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No.291

Issued: 2024.05.31

熱中症対策の取組について(環境省熱中症対策室)

目次
1.近年の日本の気候環境と熱中症の現状
2.政府の熱中症対策の取組
3.おわりに
熱中症予防行動をとりましょう!

 気候変動問題は、人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われています。気候変動への対策として、大きく分けて「緩和」(気候変動の原因となる温室効果ガスの排出を削減すること)と「適応」(気候変動の影響による被害の回避・軽減を行うこと)の2つがあり、これらはいわば車の両輪として、それぞれ進められています。
 適応策の中でもとりわけ「熱中症対策」は、国民の命や健康に直結する重要な課題であり、政府は様々な取組を行ってきました。本稿は、熱中症対策の現状や今後の展望について紹介するものです。


1.近年の日本の気候環境と熱中症の現状

 日本の年平均気温は、100年あたり1.35℃の割合で上昇しており、1898年の統計開始以降、2019〜2023年の直近5年が、年平均気温のトップ5となっています。昨夏(令和5年夏)は、北日本と東日本で観測史上1位、西日本で1位タイの高温となりました。
 熱中症は、死に至る可能性のある病態です。実際に、日本における熱中症死亡者の5年移動平均は、下記の図のように年々上昇し、1,000人を超えることも珍しくなくなっています。

熱中症による死亡者(5年移動平均)の推移

熱中症による死亡者(5年移動平均)の推移
出典:人口動態統計より環境省作成(令和5年は概数)

 また、令和5年夏の東京都23区における熱中症による死亡者の内訳をみると、8割以上が65歳以上の高齢者となっています。また、屋内で亡くなった方のうち、約6割はエアコンを所有しているのに使用しておらず、約3割はエアコンを設置していなかったということがわかっています。

令和5年夏の東京都23区における熱中症死亡者164人の死体検案結果

令和5年夏の東京都23区における熱中症死亡者164人の死体検案結果
出典:東京都監察医務院

 熱中症は、暑熱環境を避けること、こまめに水分・塩分を補給することなどにより、予防・回避が可能な病態です。このため、自ら気を付ける・対処する(自助)ことを基本とした上で、それに加えて、周囲の方や地域による見守りや声かけ(共助・公助)が重要です。

2.政府の熱中症対策の取組

(1)気候変動適応法改正及び政府の取組

 熱中症予防は、医療、福祉、教育、スポーツ、農林水産業、労働現場などの多岐にわたる分野が関係することから、政府では環境大臣を議長とする「熱中症対策推進会議」を開催し、関係府省庁で連携して取組を推進してきました。
 令和5年2月には、熱中症対策の一層の推進を図るため、「気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)を国会に提出し、同年4月に改正法が可決・成立、令和6年4月から全面施行されました。
 改正法に基づき策定された「熱中症対策実行計画」では、中期的な目標として2030年までに熱中症死亡者を現状から半減させるといった目標を掲げ、関係府省庁において対策を強化しているところです。

(2)熱中症警戒アラート・熱中症特別警戒アラートの発表

政府では、令和3年度より、暑さ指数(WBGT)の予測値が33以上になった場合に「熱中症警戒アラート」を発表し、国民へ熱中症予防行動の呼びかけ等を行っています。観測史上最も暑かった令和5年度では、熱中症警戒アラートの延べ発表回数は1,232回と、運用開始以降初めて1,000回を超え、また、北海道・宗谷地方も含めて、全国全ての地域で熱中症警戒アラートが発表されました。改正法では、熱中症警戒アラートを法律上の「熱中症警戒情報」として位置づけるとともに(通称:熱中症警戒アラート)、より深刻な健康被害が発生し得る場合に備え、一段上の「熱中症特別警戒情報」を創設し(通称:熱中症特別警戒アラート)、令和6年度より運用を行っています。なお、熱中症特別警戒情報は、原則として都道府県内の全ての暑さ指数情報提供地点の暑さ指数(WBGT)が35に達すると予測される場合に発表する予定となっています。
 熱中症警戒アラート及び熱中症特別警戒アラートの発表状況は、熱中症予防情報サイトのほか、LINE環境省公式アカウントにて確認することが可能です。

暑さ指数(WBGT)の測定装置

暑さ指数(WBGT)の測定装置

*暑さ指数とは*
 暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目し、気温、湿度、日射・輻射、風の要素をもとに算出する指標です。


(3)指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)

クーリングシェルター・マーク

クーリングシェルター・マーク

 指定施設暑熱避難施設(クーリングシェルター)は、暑さをしのげる場所として、市区町村長が指定した施設のことです。改正法では、上述した熱中症特別警戒アラートが発表される事態となった場合には、当該施設の管理者がこのクーリングシェルターを住民等に開放することを責務として規定しています。一部の市区町村では、冷房設備を有する公共施設(公民館、図書館等)や、民間施設等をクーリングシェルターとして、指定する取組が始まっています。


(4)熱中症対策普及団体

 熱中症対策普及団体とは、地域において熱中症対策に関する住民等への普及啓発、個別の相談支援等の活動を行う団体のことであり、市区町村長が一定の要件を満たす法人を指定できることとなっています。特に、熱中症死亡者の多くが高齢者であることから、地域において高齢者と関わりのある団体(NPO法人、社会福祉法人など)などの指定が想定され、これらの団体により、適切なエアコン使用やこまめな水分・塩分補給等についての呼びかけ等を行っていただくことで、熱中症死亡者の減少につなげていくことが期待されています。

(5)政府の呼びかけ「熱中症予防強化キャンペーン」

 毎年4月〜9月、熱中症予防行動を促すため「熱中症予防強化キャンペーン」を実施しています。以下の熱中症予防行動のポイントを呼びかけるとともに、イベント等を通じた広報活動を実施しています。

熱中症アラートをチェック!、見守り・声がけ!、適切にエアコンを使おう!、こまめに水分・塩分を補給!

熱中症予防行動のポイント


 また、民間企業と連携した情報発信にも積極的に取り組んでおり、主要駅でのポスター掲示や、まちなかの大型ビジョンでの情報発信を行っています。

鉄道事業者による主要駅でのポスター掲示

鉄道事業者による主要駅でのポスター掲示

まちなかの大型ビジョンでの情報発信

まちなかの大型ビジョンでの情報発信

3.おわりに

 気候変動の影響により、熱中症によるリスクは今後も増加していくと予想されています。熱中症は、適切な予防や対処が実施されれば、死亡や重症化を防ぐことができる病態です。
 熱中症対策を強化するための法制度化を受け、環境省としても地域での社会的状況に応じた対策の実施に係る支援・展開を図り、国民の命と健康を守ることで、持続可能な社会の実現に貢献していきます。


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〜著者紹介〜

環境省大臣官房環境保健部企画課熱中症対策室
環境省として熱中症対策を強化するため令和6年4月に設置。熱中症対策全般を担当。