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No.250

Issued: 2016.02.29

つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト

目次
プロジェクトの背景
つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト
今後の展開 ─「いのち輝く国づくり」を目指し─

 私たちの暮らしを支える「森里川海」。それが今、過度の開発、管理の不足などにより、つながりが分断されたり、質が低下したりしています。人口減少、高齢化が進行する中で、どのように森里川海を管理し、その恵みを持続的に利用していくのか。平成26年12月に環境省が官民一体となって立ち上げた「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトについて、紹介します。

プロジェクトの背景

 生物多様性は私達に生きるための恵みをもたらし、文化・風土や産業等の形成を促し、豊かな社会の基盤になってきました。健全な森林は、きれいな空気と豊かな水を生み出すとともに、土砂流出や水量調整の役割を果たし、災害から我々を守ってくれています。また、森林から流れ出す土砂や有機物が、川をとおり、森から里、里から海へ供給されることで、多様な生き物の生育・生息環境が形成されてきました。これらの生息・生育環境に人が手を入れ賢く活用し、自然からの恵みをさらに引き出してきたのが、農林水産業であり、里山・里地・里海でのくらしです。木材や絹等の資材、米やキノコや魚介類等の食物、炭や薪等の燃料、そこに根付く文化…など、その恵みは数え出すとキリがありません。
 この恵みを地域のみならず日本全体で俯瞰すると、自然の恵みの主な供給源は、自然豊な地方にあり、その恩恵は都市も含めた広域が享受しています。しかし、こうしたつながりは一般的には目に見えにくく、近年地方と都市の関わり、人と自然との関わりが分断されることで、私達が意識する機会は少なくなってきました。地方と都市は、日本という1つの国の中で、共存関係にあることを認識し、互いにつながりを意識し、都市に存在する資金や人材、情報等を地方に提供する等、支えあうことが必要です。また「自然の恵み」のみならず、エネルギー・資源も含めたこれらの地域資源を、地域内や地方と都市の関係における経済社会システムの物質循環に組み込んでいくことで、環境・経済・社会が統合的に向上した地域社会の実現につながっていきます。
 平成26年7月に中央環境審議会から環境大臣宛に提出された意見具申「低炭素・資源循環・自然共生政策の統合的アプローチによる社会の構築〜環境・生命文明社会の創造〜」では、このような地域社会を実現する方策として、各地域が自然、物質、人材、資金等の地域資源を活かした自立分散型社会を目指しつつ、都市と農山漁村の2地域間が地域資源による補完的な関係を築き、一体的に連携していくことの重要性を提起し、その結びつきを「地域循環共生圏」と呼んでいます。


つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト

 このような「地域循環共生圏」を実現する上で大きな課題となるのが、生態系サービスの供給源である地方が直面する危機です。平成27年における日本の人口は1億3千万人をきっており、半世紀後には8千6百人台まで減少すると予測されています。また65歳以上の人口の割合は、平成27年に26.0%と過去最高となっています。人口減少が本格化する中で、森里川海の管理の担い手不足が深刻化し、人工林の荒廃や耕作放棄地の増加が懸念されています。また、高齢化も進み、自然の恵みを引き出す知恵や技も失われつつあります。さらに、過去の過度な開発は、森里川海のつながりを分断し、進行する気候変動は、災害リスクを増加させています。このような現状を踏まえ、環境省では、今一度、自然と人との関わりについて振り返り、森里川海が持つ力を回復させつなげること、その取組を支えることを目指し、平成26年12月に「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」を立ち上げました。平成27年度6月には、勉強会やシンポジウム等に参画いただいた有識者等とともに、その考え方の方向性や具体的な取組、その取組を国民全体で支える仕組みを整理した中間とりまとめを公表しました。

私たちの暮らしを支える森里川海
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「地域循環共生圏」のイメージ(中央環境審議会意見具申より抜粋)
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(1)プロジェクトの目標
 中間とりまとめでは、以下の2つの目標を定めています。

