、環境収容力を守る「循環を基調とした経済社会システム」を実現していくことが重要です。
「共生」については、日本人の伝統的な自然観を生かしつつ、人類が生態系あるいは環境において特殊な存在となっているとした上で、人類の活動によって、むしろ生態系が豊かになるような経済社会に転換することが望ましいとしています。また、人の健康と地球の健康を一体的に捉える「プラネタリー・ヘルス」の考え方が重要です。
(3) 将来にわたって質の高い生活をもたらす「新たな成長」
この循環共生型社会を実現するための大方針及び環境行政の役割として、将来にわたって質の高い生活をもたらす「新たな成長」を位置付けました。「新たな成長」では、長年にわたる構造的問題に対処するため、「変え方を変える」姿勢の下、最上位の目的を「ウェルビーイング/高い生活の質」とし、そこから6つの視点を導いています。
6つの視点
@GDPに代表されるフローだけでなくストックの重視
A短期的視点でなく、長期的、利他的な視点の重視
B供給者が持つ現状のシーズ、強みに過度にこだわることなく、国民の本質的なニーズ(科学の要請を含む)の重視
C物質的な量より質、心の豊かさ、無形資産の重視
D社会関係資本、コミュニティの重視
E一極集中ではなく自立分散型の国土、分散型のシステムの重視
上記の視点を踏まえ、「新たな成長」では人々の心の豊かさを含めた質的な成長を意図しており、「ウェルビーイング/高い生活の質」に向けて、人類の存続の基盤であるストックとしての自然資本を土台に据え、自然資本を維持・回復・充実させる有形・無形の資本・システム(人的資本、人工資本、社会関係資本、制度)を整備していくとしました。
(4) 環境政策展開の基本的考え方
「循環共生型社会」「新たな成長」を実現する上で環境政策の展開の原則論として、利用可能な最良の科学に基づく取り組みの十全性(スピードとスケール)の確保、施策の統合・シナジーに加え、コロナ禍以降の新たな資本主義を模索する潮流も踏まえ、政府、市場、国民(市民社会・地域コミュニティ)の共進化を進めていきます。また、第五次環境基本計画で打ち出した地域循環共生圏については「新たな成長」の実践・実装の場として位置付けました。
3.本計画における施策の展開
具体的施策としては、施策の統合・シナジーを発揮するため、分野横断的な6つのテーマ(経済システム、国土、地域、暮らし、科学技術・イノベーション、国際)を設定し、それらに基づき、関係省庁を含めた施策を体系化しました。
それぞれの戦略の実施に当たっては、循環共生型の社会、地域循環共生圏の実現を目指し、「新たな成長」の視点を踏まえ、国民一人一人の理解を得て、あらゆる主体の参画の下に実施することを目指しています。
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〜執筆者〜
環境省 大臣官房 総合政策課 環境計画室