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No.282

Issued: 2021.11.09

IPCC第6次評価報告書で明らかになった気候科学の最新知見(国立環境研究所・江守正多)

目次
1. 人間活動による温暖化には疑う余地がない
2. 極端現象の増加にも人間活動の影響が現れている
3. 温暖化を1.5℃で止めるには今世紀半ばの二酸化炭素排出実質ゼロが必要
4. 南極氷床の不安定化により海面上昇が加速する可能性を排除できない

 2021年8月に「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)第1作業部会(自然科学的根拠を担当)の第6次評価報告書が公表されました。世界66か国から230人以上の専門家が執筆者として参加し、14,000本以上の論文が引用され、3回の査読過程で78,000以上のコメントを受け付け、すべてに対応したという、包括性、厳密性、透明性において特別な意味を持つ報告書です。気候変動の現状と、将来見通しを含む科学的理解の現在地を示しています。


1. 人間活動による温暖化には疑う余地がない

1850-1900年を基準とした世界平均気温の変化(℃)(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.1b気象庁暫定訳より)

1850-1900年を基準とした世界平均気温の変化(℃)
(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.1b気象庁暫定訳より)[拡大図]

 人間活動の影響で地球が温暖化していることについては「疑う余地がない」と結論されました。これは、2001年の第3次報告書で「人間活動が主な原因である可能性が高い(66%以上)」、2007年の第4次で「可能性が非常に高い(90%以上)」、2014年の第5次で「可能性が極めて高い(95%以上)」と評価されていた流れから、初めて不確かさの表現が外れて、断言されたことになります。産業革命前(1850-1900年の平均で近似)から近年(2010-2019年の平均)の間に観測された気温上昇量は1.06℃、同じ期間に人間活動の影響でもたらされた気温上昇量は1.07℃と評価されました。人間活動の影響とは、主に二酸化炭素などの温室効果ガスが大気中に増加したことによる加熱効果で、その一部は大気汚染物質(エアロゾル)の増加による冷却効果によって打ち消されています。


2. 極端現象の増加にも人間活動の影響が現れている

陸域における極端な高温の予測される変化(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.6気象庁暫定訳より)

陸域における極端な高温の予測される変化
(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.6気象庁暫定訳より)[拡大図]

 猛暑や大雨などの極端現象の増加にも人間活動の影響が現れていると結論されました。平均気温の上昇により極端な高温の頻度が増えること、気温上昇に伴う水蒸気量の増加により極端な大雨の頻度が増えることは理論的には明らかです。それが多くの地域で既に観測データに現れてきており、今後さらに温暖化が進むにつれて、より頻繁に生じると予測されます。たとえば、産業革命前に50年に1度しか起きなかったレベルの極端な高温は、世界平均気温が既に1℃温暖化した現在では4.8倍、温暖化が1.5℃まで進めば8.6倍、2℃まで進めば13.9倍の頻度で生じると評価されました。土壌からの蒸発が増えることなどにより、地域によっては干ばつが深刻化することも予測されています。


3. 温暖化を1.5℃で止めるには今世紀半ばの二酸化炭素排出実質ゼロが必要

 将来の地球温暖化の見通しは5つのシナリオに沿って評価されました。産業革命前からの世界平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを目指す、排出量が「非常に低い」シナリオ(SSP1-1.9)、2℃程度を目指す「低い」シナリオ(SSP1-2.6)、現状の対策レベルの延長に近いと考えられる「中間」シナリオ(SSP2-4.5)、追加的な対策を行わない「高い」シナリオ(SSP3-7.0)、化石燃料を利用し続ける「非常に高い」シナリオ(SSP5-8.5)です。1.5℃を目指す「非常に低い」シナリオは、今世紀半ばに世界全体の人間活動による二酸化炭素排出が実質ゼロになり、その後マイナスになっていく必要があります。また、二酸化炭素以外の温室効果ガスも大幅に削減する必要があります。この結論は2018年に公表されたIPCCの「1.5℃温暖化特別報告書」と概ね変わりません。しかし、この場合でも2021-2040年の平均気温が1.5℃に達してしまう可能性が5割程度と評価されました。現状の対策レベルに近い「中間」シナリオでは、今世紀半ばに2℃を超えてしまいます。


5つの例示的なシナリオにおける二酸化炭素の将来の年間排出量(GtCO<sub>2</sub>/年)(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.4aより)

5つの例示的なシナリオにおける二酸化炭素の将来の年間排出量(GtCO2/年)(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.4aより)[拡大図]

1850-1900年を基準とした世界平均気温の変化(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.8aより)

1850-1900年を基準とした世界平均気温の変化
(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.8aより)[拡大図]


4. 南極氷床の不安定化により海面上昇が加速する可能性を排除できない

1900年を基準とした世界平均海面水位の変化(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.8d気象庁暫定訳より)

1900年を基準とした世界平均海面水位の変化
(IPCC WG1 AR6 Figure SPM.8d気象庁暫定訳より)[拡大図]

 世界平均の海面水位は、現時点で産業革命前から20cm程度上昇しています。これが今世紀末には「非常に低い」シナリオでも50cm程度まで、「非常に高い」シナリオでは1m近くまで上昇すると予測されます。ただし、もしも南極大陸の氷床が不安定化して崩壊が始まると、1.7m程度の上昇も考えられます。海面上昇はその後も続き、例えば2300年には南極氷床の不安定化がある場合は15mの上昇もありうるとされました。南極氷床の不安定化が本当に生じるかは現時点の科学では不確かですが、生じる可能性を排除できません。そのように、可能性が低いか不明であるが、もし起こった場合には重大な影響をもたらすようなリスクには、ほかにも、アマゾンの熱帯雨林の枯死、北大西洋の海洋深層循環の停止などがあげられます。


〜著者プロフィール〜

江守正多

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。
2021年より地球システム領域 副領域長。社会対話・協働推進室長。
東京大学 総合文化研究科 客員教授。専門は気候科学。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。