No.247
Issued: 2015.11.13
水銀の大気排出対策と、大気汚染防止法の一部を改正する法律について(環境省水・大気環境局大気環境課)
大防法の一部改正と、水銀に関する水俣条約との関係
水銀に関する水俣条約は、平成25年10月に熊本・水俣で我が国を議長国として開催された外交会議において採択されました。
この条約は、水俣病の重要な教訓に鑑み、世界から水銀による被害をなくしていくため、水銀の人為的な排出及び放出から人の健康及び環境を保護することを目的とするものです。水銀の産出から貿易、使用、環境への排出、廃棄等に至るライフサイクル全体にわたって包括的な規制を行う初めての条約で、大気への排出規制もその内容に含まれています。
我が国においては、大気排出規制について大気汚染防止法の一部を改正する法律(平成27年法律第41号)によって、それ以外の内容については、前回紹介した水銀による環境の汚染の防止に関する法律(平成27年法律第42号)などによって、条約を担保することとしています。
今回は、我が国における水銀の大気排出対策の取り組みと大気汚染防止法の一部改正による規制の概要について解説します。
水銀の大気排出の状況について
水銀は、常温で液体である唯一の金属で、揮発性が高く、様々な排出源から環境中に排出されています。
<世界における大気排出状況>
世界における大気中への排出状況をみると、年間5,500〜8,900トン、そのうち人為的な排出は約30%の1,960トンと推計されています。人為的な排出源の約半分はアジア地域で、中でも中国が全世界排出量の約3割を占める最大の排出国となっています。なお、日本が全世界排出量に占める割合は約1%です。
水銀は、石炭、石灰、鉱石などに微量に含まれており、それらの燃焼や熱を伴う精製等によって大気中に排出されているほか、水銀を含有する廃棄物の焼却によって環境中に排出されています。主な排出源は、零細小規模金採掘、石炭燃焼、非鉄金属生産、セメント生産、水銀含有製品の廃棄処分等となっています。
<日本における大気排出状況>
国内における大気中への排出状況は、年間17〜21トンと推計されています。主な排出源はセメント製造施設、鉄鋼製造施設、廃棄物焼却施設、非鉄金属製造施設、石炭火力発電所です。
日本のこれまでの水銀大気排出対策の取組
水銀は、大気汚染防止法(大防法)上、「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」の中でも優先取組物質として選定され、環境目標値の一つとして「環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値」(指針値。年平均値0.04μg Hg/m3)が設定されるなど、有害大気汚染物質対策が講じられてきました。
また、水銀は、ばいじんに付着するなどして排ガス処理工程において除去されており、これまで講じてきたばい煙排出規制やダイオキシン類排出規制が、水銀の排出抑制についても一定の効果をあげています。
実際、国や都道府県等が全国で行っている水銀の大気環境中濃度についてのモニタリングの結果、これまでに指針値を超過した測定地点はありません。
水俣条約の求める大気排出規制
水俣条約第8条は、[1]石炭火力発電所、[2]産業用石炭燃焼ボイラー、[3]非鉄金属(鉛・亜鉛・銅・工業金)製造用の精錬・焙焼工程、[4]廃棄物焼却設備、[5]セメントクリンカー製造設備の5種類の発生源に対し、水銀の大気排出を規制し、実行可能な場合には削減することを求めています。
新規発生源については、各締約国に対し条約発効後5年以内に、利用可能な最良の技術(BAT)及び環境のための最良の慣行(BEP)の利用を義務付けるか、BATに適合する排出限度値を使用することを求めています。既存発生源については、条約発効後10年以内に、排出規制目標、排出限度値、BAT及びBEP、水銀排出規制に相互に効果のある複数汚染物質戦略又は代替的措置から1つ以上の措置を講ずることを求めています。
平成27年大防法改正の概要 〜水銀排出規制制度の枠組み〜
我が国では、水俣条約を踏まえて、水銀に着目した大気排出規制制度を、新たに設けることとしました。
(1)水銀排出施設の届出制度
一定の水銀排出施設(条約対象施設とし、具体的な施設種類及び規模を省令で定める予定)を設置又は構造等の変更を行おうとする場合は、都道府県知事又は政令市長に対して事前に届出することが必要となります。なお、施行時点で現に施設を設置している場合は、施行日から30日以内に届出が必要となります。
(2)水銀等の排出基準の遵守義務
水銀排出削減に関する技術水準・経済性を勘案し、可能な限り排出削減されるよう(=BAT)、水銀排出施設の排出口の水銀濃度の排出基準を設定することとします。水銀排出施設から水銀を大気中に排出する者(水銀排出者)は、排出基準を遵守し、水銀濃度を測定・記録・保存する必要があります。
遵守については都道府県知事又は政令市長が指導・監督を行います。
(3)要排出抑制施設の設置者の自主的取組等
届出対象外であっても鉄鋼製造施設のような日本における水銀の排出量が相当程度多い施設については、要排出抑制施設と位置付け、その設置者は、排出抑制のための自主的取組として、単独又は共同で、自主管理基準の作成、水銀濃度の測定・記録・保存等の排出抑制措置を講ずるとともに、措置の実施状況とその評価を公表しなければならないこととなります。。
また、その他の事業者は、事業活動に伴う大気排出状況を把握し、排出抑制のために必要な措置を講じ、大気排出インベントリーの維持・更新など、国が実施する排出抑制施策に協力することが求められます。
改正法は、水俣条約が我が国について効力を有する日から2年を超えない範囲内で、政令で定める日から施行されます。
関連Webサイト
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
(記事・図版:環境省水・大気環境局大気環境課)
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。