一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.154

Issued: 2008.11.20

シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第16回)「一杯のコーヒーから考える生物多様性」

目次
意外と知られていないコーヒーの事実
コーヒーを生産する人々とプランテーション
サステイナブル・コーヒーの生産方法について
認証ラベリングの取り組み
グッドインサイド
コンサベーション・インターナショナル
国際フェアトレードラベル機構 Fairtrade Labelling Organizations International (FLO)
レインフォレスト・アラインアンス
4C (Common Code for the Coffee Community Association)

 思い返してみてください。あなたは今朝起きてから、どんな飲み物を飲みましたか? 目覚めのコーヒーを一杯という方もいるかもしれません。そのコーヒーがどうやって生産されているか、気にしたことはありますか?
 地域社会の持続可能な発展のために、社会・経済・環境の各方面に配慮をしながらコーヒー生産を行なっていく「サステイナブル・コーヒー」という言葉があります。コーヒー産地が集中する赤道近くの発展途上国は、概して経済的に貧しいものの、生物多様性が豊かな地域です。その豊かな自然を守りながら、コーヒー生産を生業にしていこうというものです。

 日本は、世界第3位のコーヒー輸入国です。私たちにとって何気ない存在とも思える、一杯のコーヒー。その消費の動向は世界の貿易や、発展途上国の人々の生活にも大きな影響を与えます。
 途上国のコーヒー生産者や環境に対して様々な配慮を実施し、生産者も消費者もお互いが納得できるサステイナブルなコーヒーをつくっていく、そんな取り組みに対して、認証や支援をしていくプログラムが世界で進行しています。今回は、サステイナブル・コーヒーの認証や推進に関わる5つの団体について紹介し、私たちの生活に憩いと潤いを与えてくれる嗜好品、コーヒーを切り口に“生物多様性”について考えてみます。

意外と知られていないコーヒーの事実

 コーヒーは農業製品です。インスタント・コーヒーの粉末などは工業製品のような印象を与えますが、コーヒーの木から得られる豆が加工され、コーヒーが生産されます。
 コーヒーはチョコレートの原料にされるカカオと並んで、数少ない日陰で育つ作物のひとつです。シェイドグロウン農法(日陰栽培)を取り入れたコーヒー農園を見学すると、鬱蒼と生い茂る森のようで、とても栽培地には見えません。コーヒーの栽培は、アグロ・フォレストリーと呼ばれる森林を利用する農法と相性がよく、地域の樹木や森林との共存も可能となっています。

 昨今、産地偽装や食品からの農薬の検出など、「食の安全」に対する信頼が揺らいでいます。「安さ」や「おいしさ」だけを求めるのではなく、食と環境の安全性・健全性を気にかけていかなくてはならない時代になってきたといえます。
 貿易という面からみると、コーヒーは、石油に次いで多額の金銭が国際的に取引されている商品です。コーヒーの輸入量が世界第3位の日本では、1人当たり年間388杯のコーヒーを消費しています。平均しても、1日1杯以上を消費している計算になります。
 一方、コーヒー豆は値動きが激しい商品の一つです。つい数年前にも、コーヒー価格が危機的な低迷に見舞われました。値動きが激しく、急激な値崩れが起こるということは、コーヒーを生産している人たちも大きな打撃を与えることを意味します。

写真1:森林を保全しながら栽培されるコーヒー(提供:コンサベーション・インターナショナル)

写真2:国際マーケットとフェアトレード価格の比較(提供:NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン)
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コーヒーを生産する人々とプランテーション

図3:コーヒーの主要な産地と、生物多様性ホットスポットの重なり(提供:コンサベーション・インターナショナル)
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 赤道をはさむ南北緯25度発展途上国を中心とした地域は、通称「コーヒーベルト」と呼ばれます。世界のコーヒーのほとんどがこうした熱帯雨林や生物多様性の豊富な地域で生産されています。
 こうした赤道付近の地域は、豊かな生態系に恵まれる一方で、開発圧にさらされ破壊の危機に瀕する地域でもあります。国際NGOコンサベーション・インターナショナル(CI)では、こうした地域を「ホットスポット」と呼んで保全戦略のひとつとしています。コーヒーの主要な産地はこのホットスポットとまさに重なります。

