No.233
Issued: 2013.07.10
「鳥獣保護法」から「鳥獣保護管理法」へ(環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護業務室)「増えすぎたシカやイノシシとの共生のために」
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(通称:鳥獣保護法)の一部を改正する法律」が、平成26年5月30日に公布されました【1】。
鳥獣保護法は、日本に生息する700種類以上の哺乳類・鳥類について、その保護と狩猟の適正化について定めた法律です。
近年、全国的にシカやイノシシなどの一部の鳥獣が急増し、各地で深刻な被害をもたらしています。一方、狩猟者が減少・高齢化し、捕獲の担い手不足が問題となっています。
このため、今国会において鳥獣保護法が大きく改正され、鳥獣の捕獲を促進するための新たな措置が導入されるなど、一部の鳥獣について積極的な管理を行う、「鳥獣保護管理法」となりました。
それでは、今回の改正についてご紹介します。
増え続けるニホンジカたち
近年、全国各地で、ニホンジカやイノシシなどの鳥獣が急速に増加し、生息域が拡大【2】しています。環境省では、平成25年に統計手法による生息数の推定を行い、本州以南のニホンジカの推定生息数は約261万頭、イノシシは88万頭(ともに平成23年度)と公表しました【3】。さらに、ニホンジカについて将来の生息数を試算したところ、現在の捕獲の状況が続いた場合、2025年には生息数が約2倍まで増加してしまう結果となりました。
増え続けるニホンジカ等の鳥獣により、全国各地において、森林内の樹木の樹皮はぎ【4】、下層植生の喪失やそれに伴う土壌流出【5】、希少な高山植物の消失、農作物への被害【6】、列車や車との衝突、都市部への出没による人身被害など、生態系や農林水産業、生活環境に深刻な被害が生じています。
○コラム「シカはどうしてこんなに増えたの?」
ニホンジカの生息数の増加や生息域の拡大の理由については、科学的に十分に検証されてはいませんが、複数の要因が考えられています。
ニホンジカは、明治期に乱獲によって激減したため、捕獲が規制されてきました。戦後しばらくして、捕獲規制によって減少に歯止めがかかった後、ニホンジカはもともと繁殖力が高いことに加え、様々な要因で死亡率が低下したことにより、今度は増加に転じることとなりました。
死亡率が低下した要因としては、積雪量が減少したこと、造林や草地造成などにより餌となる植生が増加したこと、中山間地域の過疎化等により耕作放棄地や利用されないまま放置された里地里山が生息しやすい環境となったこと、狩猟者が減少したこと等が考えられています。また、生息数の回復に対応した捕獲規制の緩和が遅れたことも要因の一つとして指摘されています。
ニホンジカの管理においては、調査等により生息状況を常に把握し、科学的・計画的に対策を講じることが必要なのです。
鳥獣の「保護」から「管理」へ
ニホンジカのような生息数が急増し生息域が拡大している鳥獣による、様々な被害を防止するためには、積極的な捕獲により生息数や生息域を適正にすることが求められております。
このため、今回の改正では、鳥獣の管理を促進する措置を新たに導入することとし、法律の名称を「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(以下、「鳥獣保護管理法」)とし、目的に「鳥獣の管理」【7】を加えました。
【法律上の定義】
○鳥獣の保護:生物多様性の確保、生活環境の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点から、その生息数を適正な水準に増加させ、若しくはその生息地を適正な範囲に拡大させること又はその生息数の水準及びその生息地の範囲を維持すること
○鳥獣の管理:生物多様性の確保、生活環境の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点から、その生息数を適正な水準に減少させ、又はその生息地を適正な範囲に縮小させること。
また、都道府県知事が作成することとなっている、鳥獣全般を対象とした「鳥獣保護事業計画」に、管理を図るための事業を追加し、「鳥獣保護管理事業計画」に改めました。
