No.145
Issued: 2008.05.22
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第11回)COP/MOP4&COP9が開催 〜ドイツ・ボンからの現地レポート(前編)
生物多様性に関する国際会議が、ドイツのボンで開催されています。5月12日〜16日にはバイオセーフティに関するカタルヘナ議定書の会合【1】、また5月19日〜30日には生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)が開催されます。
今回は、これらの会議の様子を現地ドイツのボンから2回に分けて緊急レポートします。まずは、会場の様子や運営上の工夫について紹介します。
紆余曲折があった会場選び
今回、ボンで開催されるCOP9では、官庁街にほど近いマリティム(MARITIM)ホテルが主会場となりますが、決定までには紆余曲折がありました。
2006年のCOP8(ブラジル・クリチバ)においてCOP9の開催国がドイツに決まりましたが、ドイツ国内では、この決定後に開催都市を選出することとなり、複数の立候補都市の中から選別する作業が想定よりも時間がかかりました。
ボンで開催することが決定した後も、主会場として新設予定だった国際会議場予定地(旧国会に隣接)からローマ時代の遺跡が出土したことで、今回の会議に向けた会議場の建設が間に合わない事態となりました。この会議場は、2009年に完成する予定です。
そこで急遽、ドイツ連邦環境省(以下「環境省」とする)から徒歩圏内にあるマリティムホテルを会議の主会場とすることが決まりました。また、隣接する庁舎(厚生省、交通省、文部科学省など)に、会合や報道用のプレスセンターなどに利用するスペースを用意することになりました。
建物の外も会場の一部になっています。環境省の前の広場(「生物多様性プラザ」)から主会場までの道路にはテントが張り出され、ドイツ政府、欧州委員会、日本政府などのブースが並んでいます。環境省の前から、主会場とプレスセンターを結ぶ、L字型の区域(地図の点線部分)に会場が設定され、警備も行われています。
会議に参加をしていて、ドイツの関係者と会うと口を揃えて言われることがあります。
「日本は2年も前から誘致都市まで決まっていて、うらやましい。準備がスムーズなんですね」
この言葉の背後には、ドイツ国内のさまざまな苦労を乗り越えてきた経緯が伺えます。
ある意味でハプニング続きの会場づくりでしたが、これまでのところ、大きな混乱は起きていません。それどころか、会場には数々の工夫や趣向が凝らされていました。
コミュニケーションのための運営上の工夫
交渉の主会場とNGO会場、プレスセンターはそれぞれ別会場となっていますが、いずれも徒歩圏内で、円滑なコミュニケーションが意図されています。主会場の様子はNGO会場などでもモニターに映し出され、他の会場にいても会議の様子がわかるようになっています。
事務局側の目玉は、オープニングや作業部会の様子の一部をウェブ・キャスト【2】を通じてオンデマンドでウェブ公開していること。生物多様性条約締約国会議では、今回が初めての取り組みとなっています。
また、マリティムホテルの一階では、毎朝9時に日替わりのテーマでメディア向けのプレスリリースが行われます【3】。
会場は、多くのイベントが同時並行で行なわれ、配布物は「所狭し」と机上に積み上げられています。
政府・企業・NGOのそれぞれが、配布物でもプレスリリースでも、“人々に聞いてもらう努力”を徹底しています。“聞いてもらう努力”とは、会場にいる参加者に向けるのはもちろんのこと、知識も興味もない一般の人々に向けた普及・広報をも意味します。これが結果として、生物多様性条約の会合に向けた機運を盛り上げていく原動力にもなっています。各国のNGOは特に、一般の人々にも興味をもってもらおうと、イベントを運営したり、配布物を活用したりと趣向を凝らしていました。
さて、気になる日本への注目度です。生物多様性国家戦略の2度目の改定がなされたばかりということもあって、アジア地域の先駆者として日本の取り組みがCBD事務局の冊子でも紹介されています。
日本政府も、限られた時間の中でNGOとのブリーフィングを行なうなど努力を尽くしていました。お互いの懸念を表明するだけではなく、具体的に交渉中の決議や枠組に言及しつつ、専門性に基づいた提言を出していくことが鍵となります。
ただ見方によっては、これまでのところ交渉の主会場とNGO会場はそれほど連動したものとはなっていないという懸念もあります。今後、どのように会場ごとの連携、国を超えたNGOの連携、企業による行動を伴う参画やコミットメント【5】が出てくるかが注目されます。