 コーヒー農園やコーヒー生産者組合などの組織は、農作物を生産する場であると同時に、雇用や教育、水道などのインフラ整備など地域社会における共同体として機能しています。
 コーヒーの生産をやめれば環境や生物多様性の保全につながると短絡する人もいますがコーヒー価格の急落などによって実際にコーヒー農園が閉鎖されてしまうと、農園の雇用でくらしを立てていた地域住民が生活に窮して周囲の森林を違法に伐採して開墾するなど、非持続的な行動をとることもあります。地域の暮らしや経済的な自立と自然環境の保全とのバランスをとっていくことが焦点となります。コーヒー農園には、パナマの279種の絶滅危惧種のうち83種(約30%)が生息しているというデータがCIの現地パートナーより報告されており、農園という場所の管理は、よくも悪くも生物多様性に大きな影響を及ぼすことが伺えます。


サステイナブル・コーヒーの生産方法について

 サステナブル・コーヒーは、商品の透明性、地域社会への貢献、環境への配慮などの点で、従来のコーヒーとは異なります。まず、従来のコーヒー生産と比べ、生産者や地域社会により多くのお金を落とし、生産する住民のスキルが向上できるという形で恩恵をもたらすように意図されています。誰かが買い叩かれたり、高く売りつけられたりするのではなく、「生産者も流通業も消費者も、誰も泣かないようなコーヒー」という表現が使われることもあります。
 環境面では、農薬、水、土壌、隣接する森林への配慮などの項目について、配慮が求められます。従業員や地域社会への貢献としては、安全、健康、住宅や教育施設の提供を行なうことを義務づけています。以上は、生産するサイドの話です。
 消費者にとって、サステナブル・コーヒーの商品は、味のよし悪しに加えて、生産・流通等の行程に関する透明性が確保できているというメリットがあります。ごまかしができないように、中立な第三者機関による認定を受けなければならず、認証取得を証明するために、商品にはロゴが表示されることもあります。
 ただ、認証プログラムによって、環境や従業員への配慮の仕方には、強調する点や特色があります。

認証ラベリングの取り組み

 サステイナブルなコーヒー生産が適切に行われているか、中立な立場からチェックする認証機関が世界にはいくつかあります。基準を満たす商品にはロゴマークが表示され、購買者にもわかるようになっています。商品のおいしさ、安全性に加えて、生産地での社会、地域経済、環境に配慮した製品であることを証明するものです。また、サステイナブルなコーヒー生産を促進するための人の訓練やプロジェクトを認証と同時に運営している団体もあります。
 以下、主要な5つの団体のアプローチを、各団体の「ミッション」「特色」「今後の展開」について紹介します。

グッドインサイド

図4:ロゴマーク

【ミッション】
 社会・環境に対し責任を持った(コーヒー)生産・供給・調達のための世界規模のプログラムを提供する。

【特色】
 コーヒー品種・農園規模・生産エリアなどを問わず、幅広い生産国をカバー。農園管理基準は204のチェック項目から成り、絶対に守らなければいけないものから、推奨しているものまで、三段階に分かれている。オンライントレーサビリティー・システムを提供。これにより、生産者から最終バイヤーの生産履歴情報の確保が可能。また、消費者への生産者情報提供も可能。

【今後の展開】
 「生産者がプロフェッショナルな農園管理を行い、食品業界がサステイナブルな農作物を生産者に要求またそれらを正当に評価し、消費者が社会や環境に責任ある方法で生産・流通された商品を購入する」サステイナブルな農作物サプライチェーンの実現を目指し、昨年よりコーヒー以外の産品(カカオ豆、お茶類など)にも業務を拡大。


コンサベーション・インターナショナル

図5:ロゴマーク

【ミッション】
 地球が長い年月をかけて育んできた自然遺産としての生物多様性を保全し、人間社会と自然が調和して生きる道を具体的に示す。

【特色】
 認証ではなく、支援事業であり、コーヒー生産者の生活向上と生物多様性の保全を目指す方法でコーヒーの生産・加工・流通を実施している。生物多様性の豊かな「ホットスポット」を保全するための戦略として、地元のコーヒー生産者とともに地域ぐるみで取り組んでいる。

【今後の展開】
 今後は、コーヒー生産による気候変動対策も活動のひとつの柱になる予定である。コーヒー生産地への気候変動の影響を生産者に啓発するとともに、コーヒー農園内の植生の多様化や農園周辺への森林の回復や保全による二酸化炭素の吸収・削減効果に関する調査を実施する。


国際フェアトレードラベル機構 Fairtrade Labelling Organizations International (FLO)