さらに、特定の鳥獣を対象として、科学的・計画的な保護管理の強化を図る観点から都道府県知事が任意で策定する特定鳥獣保護管理計画について、「特に保護すべき鳥獣のための計画(第一種特定鳥獣保護計画)」と、「特に管理すべき鳥獣のための計画(第二種特定鳥獣管理計画)」の2つに明確に区分しました。
加えて、希少鳥獣については、捕獲許可の権限を有する環境大臣が計画を策定することができることとなりました。
それでは、鳥獣の管理を促進するために新たに導入した大きな仕組みを2つ、ご紹介しましょう。
指定管理鳥獣捕獲等事業の創設〜鳥獣の捕獲事業の強化〜
1つ目は、指定管理鳥獣捕獲等事業です。ニホンジカやイノシシのように集中的かつ広域的に管理が必要な鳥獣【8】について、捕獲を一層推進するため、都道府県や国が自ら行う捕獲をより効果的に実施できるようになりました。さらに、捕獲を効率的に行うため、夜間の銃による捕獲を可能にする等の規制緩和を行いました。
指定管理鳥獣について捕獲等事業を実施しようとする都道府県は、第二種特定鳥獣管理計画に指定管理鳥獣捕獲等事業を実施することを位置づけ、それに基づき実施計画を策定します。都道府県や国は、この実施計画に基づき事業を実施します。
指定管理鳥獣捕獲等事業を行う場合は、特例として、①捕獲等の許可が不要になり、②(条件付きで)鳥獣の放置の禁止が緩和【9】され、③(条件付きで)夜間銃猟の禁止が緩和されます。
特に、③の夜間銃猟の禁止の緩和については、これまで日の出前・日没後の銃猟は安全性の観点等から絶対的に禁止されてきましたが、効率的な捕獲ができる場合があることから、様々な条件【10】の下で緩和されることとなりました。
指定管理鳥獣捕獲等事業の創設により、都道府県が個体群管理の目標を設定して都道府県内の捕獲全体の調整を行うとともに、必要な捕獲を主体的に実施することが期待されます。
認定鳥獣捕獲等事業者制度の導入〜捕獲の担い手確保〜
2つ目は、認定鳥獣捕獲等事業者制度です。これまで鳥獣の捕獲の主な担い手だった狩猟者が年々減少・高齢化し【11】、捕獲の担い手の育成・確保が喫緊の課題となっていることを踏まえ、新たに導入した制度です。これにより、鳥獣の捕獲等をする事業を実施する法人が、鳥獣の捕獲等に係る安全管理体制や従事者の技能・知識が一定の基準に適合していること、従事者に対する研修の内容が適切であること等について、都道府県知事の認定を受けることができることとなりました。
認定の効果としては、①指定管理鳥獣捕獲等事業の受託者となれること(指定管理鳥獣捕獲等事業において夜間銃猟をする場合は、夜間銃猟に関する基準を満たす認定鳥獣捕獲等事業者に委託しなければなりません)【12】、②認定鳥獣捕獲等事業者という名称が使用できること、③狩猟免許更新時の従事者の適性試験が免除されること【13】、④法人として捕獲許可を受け従事者証の交付を受けることができるため従事者個人が捕獲許可をとる必要がないこと、が挙げられます。
このほかに、法律上の効果ではありませんが、安全性・効率性の高い捕獲従事者を安定的に確保できることや、都道府県等が事業を委託する際の審査が効率化されること等が考えられます。
認定鳥獣捕獲等事業者については、猟友会の他にも、自然環境コンサルタント、警備会社、わな製作会社、害虫駆除業者等が参入に関心を持っており、この制度が鳥獣の捕獲の担い手の育成・確保につながることを期待しています。
その他の改正事項
今回の改正により、都道府県知事の許可を得て、鳥獣による生活環境の被害を防止するために、住居集合地域における麻酔銃猟ができるようになりました。一時話題となった「かみつきザル」【14】のように、計画的な捕獲が必要な場合に活用できると考えています。さらに、網猟とわな猟免許の取得可能年齢を18歳に引き下げました。農業高校等を卒業後、すぐに狩猟免許を取得することが可能になるなど、地域の若い担い手の確保につながることが期待されます。
今後に向けて
今回の改正により、拡大する鳥獣被害に対応するため、新たに「鳥獣の管理」のための措置を導入しました。1年後の施行に向けて、指定管理鳥獣捕獲等事業の実施手続きや、認定鳥獣捕獲等事業者の認定要件等の具体的な検討を進めていきます。
