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2016
第249回 COP21の成果と今後
No.249
Issued: 2016.02.02
COP21の成果と今後(環境省地球環境局)
2015年11月30日から12月13日まで、フランス・パリ郊外で国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、世界の気候変動対策に関する新たな法的枠組みである「パリ協定」が採択されました。気候変動枠組条約の下で、すべての国が参加する公平で実効的な枠組みに世界190以上の国が合意したことは、歴史的にも極めて重要な意味を持つものです。 第1幕では、COP21の議論に至るまでの背景及び全世界が参加する枠組みの必要性について解説します。
第1幕「パリ協定の背景」
2015年11月30日から12月13日まで、フランス・パリ郊外で国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、世界の気候変動対策に関する新たな法的枠組みである「パリ協定」が採択されました。気候変動枠組条約の下で、すべての国が参加する公平で実効的な枠組みに世界190以上の国が合意したことは、歴史的にも極めて重要な意味を持つものです。 第1幕では、COP21の議論に至るまでの背景及び全世界が参加する枠組みの必要性について解説します。
気候変動は今そこにある危機
近年、大型台風、集中豪雨、干ばつや熱波などの異常気象とそれに伴う災害が世界各地で発生し、被害をもたらしています。気候変動によって、こういった極端な気象現象が増え、インフラ等の機能停止のリスクが高まったり、食料安全保障が脅かされたりする可能性が指摘されています。また、生物多様性が損なわれたり、氷床消失等による不可逆的な変化が起こったりすることもあり得ます。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、世界の気候が温暖化していることは間違いなく、人間活動がその支配的原因である可能性が極めて高いとされています。また、現行を上回る地球温暖化対策をとらなかった場合、今世紀末までに世界の平均気温が最大4.8℃上昇する可能性があると予測されています。地球温暖化は私たちの目の前にある危機であり、早急に地球規模で対策を講じていく必要があります。
気候変動枠組条約と京都議定書
気候変動は国境を越えた地球規模の環境問題であるため、国際社会全体で取組を進めていかなければなりません。こうした認識の下、気候変動枠組条約が1992年に採択され、94年に発効しました。2016年1月28日現在、この条約には世界の195の国と1地域(欧州連合)が参加しており、1995年以降の毎年、年末に条約締約国会議(COP)が開催されてきています。この条約は、「大気中の温室効果ガス濃度を影響のないレベルで安定化させる」ことを目的とし、その達成のため「共通だが差異のある責任」等の原則や各国の責務などを定めたものです。まさに「枠組」条約であり、温室効果ガスの排出削減等の対策を進めるためには、より具体的な取り決めが必要であることが、条約の発効当初から認識されていました。
このため1995年の第1回締約国会議(COP1)以降2年間の交渉を経て、1997年12月に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)で京都議定書が採択されました。京都議定書では、共通だが差異ある責任原則に基づき、2008年から2012年までの5年間に先進国全体で1990年比少なくとも5%の削減を目指し、各先進国に対して法的拘束力のある数値目標を設定しました。また、排出量取引、クリーン開発メカニズム(CDM)など目標達成のための各国間の協調のメカニズム(いわゆる「京都メカニズム」)を導入するなど、温室効果ガスの排出削減を目指す初めての国際的な法的枠組みとして画期的な合意でした。
しかしながら、当時世界最大の排出国であった米国が2001年に京都議定書を締結しないことを表明したこと、2000年代に入り中国、インドなど京都議定書の下で排出削減義務を負っていない開発途上国(新興国)の排出量が急増したことから、こうした国々を含む世界全体の気候変動対策を強化する必要が出てきました。
世界全体での取組の必要性
【図1】世界のエネルギー起源CO2 排出量の推移
[拡大図 ]
