一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.153

Issued: 2008.10.17

シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第15回)『生物多様性をテーマにしたさまざまな教材から』

目次
子ども時代の環境教育のメリットと生物多様性の特色
生物多様性をテーマにしたドイツの教材
「いきものみっけ」 〜いきものみっけて、暮らしを変える
食物連鎖ブロック
チビコト特集号 〜生物多様性という難解な言葉をやさしく解説する冊子
昆虫採集と、生きものを取り巻く環境への意識

 すっかり秋らしくなりました。彼岸花やススキが目に留まるようになり、静かな夜に響く虫の音も心落ち着かせてくれます。去る夏休みには、お盆の帰省や子どもの夏休みの宿題の手伝いなどで、野山の昆虫や草花に触れる機会があった方もいたことでしょう。
 近頃、セミの鳴き声チェックや草花の開花時期調べなど、身近な自然の観察など遊びながら自然や生きものについて知り、体感できるグッズや教材が見られます。子どもたちの夏休みの自由研究などがいのちのつながりや生態系のイメージをつかむきっかけになっているのかも知れません。
 今回は、身近なところで“生物多様性”について学んでもらおうと工夫を凝らした教材にスポットを当てました。

子ども時代の環境教育のメリットと生物多様性の特色

 子どもを対象とした環境教育にはいくつかのメリットがあります。まず、対象となる子どもたちの感性が豊かで、柔軟性が高いこと。年齢層によって違いはあるものの、子どもが学んだり、実際に触れたりすることで吸収できる能力は大人よりも高いそうです。
少年少女向けに哲学の手ほどきとして書かれたファンタジー小説『ソフィーの世界』の著者、ノルウェーのヨースタイン・ゴルデルは、「子どもには驚くという素晴らしい能力がある」と講演で述べています。動物、昆虫、爬虫類などの生物種と接し、それを育む生態系、文化を理解することは、この“驚く”という能力を最大限に活かせる題材のひとつといえます。
もうひとつには、子ども時代に学んだことが、大人になった将来にわたって生かせるというメリットもあります。子ども時代に触れた自然や生態系の多様性が、その人のその後の人生を豊かにし、またそこで感じたことを次世代に伝えていくことにもつながっていきます。
生物の驚きと楽しさに満ちた不思議な世界に、感性豊かな子どもたちが触れることはよいこと尽くしのようにも思えますが、実際には親も子どもも、仕事や習い事、学校行事などに忙しく、ゆったりと自然に触れる時間がなかなか取れない現実もあるようです。

生物多様性をテーマにしたドイツの教材

図:ドイツ連邦環境省が発行した生物多様性に関する教材(表紙)

 08年5月に生物多様性条約(CBD)締約国会議のホストであり次回会議のある2010年まで同条約の議長国を務めるドイツでは、生物多様性をテーマにした子ども向けの教材「生物多様性:教育と情報のためのマテリアル」を08年7月に発表しています。連邦政府の発行で、全53ページ、印刷部数は3,000部。“生物多様性”についてさまざまな立場や角度から楽しく勉強できるように工夫されています。この教材は、UNESCOにより「国連持続可能な開発のための教育の10年」事業として認定されました。

全体を通じた題材として「熱帯雨林」が取り上げられ、各ページで対話形式の解説が展開します。章末には、グループ討論や映画のシナリオづくりなどの課題や実験が提示され、子どもたちにとって手軽でありながらも、自ら手を動かし進めていくように工夫されています。


 以下に、教材の目次構成とその概要を紹介します。

1. 世界の生物多様性

  • 世界のホットスポット(生物多様性の集中している地域)を地図で探してみよう
  • 生物多様性の歴史。生物がどのように進化してきたのかみてみよう。
  • どうして生物多様性をまもる必要があるの? 経済、生態系、社会文化・宗教倫理・美学の側面から考えてみよう。
    みんなで挙がってきた項目に賛成しますか?
    いろんな国のいろんな立場になったつもりで、ロールプレイをしてみよう(ドイツの若者、発展途上国の大臣、先進国の製薬会社、研究者、ブラジルの木材会社などの立場で)
  • [解説]用語集
  • [解説]世界の地域の生物多様性

2. バイオスフェアと国立公園:人と自然の場所

  • 生物種と地域社会(地元の羊と農業、食肉、観光、宿泊施設)
  • どうやって保護区は設定されているの?(ステップごとにみてみよう)
  • バイオスフェアと国立公園のそれぞれの役割:生物多様性保全への2つのアプローチ
  • ドイツの国立公園/バイオスフェア
  • どうやって参加したらいい? ドイツの環境保護団体(若者向け)

3. 自然からのハイテク

  • ヤモリはどうして壁をつたって歩けるの?
  • Bionikって何? 生物学と工学の融合 暗闇でどうやって走るの? ネコのように走る自動車
  • 試してみよう:蓮の葉の表面に水を垂らすと…(普通の表面とは違い、接触面が少なく、丸い水滴となって中心に流れていく)。 違う種類の葉、いろいろな物体の表面で同じことを試してみよう。

