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No.242

Issued: 2015.05.26

外来種による被害の防止 〜愛知目標達成に向けて〜(環境省外来生物対策室)

目次
経緯と背景
外来種対策の理解と関心を高め、適切な行動を呼びかける 〜生態系被害防止外来種リスト
4つの観点から8つの基本的な考え方を整理 〜外来種被害防止行動計画
3つの予防原則が基本

経緯と背景

【図1】これまでの経緯
[拡大図(PDF)]

 「生物多様性国家戦略2012-2020」(平成24年9月閣議決定)において、「外来種など人に持ち込まれたものによる危機」は、「開発など人間活動による危機」、「自然に対する働きかけの縮小による危機」と並んで我が国の生物多様性を脅かす危機の一つとして、位置付けられています。また、平成22年のCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)において採択された愛知目標では、外来種に関する個別目標として、「2020年(平成32年)までに、侵略的外来種とその定着経路が特定され、優占順位付けられ、優先度の高い種が制御され又は根絶される。また、侵略的外来種の導入又は定着を防止するために定着経路を管理するための対策が講じられる。」(目標9)が挙げられています。
 現在、我が国における外来種対策は、平成17年に施行された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」に基づき実施されています。

 平成25年には外来生物法が改正されました。さらに、平成27年3月26日には2つの重要な文書を関係省庁と連携して公表し、取り組みを進めています(図1)。
 その一つの「外来種被害防止行動計画」は、平成32年(2020年)をターゲット年にした外来種問題全般に関する総合戦略です。もう一つの「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(以下、「生態系被害防止外来種リスト」という。)」は、法に基づく規制の対象である特定外来生物のみならず、特に侵略性が高い外来種を幅広く選定したものです。


外来種対策の理解と関心を高め、適切な行動を呼びかける 〜生態系被害防止外来種リスト

【図2】生態系被害防止外来種リスト(カテゴリ区分)
[拡大図(PDF)]

 生態系被害防止外来種リストは、そのリストに掲載されることをもって外来生物法の規制の対象となるものではありませんが、国民の外来種問題とその対策に関する理解と関心を高め、さらなる外来種問題が引き起こされないよう様々な主体に対して適切な行動を呼びかけることを目的としています。

 生態系被害防止外来種リストの主な特徴は、以下のとおりです。

  • 環境省及び農林水産省の共同による作成
  • 侵略性に係る評価項目を整理し、一定の基準により選定
  • 対策の方向性によってカテゴリを区分(図2)
  • 定着段階や問題となる地域・環境、必要な利用上の留意事項等の付加情報を種類毎に整理
  • 国内由来の外来種も対象に含む

 生態系被害防止外来種リストは、特に上述の点において、これまでの要注意外来生物よりもさらに、対策の実施に向けて活用できるよう整理したものであり、当該リストをもって要注意外来生物は発展的に解消することとなります。

 本リストの作成に当たっては、各生物分野群の専門家からなる会議において検討がなされました。また、牧草など産業的に利用されている種類も多いことから、関係事業団体との意見交換等も実施し、可能な限り各主体の理解と今後の協力を得られるよう努めました。公表までには3年以上の時間をかけた検討を経ています。

4つの観点から8つの基本的な考え方を整理 〜外来種被害防止行動計画

 外来種被害防止行動計画では、さまざまな社会活動(生活、経済等)の中に、外来種対策を取り組むべき主要な課題の一つとして組み込んでいく(これを「主流化する」といいます。)ための基本的な考え方として、4つの観点から8つの基本的な考え方を整理しています(図3)。
 また、国、自治体、民間団体、企業、研究者、国民等の多様な主体が外来種対策に取り組むに当たっての行動指針、それらを踏まえた国の具体的な行動を示しています。これにより、外来種対策を総合的かつ効果的に推進して、生物多様性の保全及び、持続的な利用を目指すことを目的としています。
 外来種に関する基本的な認識や早期防除の必要性等について、図表や身近な問題を例示(図4)したり、20以上のコラム掲載によって具体的な事例を紹介したりと、わかりやすい解説を工夫しているのが特徴です。