今後、ニホンジカ等の一部の鳥獣については、より一層の捕獲を進めていくこととなります。私たちは、豊かな自然環境を維持し、農林水産業を発展させ、安心して暮らせる生活環境を確保するため、多くの鳥獣の命を引き換えにしていることに感謝の気持ちを忘れてはなりません。ニホンジカやイノシシ等の肉を食べたり、革や角でできた製品を使ったりすることにより、命を無駄にしないことも大切です。
環境省では、狩猟の魅力と社会的役割を知っていただき、将来の鳥獣管理の担い手となるきっかけを提供するために、全国で「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」を開催しています。
鳥獣被害が身近な問題となっている今、皆さんにも様々な形でぜひ関心をもっていただきたいと考えています。
- 【1】施行日
- 施行日は公布から1年以内の政令で定める日です(一部は公布日に施行)。
- 【2】生息域の拡大
- 生息域は、1978年から2003年までの25年間で、ニホンジカは約1.7倍、イノシシは約1.3倍に拡大しています。
- 【3】生息数の推定
- 「階層ベイズ法」という統計手法を用いて捕獲数等の情報をもとに推定しており、推定値には幅があることに注意が必要です(ニホンジカの90%信用区間は155万頭から549万頭、イノシシの90%信用区間は66万頭から126万頭)。なお、北海道のエゾシカについては、北海道庁が平成23年度は64万頭と推定しています。さらにニホンジカの生息数のシミュレーションを行ったところ、現状の捕獲率(推定生息数に対する捕獲数の割合)を維持した場合、2025年度には約2倍の500万頭まで増加する結果となりました。
- 【4】森林被害
- ニホンジカが樹皮を食べると樹木が枯れ、森林が衰退します。また、ニホンジカが下草を食べることにより、シカの好まない植物ばかりが残る単純な植生に変わってしまい、ニホンジカと同じ植物を好む昆虫などの他の生物の生息環境にも影響を与えます。
- 【5】土壌流出
- 荒廃した森林内では土壌流出が起こり、森林が持つ水源涵養や国土保全等の公益的機能が低下し、災害を引き起こす要因となることが懸念されています。
- 【6】農林業被害
- ニホンジカによる農林業被害額は年々増加し、平成23年度の農作物被害額は約83億円です。森林被害面積約9千haのうち、約7割がニホンジカによるものです。被害を受けて林業をやめてしまう農林業者もいます。
- 【7】鳥獣の管理
- 法律上の定義として、科学的・計画的な野生動物管理を指す、いわゆる「ワイルドライフマネジメント」とは異なる定義を用いていることに注意が必要です。
- 【8】指定管理鳥獣
- 指定管理鳥獣は環境大臣が省令で定めます。当面は、ニホンジカとイノシシが指定される予定です。
- 【9】捕獲した個体の放置
- 捕獲した鳥獣については、鉛製銃弾による鉛中毒や他の鳥獣が摂食することによる生態系のかく乱を防ぐため、原則として持ち帰るか埋設することとしています。放置の禁止を緩和する条件としては、「生態系に重大な影響を及ぼすおそれがなく、特に必要があると認められる場合として環境省令で定める場合」としています。
- 【10】夜間銃猟の緩和要件
- 指定管理鳥獣捕獲等事業の委託を受けた認定鳥獣捕獲等事業者(夜間銃猟に係る基準を満たす者)が、実施日時、実施区域、実施方法、実施体制等について、都道府県知事の確認を受けて実施するときに限定しています。
- 【11】狩猟者
- この40年間で4割以下に減少し、60歳以上が6割以上を占めています。
- 【12】認定の効果
- 指定管理鳥獣捕獲等事業は、「認定鳥獣捕獲等事業者その他環境省令で定める者」に対し、実施を委託できることと規定されています。
- 【13】適性試験の免除
- 施行日は公布から1年以内の政令で定める日です(一部は公布日に施行)。
- 【14】かみつきザル
- 2013年で宮崎県において住宅地に定住したサルが人にかみつく被害が発生しました。これまでは住宅地では野生鳥獣に対する銃の使用が禁止されていたため、網等で捕まえる必要がありました。
関連情報
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記事・図版:環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護業務室
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