2013年時点の世界のエネルギー起源CO2 排出量は、中国が28%、米国が約16%となっており、世界全体の322億トンのうち、米中2か国で世界の排出量の40%以上を占めています(図1)。京都議定書は2012年のCOP18で改正され、2013年から2020年までの第二約束期間が設定されましたが、この第二約束期間に目標を掲げる一部の先進国の排出量が世界全体に占める割合はわずか10数%となっています。また、将来に目を向けると、2030年の時点では、先進国の排出量は減少傾向であるのに対して、途上国からの排出量がさらに急増すると予想されています。こうしたことから、京都議定書に代わる、途上国も含めたすべての国が参加する新しい枠組みの構築が求められたのです。
このような状況の中、2011年末に南アフリカ・ダーバンで開催されたCOP17において、「気候変動枠組条約の下で、すべての国に適用される議定書その他の法的な枠組み」を2015年までに採択すること、そのための交渉の場として「ダーバン・プラットフォーム特別作業部会」(ADP)を設置すること等が合意されました。
その後、この合意に基づき2012年に設置されたADPにおいて国際交渉が進められました。2015年には、2月、6月、8月、10月に計4回のADP会合が開催され、最終的にCOP21における「パリ協定」の採択に至りました。
第2幕「交渉の経緯と論点」
2015年11月30日から12月13日まで、フランス・パリ郊外で国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、世界の気候変動対策に関する新たな法的枠組みである「パリ協定」が採択されました。気候変動枠組条約の下で、すべての国が参加する公平で実効的な枠組みに世界190以上の国が合意したことは、歴史的にも極めて重要な意味を持つものです。 第1幕では、COP21の議論に至るまでの背景及び全世界が参加する枠組みの必要性について解説します。
気候変動は今そこにある危機
近年、大型台風、集中豪雨、干ばつや熱波などの異常気象とそれに伴う災害が世界各地で発生し、被害をもたらしています。気候変動によって、こういった極端な気象現象が増え、インフラ等の機能停止のリスクが高まったり、食料安全保障が脅かされたりする可能性が指摘されています。また、生物多様性が損なわれたり、氷床消失等による不可逆的な変化が起こったりすることもあり得ます。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、世界の気候が温暖化していることは間違いなく、人間活動がその支配的原因である可能性が極めて高いとされています。また、現行を上回る地球温暖化対策をとらなかった場合、今世紀末までに世界の平均気温が最大4.8℃上昇する可能性があると予測されています。地球温暖化は私たちの目の前にある危機であり、早急に地球規模で対策を講じていく必要があります。
気候変動枠組条約と京都議定書
気候変動は国境を越えた地球規模の環境問題であるため、国際社会全体で取組を進めていかなければなりません。こうした認識の下、気候変動枠組条約が1992年に採択され、94年に発効しました。2016年1月28日現在、この条約には世界の195の国と1地域(欧州連合)が参加しており、1995年以降の毎年、年末に条約締約国会議(COP)が開催されてきています。この条約は、「大気中の温室効果ガス濃度を影響のないレベルで安定化させる」ことを目的とし、その達成のため「共通だが差異のある責任」等の原則や各国の責務などを定めたものです。まさに「枠組」条約であり、温室効果ガスの排出削減等の対策を進めるためには、より具体的な取り決めが必要であることが、条約の発効当初から認識されていました。
このため1995年の第1回締約国会議(COP1)以降2年間の交渉を経て、1997年12月に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)で京都議定書が採択されました。京都議定書では、共通だが差異ある責任原則に基づき、2008年から2012年までの5年間に先進国全体で1990年比少なくとも5%の削減を目指し、各先進国に対して法的拘束力のある数値目標を設定しました。また、排出量取引、クリーン開発メカニズム(CDM)など目標達成のための各国間の協調のメカニズム(いわゆる「京都メカニズム」)を導入するなど、温室効果ガスの排出削減を目指す初めての国際的な法的枠組みとして画期的な合意でした。
しかしながら、当時世界最大の排出国であった米国が2001年に京都議定書を締結しないことを表明したこと、2000年代に入り中国、インドなど京都議定書の下で排出削減義務を負っていない開発途上国(新興国)の排出量が急増したことから、こうした国々を含む世界全体の気候変動対策を強化する必要が出てきました。
世界全体での取組の必要性
【図1】世界のエネルギー起源CO2 排出量の推移
[拡大図 ]
