No.199
Issued: 2011.09.28
環境保全活動・環境教育推進法改正の意義と可能性
2011年6月15日、「環境保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律の一部を改正する法律」が公布されました。2011年10月1日に一部施行、2012年10月1日に完全施行となります。改正法は、「協働取組」に関する規定が大幅に加筆されたことから名称も「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」と変わりました。民間団体の公共サービスへの参入機会の増大を求めた条文、環境の保全に関する活動への経済的インセンティブの促進を求めた条文などが付加された結果、幅広い内容を取り込んでいます。今回の改正の意義と可能性や課題について考えます。
持続可能な開発のための教育(ESD)と環境保全活動・環境教育法
旧法は環境教育を、環境の保全に関する教育・学習と、極めて限定的に定義していましたが、改正された法(以下「法」と略します)では「環境と社会、経済及び文化とのつながりその他環境の保全」と守備範囲を広げました。人権や平和、貧困など具体的な記述はないものの、格段に持続可能な開発のための教育(ESD)に近づいたと言えます。
また、これからの環境教育は、環境、社会、経済、文化を一体のものとしてとらえ、総合的な課題解決の道筋を考える「未来を創る力」を備えた人づくりに貢献できるものでなければならないとのメッセージと読むことができます。2003年に旧法が成立してから8年、地球規模においても、国全体を見ても、さらには地域でも持続不可能性問題が解決しないばかりか、一層深刻化している現状を踏まえた改正であることを心に留めておきたいものです。
法第2条では、環境教育を「家庭、学校、職場、地域その他のあらゆる場において」実施されることと記してあります。定義にあるように幅広く深い教育は多くの場所で行われると同時に、個々の取組がばらばらに行われるのでなく、互いに連携しあうことが重要ですが、そのことは「協働取組」に関する項目で改めて述べます。
体験活動の重要性
今回の改正では、体験活動の場に関する条文(第20条)が大幅に加筆され、都道府県の役割がより具体的に規定されました。子どもたちが地域に関心を持ち、身近な自然や文化にふれ、体験を通して学ぶ機会を増やすことができます。さらには、コミュニケーションを通じて他者と関わり合い、地域の中につながりを生む力を育てることにもつながるはずです。また、地域の中に体験の場を創るプロセスを通じて、あるいは、体験の場での活動を通じて、その場に関わる人や組織の連携と協調を促進する効果も期待できます。
これまでも、行政の施策として様々な体験学習の場が整備されてきました。また、民間団体の野外教育施設も設置されています。この条文は、そのような動きを加速し、都市の周辺部など、体験を通じた環境教育の機会が少ない地域を減らす効果が期待されます。
協働取組についての条文が大幅に増加
法では、協働取組に関する条文が大幅に加筆されました。環境保全活動の促進を図るために、旧法では意欲の増進と環境教育の2本立ての構造だったのですが、今後は協働取組によって、意欲の増進、環境教育、環境保全活動の推進力をより強化しなければならないとの意図を読み取ることができます。
協働、あるいはパートナーシップという言葉が頻繁に使われるようになって20年以上になりますが、我が国で協働取組を進めるには、未だにたくさんの阻害要因があります。
政策決定過程への参加が担保されないこと、企業や行政機関と比べてNPO等の財政基盤が弱いこと、委託や請負など上下関係を生みやすい契約形態等が原因となり、民間非営利団体の「下請け化」が常態化しつつあるとさえ言われてきました。
法では「政策形成への民意の反映等(第21条の2)」、「民間団体の公共サービスへの参入の機会の増大等(第21条の3)」、「環境保全に係る協定の締結等(第21条の4)」、「経済的価値が付与される仕組みを通じた国民の環境の保全に配慮する行動の促進(第22条)」等の条文で解決策が提示されています。
例えば、政策形成をうたった条文には、国民、民間団体その他多様な主体の意見を聴き、それらを踏まえた政策形成を求めています(第21条の2)し、民間団体と契約を結ぶときには価格が安いというだけでなく公共サービスの効果が十分に発揮される契約の推進(第21条の3第2項)を求めています。
特筆すべきは、委託でも、請負でも、助成でもない「協働の協定」という形で行政と民間団体の関係を規定した条文です(第21条の4)。これによって、上下関係のないフラットな関係のもとで、行政、NPO、企業を含むマルチステークホルダーが関わる協働取組が生まれる可能性が高まりました。横浜市ではNPOと行政機関が「協働契約」を結び、子育て支援拠点を運営するなど、より進んだ仕組みを持つところもありますが、国の定めた法として、全国の自治体の施策のベースができたことは意義があります。
これからの課題
問題は、地方自治体に関わる条文のほとんど全てが「○○に努めるものとする」で終わる「努力規定」にとどまることです。地方自治体に対する強制力を持つ法は、ときに弊害をもたらすことは理解できますが、実効が担保されず「絵に描いた餅」となる懸念も残ります。
政策決定過程への参加や、協働の協定などを具体的にどのように実現していくかも残された課題です。
これらの課題を踏まえ、今後取り組むべきことを2つ記します。
短期的には、これから策定される「基本方針」に意見を述べ、できる限り法の理念が実現できるようなものを目指すべきです。法を使いやすい道具にするためにも、また法の理念を具体化するためにも「基本方針」への市民参加を進めるべきです。また、都道府県や市町村が「行動計画」を策定するよう求めています(第8条)。行動計画策定の過程自体が協働を目指したものとなっている点は注目すべきです。身近な環境問題への取組を進める上で、地域の自治体との協働が進めやすくなります。地方自治体に対して行動計画の策定を働きかけることができるのも重要な改正です。
中長期的には、この法を道具として使いこなした事例を増やすことが重要です。政策形成過程への参加、新たな協働の制度、専門性を活かした公共サービスへの参入など、協働取組を実効のあるものとする条文が盛り込まれたわけですから、これを使わない手はありません。
法は「環境教育等支援団体」に関する規定(第10条の2)を設け、協働取組についての情報提供や調査・研究、助言等を行う団体を指定できるとしています。このような仕組みの重要性は既に言われ尽くした感がありますが、活きたものになりにくい現状も観ています。「中間支援組織」と呼ばれる団体の経済的基盤を支える仕組みを組み込むべきではなかったかと思います。
制度の改善は、私たちに課せられた課題でもあります。基本方針を策定するプロセスや、地方自治体の行動計画、協定の締結などさまざまな手段を駆使して、協働取組の輪を広げて行くべきと考えます。
法は道具に過ぎません。有効に使えるよう働きかけなければ、何の意味もないからです。
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記事・写真:川村研治(著者プロフィール)
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