図6:ロゴマーク

【ミッション】
 不利な立場にある開発途上国の生産者が、自身の力によって貧困を克服し、持続可能な社会の実現を目指す公平な貿易、フェアトレード。それを保証するフェアトレード認証ラベルを通して、生産者と消費者を結ぶ役割を果たすこと。

【特色】
 フェアトレード基準は社会的・経済的・環境的側面から設定されている。国際貿易において特に不利な立場にある小規模生産者を主に対象としているため、持続可能な生産と生活ために必要なフェアトレード価格を設定しているほか、生産者自らが地域を発展していくための奨励金(プレミアム)の保証もある。

【今後の展望】
 開発途上国の生産者や労働者により大きな貢献をもたらすことができるよう、認証システムの継続的改善と効率性を向上させ、より多くの生産者と企業を繋ぐ。またフェアトレード運動の主体者である生産者と消費者とのより強いパートナーシップを築いていく。


レインフォレスト・アラインアンス

図7:ロゴマーク

【ミッション】
 土地の利用法や、商取引、消費者の行動を変えることにより、生物の多様性を維持し、人々の持続可能な生活を確保する。

【特色】
 RA認証では、持続可能な農業に包括的にアプローチすることで、野生動物、働く人々、地元のコミュニティが潤うような形で農場が経営される。例えば、流域の保護、地元の学校の創設、衛生施設や住宅の供給、生産性の向上が挙げられる。JRの新幹線や航空会社で出されることもあるので、カエルのマークのコーヒーを飲んだことがある人もいるのでは。
 過去5年の平均の需要の伸びは93%になり、それに応えるために、供給量も一年度ごとに倍増しきた(2003年10,059トン、2006年は77,943トン)。

【今後の展開】
 日本での窓口の設置と事業の拡大を目指している。
 世界規模では、2013年までに生産の10%を生態系の豊かな地域で行ない、世界の輸出量で10%を認証を受けたものとしていくという野心的な公約も掲げている。2010年の生物多様性条約COP10 でも主要な役割を果たしていきたい。


4C (Common Code for the Coffee Community Association)

図8:ロゴマーク

【ミッション】
 小規模農家にもよい農業とマネジメントへのアクセスを提供する。オープンで世界規模のコーヒー栽培ネットワークを確立し、コーヒーの専門性と知識を深める。生産者の自助努力による組織を手伝う。コーヒーのサプライチェーンの透明性とトレーサビリティを高める。サステイナブル・コーヒーの更なる発展のための基礎を築いていく。

【特色】
 他の認証プログラムと協力しながら、人材育成に重きをおきながら、ネットワーク型の発展をしている。ドイツの開発援助の行政機関や実施機関が協力していることもあり、開発援助、非政府組織、貿易団体が協力して活動している。メンバー制ということもあり、生産者、企業、協賛企業、認定団体のネットワークを後押しする活動に重点がある。段階的な改善のためのガイダンスとしての行動規範と、責任の分担を割り振っている参加規則の二つがプログラムの構成要素となっている。

【今後の展開】
 他のプログラムとの連携。2015年までに、世界生産量の50%が4C基準を満たしていることを目的として、ツールの開発、参画企業の拡充に努力していく。

【メッセージ】
 川島 良彰氏(日本サステイナブルコーヒー協会理事長)メッセージ
 「私達が、日頃飲んでいるコーヒーが、実は環境保護に一役買っているのをご存じですか?
  コーヒーの木は、数少ない日陰で育つ農作物です。破壊された森林を復元する時、コーヒー樹を一緒に植えることで換金作物となり、地元の人々の生活を支えます。そしてコーヒー園には、数多くの動物が暮らし、植物が息づいています。コーヒー生産者が、環境を守りながら安心しておいしいコーヒー栽培を継続することで、私達も安全なおいしいコーヒーを飲み続けられます。日本サステイナブルコーヒー協会は、生産者と消費者の懸け橋となる為に生まれました。一杯のコーヒーを飲む時、日陰樹の下に育つコーヒー樹と鳥のさえずり、そして生産者の笑顔を思い浮かべて下さい。」


アンケート

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【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

*本原稿は、10月19日開催 特別公開講座「コーヒーから考える生物多様性 〜サスティナブルコーヒーが地球を守る?〜」の開催(主催:なごや環境大学実行委員会/日本サステイナブルコーヒー協会 協力:ユニー株式会社、中部日本コーヒー商工組合)が契機となって、書かれた。

記事・写真:香坂 玲

〜著者プロフィール〜

香坂 玲

東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。
環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。
帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。