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No.286

Issued: 2022.12.16

COP27の概要(地球環境戦略研究機関(IGES)所長 高橋康夫)

目次
1.はじめに
2.交渉の主な成果
3.サイドイベント等、交渉以外の成果
4.おわりに

1.はじめに

COP27会場入り口(筆者提供)

 2022年11月6日〜20日、エジプトのシャルム・エル・シェイクにおいて、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催されました。
 気候変動を巡っては、COP21(2015年)で「パリ協定」が京都議定書に続く国際的な枠組みとして合意され、その具体的な実施ルールが、COP26(2021年)までに概ね合意されたことから、COP27はいよいよ実施の段階として成果が期待されました。更に、今年はパキスタンで洪水により国土の3分の1が水没するなど、世界各地で極端な気象現象による被害が年々甚大化しており、気候変動の被害に脆弱なアフリカで開催されるCOP27は、気候変動の悪影響・適応に焦点が当たることが予想されました。他方で、コロナ禍に始まって、世界的なエネルギー価格高騰、さらにはロシアによるウクライナ侵攻と立て続けに地球規模のリスクが顕在化しており、気候変動への取組みにも影響が懸念される中での開催となりました。
 会議冒頭の7〜8日の2日間は首脳レベル会合となり、100か国以上の首脳級が集まりました(米バイデン大統領は中間選挙のため11日に参加、日本は不参加)。第2週は閣僚級の交渉となり、日本からは西村環境大臣が参加しました。筆者も第1週のみですが、NGOとして参加しました。


2.交渉の主な成果

 交渉の成果は、全体決定である「シャルム・エル・シェイク実施計画」及び分野ごとの多くの決定としてまとめられました。この中には、科学的知見と行動の緊急性、野心的な気候変動対策の強化と実施、エネルギー、緩和、適応、ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)、早期警戒と組織的観測、公正な移行に向けた道筋、資金支援、技術移転、パリ協定13条の強化された透明性枠組み、グローバル・ストックテイク(GST)、パリ協定第6条(市場メカニズム)、海洋、森林、非国家主体の取組の強化等の多くの分野が含まれます。ここでは、ポイントとなる点に絞って概要を説明します。

(1)緩和(脱炭素に向けた取組み)

 前回のCOP26では、1.5度目標に向かって世界が努力することが合意されたことが大きな成果となりました。今回は一部の新興国等から、1.5度目標ではなく2度目標を目指すべきという揺り戻しの動きもありましたが、最終的には1.5度目標を追求することが決定に盛り込まれました。しかし、1.5度目標を達成するためには、未だ大きなギャップがあり、今後、各国の削減目標を更に強化していくことが不可欠です。そのために採択された「緩和作業計画」においては、年2回の意見交換のための対話の実施等が盛り込まれましたが、「その対話の結果は新しい目標・ゴールを課すものではない」とされています。全般的に、緩和に関してはCOP26での合意を上回るものにはならなかったと言わざるを得ません。

 脱炭素に向けては、今後10年の世界の取組みが重要であり、一刻の猶予も許されません。日本は、来年のG7議長国として、世界的な野心引き上げに向けてリーダーシップを取って行くことが期待されます。

(2)適応、特にロス&ダメージ

西村明宏環境大臣の演説(出典:環境省ホームページ)

 今回のCOP27で最も注目された議論が、ロス&ダメージに関する資金面の措置に関するものです。本件は、長年の間、途上国側が強く要求してきたものであり、先進国の責任問題にも繋がる側面があることから先進国との間で意見の隔たりがあったものですが、気候災害が益々顕在化するなか、今回閣僚級の議論を経て、特に脆弱な国へのロス&ダメージ支援に対する新たな資金面での措置を講じること及びその一環としてロス&ダメージ基金(仮称)を設置することが決定されました。これは歴史的な合意と言えます。但し、難しい論点は先送りとなり、誰が、誰に対して、何のためにお金を払うのかという、基金の運用に関する詳細は、今回設置が決まった「移行委員会」において、COP28までに検討されることとなりました。

 なお、日本は、ロス&ダメージに対する支援のため、「日本政府の気候変動の悪影響に伴う損失及び損害(ロス&ダメージ)支援パッケージ」をCOP期間中に環境大臣より公表し、事前防災から災害支援・災害リスク保険までの技術的支援の包括的提供を目指すとともに、アジア太平洋地域における官民連携による早期警戒システム導入促進イニシアティブを立ち上げました。「災害大国」日本の経験を活かし、この分野での国際貢献を果たしていくことが期待されます。


(3)市場メカニズム(パリ協定第6条)

パリ協定6条実施パートナーシップ立ち上げ(出典:環境省ホームページ)

 COP26で決定した実施指針に基づき、更に詳細な手続き等が合意され一定の前進がありました。日本は、自ら実施する二国間クレジット制度(JCM)の経験を踏まえ、積極的に交渉に貢献してきています。加えて、日本は、パリ協定6条に沿った市場メカニズムを活用し、質の高い炭素市場の構築によって世界の温室効果ガス削減に貢献するため、各国の能力構築支援を主体とする「パリ協定6条実施パートナーシップ」をCOP期間中に立ち上げ、その時点で43か国24機関の参加を得ました。

 JCMについては、COP期間中に、日本とパプアニューギニアの環境大臣の間で協力覚書の署名が行われ、パートナー国の数は25か国になりました。JCMの活用も含め、日本がアジア地域をはじめとする世界の脱炭素化に貢献していくことが重要です。


3.サイドイベント等、交渉以外の成果

 最近のCOPにおいては、政府代表団による交渉とは別に、会場内で各国や国際機関等がパビリオンを設置し、積極的に情報発信・意見交換をしています。日本も、「ジャパン・パビリオン」を設置し、企業、研究者、若者の団体を含むNPO等の幅広い参加のもと様々なテーマのセミナー等を実施するとともに、我が国企業の技術展示も行いました。筆者も、適応に係るAP-PLATの活用、ASEAN事務局と連携したアジア地域の脱炭素に向けたセミナー等に参加しました。

ジャパン・パビリオンのサイドイベントで話をする筆者(筆者提供)

ジャパン・パビリオンでのサイドイベント(AP-PLAT関係)(筆者提供)

ASEAN事務局と連携したアジア地域の脱炭素に向けたセミナー(右から3人目が筆者)(筆者提供)


4.おわりに

 次回のCOP28は、2023年の11月30日から12月12日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されます。今回のCOPでは、多くの重要な論点が先送りされるとともに、COP28では、パリ協定の重要な柱であるグローバル・ストックテイク(GST)の成果が取りまとめられることになっています。我が国は来年のG7議長国としての役割もあり、今後の国際プロセスに積極的に貢献していくことが期待されます。

 なお、COP27の成果やその意義については、IGESでもウェビナー等で詳しく解説しておりますので、ご関心の方は以下をご覧ください。

(参考資料)

  • UNFCCC COP27 特集(IGES)
  • 国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)結果概要(令和4年11月22日、日本政府代表団)
  • Summary of the Sharm El-Sheikh Climate Change Conference: 6-20 November 2022, Earth Negotiations Bulletin (IISD, 23, November 2022)
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筆者プロフィール

群馬県出身。1983年より、環境省(環境庁)に勤務。地球温暖化対策、地球環境研究、水・大気等環境保全、廃棄物対策、福島の除染等を担当。その間、OECD日本政府代表部、新潟県、中部管区警察局等に勤務。2019年7月、地球環境審議官を最後に退官。2020年よりIGESに勤務。

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