一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.281

Issued: 2021.09.17

2021年瀬戸内海環境保全特別措置法改正(環境省水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室)

目次
1.1 瀬戸内海の水質を巡る最近の動き
1.2 2015年の瀬戸法改正以降の環境省の取組み
1.3 2020年3月の答申以降の流れと2021年瀬戸法改正
1.3−1 改正内容@【栄養塩類管理制度の創設】
1.3−2 改正内容A【自然海浜保全地区の指定対象の拡充】
1.3−3 改正内容B【海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の発生抑制等に関する責務規定】
1.3−4 改正内容C【気候変動による環境への影響に関する基本理念の改正】
1.4 きれいで豊かな瀬戸内海の実現に向けて

 瀬戸内海環境保全特別措置法は、2015年の改正により「きれいで豊かな海」という考え方が盛り込まれました。この際、課題となった、水質汚濁の原因物質である一方、生態系の存立基盤でもある窒素や燐といった栄養塩類と水産資源との関係性や、水環境保全との調和・両立の在り方に関する調査研究が5年にわたり進められてきました。この調査研究の成果も踏まえるとともに、国内外から注目を集める藻場・干潟の再生創出の後押しや海洋プラスチックごみ対策、気候変動による水温上昇等の視点も盛り込んで、2021年6月に同法が改正されています。今般の法改正の内容やその経緯などを御紹介します。


瀬戸内海の風景(香川県女木島より、環境省撮影)

瀬戸内海の風景(香川県女木島より、環境省撮影)

1.1 瀬戸内海の水質を巡る最近の動き

2015年の瀬戸法改正について

2015年の瀬戸法改正について

 高度経済成長期における人口増加、産業集積、埋立てや開発等により、多くの自然海岸や藻場・干潟が消失し、かつて「瀕死の海」とも呼ばれるほどに水質汚濁が進行した瀬戸内海ですが、これまでの様々な対策や多くの関係者の御協力・御尽力により、富栄養化の原因物質である栄養塩類を中心とした人為的な負荷が軽減するなど、一定の成果がみられています。その一方で、一部の海域においては、栄養塩類の不足等によるノリの色落ち等の水産業への悪影響が指摘されるようになってきました。
 こうした背景を踏まえ、2015年に瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸法)が改正され、「きれいで豊かな海」という概念が盛り込まれ、水質を良好な状態で保全するとともに、生物の多様性及び生産性が確保されるなど、瀬戸内海の有する価値や機能が最大限に発揮された「豊かな海」を目指していくこととされました。この時、併せて、環境の保全に関する施策は、湾・灘ごと、季節ごとの実情に応じて対応する必要があるとの考え方が示されました。

 しかし当時は、窒素や燐といった栄養塩類と、水産資源の持続可能な利用との関係性についての科学的知見が十分でなかったこと等から、2015年の改正法附則第2項において、「政府は、瀬戸内海における栄養塩類の適切な管理に関する調査及び研究に努める」こと、「その成果を踏まえ、法律の施行後5年を目途として、瀬戸内海における栄養塩類の管理の在り方について検討を加えること」とされました。


1.2 2015年の瀬戸法改正以降の環境省の取組み

 現在の瀬戸内海は、湾・灘ごと、更には湾・灘内の特定の海域によって、栄養塩類の増加が原因とみられる課題と減少が原因とみられる課題が入り組んで存在している現状であり、これをどちらか一方に偏ることなく、かつ同時解決することが求められています。環境省をはじめとする国や関係府県で調査研究を進めるとともに、中央環境審議会にて、栄養塩類と水産資源に係る調査・研究の状況の収集・整理や、関係団体等へのヒアリング等を実施し、湾・灘ごとの水環境等の状況を取りまとめるとともに、水環境及び水産資源等に係る主な課題の整理を行いました。整理された科学的知見や、各種課題への対応方策は、2020年3月の中央環境審議会答申に取りまとめられています。

瀬戸内海の海域が抱える課題

瀬戸内海の海域が抱える課題

中央環境審議会答申(2020年3月)

中央環境審議会答申(2020年3月)

2021年瀬戸法改正に至る流れ

2021年瀬戸法改正に至る流れ

1.3 2020年3月の答申以降の流れと2021年瀬戸法改正

2021年瀬戸法改正の内容

2021年瀬戸法改正の内容

 この答申に記載された方策の実施に当たって、制度の見直しに関する論点を更に深掘りし、法令の改正に係る事項について、見直しの方向性を示したのが、中央環境審議会が2021年1月に取りまとめた「瀬戸内海における特定の海域の環境保全に係る制度の見直しの方向性について(意見具申)」です。環境省では、この意見具申を踏まえて、瀬戸法改正にかかる検討を進め、同年2月に同法の改正法案が国会に提出され、審議の末、同年6月に改正法が成立・公布されました。
 今般の瀬戸法の改正のポイントは、制度の創設・改正が3点、基本理念への追加が1点、の4点です。


1.3−1 改正内容@【栄養塩類管理制度の創設】

色落ちしていないノリ(左)と色落ちしたノリ(右)(環境省撮影)

色落ちしていないノリ(左)と色落ちしたノリ(右)(環境省撮影)