  • 森里川海を豊かに保ち、その恵みを引き出します。
    森里川海が本来持つ力を再生し、恵み(清浄な空気、豊かな水、食料・資材などを供給する力、自然災害へのしなやかな対応力など)を引き出すことのできる社会をつくります。
  • 一人一人が、森里川海の恵みを支える社会をつくります。
    森里川海に支えられるだけでなく、私たち自身も日々の暮らし方(消費行動や休暇の過ごし方等)や企業活動を変えることによって、私たちが森里川海を支えることができます。一人一人がそれを意識して暮らす社会への変革を図ります。

(2)森里川海の恵みを豊かに保ち、恵みを引き出すプログラム
 これらの目標を達成するため、できるだけわかりやすく目指す姿を設定し、そこに向かって課題や対策を具体化するバックキャスティングアプローチで取組を進めることを提案しています。また、目指すべき姿のベースには、省庁間や地域間で連携が十分でなかった分野や地域の実情に合わせたきめ細やかな取組が期待できる草の根の活動を置くこととしました。森里川海を豊かに保ち、恵みを引き出す取組としては、具体的には、以下の9つの個別プログラムを例示として示しています。

①森林のメタボ解消・健全化プログラム
②生態系を活用したしなやかな災害対策
③江戸前などの地域産食材再生にも貢献する豊かな水循環形成プログラム
④トキやコウノトリなどが舞う国土づくりプログラム
⑤美しい日本の風景再生プログラム
⑥森里川海からの産業創造プログラム
⑦鳥獣等から国土・国民生活を守るプログラム
⑧森里川海の中で遊ぶ子どもの復活プログラム
⑨森里川海とつながるライフスタイルへの転換

(3)実現に向けた仕組みづくり
 これらのプログラムの実施に際しては国土レベルと地域レベルの取組を連動させることで、目指すべき姿に向けたより効果的な成果を得ることができます。そのためには、地域の意見ができるだけ反映されるボトムアップの形で取組を進めるための仕組みづくりが必要です。中間とりまとめでは、国全体の会議として「森里川海協議会」、地域ごとの会議として「森里川海地域協議会」を設定することを提案しています。これらの会議では、幅広い参加を得て、森里川海のあるべき姿や管理の方向性(上記の個別プログラムなど)を検討します。
 また、取組を進めるためには、長期・継続的な資金や労力が必要です。一人一人の参加意識を高め、資金等を確保するため、森里川海の恵みを受けるすべての個人や企業が少額を負担(例えば、個人であれば一人1日1〜2円程度など)することが提案されています。また加えて趣旨に賛同する個人や企業からは、自発的な寄付等を受け入れることができる仕組みも必要です。
 これらの資金を、森里川海協議会や地域協議会で決定した指針やプログラムの推進にあて、一人一人の負担が自然の恵みを引き出すことに具体的につながっていくことを実感できる仕組みを目指しています。いわば自然へのお賽銭・次世代への貯金と捉えることができます。

実現する仕組みのイメージ図
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今後の展開 ─「いのち輝く国づくり」を目指し─

 現在、これらの中間とりまとめの公表を受け、全国において国民的な議論を行うためシンポジウム等を全国各地で開催しており、フォーラムで出された意見等をもとに中間とりまとめの見直しについても検討を進める予定です。また、同プロジェクトでは、「つなげよう、支えよう森里川海アクション」の募集を開始しています。提出されたアクションについては、環境省のホームページで紹介するとともに、活動間の連携を図っていくためのプラットホームとして活用していきたいと考えています。

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(記事:環境省自然環境局 速水香奈、図版:環境省)

〜著者プロフィール〜

速水香奈(はやみずかな)
 環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性施策推進室 室長補佐。平成18年度入省。本プロジェクトの他、生物多様性と生態系サービスの経済価値評価、生物多様性保全推進に向けた地域連携を担当している。

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