一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.166

Issued: 2009.07.21

日本のエコツーリズム、これまでの歩みとこれからの未来

目次
エコツーリズム推進法成立の背景
政府によるエコツーリズム推進基本方針
NPO法人日本エコツーリズム協会のこれからの10年
エコツーリズムへの誘い

愛知和男日本エコツーリズム協会会長。元・環境庁長官であり、環境政策に造詣が深い。

 「エコツーリズム」、という言葉をご存知でしょうか。自然や人文環境を損なわない範囲で自然観察や先住民の生活や歴史を学ぶ、新しいスタイルの観光形態です。発祥は諸説ありますが、1950年代にその考え方がバックパッカーの間で芽吹いたといわれています。そして、日本にその考え方が入ってきてからおよそ20年になります。
 海外の事例として、オーストラリアでは「オーストラリア・エコツーリズム協会(Ecotoruism Australia:EA)が、1996年から、エコツアーガイドやエコツアー商品そのものの認定制度をはじめています。エコツアーを選ぶ際に、きちんとしたものを選びたいという消費者のニーズの声に答えるとともに、業界全体の質の向上も目指しています。


エコツーリズム推進法成立の背景

 エコツーリズム(ecotourism)は、地域の環境や生活や文化を破壊せずに自然や文化に触れ、それらを学ぶことを目的に行う旅行、滞在型観光等を指すと云われています。
 最近の身近な環境についての保護意識の高まりや、自然と直接ふれあう体験への欲求の高まりにともない、これまでのパッケージ・通過型の観光とは異なり、地域の自然環境の保全に配慮しながら、時間をかけて自然とふれあう「エコツーリズム」が推進される事例が見られるようになってきました。
 しかし、現在は地域の環境への配慮を欠いた単なる自然体験ツアーがエコツアーと呼ばれたり、観光活動の過剰な利用により自然環境が劣化したりする事例も見られます。
 このような状況を踏まえ、適切なエコツーリズムを推進するための総合的な枠組みを定めるエコツーリズム推進法が平成19年6月20日に成立し、平成20年4月1日に施行されました。
 この法律は、地域の自然環境の保全に配慮しつつ、地域の創意工夫を生かした「エコツーリズム」を推進するにあたり、以下の4つの具体的な推進方策を定めました。
 (1)政府による基本方針の策定
 (2)地域の関係者による推進協議会の設置
 (3)地域のエコツーリズム推進方策の策定
 (4)地域の自然観光資源の保全

政府によるエコツーリズム推進基本方針

(1)エコツーリズムの推進に関する基本的な方向

 エコツーリズムの推進する意義は、以下の点があげられています。

  • ルールの設定による自然環境の保全、旅行者や住民などの環境意識が高まり地域の環境から地球環境まで含めた保全に関する行動につながる効果。
  • 地域固有の自然環境や生活文化等の魅力を見直す効果。
  • 観光地としての競争力の向上・新たな観光振興の可能性などに加え持続的な地域づくりに対する意識の高まりや住民の誇りにつながる効果。

 進め方を次のように整理されており、これらが相互に関連する一連の行為として位置づけています。

  • 関係者が話し合う。
  • 地域の宝を再認識・発見する。
  • 宝を大切に磨く。
  • 観光旅行者にうまく伝える。
  • その感動をさらに磨く原動力とする。
  • 地域の活性化につなげる、

 重点的に取り組むべき当面の課題として、以下のことがあげられています。

  • 人材育成
  • 取り組む地域への支援
  • 戦略的広報
  • 科学的評価方法等に関する調査研究
  • 他施策との連携を提示

(2)エコツーリズム推進協議会

 「エコツーリズム推進協議会」の組織化に当たっては、協議会の効率的な運営に配慮し、特定事業者、地域住民、NPO等、有識者、土地の所有者等、関係行政機関、関係地方公共団体など地域の多様な主体の参加・連携が必要としています。
 協議会は、原則公開とし、透明性を確保するとともに、相互に情報を共有し、関係者間の合意形成を図ることが必要としています。

(3)エコツーリズム推進全体構想

 エコツーリズムの実施に当たっては、対象となる自然観光資源などが損なわれないよう、事前に「ルール」などを決めて「ガイダンス・プログラム」を実施し、自然観光資源の状態を継続的に「モニタリング」するとともに、その結果を科学的に「評価」し、これをルールや活動に反映させるという「順応的な管理」による進め方が重要としています。
 エコツーリズムの推進に当たっては、地産地消の取組みなど農林水産業をはじめとする関連産業との連携・調和、他の法令や関係法令に基づく各種計画などとの整合、地域の生活や習わしへの配慮などが必要としています。