2013年時点の世界のエネルギー起源CO2 排出量は、中国が28%、米国が約16%となっており、世界全体の322億トンのうち、米中2か国で世界の排出量の40%以上を占めています(図1)。京都議定書は2012年のCOP18で改正され、2013年から2020年までの第二約束期間が設定されましたが、この第二約束期間に目標を掲げる一部の先進国の排出量が世界全体に占める割合はわずか10数%となっています。また、将来に目を向けると、2030年の時点では、先進国の排出量は減少傾向であるのに対して、途上国からの排出量がさらに急増すると予想されています。こうしたことから、京都議定書に代わる、途上国も含めたすべての国が参加する新しい枠組みの構築が求められたのです。
このような状況の中、2011年末に南アフリカ・ダーバンで開催されたCOP17において、「気候変動枠組条約の下で、すべての国に適用される議定書その他の法的な枠組み」を2015年までに採択すること、そのための交渉の場として「ダーバン・プラットフォーム特別作業部会」(ADP)を設置すること等が合意されました。
その後、この合意に基づき2012年に設置されたADPにおいて国際交渉が進められました。2015年には、2月、6月、8月、10月に計4回のADP会合が開催され、最終的にCOP21における「パリ協定」の採択に至りました。
第3幕「パリ協定の概要」
COP21では、法的文書である「パリ協定」とともに、その内容に関するCOP決定が合意されました。「パリ協定」は、前文及び29条の主文からなる法的文書です。名称は協定(Agreement)となっていますが、その形式は、気候変動枠組条約や京都議定書など他の条約、議定書と同様な形となっています。
第3幕では、COP21での成果について解説します。
目的(第2条等)
[1] 産業革命前からの地球平均気温上昇を2℃より十分下方に保持すること、また1.5℃に抑える努力を追及すること、[2] 気候変動に関する適応能力の拡充、気候変動の影響に対する強靱性と低排出な開発を促進すること、[3] 低排出及び強靱な開発に向けた経路に整合する資金フローを構築すること、により気候変動の脅威に対する世界の対応を強化すること、を本協定の目的として掲げています。
さらに、この目的を達成するため、緩和に関する目標として、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランスを達成するよう、世界の排出ピークをできるだけ早期に迎え、最新の科学に従って急激に削減することを目指すとしています(第4条第1項)。
また、適応に関して、適応能力を拡充し、強靱性を強化し、脆弱性を低減させる世界全体の目標の設定も明記されています(第7条第1項)。
いわゆる2℃目標や「今世紀後半の排出と吸収のバランス」といった具体的な内容によって「温室効果ガス濃度の安定化」という条約の究極目的をより明確な形で言い換えたものです。2℃目標については、それまでの国際交渉の中で認識され、COP決定レベルでは記載されていましたが、法的な合意の中でこうした具体的な内容が規定されたのは、史上初めてです(なお、京都議定書は、前文で条約の究極目的に言及されているのみで、目的に関する条文は置かれていませんでした)。
緩和(排出削減、吸収源、市場メカニズム)(第4〜6条)
世界全体の目標として、上述のとおり、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランスを達成するよう、世界の排出ピークをできるだけ早期に迎え、最新の科学に従って急激に削減するとの長期目標を設定しています。
その上で、各締約国の義務として、緩和に関する貢献(削減目標・行動)を作成し、提出し、維持すること、また、「貢献」の目的を達成するための国内措置をとることを規定しています。 この各国の「貢献」は、5年ごとに提出することとされ、各国の異なる事情に照らしたそれぞれ共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力を反映し、従前の貢献を超えて前進を示すとともに、可能な限り最も高い野心を反映するものとされています。
なお、COP21決定において、2025年目標の国は2020年までに、その後は5年毎に新たな「貢献」を提出するよう求めるとともに、2030年目標の国は2020年までに、その後は5年毎にその「貢献」を提出又は更新することを要請しています。また、各国は貢献を提出する際には明確性、透明性、理解のために必要な情報を提供するとされており、その約束の計上(アカウンティング)に関しては環境の保全、透明性、正確性、完全性、比較可能性及び整合性を促進し、並びに二重計上の回避を確保する、とされています。