4. 生物多様性のためのショートフィルムを創ってみよう[監督のメモ風]

  • コンセプトづくり:地球の宝としての生物多様性をハイライト
  • 若者、少女、研究者などのそれぞれの場面を創っていく

5. 理解度チェック

「いきものみっけ」 〜いきものみっけて、暮らしを変える

セミの鳴く姿

 夏の暑い陽射しに響くセミの鳴き声、秋の月夜に涼風に揺れるススキの穂…。生きものの姿や鳴き声の変化が季節の移ろいを実感させる日本の四季です。
 例えば、暖かい気候を好むクマゼミは、西日本を中心に分布し、ほぼ終息する頃になってミンミンゼミの発生が見られるなど、季節のバロメーターとなっています。ところが、近頃は温暖化の影響などもあってか、発生時期や分布の変化が見られるそうです。原因は温暖化だけでなく、樹木など自然環境の変化や大気質の状況など、複雑な要素が絡んでいると考えられています。

 環境省生物多様性センターが実施している「いきものみっけ」は、身近な自然の変化を調べて共有する市民参加型の調査プロジェクト。豊かな自然や生きものに囲まれ、当たり前のように過ぎゆく季節のうつろいゆえに、逆に、失われ・損なわれていく自然への危機感を「自分ごと」として共有できていないという現実が指摘されます。

いきものみっけ ロゴマーク

 身近な自然や生きものに起きている変化に関心を持つことで、リアルな自然のありさまに目を向け、自分ごととして意識するきっかけにと呼びかけているものです。 今の季節なら、夏のお題「セミ」の鳴き終わり時期について募集しているほか、秋のお題として「ヒガンバナの開花」や「ススキの出穂」、「イチョウの黄葉」などを対象に参加を呼びかけています。
 参加希望者は、“みっけにん”として登録し、みっけた日にちや場所をパソコン・携帯などを通じて送ります。全国各地から寄せられた情報がいきものみっけのオフィシャルサイトに反映、地図上にプロットされます。

食物連鎖ブロック

 低年齢層の子どもたちでも楽しめるのが、食物連鎖を学習できるブロック。食物連鎖の順番で下から順に植物、草食動物、動物、人間と積み上げていき、種同士の微妙なバランスを知ろうというものです。単純なつくりですが、意外と熱中してしまいます。幼い子どもも参加でき、みんなでわいわいと楽しみながら、学びにつなげていくのも大事なことです。

食物連鎖のブロック

食物連鎖のブロック

種がいなくなってもピラミッドは崩れないかな?

種がいなくなってもピラミッドは崩れないかな?


チビコト特集号 〜生物多様性という難解な言葉をやさしく解説する冊子

チビコト

 スローライフやロハスをキーワードに、楽しくオシャレなエコロジーに関する暮らしのヒントを特集している月刊ソトコト。環境省自然環境局の協力により、生物多様性をテーマにした特集小冊子「チビコト」を08年6月に発行しています。
 副題は、「ゆたかな生物多様性と共に暮らす生き方 ニッポンは里山の国」。A5版カラー、32ページの小冊子です。
 日本の自然を中心に、食、音楽、旅などの、生物多様性を身近な生活に結びつけて解説しています。


昆虫採集と、生きものを取り巻く環境への意識

 教材ではありませんが、昆虫採集など、生きものと直接触れ合うことの重要性も指摘されます。親子そろって(子どもそっちのけで親が!?)自宅での生きもの飼育に熱中する家庭も少なくないようです。
近年は、野山で採集する昆虫に加えて、むしろペットショップなどで売買される外国産の珍しいクワガタムシやカブトムシが人気を呼んでいます。自然や生命(いのち)に触れ合う原体験としての効果が評価される一方で、過剰な昆虫採集がされたり、外国産のクワガタムシやカブトムシの輸入・飼育などによってもともと日本の野山にいた在来産の昆虫などに及ぼす影響など負の側面も指摘されます。

生物多様性に関わる問題のひとつとして、外来種問題があります。例えばペットとして輸入された外国産の昆虫が、逃げ出したり放たれたりして、在来種のすみかを追いやったり餌を取り合ったり、また交雑を起こしたりと、科学者や行政を中心に強い危機感を抱いています。
この他、昆虫ほしさに、クヌギなどの幹や枝を割って幼虫を取り出す、いわゆる「材割」なども生息環境の破壊という意味で問題です。
昆虫など生きものの見た目の珍しさや格好よさだけに興味・関心を持つのではなくて、それらの昆虫が生息している場所にまで思いを寄せていく必要があります。

動植物園や水族館など、家族で訪れる機会には、「その生物種が生きていくためにはどんな環境が必要だろう?」「人の文化との関わりは?」など、親子で交わす会話があると、子どもたちにとってはどんな教材よりもすぐれた効果を発揮することになるのかも知れません。

関連情報

アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

記事・写真:香坂 玲

〜著者プロフィール〜

香坂 玲

東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。
環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。
帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。