No.246
Issued: 2015.11.06
水銀による環境の汚染の防止に関する法律について(環境省環境保健部環境安全課)
平成25年10月、熊本・水俣で我が国を議長国として開催された外交会議において、水銀に関する水俣条約(以下「水俣条約」)が採択されました。この水俣条約は、水俣病の重要な教訓も踏まえ、世界から水銀による被害をなくしていくため、水銀の人為的な排出及び放出から人の健康及び環境を保護することを目的として、水銀の掘採(採掘及び試掘)から貿易、使用、排出、放出、廃棄等に至るライフサイクル全体を包括的に規制するものです。
我が国においては、この水俣条約を的確かつ円滑に実施するため、平成27年6月に「水銀による環境の汚染の防止に関する法律(平成27年法律第42号。以下「法」)」及び「大気汚染防止法の一部を改正する法律(平成27年法律第41号)」が成立しました。
今回と次回の2回にわたって、これらの法律による規制の概要とその背景等について解説します。
我が国における水銀使用状況の推移と更なる対策の推進
我が国では、水俣病の教訓を踏まえたこれまでの環境保全対策の結果、環境中への水銀の排出のみならず、水銀及び水銀化合物(以下「水銀等」)の製品や製造工程などにおける使用の削減等がかなり進んでいます。昭和39年(1964年)のピーク時に年間約2,500トンも使用されていた水銀は、近年では年間10トン程度に激減しています(下図参照)。
しかし、水俣病を経験した我が国には、世界をリードする水銀対策を推進していく役割が求められます。このため、法やその他の関係法令において、水俣条約で求められている措置を的確かつ円滑に実施するとともに(下図参照)、水銀を使用する製品の製造規制の対象や水銀等の輸出規制の対象の拡大など、追加的な措置を講じることとしています。
水銀による環境の汚染の防止に関する法律の概要
ここでは、法に基づく措置の具体的な内容を解説します。
○水銀等による環境の汚染の防止に関する計画について
水俣条約第20条の実施計画として、法第3条において、我が国の水銀対策の全体像を示す「水銀等による環境の汚染の防止に関する計画」の策定を国の権限として位置付けています。
○水銀の掘採の禁止について
法第4条では、水銀の掘採の禁止を規定しています。我が国では1974年に北海道の鉱山が閉山したのを最後に、国内での水銀の掘採は行われていません。ただ、将来における水銀採掘は法的に禁止されていないため、条約を実施するための措置が必要となります。
○水銀使用製品に関する製造等規制について
水銀は、その特性から、電池やスイッチ、ランプ類、医療用及び工業用計測・計量機器(体温計、血圧計を含む)、歯科用アマルガムなどさまざまな製品に使用されてきました。例えば、蛍光灯や水銀灯などでは、発光の原理上水銀が不可欠となっており、また乾電池では、かつて負極に使用されている亜鉛の腐食反応抑制のために水銀が使用されていました。現在でも水銀が使用されている製品はありますが、我が国は、乾電池の完全無水銀化を達成するなど、水銀代替・使用量削減について優れた実績と技術を有しています。
法第5条から第11条では、一定量以上の水銀を含有する蛍光ランプやボタン電池等の製品(特定水銀使用製品)の製造及びこれらの製品の部品としての使用を、水俣条約上定められた用途を除き、原則的に禁止することを規定しています。
その上で、この特定水銀使用製品については、我が国で流通する製品の水銀含有量や水銀使用の削減技術の普及状況等も踏まえ、一部製品について、水俣条約の現在の規定より厳しい水銀含有量基準として対象を拡大することや、製造禁止となる時期(廃止期限)を前倒しすることとしています(右図参照)。
なお、これらの特定水銀使用製品の輸出入(他の製品に組み込まれている場合の部品としての輸出入を含む。)の規制は、法における廃止期限と同じ日から、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)において実施されます。
また、水俣条約は、自国に対して条約が発効する前に自国で把握されていない新たな用途に利用する水銀使用製品の製造及び流通の抑制も規定しています。法第13条から第15条において、既存の用途に利用する水銀使用製品を網羅的にリストアップし、このリストに掲載されない水銀使用製品を製造又は販売する者には、当該製品の利用が人の健康の保護又は環境の保全に寄与するかどうかについて自ら評価し、その結果等を届け出る義務を規定しています。
さらに、法第16条から第18条において、水銀使用製品が一般消費者から適正に排出され、回収されるための国、市町村、水銀使用製品の製造又は輸入事業者のそれぞれの責務を規定しています。
○特定の製造工程における水銀等の使用の禁止
法第19条では、特定の製造工程における水銀等の使用を一律に禁止しています。我が国では、過去には例えば、塩素アルカリ製造やアセトアルデヒド製造等で水銀が使われていましたが、現在では、イオン交換膜法等の無水銀化の技術により、規制対象とするこれらの製造工程における水銀等の使用は行われていません。ただ、将来における水銀等の使用は法的に禁止されていないため、条約を実施するための措置が必要となります。
○水銀等を使用する方法による金の採取の禁止
法第20条では、金の採取における水銀等の使用を禁止しています。我が国では水銀等を使用する方法による金の採取は行われていませんが、世界全体で見ると、これによって排出される水銀は、人為的な大気排出量の約4割を占める最大の排出源となっており、条約では水銀等を使用した金の採取の廃絶を規定しています。今後も国内で水銀等を使用した金の採取が行われる可能性は低いと考えられますが、将来における金の採取における水銀等の使用は法的に禁止されていないため、条約を実施するための措置が必要となります。
○水銀等の貯蔵等に関する規制
法第21条及び第22条では、一定量以上の水銀及び特定の水銀化合物等の貯蔵について、その貯蔵者に対して、国の定める環境上適正な貯蔵のための指針に従うこと、及び貯蔵の状況について定期的に国に報告する義務を課しています。
○水銀含有再生資源に関する規制
法第23条及び第24条では、水銀等を含有する物のうち、再生利用が行われるもの(水銀含有再生資源)の管理について、その管理者に対して、国の定める環境上適正な管理のための指針に従うこと、及び管理の状況について定期的に国に報告する義務を課しています。
なお、廃棄物処理法で「廃棄物」として定義されるものは、この水銀含有再生資源から除外され、廃棄物処理法等により必要な措置を講じることとしています。
法の全面施行には、50か国の締結による条約の発効が必要
このように、我が国は、世界をリードする水銀対策を推進していく観点から、法及び関係法令に基づき、水俣条約を円滑かつ的確に実施するとともに、それ以上の追加的な措置を実施することとしています。法の全面施行のためには、我が国が水俣条約を締結するとともに、水俣条約が発効(50か国がこの条約を締結)することが必要です。
今後とも、水俣条約の早期発効に向けて、取組を進めていきます。
(次回のPick Up!「大気汚染防止法の一部を改正する法律について」では、水銀の大気排出対策について解説します)
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(記事・図版:環境省環境保健部環境安全課)
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