 気候変動による水温上昇等の環境変化とも相まって、一部の海域では、これまで削減してきた窒素や燐といった栄養塩類の不足等によるノリの色落ちが生じています。しかし、これまでの瀬戸法では栄養塩類の削減に関する規定はあるものの、栄養塩類を供給する対策については想定されておらず、栄養塩類の適切な管理についての地域の合意の枠組みや手順の明確化等、一定のルール整備を行う必要性が高まっていました。
 そこで、関係府県知事が栄養塩類の管理に関する計画を策定できる制度を創設しました。周辺環境の保全と調和した形での特定の海域への栄養塩類供給を可能にし、栄養塩類について、海域ごと、季節ごとのきめ細かな管理を行えるようにしました。これにより、水環境の保全を図りつつ、生物の多様性の恩恵としての、将来にわたり多様な水産資源の確保に貢献することを目指します。


1.3−2 改正内容A【自然海浜保全地区の指定対象の拡充】

 「きれいで豊かな海」の実現に当たっては、栄養塩類の管理のみではなく、藻場・干潟等の保全・再生・創出の取組の促進も重要です。過去の開発等により大きなダメージを受けた瀬戸内海の沿岸域ですが、今日では、藻場・干潟等の再生・創出の取組も各地で行われています。
 しかし、これまでの瀬戸法では、こうした取組により成立した自然環境は自然海浜保全地区の指定対象に含まれておらず、また、指定場所も水際線付近に限定されており、例えば沖合に成立している藻場は指定対象ではありませんでした。
 このような状況も踏まえ、今般、指定対象を大きく拡充し、藻場・干潟等を維持・保全する地域の取組を更に促していくべく、制度の改正を行いました。
 また、今後の自然海浜保全地区制度は、保護区の指定を進めることのみならず、その保全状況等について、定期的な点検も行っていくことで、地域における保全活動の実施と合わせて、その価値を将来にわたり、維持・回復させていくことを目指します。

市民参加型の干潟保全の取組例(環境省資料より)

市民参加型の干潟保全の取組例(環境省資料より)


1.3−3 改正内容B【海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の発生抑制等に関する責務規定】

瀬戸内海における漂流ペットボトルについて

瀬戸内海における漂流ペットボトルについて

 海洋プラスチックごみを含む漂流・漂着・海底ごみ(漂流ごみ等)の問題については、国際社会でも大きく取り上げられる環境問題として、国内でも関心が高まっています。片付けても片付けても、外国語の書かれたごみが流れ着く、といった話もありますが、内海である瀬戸内海の漂流ごみ等については、そのほとんどが瀬戸内海地域から排出されたものと考えられています。
 すなわち、瀬戸内海は、漂流ごみ等の除去・処理だけでなく、そもそもの発生抑制や、海域に流れ出す前に回収する取組を我が国自身で強化することが可能であり、また、この対策を進めることで、状況が大きく改善することが期待できる地域といえます。
 このため、従来の漂流ごみ等の除去のみならず、内陸地域も含め、海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の除去・発生抑制等の対策を連携して行うべく、国と地方公共団体の責務規定を強化しました。瀬戸内海は、沿岸11府県、内陸も含め13府県が関係している我が国最大の閉鎖性海域であり、この地域で海洋ブラスチックごみを含む漂流ごみ等の問題に大きな改善が見られれば、国内他地域へのモデルとなるだけでなく、世界に向けても成功事例として強く発信できるものと期待されているところです。


1.3−4 改正内容C【気候変動による環境への影響に関する基本理念の改正】

気候変動による環境への影響について

気候変動による環境への影響について

 気候変動の影響も、国際社会でも大きく取り上げられ、国内でも関心が高まっている環境問題の一つです。環境省が1980年頃から継続して行っている水質調査の結果からも、この30年で瀬戸内海の水温は、全体平均で約1.5度の上昇が確認されており、今後さらに上昇する可能性も示唆されています。瀬戸内海で生じているノリの色落ちや、藻場の減少等の問題には、この水温上昇や、これにともなう植物プランクトンの種組成の変化、アイゴ等の南方系魚種の生息域拡大も影響していることが明らかになっています。
 また、気候変動により、雨の降り方が極端に変化することも分かっており、このことは陸域からの安定的な栄養塩類の供給等水質にも悪影響を及ぼします。
 瀬戸内海の環境の保全に当たっては、気候変動による水温の上昇その他の環境への影響が瀬戸内海においても生じていること及びこれが長期にわたり継続するおそれがあることも踏まえた対応が必要であることから、今般、この観点を法律の基本理念に追加しています。


1.4 きれいで豊かな瀬戸内海の実現に向けて

明石海峡を望む瀬戸内海の風景(環境省撮影)

明石海峡を望む瀬戸内海の風景(環境省撮影)

 2020年3月の中央環境審議会答申においては、湾・灘内の特定の海域における栄養塩類の管理や、藻場・干潟等の保全・創造等といった、地域の取組を念頭に、地方自治体をはじめ、地域で活動する環境団体、事業者、研究者等の地元関係者の役割を期待する旨、記載されているところです。
 そこで、これまで以上に、地域が主体となって、あるべき地域の海の姿を具体的に描き、これを実現するため、地域関係者や国をはじめとする様々な主体が積極的に参画し、世代間、地域間で連携して、実施されることが重要です。
 今般の瀬戸法改正も契機に、地域が主体となったこれらの取組が更に進むよう、環境省としてもより一層、関係府県・地域関係者と連携すべく、体制の整備も含めて必要な対応を行い、共に「きれいで豊かな瀬戸内海」の実現に取り組んでまいります。


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〜著者プロフィール〜

環境省水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室

全国の閉鎖性海域(ほとんど陸で囲まれている海域)における水質の汚濁の防止に関することを司っており、瀬戸内海の環境保全、総量削減制度による環境改善、有明海や八代海の総合調査評価委員会の運営などを担当している。
現在の室内メンバーは期間業務職員を含めて10名。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。