さらに各国は、第2条(協定の目的)に留意し、長期の温室効果ガス低排出発展戦略を作成、提出するよう努めるべきとされています。
以上の各国の義務等に関する規定は、先進国、途上国といった差異を設けない形で規定されていますが、こうした差異化に関する規定としては、第4条第4項で、先進締約国は、その国の経済全体にわたる排出の絶対量の削減目標をとることによって引き続き先頭に立つべきであること、開発途上締約国は、緩和努力を高めることを継続すべきであり、各国の異なる事情に照らしつつ、全経済にわたる排出の削減又は抑制目標に移行することを奨励されることが規定されています。
吸収源(森林等)については、第5条において、締約国は、温室効果ガスの吸収源及び貯蔵庫の保全及び適当な場合には強化のための措置をとるべきであり、開発途上締約国における森林減少及び森林劣化等による排出量を減少させる取組のため、条約に基づく関連する指針や決定に規定する既存の枠組みを実施・支援するための措置をとることが奨励されると規定されています。
また、市場メカニズムに関しては、第6条において、「国際的に移転される緩和の成果を活用する場合には、持続可能な開発を促進し、環境の保全と透明性を確保する」とされています。この規定により、我が国が推進する二国間クレジット制度(JCM)を含む様々な市場メカニズムが活用可能であることが確保されています。この際は、締約国会議が採択する指針に従い、強固なアカウンティング(排出削減量の計上)を適用し、二重計上を回避することとなっています。この他に、緩和への貢献及び持続可能な開発に対する支援のメカニズムを設立すること、また、持続可能な開発のための非市場的な取組についても規定されています。
適応(気候変動の悪影響への対処)(第7条)及び損失と損害(ロス・アンド・ダメージ)(第8条)
第7条では、適応(気候変動の悪影響への対処)について、気候変動に対する適応能力を拡充し、強靱性を強化し、脆弱性を減少させる世界全体の目標の設定を規定した上で、各国は、適当な場合に、適応計画立案過程や適応行動の実施に取組、適応報告書を提出・定期的に更新すること等が規定されています。
また、適応努力における支援及び国際協力の重要性や、開発途上国及び気候変動の悪影響に特に脆弱な国々のニーズを考慮する重要性を認識し、適応行動の強化に関する協力(情報共有、組織の強化、科学的知見の強化など)を強化すること、これらの実施のため、継続的な国際支援が途上国に提供されることが確認されています。
損失と損害(ロス・アンド・ダメージ)については、途上国からの強い要望に応える形で、適応とは別の条(第8条)に規定されたことは注目すべき点です。各国は、気候変動の悪影響(極端な気象現象と緩やかに進行する現象を含む。)に関連した損失及び損害を回避、最小限化、対処することの重要性を認識すること、また、適当な場合には、協力的かつ促進的に理解、行動、支援(2013年のCOP19決定に基づき設置されたワルシャワ国際メカニズムを通じたものを含む。)を強化すべきこと、ワルシャワ国際メカニズムは、協定内外の既存の組織や専門家グループと協力すること等が規定されています。なお、COP決定には、本条がいかなる責任、あるいは補償のための基礎を提供するものではないことが含まれています。
資金(第9条)
第9条では、資金について規定しています。先進締約国は、条約に基づく既存の義務の継続として、緩和と適応に関連して開発途上締約国を支援する資金を提供することに加え、他の締約国は、自主的な資金の提供又はその支援の継続が奨励されることが規定されています。さらに、世界的な努力の一環として、先進締約国は、公的資金の重要な役割に留意しつつ、広範な資金源、手段、経路からの様々な活動を通じ、気候資金の動員を引き続き率先すべきこと、気候資金の動員は従前の努力を超えた前進を示すべきことが規定されています。
交渉上論点となった定量的な資金支援の目標については、協定に位置づけず、COP21決定において、2025年に先立って、1000億ドルを下限として新たな定量的な全体の目標を設定することとされています。
また、先進締約国が、開発途上締約国に提供される公的資金の予想水準を含め、資金支援に関する情報を2年ごとに提出し、他の資金を提供する締約国も自主的に情報を2年ごとに提出することが奨励されると規定されています。
技術開発・移転(第10条)、能力開発(第11条)及び教育・訓練・啓発(第12条)
第10条では、技術開発と移転に関する強化された行動を促進し、技術メカニズムの実施のための指針を与える「技術枠組み」を設けて、技術革新を促進することは、長期的で世界全体にとって効果的な気候変動への対応及び経済成長、持続可能な開発の促進のために不可欠であること、技術開発・移転に関する協調行動の強化等のための支援が開発途上国に提供されること等が規定されています。