【図3】外来種被害防止行動計画概要
[拡大図(PDF)]

図4】防除段階ごとの防除の留意点(ダイエットを例に)
[拡大図(PDF)]


【コラムの例】「防除の順番」が重要 〜小笠原ではノブタの前にウシガエルを排除すべし〜

ウシガエル

グリーンアノール

 世界自然遺産地域に登録されている小笠原諸島は、それほど広くない島嶼に多数の外来種が定着しており、さらに、もともとの生物群集を構成する種の数が少なく、食物連鎖が比較的単純で、また相対的に外来種の割合が高いことから、食う、食われるなど、外来種どうしの種間関係が見られます。よって、ある外来種を取り除いた際の影響をよく考慮しつつ、防除対象とする種の順番を決めることが必要です。

 小笠原諸島の弟島は面積5.2km2、標高235mの島で、明治時代後期から大正時代にかけては50〜100人が居住していましたが、現在は無人島です。小笠原の中では湿生高木林がよく発達し、外来樹の侵入が比較的少なく、グリーンアノールが未侵入で、在来昆虫がよく残存しています。中でも、小笠原固有のトンボ類5種が揃っている唯一の島であり、水辺の外来種を排除して生物群集を回復させることが求められています。
 2004年(平成16年)の時点で、弟島には侵略的な外来種であるノブタとウシガエルが定着していましたが、ノブタはウシガエルの主要な天敵であると考えられました。カエルを捕食するヘビ類や大型淡水魚類が全く存在しない弟島において、もしノブタを先に排除するとウシガエルが増殖して、手を付けられなくなるおそれがありました。
 よって、まずウシガエルを減らして、後にノブタを減らすという順番が決定され、2004年(平成16年)よりトラップ等によるウシガエルの排除が進められました。2005年(平成17年)には繁殖が確認され多数の幼生が見られましたが、繁殖水域が限られていたこともあり、2007年(平成19年)を最後にウシガエルは見られなくなりました。その後の目視や音声モニタリングでも全く確認されていないことから、2010年(平成22年)までには根絶を達成したと考えられています。なお、2007年(平成19年)よりトラップを用いたノブタの防除も本格的に進められ、現在は両種ともいない状況となり、陸水環境の整備を通した固有トンボ類の保全が図られています。

※グリーンアノール:アメリカ合衆国南東部原産の体長15〜20cmほどの緑色のトカゲ。 小笠原諸島では、オガサワラシジミ等の希少種を含む昆虫類を補食し、生態系に大きな影響を及ぼしている。


3つの予防原則が基本

 外来種の問題は、人間が引き起こした問題です。まず、問題を認識し、次に理解し、そして行動に移していくことが必要です。行動の基本は、外来種被害予防三原則の「入れない」、「捨てない」、「拡げない」になります。
 今後、国としては、外来種被害防止行動計画や生態系被害防止外来種リストの浸透を図り、外来種に関する認識、理解、行動へとつなげていきたいと考えています。

入れない:悪影響を及ぼすおそれのある外来種を自然分布域から非分布域へ「入れない」。
捨てない:飼養・栽培している外来種を適切に管理し、「捨てない」(逃がさない・放さない・逸出させないことを含む)。
拡げない:既に野外にいる外来種を他地域に「拡げない」(増やさないことを含む)。

 今年は外来生物法の施行10年目の年になります。行動計画、リスト等を新たな契機として、外来種問題への社会的な関心と理解を高めるため、地方自治体や民間団体等との連携も強化していきたいと考えています。そして、生物多様性の保全に向けた外来種対策を一層推進し、これらの見直しの際には、少しでも多くの外来種について、生態系被害の防止が進んでいることを目指しています。

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記事・図版:環境省外来生物対策室

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