(4)エコツーリズム推進全体構想の認定

 全体構想が認定されると、これまで保護措置が講じられていなかった自然観光資源を「特定自然観光資源」として指定し、法的に保護することで、持続的かつ質の高い利用が可能となったり、地域のブランド力が高まり、また国が積極的にその周知に努めることから、集客力の向上につながるなどの効果が期待されます。
 認定の基準は、協議会の参加者や運営方法、その他各種手続きなど全体構想が基本方針に適合すること、プログラムの実施主体やモニタリングの役割分担など全体構想の内容が確実かつ効果的に実施される見込みがあることといった基準を明示するとしています。

(5)エコツーリズムの実施に向けて配慮すべきこと

 他地域からのメダカやホタルの導入などによる遺伝子レベルでの攪乱にも配慮する必要がある。
 里地里山などでは、維持管理活動をプログラムに取り入れることによる生物多様性の回復に期待。
 潜在的なニーズがある「子ども」の視点が重要である。宝探しやプログラムづくりへの地域の子どもの積極的な関与が地域への誇りや愛着にもつながる。
 有識者からの助言を受けつつ、関係省等での連携を強化。

NPO法人日本エコツーリズム協会のこれからの10年

 エコツーリズムをもっと広く知ってもらうため、旅行者はもちろんエコツアー事業者や旅行会社、研究者、学生で構成されているNPO法人日本エコツーリズム協会(Japan Ecotourism Society:JES)という団体があります。東京に本部があるこの団体は、昨年度、設立10周年を迎えました。
 JESは環境省が進めている「エコツーリズム推進方策」のうち、エコツーリズムの表彰制度である「エコツーリズム大賞」や、全国で行われているエコツアーの情報サイト「エコツアー総覧」の運営を受託している団体です。他にも一般向けにエコツーリズムに関するイベントを開催したり、調査研究を行うなどして、エコツーリズムの普及啓発を行なっています。また国際機関である「国際エコツーリズム協会(The International Ecotourism Society:TIES)とも連携を図っています。

会場の様子。430名もの参加者が集った。

 今年3月、「エコツーリズムは地球を救う」を合言葉に、JES設立10周年記念大会が開催されました。今年度は北海道、小笠原、滋賀県高島市でエコツーリズム大会を開催してきており、この記念大会は、その集大成の位置づけとなりました。晴天に恵まれたこの日、エコツーリズムに関わる事業者、ガイド、旅行会社、研究者、学生など400名以上が集まり、エコツーリズムが持つ可能性についての意見交換を行ないました。
 元・環境庁長官の愛知和男JES会長の挨拶の後、斉藤鉄夫環境大臣、昨年10月に出来たばかりの観光庁から本保芳明観光庁長官からの来賓挨拶がありました。続いて基調講演として、作家であり長野県の森で活動しているC.W.ニコル氏より「美しい日本の森から未来を考える」と題して講演が行われました。


基調講演を行うC.W.ニコル氏。
会場では森の中で録音された葉のざわめきや鳥の声が流され、森に住む生き物達の息遣いを感じることができた。

 ニコル氏はご自身の体験を踏まえ、「人の手が入ることで自然が良くなっていくことを感じた。やり方を間違えなければ、森は豊かでいられる」と話されました。特に障害児が森とガイドを通じて変わっていく過程の話は、森が持つ可能性について強いメッセージが感じられました。満員となっていた会場の聴衆の皆さんも、講演後に口をそろえて「ニコルさんの話が心に沁みました」と感想を述べられていました。