能力開発については、第11条において、効果的な気候変動のための行動をとるために、開発途上国の能力を強化すべきこと、能力開発は各国のニーズに基づき国が主体に行うものであるべきこと、先進国は、開発途上国の能力開発の取組の支援を拡充すべきこと等が示されています。またCOP決定により、途上国の能力開発を実施する上でのギャップとニーズを解決するための「キャパシティ・ビルディングに関するパリ委員会」を設置することとされています。また開発途上国の能力を高める取組を行う国は、その取組を定期的に提出し、開発途上国も能力開発の取組の進捗を定期的に提出すべきことが規定されています。
第12条では、各国は、気候変動に係る教育・訓練・啓発、公衆の参加及び情報へのアクセスのための措置をとることにつき協力することも規定されています。
行動と支援の透明性(第13条)
各国間の相互の信頼を構築し協定の実施を促進するため、各国の異なる能力を考慮し、全体の経験に基づく柔軟性が組み込まれた、行動及び支援に関する「強化された一つの透明性枠組み」を設けることが示されています。この枠組みの下で、各国は、排出・吸収目録、緩和に関する「貢献」の実施及び達成に向けた前進に関する必要な情報を定期的に報告し、また、適当な場合には、気候変動の影響及び適応に関する情報も提供すべきとされています。さらに、先進国が開発途上国に提供した支援に関する情報を提供し、その他の支援を提供する国も当該情報を提供すべきこと、開発途上国は、受けた支援に関する情報等を提供すべきことが規定されています。
各国から提出された情報は、専門家によるレビュー及び促進的かつ多国間の検討を受けることになります。こうした透明性枠組みの詳細は、協定の締約国会議の第一回会合で採択することとされています。
世界全体の実施状況の確認(グローバルストックテイク)(第14条)
締約国会議において、この協定の目的及び長期目標の達成に向けた全体的な進捗を評価するため、協定の実施を定期的(最初の確認を2023年に、その後は5年ごと)に行うことが定められています。この進捗確認の結果は、各国の行動及び支援を更新し、拡充する際の情報となります。
なお、適応に関する進捗確認については、適応に関する条の中で別途定めています(第7条14項)。この条項では、特に開発途上国の適応努力の認識、適応のための支援の妥当性と効果の検討、適応の世界全体の目標の達成にあたっての全体的な進捗の検討等について行うことが定められています。
実施及び遵守の促進(第15条)、署名、締結、発効(第20、21条)
第15条には、パリ協定の規定の実施及び遵守促進のためのメカニズムを設けること、このメカニズムは、透明で、対決的でない、懲罰的でない、促進的な機能を有する専門家による委員会により構成されること等が規定されています。
この協定は、2016年4月22日から2017年4月21日まで国連本部(ニューヨーク)において、署名のために開放されます。また、協定の発効のための要件として、世界総排出量の55%以上の排出量を占める55カ国以上の締約国がこの協定を締結した30日後に効力を生じるとされています。
COP決定によるその他の合意
パリ協定のほか、COP決定により以下の内容が合意されました。
1)パリ協定の採択関係
ADP(強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会)はその作業を終了すること。
新たに、パリ協定の発効に向けた準備等を進めるため、「パリ協定に関する特別作業部会」(AWG on Paris Agreement(APA))を設置すること。APAは、役員の選任についてADPと同じ形(先進国、途上国の共同議長制など)をとり、2016年以降の条約補助機関会合開催時に開催し、パリ協定の第1回締約国会合までに作業を完了すること。その間、APAは作業の進捗をCOPに報告すること。APAは、第1回パリ協定締約国会合における決定案に関する提案を作成すること。
2)約束草案関係
COP19決定に基づき締約国から提出された約束草案を歓迎する。
条約事務局に、約束草案の統合報告書について、2016年4月4日までに提出されたものを対象に、5月2日までに更新するよう要請する。
緩和の長期目標の進展等に関する全体の努力の進捗を確認するための促進的対話を2018年に開催する。
IPCCに対し、1.5℃上昇の影響及びそれに関する温室効果ガス排出経路に関する特別報告書を2018年に作成するよう招請する。
3)2020年以前の行動の強化
2016-2020年の期間、既存の緩和の技術的検証プロセス(TEP)を強化する。緩和TEPの改善のための評価を2017年に行う。