国連都市を目指すボン市
ボン市は、ドイツ国内で国連の都市となることを宣言しており、移動性動物に関するボン条約や国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)及び砂漠化対処条約(UNCCD)の事務局があります。他にも国連ボランティア計画(UNV)の事務局など17の国連機関が集結しています【6】。
COP9に向けて、ボン市では『生物多様性報告書』を作成しています。同市としては初めての刊行となります。内容は、鳥類・哺乳類・両生類・昆虫別の種別の多様性と生息域や用語の定義(I章)、都市計画やプロジェクトによる体制・ガバナンス(II章)、都市計画やセクターでの普及とメインストリーミング(III章)、一般向けの普及活動(IV章)。
また、地元およびドイツ国内の市民やNGOに向けた小冊子(ドイツ語)を用意している他、会議の参加者向けの案内(英語)も発行しています。
『WO GEHT'S HIER ZUR BIOLOGISCHEN VIELFALT?(ここで生物多様性の何が行なわれるの?)』というタイトルの小冊子には、一般市民が気軽に参加できるイベントの予定を重点的に掲載しています。例えば、地面などに子どもたちが絵を描くイベントへの呼びかけなどが掲載されていました。また、締約国会議も「自然保護のための国連の会議」とわかりやすく言い換えています。
会場内では、“グリーンCOP”としての取り組みがされています。会議場の飲み物はリユースのコップを使用し、食べ物はさまざまな地元の食材を使って「農業の生物多様性」を実感できるように工夫されています。ボン市の展示場では、さまざまなハーブ・ティーが試飲できるようになっていました。地元の食材を使うことの豊かさや、輸送や保管による環境負荷の低減についてアピールしていました。
また電気や水は自然エネルギー起源のものを使用し、交通も公共機関やCO2排出の少ない車種を使用して CO2排出を削減しています。
COP/MOP&COPの会期前には、児童が集まって生物多様性についての模擬国連の議論を実施しています。その成果は、大臣や次官などが集うハイレベル・セグメントで発表されることになっています。
ボン市は、市長会議という生物多様性事務局のイニシアティブに積極的な参加をしてきました。
また、会議の参加証があれば公共機関を利用できるなど、ロジスティックス面の整備や看板の設置、イベントの運営やボランティアの手配などを環境省と共同で行なってきました。
COP9は、国際機関、ホスト国、地元の地方自治体が連携して、各国政府やNGO、メディア、企業、市民および児童などが参加しやすいように、工夫しながら運営されています。
- 【1】カルタヘナ議定書の会合
- 厳密には、バイオセイフティに関するカタルヘナ議定書締約国会合(COP/MOP4)といい、生物多様性条約とは別に批准される議定書の会合となっています。締約国会議(COP)の直前の1週間に通常、開催されます。
- 【2】
- ウェブ・キャストによる会議の公開(英語)
- 【3】
- プレスブリーフィングのスケジュール(英語)
- 【4】生物多様性のメインストリーミング
- メインストリーミングという言葉は、他のセクターなどへの普及・浸透を意味します。
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第2回)『国際交渉と生物多様性条約の歴史と展望』では、「関連分野や産業に概念を広めていく動き」と説明。 - 【5】各主体の連携や参画とコミットメント
- ビジネスと生物多様性のフォーラムが18日にオープン:国連大学、IUCNなどが参画し、テーマごと(農業、排出権)のイベントが予定されています。
概略: http://www.cbd.int/cop9/business/ (英語)
英語イベント:http://www.cbd.int/doc/business/biz-cop9-guide-en.pdf(英語) - 【6】
- ボン市内の国連機関
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記事:香坂玲
〜著者プロフィール〜
香坂 玲
東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。
環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。
帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。
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