(1)これからの10年に向けたエコツーリズムを立体的に捉える分科会の開催

 基調講演ののち、それぞれの会場にわかれ分科会が開催されました。

【1分科会】
“エコツーリズムによる地域おこしの実践〜いかに参加し、いかに事業化するか?”
 観光によるまちおこしを地域としてどのように進めるかということを、長野県と岩手県の事例をもとに議論しました。
【2分科会】
“エコツーリズム推進法の活用と課題〜観光立国への道標とエコツーリズム推進法の活用を考える”
 2008年4月に志向された「エコツーリズム推進法」。その意義と活用法について、地域の推進関係者と国の施策担当者が話し合いました。
【3分科会】
エコツアーガイドと起業〜ガイド業はどうすれば「職業」になるか
 「エコツアーガイド」について、屋久島や小笠原、知床、軽井沢で活躍する現役ガイドがその実態をお話しました。(※大会開催翌日には、JESガイド部会による「第1回エコツアーガイド就職説明会」も開催されました)
【4分科会】
“持続可能な観光〜エコツーリズムを通じた保全はどうすれば実現するのか?”
 「保全」について、この10年間でどのような仕組みが地域で育ち、ツーリストは参加するようになったのか話し合いました。加えて、企業による参加や費用負担がどのように展開しているのかも議論されました。
【5分科会】
“エコツアーは、何故もうからない!?〜エコツアー独自のマーケッティング確立に向けて〜”
 刺激的なタイトルでしたが、それぞれの地域が抱えている問題を当事者から聞くことができる良い機会となりました。
【6分科会】
“訪日観光とエコツアー〜地域らしいおもてなしへの期待〜”
 外国から人に来てもらうためにはいったい何が必要なのか? そしてそれは、どうやって作っていくのか? そして外国人が求めている真の魅力ある日本の旅についての意見交換がありました。
【7分科会】
“エコツーリズムと子供たち〜地域教育とエコツーリズム〜”
 地域に暮らす子供達は、これからのエコツアーガイドとして育っていく可能性を秘めています。三重県鳥羽や北海道での実例を元に発表がありました。
【8分科会】
“国際協力としてのエコツーリズム エコツーリズムが世界平和に貢献するには”
 JICAのエコツーリズムプロジェクトなど、紛争や貧困などにエコツーリズムを通じてできることなどが報告されました。
【9分科会】
“環境問題とエコツーリズム  〜地球温暖化、生物多様性保全時代の観光として”
 マスツーリズムとカーボンオフセット、マスツーリズムからエコツーリズムへの変換についての取り組みについて話しあわれました。
【10分科会】
“広がるエコツアー、問われる質 〜エコツアーの評価は必要か?”
 品質を問う社会には評価や認証が生まれるもの。環境保全、地域社会との関わりなど様々な側面をもつエコツアーに、果たして評価は必要なのでしょうか。現場の担い手は、地域は、ツーリストはどう考えているのかを議論しました。

第2部で活動発表をした子供エコツーリズムガイドのふたり。子供の視点ならではの意見に会場からは拍手が送られた。

分科会の様子。10の分科会が行なわれたが、それぞれが特色ある発表を行なった。


(2)大会宣言の採択

 日本エコツーリズム協会のこれまでの10年における総括と、それに伴う課題を整理し、エコツーリズム推進に向けた次の10年にむけて大会宣言を採択しました。  エコツーリズムの理念をより広めるとともに実践活動を全国で推進していくという考え方に立っています。エコツーリズの更なる普及と相まって、地域を元気にし、観光を国づくりの柱としながら、国際社会への貢献をすすめ、持続可能な地球環境づくりに向けたこれからの10年を目指すというものです。

【大会宣言】
 本日、「エコツーリズムは地球を救う」を合言葉に、「日本エコツーリズム協会設立10周年記念大会」が開催されました。
 南北3000kmにのびる日本列島は、世界にも類を見ないほど多様性に富んだ自然と文化資源の宝庫です。日本各地にうもれている地域の宝を発掘し、磨き、誇るという作業を通じて地域に住む人々の郷土愛をはぐくみ、環境保全と地域振興に役立てていこうというのがエコツーリズムの基本的役割です。
 私たちは、これまでの10年間のエコツーリズム運動の地道な歩みをとおして、今日の様々な課題を克服し21世紀の国づくりを推進するために、エコツーリズムの力が極めて大きいことを認識いたしました。さらに、「サステイナブル・ツーリズム」の主役であるエコツーリズムは、地域を越え国境を越えて、世界の平和と社会・経済の繁栄につながる原動力となりうることも確認いたしました。
 私たちは、これからの10年を迎えるにあたり、地球環境の新しい時代を構築する牽引役として、地域の人々と手を繋ぎ、エコツーリズムを推進する責務を果たしてゆくことをここに宣言いたします。

  • 平成21年3月16日
  • NPO法人日本エコツーリズム協会設立10周年記念大会 参加者一同
     
  • 参加者代表 NPO法人日本エコツーリズム協会
  • 会長 愛知 和男

大会にあわせて発行された日本エコツーリズム協会の設立10周年記念誌。「日本のエコツーリズム20年の歩み」「エコツーリズムの未来へ」「データで見るエコツーリズム」の3部構成。大会参加者に配布されたが、販売も行なっている。(問合先:日本エコツーリズム協会)


エコツーリズムへの誘い

 「自然・文化の保護と保全」「地域資源を生かした観光の促進」「地域経済の活性化」、この3つを基本としているエコツーリズムという考え方。そしてその考え方にのっとったツアーであるエコツアー。
 次の休暇は、エコツアーに参加してみませんか?

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(記事・写真:日本エコツーリズム協会事務局)

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