2020年までに官民合わせて年間1000億ドルの気候資金を動員するとの目標に向けた具体的なロードマップとともに、資金提供の拡充を行う。2016年のCOP22に併せて、資金源の拡大の機会の特定等のための促進的対話を実施する。
非政府の関係主体の取組を促進する「リマ・パリ・アクション・アジェンダ」を基礎として、2016-2020年の間、COP期間中にハイレベルイベントを開催。自主的な取組、イニシアティブ、コアリッションの強化等のため、2人のハイレベル・チャンピオンを任命する。
適応に関する2020年までの野心向上のためのTEPを2016〜2020年に実施する。
4)非政府主体
全ての非政府主体(市民社会、民間セクター、金融機関、都市その他地方公共団体)の努力を歓迎し、そのスケールアップを招請する。
国内政策やカーボン・プライシングを含め、排出削減にインセンティブを与えることの重要性を認識する。
第4幕「パリ協定の特徴・意義及び今後の対応」
今回合意されたパリ協定は、[1]すべての国に適用される枠組みであること、[2]緩和、適応、資金等各要素をバランスよく扱っていること、[3]長期の取組を視野に入れた永続的な枠組みであること、[4]取組を前進・向上させる仕組みになっていることの4つが特徴として挙げられます。
以下、これらパリ協定の特徴・意義と、我が国を含む各国の今後の対応について解説します。
すべての国に適用される枠組み(Applicable to all)
パリ協定の第一の特徴は、「すべての国に適用される枠組み」です。これは、この交渉の出発点となったダーバン合意に規定されており、この協定の特徴としてまず注目すべき点と言えるでしょう。先進国を附属書という形でリストアップして、先進国(附属書I国)とその他の国(非附属書I国)の対応に明確な違いを設けた気候変動枠組条約及び京都議定書と異なり、パリ協定の主要な規定の多くは、「すべての締約国」に適用される形となっています。
資金支援に関する規定や、各国の緩和貢献のタイプに関する一般的責務など、先進国、途上国の書き分けが残った部分もありますが、いずれも「先進国」「途上国」を具体的に定義しておらず、また両者の責務等の内容の隔たりも、条約や京都議定書と比べると相当小さくなりました。「共通だが差異のある責任と能力」等の条約の原則は踏まえつつ、時代の変化に即してより現実的かつ実効的な形の枠組みとした、と言うことができます。
緩和、適応、資金等の要素を包括的に取り扱っていること(Comprehensive)
第二の特徴として、パリ協定は、緩和、適応、資金、技術、能力開発、透明性といった要素をバランスよく包括的に取り扱っています。協定の目的も、緩和だけでなく適応、資金に関する目的も含め3つの目的を定めています。
先進国の温室効果ガス排出削減を狙いとした京都議定書と比べて、そのスコープの拡がりは歴然です。気候変動枠組条約にはこうした6つの要素が大なり小なり盛り込まれていますが、パリ協定はそれをより具体的に規定することで、今後の気候変動対策を包括的に進める上での指針となるものです。特に、気候変動の影響が目に見えて現れてきている中、適応に関する各国の取組の強化とそのための支援の重要性の認識、さらにはロス&ダメージに関する規定等が法的合意に位置づけられたことは、重要なメッセージとして受け止める必要があります。
長期の取組を視野に入れた永続的な枠組みであること(Durable)
第三の特徴は、長期的な視点に立って取組を進めていくことを促すところにあります。今世紀後半の排出と吸収のバランスを目指すとの長期目標の設定、各国に長期の低排出開発戦略の策定を求めたこと、さらには5年ごとの各国の目標提出のサイクルといった規定は、いずれも2025年や2030年までという時限的な枠組みでは無く、長期的な取組を目指して対応を進めることを念頭に置いたものです。
まさに21世紀の気候変動対策の枠組みを形作ったものと言えるでしょう。
取組を前進・向上させていく枠組みであること(Progressive)
第四に、そうした長期的な取組の中で、各国、そして世界全体の対応を前進させていくための仕掛けが組み込まれたことが、パリ協定を実効性あるものとする上で特に重要なポイントです。
協定の目的に関する世界全体での進捗確認(グローバル・ストックテイク)と、すべての国による従来の取組よりも前進させた削減目標の提出・更新が、ともに5年おきに進められます。その際、グローバル・ストックテイクは各国の目標の提出・更新に先んじて行われ、各国の取組の向上に対して情報を与えることが規定されています。2023年にグローバル・ストックテイクが行われ、その結果を受けて各国が目標を見直し2025年のCOPの9〜12か月前に提出する、その後も5年おきにこの流れが繰り返されることとなります。
また、COP決定により、2018年に緩和貢献に関するグローバル・ストックテイクに相当する「促進的対話」を実施し、各国が2020年までに現在の約束草案を更新又は提出することも規定されています。
加えて、各国の異なる能力を考慮し、柔軟性が組み込まれ強化された一つの透明性枠組みの下で、各国の取組の実施状況を国際的に報告し、専門家のレビュー等を受けることとなります。こうした各国の取組の進展状況もグローバル・ストックテイクを行う際の情報の一つとなっていくことが想定されます。
以上の「世界全体の進捗点検」「各国の目標の見直し(従来の目標からの前進)」「各国の取組の実施状況の報告・レビュー」が密接に関連したPDCAサイクルを回していくことで目標・対策の向上を図っていく仕組みとなっています。
こうした特徴を持つパリ協定は、歴史上はじめて、途上国も含めたすべての国が参加する枠組みであり、公平かつ実効的な合意と呼ぶにふさわしい内容です。1990年代にできた気候変動枠組条約を時代の変化に見合った形で変化させ、これからの世界の気候変動対策を強化していく上での礎となる、転換点あるいは新たな出発点といえる枠組みなのです。
我が国及び各国の今後の対応
パリ協定の採択後、世界の多くの国が歓迎の意を表明しました。我が国も13日(日)に、「この合意を高く評価」し、我が国としても気候変動問題について「内閣の最重要課題として取り組む」旨の安倍内閣総理大臣の談話を発表しました。さらに、12月22日に地球温暖化対策推進本部(地球温暖化対策推進法に基づく閣僚級の会議。総理大臣を本部長、環境大臣及び経済産業大臣を副本部長とし、すべての閣僚が参加)を開催し、パリ協定を踏まえた今後の地球温暖化対策の方針について決定しました。
まず、国内対策の実施については、我が国が国際社会に約束した約束草案を着実に実施していくことが極めて重要です。このため、2016年春までに地球温暖化対策推進法に基づく地球温暖化対策計画を策定します。中央環境審議会・産業構造審議会の合同会合を中心に検討していくこととしており、早速、同日午後に両審議会の合同会合が開催されました。また、同じく2016年春までに、政府として率先的な地球温暖化対策を推進するべく、先導的な対策を盛り込んだ政府実行計画を策定することとしています。さらに、民生部門等国民の生活に伴う温室効果ガスの排出削減を進めるため、政府が旗振り役となって地球温暖化防止国民運動を強化することとし、地方公共団体、産業界、全国地球温暖化防止活動推進センター、NPO等多様な主体が連携し、情報発信、意識改革、行動喚起を進めます。
適応に関する取り組みを強化していくことも重要です。我が国はCOP21直前の11月27日に「気候変動の影響への適応計画」を閣議決定しました。この適応計画と、緩和分野における地球温暖化対策計画を両輪として、我が国の地球温暖化対策を強化・推進していきます。
約束草案は2030年を目指すものですが、パリ協定に定められた長期目標を踏まえて、より長期的な視点に立った低炭素戦略の検討にも着手していきます。
国際的には、パリ協定の署名、締結に向けた準備を着実に進めていくことが重要です。パリ協定は2016年4月22日から1年間、ニューヨークの国連本部で署名のため公開され、4月22日には署名式が執り行われます。その後各国が締結の手続きを進め、発効要件(55か国以上かつ全世界の温室効果ガス排出量の55%以上を占める国の締結)が満たされた30日後にパリ協定が発効することとなります。我が国の締結に当たっては、そのために必要な国内の体制を整備する必要があります。こうした署名及び締結に向けて着実に準備を進めていきます。
さらに、パリ協定の実施のための詳細を定めていく必要があります。緩和、適応、資金、透明性などの要素について、パリ協定の実施に関する手続きや指針等は、パリ協定の締約国会議で決定するとされているものが多く、そのための検討を、新たに設置することが合意された「パリ協定の実施に関する特別作業部会(APA)」や条約補助機関会合などの場で進めていくことが、COP21決定で決まっています。その中には、透明性枠組みに関する手続きや市場メカニズムの活用に関する指針など、パリ協定の実効的を高めるために重要な事項も多く、パリ協定の着実かつ効果的な実施に役立つ詳細ルールを検討し設定していく必要があります。我が国としても、こうした詳細ルール交渉に積極的に参加・貢献していきます。
平成27年12月22日 地球温暖化対策推進本部にて発言する安倍首相(出典:首相官邸ホームページ)
(記事・図版:環境省地球環境局)
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